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母上だけは怒らせてはいけない

 怖かった。いやホントに。怖かったの。母上を怒らせてはいけないと再三思い知らされました。あの後、父上はこっ酷く叱られ、危うく去勢されそうになった所を、私が止めに入った事でギリギリ父上の父上が無くならずに済みました。それで、今はお父上は床に伏し、私とお母様の二人きりになりました。


 ゲームでもアルシェードの攻略途中に一度だけ登場する母上ですが、婚約者である悪役令嬢を大層溺愛していたのか、婚約破棄後の説得で、一度でも選択肢を間違えると牢獄行きになって監禁されたり、実の息子に対して容赦なく暗殺者を差し向けて来たりして、アルシェードが殺され、バッドエンドになったりしました。


 アルシェードルートが鬼畜と言われる所以の一つです。



 ふと、私もお母上を怒らせたら去勢されるのかと思いまして、身震いがしました。あ、でも。もう、私の息子無いんでしたね! えへへ。


 ん? 口調はどうしたのか……ですか? はて? 何かおかしいでしょうか? あっ、分かりました。確かに、その疑問はご尤もですね。この身体になってから、何故か以前のような口調を使えないんです。一人称も、()と発音してるつもりが、私になってしまいます。


 そういう訳なので、ご理解下さいね。って、私は誰に喋りかけてるんでしょう?


「さぁ、そろそろ私にも説明して欲しいわね。アルシェード?」


「ビクッ!」


「あらあら、そんなに緊張しなくてもいいのよ。折角の母との会話なんですから、気楽にいきましょう?」


「は、はは、はぃぃ。母上!」


「あらあら、うふふ。そんなに怖がっちゃって。まるで、女の子みたいで可愛らしいですね? アルシェード」


「お、女の子ですので?」


「うふふ。そうね。もう、()()()でしたわね」


 こ、これは怒ってますよね!? どどど、どうして? 不肖の息子が性転換して可愛い女の子になっただけなのに、何がいけないんですか!?


「私はね。アルシェード。貴方が女の子になった事には別に構わないと思いますの。多様性というのかしら? 人にも様々な趣味嗜好がありますわよね」


「は、はい! それでは!」


「――でもね? アルシェード。貴方は、自分が何者なのか忘れたのかしら?」


「あ、えっと。も、元王子……でした」


「ええ。元王子ですね。ですが、世間では()では無く()も王子なのですよ? さらに、貴方は第一王子であり、元継承権第一位でもあるんです。この意味がお分かりですか?」


 元と今を強調して、お母様は言いました。


「えっと……失墜しました(?)」


「はぁ。要点はそこじゃないです。確かに貴方の地位は失墜しました。ですが、未だに貴方の戴冠たいかんを望む貴族派閥が存在します。しかし、貴方はこの通り女体と化してしまった。この国では、女性の王は認められません。では、この知らせを聞いた貴方を慕う貴族の派閥はどういった反応を示すでしょうか」


「怒り心頭に、反乱を起こすでしょうね」


 私は即答しました。


 すると、母上は余計分からないといった顔で問います。


「あら? ちゃんと分かっているじゃない? なら、どうしてそう軽々しく……」


 私は徐に、二本指を立てました。そして、にんまりと笑って見せた後、母上を遮って言葉を重ねます。


「私に考えがあります。この件は私にお任せください。そして、(くだん)が丸く収まった暁には、私の願いを二つ程叶えて頂きたく思います」


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