『ときめき不耐症』という病
思いつき短編です。
幼馴染物が多くないかって?
何か問題が(震え声)?
どうぞお楽しみください。
「ときめき不耐症?」
聞き慣れない言葉に、衛は思わず聞き返した。
「……あぁ、そうなんだ……。先日心が学校で倒れたのも、それが原因だそうだ……」
「なんか、意味わかんないよね……。私も、父さんも、混乱してる……」
「……あ、うん……」
歯切れの悪い二人の言葉に、衛も曖昧に頷く事しかできない。
「……で、どんな病気なんです?」
重い空気の中、衛が絞り出すように口にした問いに、心の父が深く溜息をついた。
「……簡単に言うと、ときめきを感じると、全身の力が抜けて倒れてしまう病気だそうだ……」
「……え……?」
「……その、アイドルのコンサートで、熱狂的なファンが気絶したりするだろう? まぁあれが日常的に起きると思ってもらえれば……」
「はぁ……」
心の父の表情には真剣さがにじんでいる。
だからこそ、そこから出た言葉の現実離れした内容に、衛の理解が追いつかない。
「……えっとつまり、心が誰かに告白されて、ときめいたらそこで倒れるって事ですか……?」
「……あぁ。それだけじゃない。図書館で同じ本を取ろうとして手が触れても、階段から落ちそうなところを助けられても、髪の毛に付いてた酢昆布を取ってかじられても倒れる」
「最後の例えはよくわかりませんけど、大変なのはわかりました。……いや、理解はしたけど納得はしてないというか……」
混乱した頭で、それでも何とか状況を整理する衛。
そこに更なる衝撃が衛を襲う。
「……そこで衛君に頼みたい事がある」
「……何ですか?」
「心の彼氏という事にして、高校での心の生活をサポートしてほしいんだ……」
「えっ」
「……お願い、衛……」
「え、いや、その……」
二人の言葉に戸惑う衛。
しかし心の父は懇願するように畳みかける。
「頼む! この事は先生と、心の友人だけに伝えるつもりだが、もし悪い男が聞きつけてときめかされたら、身体の自由を失った心が何をされるか……!」
「そ、それは確かに危険ですね!」
「それに学校で急に倒れたら、女の子の友達じゃ私を運べないし、男子じゃ症状が悪化するかもだし、頼めるのは幼馴染の衛しかいないの……!」
「あ、あぁ、それは良いんだけど……」
衛は胸の奥が詰まりそうになりながら、必死に言葉を絞り出した。
「……その、つまり、心は、俺にはときめかないのか……?」
「うん! 安心感しかないよ!」
「……そっかぁ……」
満面の笑顔で答える心の言葉に、俯いた衛の顔は一瞬全ての色を失う。
しかし、
「……ま、幼馴染のよしみだ。やるよ、心のボディガード」
顔を上げた衛は、笑顔でそう答えた。
「ありがとう衛!」
「衛君、感謝する! 必要なものがあれば何でも言ってくれ!」
「あぁ、早く治るといいな!」
こうして一人の男子高校生の精神を半殺しにした病は、衛と心の周りに様々な騒動を引き起こしていくのであった……。
「……先生、羽根田心さんですけど……」
「……あぁ、世界中の論文に当たってみたが、やはり治療法は発見されていない……」
「そうなると心さんは、一生ときめく度に倒れてしまう事に……?」
「……あぁ」
「そんな……! あんなに若いのに、一生まともな恋愛ができないなんて……!」
「……お見合いなどで恋愛感情なしであれば、結婚はできるだろうが……」
「……結婚生活の中で恋心が芽生えて、ときめくようになってしまったら……」
「……まともな結婚生活は送れまい……」
「……かわいそう……」
「……ただ」
「え?」
「この『ときめき不耐症』は、恋愛的な興奮状態による精神の不安定さがきっかけで、全身の弛緩症状が発生する」
「……はい」
「……つまり、恋愛感情よりも安心感が勝るような、恋愛や夫婦を超えて『家族』と思える位の絆が構築されれば、症状を起こさずに結婚生活を送る事も……」
「……先生……。そんなのフィクションの中の幼馴染だって流石に……」
「……そうだな。だが治療法は探していこう。患者が諦めようと、医者は諦めてはならんのだ……!」
読了ありがとうございます。
お医者さんには早めに諦めてもらう方向で……。
さて悲しい(と思ってる)男子高校生・衛は、囲安衛、ときめかない幼馴染は羽根田心。
読んで字の如し! 以上! 解散!
この先、クラスの友人に説明したところ、
衛の友人「あー、からかっちゃダメなやつなー。わかった」
衛の親友「囲安、いつでも相談乗るから、その、早まるなよ、な!」
心の友人「困った事があったら何でも言ってね! 何かあったら囲安君に知らせるから、連絡先交換しよ!」
心の親友「……あっ(察し)」
続きは皆様の想像の中で……。
お楽しみいただけましたら幸いです。




