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やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!  作者: 二八乃端月


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第55話 エインズワースの復活(エピローグ)

 


 思わず、礼儀も忘れて陛下に聞き返した私。

 だけどその声は、より大きな声にかき消された。


「「おおおお!!」」


 この式に参列した人々の歓声で、謁見の間が揺れる。


 周りを見回した私の目に映ったのは、驚き、興奮する貴族たち。


(「まさか、陞爵だけでなく、領地までお与えになるとは……!」)


(「だが陛下のお考えは正しい。あの幼い『女神』には、それに相応しい地位と権力が必要だ。––––政争の具としないためにもな」)


(「なるほど、そういうことですか。それにしても、下賜されるのが父君の領地の隣というのがまた、にくい配慮ですな」)


(「左様、左様」)


 ……そんな声が聞こえてくる。


 私は、陛下を振り返った。


 すっ、と目を逸らす陛下。


 そうか、これか。

 さっき目があったときの悪ガキのような笑顔は、これのことか!!




「陛下?」


 私の言葉に、びくっとした陛下は、しかしこちらを振り向かず、そのまま侍従から『もう一枚の』書状を受け取り––––その書状で顔を隠しながら私にこう言った。


「実は、まだあるのだ」


「はい?」


「これは、元老院議員たちからの連名の請願書なのだが…………レティシア君は、戦爵で王が自由に叙爵できる爵位の上限を知っておるかね?」


 ちらっ、と書状の影からこちらを見る陛下。


「子爵位でございましょう?」


 私が内心の不快感を押しとどめ、努めて冷静な顔で答えると、陛下は首をすくめてボソリと言った。


「……そう。だからこれから儂がやることを恨まんで欲しい」


「はい?」


 私が聞き返した時だった。


 陛下は顔を上げ、声を張り上げた。




「諸君!!」


 その声に、一瞬でざわめきが収まる。


「先ほど儂は、レティシア・エインズワース卿に子爵位を与えた。これは説明したように儂と王子、騎士たちを飛竜の襲撃から護った功によるものだ」


 うん。

 それはさっき聞いた。


 この上、陛下は一体何をするつもりなんだろう?


 私が訝しむ前で、陛下は言葉を続ける。


「しかしながら、彼女の国への貢献がそれにとどまらないことは、既に諸君も知っての通りだ。先の王城襲撃事件の裁判において罪人を追いつめる鍵となったのは、エインズワース卿が発明した魔導探知機であり、また彼女自身の証言であった。彼女の活躍がなければ、元公爵とその支持者たちの裏切り行為を暴くことはできなかったであろう」


 なにか、いやな予感が……


 私が頬を引き攣らせていると、陛下が先ほどの書状を掲げてみせた。


「今ここに、一通の請願書がある。この請願書は、多数の元老院議員の連名で提出されており、彼女の活躍と処遇について、文面でこう訴えておる。『我々はレティシア・エインズワース嬢に、その能力と貢献に相応しい地位を与えることを求めるものである』と」


 陛下が会場を見まわす。


「幸いこの場には、元老院議員の過半数が出席している。先ほど議長にも是非を確認したが、今ここで臨時の議会を開催し、議事に対し決をとることは差し支えないとのことであった」



 え?

 ちょっと、まさか––––?!



「今、諸君に問おう。レティシア・エインズワース卿を正式にハイエルランド王国の『伯爵』に叙することに、反対の者は挙手を。賛成の者は、ただ拍手をもって彼女の知恵と勇気を讃えよ!!」



 陛下が叫んだ瞬間。



「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」



 会場に割れんばかりの拍手と歓声が響いた。



 振り返ると、その場にいる誰もが拍手をしていた。

 笑顔で私を見守る人々。

 挙手で異議を示す者は、一人もいない。


 あの強面の父が、手を叩きながら涙ぐんでいる。

 二人の兄は誇らしげだ。


「……っ」


 さすがにこんな状況で断れるほど、私の面の皮は厚くない。



 要するに私は、陛下に嵌められたのだ。




「––––陛下?」


 恨めしげにコンラート王を振り返る。


「ま、まあ、待て。話は最後まで聞くものだ」


 陛下は慌てたようにそう言うと、片手を挙げ再び声を張りあげた。


「静粛に!」


 陛下のひと言で、ホールに溢れていた音が引いてゆく。

 その場の熱気はそのままに。


「諸君の意思は確認できた。反対ゼロ、賛成多数により、朕はエインズワース卿を伯爵に叙することとする。––––勅許状を」


 陛下は持っていた書状を侍従に渡し、代わりに最後の書状を手に取った。


「エインズワース子爵、レティシア・エインズワース!」


「はい」


 私は陛下に向き直る。


 陛下は私の顔を見ると、書状を読み始めた。



「卿は外患誘致による我が国建国以来の危機に際し、その卓越した魔導技術を駆使し事件を解決に導いた。その功は言葉で表すことができないほど大きく、その献身は比べるものがないほどに尊い。そこで朕と元老院は、全会一致で卿を『伯爵』に叙することを決定した。––––ただし!」



 そこで大きく息を吸う。



「現エインズワース伯爵一代に限り、爵位に伴い発生する政治的義務の一切を免除し、卿自身と、卿が大切に思う者のためにその権利を行使することを認める。––––願わくは、卿の技術が我が国の安全と発展に資することを望む」




 勅許状を読み終えた陛下は、書状を私に差し出し、微笑んだ。


「こんなところでどうかな、伯爵?」


 なるほど。


 つまり私は、何者にも束縛されず、好きなように生きていい。そのために爵位を利用しても構わない、と。

 でも、できれば国の役に立つ発明をしてね、と。

 そういうことか。


 陛下は私との約束を、こういう形で果たしてくれた訳だ。


 理解した私は、苦笑する。



「陛下のご配慮に感謝し、謹んで拝領致します」



 書状を受け取った私がカーテシーで礼をすると、会場は再び歓声と拍手に包まれたのだった。




 ☆☆☆☆☆




 レティシアの伯爵位への陞爵が承認された直後。


 数名の男女が、謁見の間を飛び出した。


「くそっ、想定外だ」


 走りながら男が吐き出す。


「そっちは手書きで見出しだけ直せばいいでしょ?! こっちは記事全部書き直しよ! ––––間に合うかな」


 横を走る女が頭を抱える。


「おい、廊下を走るな!」


「うるせえ! 急いでるんだ!!」


 彼らは警備に立っていた顔見知りの騎士に叫び返すと、通路を全力で駆け抜ける。


 そして––––




「はあっ、はあっ」


「ぜえ、ぜえ」


 目的地である馬車の待機場に着いた頃には、息切れして『歩くのが精一杯』という有り様になっていた。


 と、車まわしに停められた馬車の前に立っていた赤みがかった髪の若い女性が、彼らに近づいてきた。


「あの、叙爵式で何か問題でもあったのですか?」


「問題も、くそもねえっ。女男爵が、『女伯爵』になっちまったんだよ!」


 尋ねる彼女に、男がぜえぜえ言いながら言葉を返す。


「女伯爵って…………ええええええええっ??!!」


 女性の声が待機場に響き渡った。




 ☆




「号外! 号外だあっっ!! 『女神』が伯爵になったぞおっっ!!!!」


 新聞売りの少年が叫ぶと、王城の周辺に集まっていた人々が雄叫びをあげて彼に殺到した。


「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」


 飛ぶようにはけてゆく紙の束。


 その記事は見出しの一部に二本線が引かれ、『男爵位』と印刷されていた部分が殴り書きで『伯爵位』と書き換えられていた。


 ちなみに通りの向かい側で同様に号外を配っている少年の方は、『子爵位』が『伯爵位』に訂正されている。


 もしもの時に備え、二種類の紙面を用意していた新聞社。だがその思惑は、見事に裏切られてしまった。


 唯一の救いは、最初からどちらかの訂正を想定していたため、臨時出張所にある程度のペンと人員を配置していたことだろうか。


 とはいえ、修正しなければならない枚数は想定の倍になってしまった訳だが。




「おい! 1枚よこせ」


「ひぃっ?!」


 号外に群がる人波をかき分け、ヤンキー青年が旗売りの出店に戻って来る。


「おい、取ってきたぞ!」


 彼が叫んだ瞬間、仲間たちがわっと集まって来た。


「おいおいおいおい……『伯爵』って、どういうことだ?!」


 工房長のダンカンが顔を引き攣らせると、横から記事を覗き込んだローランドが、


「えっ? お嬢様は男爵になられるんじゃ……って、ええええええええっ??!!」


 目を丸くして驚嘆の声をあげる。


「あたしゃ驚かないね。なんせうちのお嬢様は『特別』だからさ!」


 そう言ってなぜか胸を張るパートのおばさん。

 その後ろでは、三人の老職人たちが号泣していた。


「儂が生きとるうちに、こんな日が来ようとは……」


「生きててよかったのう」


「う、嬉しくて腰がはああああっっ!?」


 もはや嬉し泣きなのか、腰が痛くて泣いているのか、本人にも分からない。


 その様子を見ていたジャックは、ニヤリと笑って呟いた。


「なんか、まだまだ面白くなりそうじゃん!」




 ☆




 叙爵式が終わり、レティシアと父、二人の兄が馬車の待機場に戻って来ると、先頭の馬車の前に立っていた女性が、丁寧なカーテシーで四人を出迎えた。


「皆さま、お帰りなさいませ」


「アンナっ、どうしてここに?!」


 レティが最愛の侍女に駆け寄り彼女の手をとると、侍女はにっこりと笑って言った。


「旦那様にお願いして、『レティシア様の馬車』を最初に引く栄誉を頂いたのです」


「わ、私の馬車?!」


「はい。こちらが『エインズワース伯爵様』の専用馬車です」


 そう言って、アンナは自分の背後に停められた、一台の馬車を指し示した。


「うそ……」


 目を丸くするレティ。


 オウルアイズ侯爵家のものと比べるとひと回り小さなそれは、花や小鳥など可愛い意匠がさり気なく散りばめられた馬車だった。


 そしてもちろん、扉には彼女の紋章……ココとメルが描かれている。


「どうかな? レティ」


 いつの間にか彼女の隣に立っていた父親が、娘に尋ねる。


「私からの叙爵祝いだ。気に入ってくれると嬉しいんだが……」


 ボソボソとそう呟く父親に、レティは大きく息を吸い––––



「パパ、大好き!!」



 父親の胸に飛び込んだのだった。




「さあ、レティ。そろそろ行かないと」


 次兄のヒューバートの言葉に、父親から離れるレティシア。


「また後で会おう」


 長兄グレアムに「はいっ!」と勢いよく頷くと、彼女は馬車の扉の前に立った。


「さあ、お乗りください。––––私の伯爵様」


 そう言って扉を開けた侍女の手を握りレティシアが馬車に乗り込むと、アンナは扉を閉め、御者席に飛び乗った。


「それにしても、いつの間に御者の技術なんて身につけたの?」


 レティが御者席に繋がる小窓を開けて尋ねると、彼女の侍女はドヤ顔でこう言った。


「色々規格外のレティシア様の侍女たるもの、このくらいできなくてどうします?」


「そんな、人を珍獣みたいに……」


「レティシア様は天才ですから。『そんな方をお支えできる人間になりたい』と思えば、なんだってできるんです。––––さあ、お城の外で皆が待ってます。出しますよ!」


「うん。お願いね、アンナ」



「はっ!」と馬に鞭を入れるアンナ。



 晴天の青空の下、馬車は城門に向かって走り出す。



 二体のテディベアの旗を握り、彼女を待つ人々のところへ。



 そして、工房の仲間たちが待つ場所へ。





 ––––彼女と彼らの物語が、ここから始まる。






『やり直し公女の魔導革命』


 《第一部・完》






ここまで読んで頂いた皆様、本当にありがとうございます。

二八乃端月です。


本作の今後の展開について、ちょっとだけご紹介させて頂きます。


以前から告知させて頂いております通り、本作は書籍化・コミカライズ致します。


☆2023年夏頃・書籍1巻刊行!!


ぜひ、楽しみにお待ち頂ければと思います。



そしてWEB連載ですが、こちらも続行致します。


元々書く予定ではありましたが……なんというか、絶対に書かねばならなくなりました!

しかも期限つきで!?


書籍化作業と並行しての執筆となるため定期更新とまではいきませんが、概ね週一以上のペースで投稿して参りたいと思います。


最後に、あらためて評価のお願いです。


ここまでの範囲のあなたの評価を、↓の★★★★★で教えてくださると嬉しいです。


それでは引き続き、本作をよろしくお願い致します!



《追記》

☆2023年6月15日、一二三書房・サーガフォレストより書籍1巻が発売となりました!!


挿絵(By みてみん)


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《『やり直し公女の魔導革命』のご案内》
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― 新着の感想 ―
[良い点] アンナかっこいい…! [一言] 不意打ちだけど、まあまあ粋な計らいだねぇ
[良い点] 一気に55話まで読める面白さを感じた。 ファンタジー上の話なのに、その世界で理路整然さを感じさせるのは見事。 [一言] 話の展開が小気味良く、今まで「小説家になろう」でそれなりのファンタジ…
[良い点] 痛快な物語で感動しました。展開も素敵でした。現実世界で中間管理職をしておりますが、主人公の活躍に癒やされています。 [気になる点] 特にありません。描写も緻密で物語の展開も満足です。強いて…
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