第53話 エインズワースの復活(中編)
☆
お父さまに二人でたっぷりお説教しているうちに、馬車はいつの間にか王城の門をくぐっていた。
「––––という訳です。お父さま。もう私に関わる話を勝手に進めないで下さいね? そんなことをしてると、口をきいてあげませんからねっ!」
「わ、悪かった。今後はちゃんとお前に相談するようにする」
「父上。事前に相談しても、レティが首を縦に振らないことは絶対にやったらだめですよ?」
「ああ、ああ。分かってる。––––だから機嫌を直してくれないか?」
ぷりぷりする私に、おろおろするお父さま。
私は、はあ、とため息を吐いた。
「分かりました。今回だけは赦します。––––さあ、お城に着きましたよ」
私はそう言って、苦笑まじりで父に微笑んだのだった。
☆
謁見の間には、既に多くの貴族たちが集まっていた。
「「おお……」」
新たにホールに入ってきた私たちを見た人々が、俄にざわついた。
うん。
さすがにもう驚くまい。
私への関心の高さは、お城に来るまでに十分に思い知った。
そんな中、
「ヒューバート、こっちだ」
聞き覚えのある声に振り返ると、グレアム兄さまが制服姿で手を振っていた。
「兄貴!」 「グレアム兄さまっ!」
久しぶりに顔を見る上の兄。
第二騎士団のグレアム兄さまは、この二ヶ月というもの、容疑者の取り調べや調査、裁判の立ち合いなど、王城襲撃事件に関わる業務に忙殺されていた。
元々、オウルアイズのお屋敷を出て暮らしていることもあって、なかなか私たちに会いに来ることができなかったのだ。
「いよいよだな、レティ。俺も兄として鼻が高いよ」
そう言って微笑むグレアム兄さま。
「お兄さまこそ。先日、正式に新騎士団の副団長に就任されたと伺いました。私も妹として鼻が高いです。おめでとうございます!」
「ありがとう。まあ、俺のは人員不足の結果だよ。第一が馬鹿やってくれたおかげで、この有り様さ」
グレアム兄さまは、苦笑して首をすくめる。
兄の言葉は、半分謙遜で、半分は事実だろう。
一ヶ月前。
元老院で、この国の治安と国防に関わる非常に重要な議案が議決された。
第一騎士団が解体されることになったのだ。
王城襲撃事件の際、王と城を守るべき第一騎士団が誰ひとりとして現場におらず、全く役に立たなかったこと。
さらに、少なくない数の騎士の出身家門が襲撃事件に関わっていたこと。
アルヴィンの凶行の際、公正な対処を行わず、同僚である第二騎士団の騎士や、あろうことか被害者である私たちに剣を向けたこと。
父によれば『もはや、論じるまでもない』という雰囲気だったらしい。
見た目以外良いところが全くない組織だったし、未来の記憶を含め、私にとっては嫌な思い出しかない人たちだったので、解体が決まったときには正直ほっとした。
とはいえ、二つある騎士団の一つがなくなれば、もう一つの方もそのままという訳にはいかない。
第一騎士団の解体と同時に、第二騎士団が母体となり『統合騎士団』が発足。
ジェラルド王子とグレアム兄さまが、そろって団長と副団長に就任した。
殿下はともかく、兄は家格と年齢を考えれば大出世と言える。
これも王城襲撃時の対応と、事後の捜査、摘発の実績を買われてのことだ。
「まあ、俺のことはいいさ。今日の主役はレティなんだから」
そう言って微笑むグレアム兄。
「あの、お父さまも陞爵されるんですが……」
オウルアイズ伯爵家は、父と兄の活躍により今回侯爵に陞爵することが決まっていた。
が、兄は笑って首を横に振る。
「伯爵家の陞爵なんて、我が国初の女性当主の誕生に比べればどうってことないさ。––––ねえ、父上」
「ああ。今日の主役はレティしかありえないな」
うん、うん、と頷く父。
「世間はあらためてレティの可憐さに心を奪われるだろう」
「ちょっ、お父さま! さっき『やめて下さい』と言ったばかりですよね?!」
「あ、ああ。すまんすまん。今のはナシだ」
慌てて取り消すお父さま。
いや、もう近くの人たちの耳に入ってるし。
なんなら、くすくす笑われてるし!
「もうっ」
私が頬を膨らませていると、ヒュー兄が口を開いた。
「ほら、そろそろ始まるよ。それじゃあ二人とも、しっかりね!」
「ここから応援してるよ」
そう声をかけてくれるヒュー兄とグレアム兄。
「はいっ。行ってきます!」
そんな二人に、私は笑顔で頷いた。
そして、父と二人、前に向かって歩き出す。
☆
私たちが叙爵対象者の立ち位置––––最前列に整列して間もなく、侍従による先触れがあった。
バラバラに立ち話をしていた人々が、それぞれ決められた立ち位置に向かう。
間もなく陛下が来られるだろう。
私は隣の父にひそひそと囁いた。
「それにしても、叙爵対象の方がこんなにたくさんおられるのですね」
私と父の隣にずらりと並んだ叙爵対象者。
その多くが中年から初老の男性だ。
その中にあって、唯一の女性、唯一の未成年が私。
他の対象者たちからの、なんだか温かい(?)娘か孫でも見るような視線を感じる。
注目されることは覚悟してきたけれど、なんだか居心地が悪い。
父はそんな私を見て微笑んだ。
「皆、第二騎士団に息子を派遣している家門の当主たちだよ。今回の事件でかなりの数の爵位剥奪者が出たから、功績があった騎士の出身家門を陞爵し、平民出身の騎士を叙爵することで少しでも穴埋めしようということだな」
「ああ、そういうことなのですね」
ようするに彼らにしてみれば、私は『息子の命の恩人』ということらしい。
嫌われるよりは良いけれど、なんだか気恥ずかしい。
私は半歩下がり、そっと父の影に隠れたのだった。
それから間もなく。
王族用通路から、よく知る顔の男性が姿を現した。
侍従が声を上げる。
「ハイエルランド王、コンラート二世陛下の御成りである!」
ホールにいた全員が、一斉に立礼した。









