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月は無慈悲な紅き女王  作者: 蒼蟲夕也
第三章 ヒャッキヤコウ
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第25話 出会いの合図

 油断しているその、横っ面をぶん殴る。

 つまるところ、キミタカが考えついた作戦なんてものは、その程度でしかなかった。


(できるだけ地面を見るようにしながら歩く。物の怪退治の基本だ)


 未熟な自分では心許ない。それはわかっていた。

 だが、勝算はある。

 この百鬼夜行が、青髪の人形の仕業だとしたら、少なくとも奴はキミタカを攻撃することはしないはず。……というか自分は、その価値もないくらいに弱い駒であるはずだ。


 どこまで奴がこちらの動きを把握しているかはわからない。


 以前、「空の眼」の話を聞いたことがある。


 空を超えたその先に、宇宙がある。それくらいはキミタカも知っていたが、そこには“人工衛星”と呼ばれるものが浮遊しており、現代においても、様々な情報を人形達に送っているらしい。これによって、ある程度の情報は奴に筒抜けなのだという。


 恐らく裏切りを防ぐ布石として打った言葉なのだろうが、今度はそれを逆に利用してやる。


 奴にとってはキミタカなど、指先一つでつぶせる虫のようなものだ。

 だが、その虫が益虫か害虫か、まだ判断し切れていないはず。


 先ほどから何度か、物の怪がうごめく音を聞いていた。

 しかし、奴らがキミタカの目の前に出てこないということは、そういうことなのだろう。


(一つめの綱渡りは、うまくいきそうだ)


 草むらが揺れるたび心臓を跳ね上がらせながら、予定していた地点へたどり着く。

 そこは、新昭和湖が見える、一本だけ飛び抜けて高い、名物の杉の樹があった。


 遮蔽物の少ない水際に生えた、一本の巨木。

 そちらに向かって歩くうち、キミタカは我慢が出来なくなって、ふいに駆け出した。

 走りながら十字弓を構え、二本ほど発射。

 矢は見事に木に刺さり、キミタカは矢を足がかりに、猿のように木に飛びついた。


(木登りなんて、何年ぶりだろう)


 とにかく、キミタカは慎重に木の枝に飛び移って、五分ほどでてっぺん近くまで登り切る。


(高さも十分。おあつらえ向きだ)


 遠い昔に植樹されたこの巨大な杉の木は、この近辺の生態系にかなりの影響を与えたと聞く。淡路島の南に行くと、こういった巨木が何本も立ち並んでいるらしい。


 足場の安定するところまで来て、一息つく。


 手頃な枝に背のうを引っかけ、初任給で買った上等な双眼鏡を覗く。


 ここは、前に来たとき、個人的にいつか登ってみたいと思っていた場所だったが、まさかこんな風に活用するとは思わなかった。


(この高さなら敵の位置を把握しやすいし、近づかれる前に逃げることもできる。)


 双眼鏡で注意深く見ると、物の怪の姿が見える。

 やはり尾行されていたらしい。


 そいつは、なんだか蜘蛛を巨大化させたような風体の機械で、五十センチほどの六本足をわさわさ動かしている。

 どういうタイプの物の怪かは知らないが、少なくとも木登りは苦手そうな形状だ。

 物の怪はこちらに気づいているようだが、今のところは接近してくる感じはなく、様子見に徹しているようだ。


(大丈夫。ここまでは予想通り)


 今度は空を仰ぎ見る。

 今のところ、月には何の変化もない。


――出会いの合図は、……そうね。月を眺めてみて。


 なんて言っていたが、本当に何か起こるのだろうか。

 今宵も月は、鮮やかな茜色に輝いている。


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