第183話 年越し祭り②
☆
ココメルの中央広場に組まれたステージでは、歌や踊り、大道芸など、様々なショーが行われていた。
盛り上がりは最高潮。
見渡す限りのみんなの笑顔。
端の方に、仲間たちの顔も見える。
年が変わるまで、あと少し。
司会者が声のトーンを変えた。
「––––さて。ここまでたくさんのグループが素晴らしいショーを披露してくれましたが、いよいよ今年も残すところあと少しとなりました。私たちココメルの住民、いや、エインズワース伯爵領に暮らす者にとって、年越しの挨拶にふさわしい方は、この方以外にはいないでしょう。––––レティシア・エインズワース伯爵です!!」
おおおおっ!!
広場に響く歓声。
私は舞台袖からステージに上がった。
「「レティシアさまー!!」」
私を呼ぶ子供たちに、小さく手を振って応える。
そうして演壇に立った私は、マイクに向かって話し始めた。
「皆さんこんばんは。レティシア・エインズワースです。今日は大みそかということで、たくさんの方にご協力頂き、この『年越し祭り』を開催できることになりました。––––皆さん、楽しんでくれてますか?」
おおおおおおおおっ!!
「楽しーー!!」
「お祭り、ありがとうございまーすっ!!」
あちこちから歓声があがる。
「今年は色々なことがありました。大雨による洪水に、魔物の襲撃……犠牲となった方々にあらためて哀悼を捧げるとともに、困難に立ち向かった皆さん、困っている人々に手を差し伸べて下さった皆さんに、この場をお借りしてお礼申し上げます」
そうして私が一礼すると、あちこちから拍手が巻き起こった。
「一方で、今年は領地の発展において様々な進展がありました。治水工事、領内各地の特産品づくり、街道の整備にココメルの拡張と、皆さん一人ひとりのご尽力により、この地は発展の準備を整えることができました。そして、皆さんうわさはすでにお聞きになっているでしょう––––」
顔を上げあたりを見回す。
息をのみ、次の言葉を待つ人々。
私は大きく息を吸い、叫んだ。
「ついに来年、ココメルとファルグラシムを三時間で結ぶ鉄の道、『鉄道』が開通します!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
空気を震わせる大歓声。
人々の歓喜の声が冬の夜空に響き渡る。
そのとき。
長い長い歓声の中、広場に新たな年の訪れを告げる鐘の音が響いた。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
「新年おめでとう! みんな、空に注目っっ!!!!」
叫んで空を指差す。
「え?」「何かあるの???」
戸惑いながら空を見上げる人々。
その視線の先に華開いたのは––––
ドン!
ドン!
ドーン!!
三つの大輪の光の華。
そして––––
「すごい……星が降ってる!!」
先行する三騎に続き、五騎の兵士が虹色にキラキラ光る粒子を振り撒きながらフライパスする。
そしてその後方から、更に五騎がその虹を上書きする。
「星のカーテンだぁっ!!」
「きれーいっ!!」
子供たちの歓声。
大人たちの感嘆のどよめき。
私の兵士たちはそれぞれ腰につけた魔導灯に点灯し、光の尾を引きながら見事な編隊飛行を披露する。
私はその光景を誇らしく見守りながら、もう一度叫んだ。
「みんな、新年おめでとう!!」
わぁああああああああっっ!!!!
そうして、その夜いちばんの歓声がココメルの空に響き渡ったのだった。
◇
時は前日に遡る。
ハイエルランド王国・王都サナキア。
統合騎士団の副団長執務室で、グレアム・エインズワースは目の前に積み上がった書類の山を前に、小さくため息を吐いた。
「まさに『山積み』だな」
ボソリと呟いた上司に気付き、傍らの机で同じように書類の山に囲まれている副官のコーディが声をあげる。
「だったら人を増やしてくださいよぉ。もう無理ですって。これだけの仕事を三人でまわすのは!」
バンザイして文字通り『お手上げ』のポーズをする彼に、向かいの机でこれまた書類の山に囲まれている女性騎士、ミラベルが顔を顰めた。
「コーディ、うるさいわよ」
「だってさあ……」
ミラベルがドンっと机を叩く。
バサササッ
机の上の書類がプチ雪崩を起こす。
彼女は顔を顰め、書類を積み直しながら言った。
「王党派貴族の多くが失脚したせいで、どこも人手不足なのよ。民間からの登用を進めて事務官は増やしたけど、いきなり機密性の高い仕事を任せる訳にはいかないでしょう」
「そりゃそうだけどさあ。殿下は政務に追われてるし、仕事は山積みだし、人を増やすかやること減らすかしないと、もうどうしようもないじゃんか」
「だから事務官は増やしてるし、仕事の優先順位もつけてるじゃない。これ以上何をしろって言うのよ。現場から幹部をこちらに引き抜いたら、今度は現場がまわらなくなるでしょ? 仕事を減らすって、何を減らすの? ただでさえ各地の兵力整備が滞ってるのに、今ここで私たちが手を休めてる間に他国が攻めてきたらどうするのよ?」
「中央だけはなんとか装備を整えたじゃん。魔導ライフルと飛行靴を装備したうちの飛行騎士とやり合える奴なんて、公国の竜操士以外いないだろ!」
「はあ? 装備を整えたって言ったって、飛行騎士はまだたった二個大隊でしょ? 半分は王都の守りに当てないといけないから、実際に派遣できるのは一個大隊だけじゃないっ!!」
言い合いを始める部下たち。
そんな二人をしばらく黙って見ていた副団長のグレアムは、ある程度二人の意見が出尽くしたところで、コンコンコン、と机を叩いた。
「「?」」
上司を振り返るコーディーとミラベル。
グレアムは二人の顔を順番に見て、言った。
「そこまで。––––二人の言い分はどちらも正しいさ。追加の人手については、殿下にお願いして引退した幹部経験者を当たってもらってる。仕事を減らすことはできないが、一、二名増えるだけでも大分ましにはなるだろう。ご苦労だが、もうしばらく辛抱してくれ」
「「副団長……」」
二人の騎士が呟いたときだった。
コンコンコン!
部屋の扉がノックされる。
「入れ」
グレアムが応えるとすぐに扉が開き、情報担当の幹部騎士が「失礼します」と言って入室してきた。
「どうした?」
青ざめた顔の騎士。
その表情にただならぬものを感じたグレアムが眉を顰めて問うと、彼はこう言った。
「東部国境の二方面で、隣国の兵力移動が確認されました」
「兵力移動? こんな年の瀬に?」
呟くコーディー。
グレアムは立ち上がり、壁に貼られた北大陸の地図のところに歩いて行った。
「二方面? 具体的には?」
グレアムの問いに、騎士が地図のある部分を指差す。
「一ヶ所は、北東のウッドラント王国国境、ブイジーネ地方」
騎士の指が、そこから下に移動する。
「そしてもう一ヶ所は……南東のペルシュバルツ帝国国境、カンターニャ地方です」
その瞬間、その場の全員が言葉を失った。
やがて、数秒ののち、グレアムが声を絞り出す。
「…………二ヶ国同時、だと?」









