受け継がれるもの、絶えるもの(「命の武器」、「銀色の眼のイザク」)
前回は親子関係に関わる話を扱った。今回のテーマも、ある程度それと関連がある。
夢、財産、あるいは技術。親から子へと受け継がれるものは多々あれど、最も普遍的なものは生命だと言えるだろう。
生物は皆、より多くの子孫を残して血を繋ごうとする。
この世界は、続々と現れる全ての生物が存在し続けられるほど、広くない。
生き残る力を持った強い生命が存在を許され、負けた生命はこの世から消える。
今回のテーマは、絶滅。
これにまつわる二つの話について、語っていく。
草上仁「命の武器」。
この話は、一組の夫婦が廃墟と化した街の中で追われるシーンから始まる。
あと少しで子どもが産まれる。そんな彼らが追われているのも、街が廃墟と化しているのも、ある存在に原因がある。
「カッコー」と呼称される生物。
白くふやけた、成人男性のような外見。唯一の大きな差異は、オオアリクイのような形の口吻だけ。
外見は恐ろしげに見えない彼らの武器は、「強烈」という言葉でも生ぬるいほどの繁殖力。
カッコーたちにメスは存在しない。
全ての個体がオスで、繁殖に他の生物を必要とする。
彼らは生殖器から白い霧状の精子を放ち、それによって他の生物に子孫を産ませる。その生命力は凄まじく、人の肌に付着すれば何日も生存し続け、自ら移動し生殖細胞を目指すほど。
また、彼らはおおよそ人間の十分の一ほどの期間で産まれ、胎内から出た時点で既に生殖能力を持っている。他種の胎を占有し続ける事ができるのだ。
カッコーの出現に人類が気づいた時には、もう女性の半数が彼らに汚染されていた。
政府は機能を失い、暴徒と化した人々が妊婦を無差別に殺した。危険なカッコーをいつ産むか分からないから。
追われている女性が身ごもっているのは、まず間違いなく普通の人間のはずだった。もう十ヶ月近く妊娠したままだからだ。
けれど、彼らを捕まえたパトロール、自警団の人間達はそれを聞かない。
あと少しで夫婦まとめて撃ち殺される。そんな彼らを救ったのは、カッコーの襲撃だった。
グルーピィと呼ばれる人間の女性。既にカッコーを産み、人間に殺される立場となった彼女たちはカッコーに庇護されている。
そんなグルーピィたちを数人引き連れたカッコーが、パトロールたちを襲った。
生命力という武器で人類を追い詰めるカッコーは、身体能力も高い。銃で武装したパトロールを蹴散らし、その内の一人を白い霧でとらえてしまう。
カッコーの精子は、性別を問わない。男性の消化器までたどり着き、子宮外妊娠をさせる事も可能だ。流石に胎児の生存率は低いが、それをされた側はまず間違いなく死亡する。
襲撃の隙をついてパトロールから銃を奪った夫は、パトロールのリーダーからその一人を撃つように懇願された。
霧に囚われたパトロールは、リーダーの息子だったのだ。
わずかに躊躇いながらも、夫はそのパトロールを忌まわしい運命から開放した。
その礼にとリーダーが夫婦に渡したのは、多少のガソリンと情報。
またひとつ地区が制圧され、人間のコロニーはカッコーの住む地域に囲まれてしまった。命を賭けてカッコーの領域を突破し、脱出することになるだろうと。
ガソリンと、周囲の廃材で炎のバリケードを作り、しばしの間夫婦は休む。
もう出産まで、時間が無い。安全な場所を探す事も、逃げる事も難しいだろう。
バリケードの炎は、最悪のタイミングでカッコーを引き寄せた。妻が産気づいたのと時を同じくして、カッコーがグルーピィを引きつれて現れたのだ。
戦う銃と、弾はある。だが妻は戦えない。彼女は産みの苦しみと戦って、無事に子を産まなければならない。
銃声が聞こえる中、子どもは産まれた。
だが、夫は我が子を一目見て息絶えてしまう。襲撃者たちから致命傷を受けてしまったのだ。
妻は夫の死を確認すると、産まれたばかりの我が子を、夫の使っていたライフルで撃ち殺してしまう。女の子だった赤ん坊は産まれる前から、カッコーに汚染されていたのだ。あまりにも不自然に蠢く腹で、妻にはそれがわかった。
ライフルを手に、おぼつかない足取りで彼女は歩き出す。近くにあるというコロニーを目指して。
健康な子を産んでこの星を、カッコーに奪われた以上の命を取り戻すために。
カッコーの精子が命の武器なら、子を産む力のある彼女の子宮もまた、彼らに対抗できる「命の武器」だ。
あらすじは以上。
見ての通り暗澹とした話だ。最後が「夫が命がけで守ったはずの子どもを、妻が撃たなければならなかった」というものなので、後味が悪い話としてあらすじがまとめサイトに載せられていた。
余談になるが、タイトルで検索すれば出てくるであろうこのあらすじ、記憶を頼りに書いているのか実際の話と差異がある。
少なくとも、ラストでひとりになる妻の味方は夫のみだった。彼はただ一人で戦い、「妻の」命を守って死んだ。そして産まれたばかりの我が子の命は、彼の手から零れ落ちた。
確かに暗い話ではある。だが暗いのは世界観であって、キャラクターたちはその中でも命を燃やし、輝いている。
夫の戦いは無意味だっただろうか?
いいや、断じて違う。彼は妻を守る事ができた。彼女に意志を受け継がせる事ができた。
消耗する、出産を経てなお彼女が立ち上がり、歩き出せたのは何故か。夫から受け継いだ意志が、彼女に力を与えたからだ。
彼女の両足を支えるのは、夫だけではない。
カッコーにやられたパトロール、夫と戦い死んだグルーピィ。彼女が出会った人間達の死は、より強く彼女を生へと執着させる。
もうひとつの話。ウルトラマンガイア第43話「銀色の眼のイザク」。
脚本は、以前好きだと語った太田愛。
この作品では、「根源的破滅招来体」と呼ばれる正体も目的も不明な存在が、人類の破滅を狙って怪獣を送り込んでくる。
そんな脅威に対抗するために出現したのが、赤い大地の巨人、ガイアと青い海の巨人、アグル。それぞれ高山我夢、藤宮博也の二名が変身する。
かつてアルテ平原という場所に生息していたトラの一種、アルテスタイガー。
毛皮の美しさ故にハンターたちに狙われた彼らは、平原に湧く重油混じりの水を啜り散り散りになりながらも抵抗したが、とうとう絶滅してしまった。
絶滅動物を復活させよう、というプロジェクトが立ち上がる。最初のテストケースとして選ばれたのは、アルテスタイガー最後の一頭だった"銀色の眼のイザク"。クローニングはうまくいったが、彼は根源的破滅招来体により拉致されてしまった。
それからしばらくして、根源的破滅招来体がコンビナート地帯に怪獣を送り込んできた。体組織分析の結果、イザクが怪獣化させられたものだと分かる。
拉致の現場にも居合わせた藤宮は、イザクの心が人間への憎しみに満ちているだろうと考え、それを鎮めるためアグルに変身する。
パワフルかつ素早い身のこなし、口から吐く炎。イザクの強烈な攻撃に倒れる青い巨人。
入院した藤宮に、我夢は聞かされる。
イザクは、人間を憎んでなどいない。
自分が最後の一頭だなどと思いもせず、ただ昔のように力の限り生きようとしていただけだった。
怪獣となってしまった今、イザクを好きに暴れさせる訳にはいかない。
ここで躊躇えば、根源的破滅招来体は人類が絶滅させた動物を次々に怪獣化させて送り込むだろう。
意を決してガイアへと変身する我夢。
パワフルなイザクに対抗するため、強化形態へと変身したガイアは肉弾戦でイザクを追い詰める。
ダウンさせたイザクへ止めを刺そうと、必殺光線の構えを取るガイア。
そんな彼に、イザクの声が聞こえる。
「俺は生きる。ガイア、俺は生きる!」
その声を聞いたガイアは光線の構えを解き、肉弾戦を選択した。互いの肉体をぶつけ合う死闘の末、イザクは倒される。
こちらは、人間が絶滅させる側に立つ話。
根源的破滅招来体が、人間を破滅へと追いやろうとする動機は作中で明らかにされなかった。
だが、やろうとしていた事は人間がアルテスタイガーにした事と変わらない。
この話までの四十数話、根源的破滅招来体は様々な形で人間に攻撃を仕掛け、人間とウルトラマンもそれに対して必死で抵抗してきた。
この回もそんな一つである訳だが、この一回に限っては「人間とアルテスタイガー」というもう一つの滅ぼす、滅ぼされるという関係性がある。
人間も、根源的破滅招来体と同じような事をやってきた。あるいは現在進行形でやっている。
怪獣と化したイザクにその痕跡が残っていたのは、彼らがそれを示唆しようとしていたのではないか、とも考えられる。
「ウルトラマンガイア」は全51話だ。この話から6話後に最終決戦が始まる。
最終局面で根源的破滅招来体が取ったのは、膨大な物量と強力な一体の決戦兵器による圧倒。
今まで絶滅させてきた動物たちのように、全力で抗え。そして滅びろ。
根源的破滅招来体はそういう事が言いたかった、のかもしれない。
結果がどうであれ、全力で生きようとするそのあり様は清々しい。
「命の武器」のような出来事は、今のところ人間には起こっていない。
だが、他の生物に起こっていないとは言えない。
侵略的外来種。
人為的な移動によって遠い地域からやってきた外来種が、在来種を駆逐してしまう。
人の目線にこだわらなければ、「命の武器」のようなドラマは今も無数に繰り広げられている。そう考えることはできないだろうか。
事実は小説より奇なり。「隕石に乗って地球にやってきた存在に、人間が圧倒されて滅ぼされる」なんて事も、ありうるかも。
「ウルトラマンガイア」の方は配信なりレンタルなり、いくつも視聴する手段はある。
問題は「命の武器」の方だ。これを書いている現状では、広済堂文庫版の異形コレクションシリーズ「侵略!」にしか載っておらず、単行本化されていない。
この作品に限らず、草上仁先生は単行本化されていない短編が数あるらしい。
先日も、「ジェット噴射で飛ぶ槍のような生物、スピアの飼育が盛んな惑星における、空戦ウエスタン」とでも言うべき作品を知った。
大きな図書館の蔵書をお勧めする。




