転生④
圧倒的なジークの力。
それを目の当たりにし、村人たちの表情から消える勢い。
そして皆、一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
そのモノたちを見渡し、ジークは呟く。
「収納する。オマエたちの逃げ道を」
呼応し、村を囲むように聳える漆黒の壁。
その壁。それは、まさしく村人たちの逃げ道を塞ぐというジークの意思を体現せしモノ。
「なッ、なんだべこの壁は!?」
「こんな壁ッ、なかったべ!!」
「……ッ」
聳える壁の前。
そこで混乱し、表情から血の気を失せさせる村人たち。
子どもは泣き叫び、大人たちもまたジークの殺気を背に感じ、後ろを振り返る余裕などない有様。
その姿を見つめ、ジークは更に力を行使した。
「収納する」
「この村での勇者の功績を」
【夜な夜な村を襲う魔物の討伐】
その功績。
それをジークは収納する。
刹那。
大気を震わせる唸り声。
それが空間を震わせる。
そしてその唸り声に、村人たちは聞き覚えがあった。
「こ、この鳴き声は」
「だ、闇蛇の鳴き声、だべ」
「ゆ、勇者様が討伐した。ま、魔物の鳴き声だべ」
身を震わせ、村人たちはその場にへたり込んでいく。
その表情。それは、かつての絶望を思い出し為す術を無くしてしまったモノたちのソレだった。
「収納する」
「闇蛇とこの村との距離を」
淡々とジークは声を紡ぐ。
漆黒に包まれ、ソレはジークの背後に現れる。
安住の地を奪われ、親を殺された魔物。
そして勇者によりその命を奪われた魔物。
闇蛇。
その闇色の鱗に覆われた巨蛇が、勇者の姿をしたジークの後ろにとぐろを巻いた姿で現れたのであった。
「ひッ、ひぃぃぃ!!」
「まッ、またあいつだべ!!」
恐怖の日々。
それを思い出し、村人たちは先ほどにも増して焦燥へと落ちる。
その村人たちに、ダークスネークは敵意を露わにする。
とぐろをとき、今にも彼等に攻撃を加えんとしているダークスネーク。
しかし、勇者に討たれた記憶によりダークスネークは【人に対する畏れ】を未だ払拭できずにいた。
その為、人に攻撃を加えることにどこか畏れを抱いているダークスネーク。
「奴等が憎いか?」
ジークの問い。
それに鳴き声で応える、ダークスネーク。
見た目は、自分を殺した勇者。
しかしその身から感じる、【魔王の力】にダークスネークはジークに敵意を向けることはない。
「なら」
ダークスネークの身。
冷たき漆黒の鱗に包まれたソレを撫で、ジークは声を響かせる。
「存分にその憎悪。解放しろ」
「収納する」
「人間に対する畏れを」
行使される、ジークの力。
瞬間。
人に対する畏れを無くしーー
ダークスネークは、村人たちへの容赦なき蹂躙を開始したのであった。




