富沢順「企業戦士YAMAZAKI」
今回は、少し変わったヒーローもののマンガ「企業戦士YAMAZAKI」の話をしたい。
「NEO=SYSTEM社の派遣社員、山崎宅郎は『企業戦士』である。ソ連での事業中に過労死した彼は、残した妻子に少しでも多くの金を残すため、そして自分の理想とするビジネスを守るため、脳以外のほぼ全てを機械に換えて日夜戦い続けるのだ。」
改造人間の話なので某ナレーション風にまとめてみたものの、さすがにこれだけではどんな話かよく分からないと思う。
毎度の話はおおよそ以下のフォーマットに沿っている。
・業績不振の会社に山崎が派遣される
・何かしら問題を抱えている社員と共に、山崎が提案した新商品・企画を開発
・ライバル会社の企業戦士が横槍を入れてくる
・社員が問題に対して答えを出し、山崎がライバル会社の企業戦士を倒す
・めでたしめでたし
このフォーマット自体はほぼ毎回同じだが、そこに詰めているものが毎回バラエティ豊かで飽きない。
「会社の業種」「焦点を当てられる社員のドラマ」「山崎の新商品・企画」「ライバル会社の企業戦士の容姿と必殺武器」「戦闘モードになった山崎の必殺技」。……一部おかしな物があったかもしれないが、そういう話なので「何だそりゃ」と思ったなら読んでみて欲しい。
一歩間違えたらギャグになってしまうこの作品、引き締めてヒーローものとして成り立たせているのは、主人公のキャラクターだろう。
以下、あるエピソードでの主人公とライバル会社の企業戦士のやり取り。
「飯野さん(ライバル企業戦士)、アナタとて夢を抱いていた少年時代があった事でしょう。己の利益の為には手段を選ばない――、そんな大人にだけはなるまいと心に誓っていた日々が……」
「忘れちゃったなァ、無知であるがゆえの理想論なんてさ」
「ならばアナタは、裏切り者だ!」(戦闘モードになる)
ほぼ毎回、こんな感じのやり取りがある。理想、あるいは美学のある言葉だ。
山崎はその理想に向かって前進し、なおかつ共にビジネスを行う人間の心に、火を着ける。道を違えそうになったなら、「それでいいのか?」と疑問を提起し、煮え切らない相手には挑発する事もある。
ヒーローは、間違っていると思う事には間違っていると言えなければならない。そして、これが正しいと判断するための基準が必要だ。
あくまでも個人的な基準だが、これらを持っているから山崎はヒーローなのだと思う。
そして、もっと言えば彼は「自分自身が熱く燃える」ヒーローではなく「誰かの心を熱く燃え上がらせる」タイプのヒーローだ。
個々のエピソードの主役はゲストの社員であって、山崎は彼らの背中を押すのみ。彼自身の物語は彼らと関わる中で静かに進み、そして静かに幕を閉じる。
機械部品との拒絶反応で、企業戦士となった者は長く生きられない。少しずつ山崎にもその影響は出始める。話の終わりは……、読んで貰った方が早いだろう。仕事を終えたビジネスマンが、最後に行く場所はひとつだ。




