表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!  作者: 二八乃端月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/185

第185話 ペルシュバルツの侵攻

 

 魔導通信で届いた二通の急報。


 私は着替えを後回しにしてテーブルセットの上に置かれた通信文を手にとった。


 元老院からの通信文は簡潔なものだった。


『東部国境にウッドラント、ペルシュバルツが兵力を展開中。各家門は直ちに指定場所に兵を派遣せよ』


『エインズワース伯爵は自領およびオウルアイズ新領の保全に務めるべし』


 前半はおそらく国内の領地持ち貴族すべてに送られた共通文。

 後半はうち向けの申し送り事項だろう。


「軍事行動? この時期に?」


 私は腑に落ちず首を傾げる。

 回帰前の人生では、この時期に戦争につながりそうな事件はなかったはず。


 ――ひょっとして、私が未来を変えたことによって隣国の動きが変わった?


 確かに王党派貴族の多くが爵位を剥奪されたことでハイエルランドの兵力は一時的に減っている状態ではあるけれど……。


「しかも、二ヶ国同時に?」


 得体の知れない不安に襲われる。

 一体、何が起こってるんだろう?

 私は釈然としないまま、今度はお父さまからの通信文を手に取った。




『愛する娘へ。元老院の決定により旧領の兵を率いカンターニャに出征することになった。グレアムも現地で統合騎士団の指揮を執る。西部で動きがあればすぐに通報するように。無事を祈る』


 短い文章から私への思いが伝わってくる。


「オウルアイズ侯爵家はお父さまが直々に率いるのね」


 上の兄は統合騎士団の副団長。

 下の兄はまだ学生だ。

 元々旧領の騎士団長だったライオネルは今、私の領兵隊に隊長として移籍してもらっている。

 今のオウルアイズ旧領で兵を率いられるのは、お父さましかいない。


 実戦経験の豊富さ、新装備への理解とも国内最高水準。

 お父さまが率いる旧領の騎士団は、統合騎士団を除けばおそらく国内最強の部隊だろう。


 それでも――


「カンターニャ……ペルシュバルツ帝国を相手にするのね」


 ハイエルランドがまだ旧王国だった頃、南大陸から攻め入ってきたペルシュバルツは怒涛の勢いで北大陸南東部を攻略して行った。

 同じ女神を信仰しているとはいえ、内海で隔てられた南北両大陸のそれは大きく教義が異なる。文化も、考え方も。


 勇敢かつ好戦的で闊達。新しいものを取り入れることにも貪欲で、西側のハイエルランドと北側のウッドラントとは交易をしながらもいつも領土紛争を抱えている。――そんな国だ。


 南大陸流の教義を北大陸の住民に強制しなかったこともあり、それなりの摩擦はありながらも住民同士の融和は時間をかけて進んだと聞く。

 そうしてできた国がペルシュバルツ帝国だった。


「お父さまとお兄さまが無事に帰ってきますように」


 私はその場で女神に祈る。


 王城襲撃事件を二度と起こさせないため、そして回帰前に竜操士ドラゴンライダーに殺されたグレアム兄さまの非劇を繰り返さないために、私たちエインズワースと統合騎士団は演習を繰り返し竜操士対策を練ってきた。


 飛行騎士専用の武器も開発した。

 私がファルグラシムの要塞化で提案した陣地構築術もグレアム兄さまに共有してある。


 ――相手が誰であろうと、二人とも必ず無事に帰ってくる。


 私はそう自分に言い聞かせ、返信文を書いたのだった。



 ☆



「えっ、ペルシュバルツが侵攻?! こんなに早く???」


 元旦の急報から二日。


 昼食の席に飛び込んできた新たな魔導通信文の内容に、私は目を疑った。


「東の帝国が動いたのか」


 テオの言葉に私が頷くと、彼は少し考え言葉を続けた。


「騎馬による長距離移動と奇襲があの国の十八番おはことはいえ、今回はかなり早いね」


「うちの国はまだ各地から兵力を集めている最中なのよ。おそらく隣接の各領と統合騎士団くらいしか現地入りしていないはず……。大丈夫かしら」


「戦争が始まってしまえば、多かれ少なかれ被害は出るわ」


 視線を落とす私にオリガが言った。


「それでも貴女の国はまだましでしょう。魔導ライフルに飛行靴なんて反則級の武器を持っているんだから」


「……そうね」


 親友の言葉に私はいくらか慰められる。

 するとしばらく考え込んでいたテオが口を開いた。


「あらかじめ国境までのルートに物資を集積してたんだろう。そうして兵士の携行品を少なくして移動速度を稼ぐ……あの国はずっと昔にもそんなことをやったことがあるはずだよ」


「そうなの?」


「ああ。確か百年前のウッドラント侵攻だったかな。でもそれにも限界はある。きっと帝国側もまだ兵を集結しきってはいないと思うよ」


「……だといいけど」


「ああ。世の中、一見不思議に思えることでも必ずタネも仕掛けもあるからね。心配し過ぎることはないよ」


「そっか。――うん。二人のおかげでちょっと落ち着いた。ありがと」


 私が顔を上げると、二人は微笑して頷いたのだった。




 とはいえ、自領を守れという指示を受けている以上、私も下手に動くことはできない。


 できることがあると言えば、調査と分析くらい。


 元旦に急報がありハイエルランド全土で東部国境への兵力移動が行われる中、私は西の隣国の情報収集と分析に力を入れていた。


 南西の国境を接するアルディターナ王国。

 そして北西の国境を接するブランディシュカ公国だ。


 うちが新領地を賜ってすぐ、私はお父さまやお兄さまと相談し、両国に商人に扮した諜報員を送り込んでいた。


 扮したと言っても彼らは普段は本当に商会で輸出入の仕事をしている。

 そうして現地の物価や政治、経済、軍事に関する情報を集め、定期的に魔導通信で送るというのが彼らの裏の仕事だった。


 各地の諜報員から送られた情報はココメルの屋敷に設置した情報部に集約、分析され、定期的に私とお父さまに報告される。


 要するに、国の情報部門と同じような組織を設けたのだ。違いは直接的な工作活動をしないこと。そして商業に関する情報を併せて扱っていることくらいだろうか。


 そんな諜報活動の結果は――


 結論から言えば、南西のアルディターナは全く動きなし。

 ブランディシュカは公国内のいくつかの領地で動きがあるようだった。


「演習?」


 私が聞き返すと、領兵隊長のライオネルは「ああ、この年初めにな」と微妙な顔で頷いた。



先日、二八乃初の短編かつ婚約破棄モノを投稿しました!


『捨てられ公爵令嬢は領地ごと引越します』


https://book1.adouzi.eu.org/n3015lk/


サクッと楽しく読めますので、ぜひ読んでみて下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

《『やり直し公女の魔導革命』のご案内》
↓書籍3巻へ html>
html>
↑書籍1巻へ
↓書籍2巻へ html>
《コミカライズ版》
html>
↑コミカライズ最新話へ
↓コミカライズ話売りへ(ピッコマ) html>
↓コミックスへ html>
― 新着の感想 ―
公国が動くとなると一気にきな臭くなりますね 何度もレティに煮え湯を飲まされた公国が、この絶好の機会にレティを叩こうとしないとは思えませんね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ