掘骨砕三「クロとマルコ」
今回の作品は「クロとマルコ」。これがどういう作品かという前に作者について話しておきたい。
掘骨砕三。この名前で「ああ、あの人か」と分かるのは、自分に近い特殊な趣味の人だろう。ずっと成年向けで活動をしてきた人で、知っている限りで全年齢向けはこの単行本しか無い。
話の筋書きだけ見ると、「変な虫に噛まれて虫と人のハイブリットになっちゃった」とか「体のパーツを金魚感覚で買える世界の話」とか、変わった話ばかりだ。改めて自分で書いてみるとそう思う。
冷静に考えるとえらい事になっているのに、登場人物が不幸だとかかわいそう等とは思えないのも特徴か。何が幸せで、何が幸せでないか。この作者が作り出すキャラクター達には分かっている気がする。
デフォルメが利いた絵柄と奇妙な話という点では、以前話題にした水野純子先生のマンガに近いかもしれない。
そんな変わった作者の、普通の人にも勧められる現状唯一の単行本(の表題作)が今回の話。
「クロとマルコ」は、アステロイドベルトに住んでいるバルカン人の少年(タイトルは二人の名前)の日常を描いた四話の短編だ。
一話は「マルコが動物を拾ってきた。一見子犬のように見えるけれど、足が五本あって体の下に尾が生えている。5匹も飼えないから返してこなければならないけど、何処の動物だろうか?」といったあらすじ。
友人のキットとの問答が面白い。
(何処の星の犬かなという質問を受けて)
クロ「火星かな? 足が5本なら」
キット「だったら毛がないよ」
クロ「土星は」
キット「六本足」
クロ「天王星は」
キット「家よりでかいよ」
クロ「地球」
キット「トカゲ」
クロ「木星」
キット「いないよ」
クロ「金星」
キット「八本足」
クロ「水星」
キット「だからいないよ」
木星と水星は環境が過酷過ぎるのか生き物が出てこないが、かなり太陽系が賑やかな世界だ。ガニメデやカロンにもその星の人種がいる。こちらの感覚で普通の人間は登場せず、バルカン人以外は、毛深いとか獣耳とかの特徴がある獣人に近い外見だ。
クロ達バルカン人はトランスフォーマーのような人種で、機械に近い大型種(明確な人型に変形しない)と人に近い小型種(人に近い姿で、無茶な変形で乗り物に変わる。)に大別される。体に金属が含まれているものの、細胞で形作られた立派な生物だ。
彼らは体が外装と本体に分かれていて、着替え感覚で「外装の付け替え」を行う。こちらの人間からしたら訳の分からない感覚だが、他の動物からしたら毛皮を衣服として外付けにしている人間は、バルカン人のように見えているのかもしれない。
また、地球ではハチュウ人類、もとい恐竜人が栄えている。彼らはバンホーさんやギラグールのような人に近いシルエットではなく、ほぼ恐竜そのままの見た目だ。『恐竜家族』みたいな感じか。
三話は懸賞で地球旅行を当てたクロとマルコが、おじさんに同伴してもらって北米大陸の「帝国」領にあるテーマパークへ遊びに行く話。ゲッター線が無かったのだろう。
緻密な設定という程細かい部分は描写されていないが、短編四話で終わらせるにはもったいない世界観が構築されている。逆に言えば、そういう世界観を作ることが出来るからこそ作者として活動し続けられるのだろう。
この作品の単行本には他に、前後編一セットに短編4本が収録されている。再生された草食恐竜サウロロフスで畜産している話以外は、いつものノリに近い。「いつも」を知っている人からすれば「クロとマルコ」の方が物足りないらしいが、この作品でも不快感を感じる人はいるかもしれない。
「鼠と竜のゲーム」(一セットの前後編)に登場する竜の、人と獣が入り混じった独特なデザインが問題か。




