『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』60話「拝命いたしました」
「コウジ、起きて!」
ミストの声で俺は飛び起きた。ルームメイトのミストは駅伝選手で運営側の俺に何かを言うことはない。よほどのことがあったのだろう。
「どうした?」
「迷いの森の魔物たちが狂乱状態になっていて、選手たちだけでは対応できなくなっているんだけど、駅伝の運営側でどうにかできないかな?」
空を見上げれば夜明け前だろうか。強さだけで言えば、魔物に対応できる選手たちは大勢いるはずだ。冒険者も軍人もいるのだから、たとえ狂乱状態になっても討伐するのに、それほど時間はかからないだろう。魔物への対処も駅伝のうちだ。
今までの死者の国の実力と対応を考えても、魔物の狂乱に違和感があるのだろう。
「わかった。ちょっと状況を確認させてくれ」
寝ているウインクは置いといて、ウタさんに通信袋で連絡する。
「ウタさん、迷いの森で異変があったらしいんですけど?」
『ああ、おはよう。今、父がこちらに向かっているところ。喋る魔物が出てきて、選手たちも対応ができなくなっているんだよ。とはいえ、このまま武器を持って、村を襲われるわけにはいかないでしょ? だから、一旦村の防衛に回ってるんだと思う』
「なるほど、了解です」
駅伝は夜中に何かが起こる。
「現場を見に行きます」
『頼むよ。私は魔物使いの塔にいる。邪神出現の影響かもしれないけれど、人間には手当たり次第に襲い掛かっているみたい。誰かの幻術かもしれないから気を付けて』
「了解です」
魔物ではなく魔族だった場合を考えて、選手たちも手出しできないのだろう。
魔族領の選手たちも森の手前で、焚火をしていた。
「お疲れ様です。喋る魔物が暴れているって聞いたんですけど」
「ああ、古い魔族の言葉を喋っている。魔族も枝分かれしているから、別に倒してもいいんだけどさ。それで避難している一般人に被害が及んだら、駅伝どころじゃなくなるだろ?」
ゴルゴン族のステンノ選手が、魔族という立場上、手を出せず、夜中に他の国の選手たちに事情を説明したうえで謝ってくれていたらしい。確か、傭兵として長く南半球に駐留していた魔族の一人だ。
「すみません。こちらで対応できればよかったんですけど」
「いやいや、ウタ嬢がいたから、すぐ大統領に連絡を取ってくれた。我々は待つだけだ」
魔族には、ボウさんに対する絶対的な信頼感がある。
近くにいた死者の国の選手が、焚火に札を投げ入れた。おそらく魔物を近寄らせないためのまじないだろう。
「先祖返りと幻術と強力な呪いが混ざっているようなんだ。死霊術師の我々でも、時間がかかりそうでね。魔族同士のことだから、頼めるならそれが一番いい」
「幻術ですか?」
「ああ、古い魔族の言語だから我々にもわからないけれど、巨大な何かを見ているらしい。自分たちにかけられているなら簡単に解けるが、文化も種族も違うと一体ずつ解呪していくしかない」
「駅伝は魔物を倒すための大会ではないでしょ?」
アラクネさんが優しく微笑んだ。
「そうです。ご理解いただき、ありがとうございます」
選手一人一人がちゃんと、別の種族を尊重し、国同士の交易について理解してくれていることが何よりうれしかった。
俺はウインクを起こし、ジルに連絡した。
『大丈夫。花屋の朝は早いから。いつでも放送できるよ!』
「ありがとう。悪いけど、放送してくれる。聞いている人たちに説明しないといけないことがあるんだ」
『わかった。また、誰か来た?』
「迷いの森ってあるだろ? 魔物が混乱しているみたいで、周辺の村に被害があるといけないから、選手たちが自主的に討伐を止めてくれているんだ」
『なるほど、了解。店長! ちょっと駅伝で緊急事態があったみたいだから、放送してきます!』
ジルも花屋の仕事を置いて、総合学院のラジオ局へと向かってくれた。
寝ぼけ眼のウインクは、酸っぱい果物のジュースを飲んで、白目を剝いていた。
「っくぅー! んよしっ! で、迷いの森の魔物が魔族かもしれない上に、村人に襲い掛かる可能性を考えて選手たちは止まることを選択したってことね?」
「そういうこと。寝起きにしてはいい理解力だ」
「このまま討伐しながら走れるのに。名誉よりも人の命の方が大事だということね?」
「俺が蓄魔器を売ろうとしているのは、そういう人たちがいるところだ」
「わかった。準備はできたよ。風船を飛ばして」
俺はアンテナが付いた風船を膨らませて、空へと飛ばした。
ラジオからは音楽が流れ始めた。俺は通信袋に魔力を込めた。
「ジル、いけそう?」
『いつでも』
「余すことなく伝えてくれ」
俺はウインクの背中を押した。
「おはようございます! こちら、アリスフェイ王国は第二中継地点の竜の駅近くなんですが、駅伝の放送を楽しみにしているリスナーに説明しないといけない事態が起こりました!」
キョキョキョキョ……。
迷いの森から怪鳥の声が響き渡る。
「往路でも走った迷いの森なんですけど、現在魔物たちが古代語で喋り始めました。つまり魔族になったかもしれないと、夜中の間に魔族領の選手たちが対応に追われたようです。ただ、魔物たちは幻術や呪いにかかっているようで、どうにも話ができない状況となっています。これについては、現在魔族領の大統領がこちらに向かっているようです。さらに興奮した魔物を討伐して、周辺の村へ被害が出る可能性を考慮し、夜走ろうと思っていた選手たちも、一度止まっています。駅伝という各国の威信をかけたレースではありますが、レース会場は普通に生活している住民たちがいます。重ね重ね、運営委員の至らなさを謝罪し、不測の事態に見舞われてなお冷静に判断をした選手たちに感謝いたします。ありがとうございます」
これで、他の国の選手も迷いの森に入り難くなった。別ルートを行こうとする選手も、周辺の住民に配慮する必要が出てきて足止め。
結局日が昇り、ボウさんが来るまで竜の駅で待機しつつ、魔物の襲撃に備えることになった。
とにかく駅伝の運営委員が火山の魔物に対応しているため、まるで人数が足りない。ひとまずラジオをウインクに任せて、俺も森の中にある塔へ向かった。
夜明け前の真っ暗な中、魔物たちが蠢いているのは確認できたが、特に空までは襲い掛かってくる様子はない。むしろ怯えるような魔物の視線は感じる。
「お疲れ様です」
「お、コウジ。ラジオはいいの?」
ウタさんが塔の上で森の魔物の様子を観察していた。
「MCに任せてきました。運営委員が出払っちゃってるんで、人手が足りないです」
「仕方ないね。でも、冒険者ギルドとしては駅伝で結構有望株を宣伝できたんじゃないの?」
「そうだといいんですけど……。古代語を喋る魔物はどうですか?」
「どうだろうね。たぶん、邪神とナオキさんの声を聞いて、かなり混乱しているんだと思うよ。ラジオで放送したから。魔族領でも、意志の弱い魔族は一時的な失語症になったり、逆に幻覚を見たり、子どもが急に喋り始めたりしたらしいから」
「邪神の声が迷いの森まで声が届いちゃったんですか?」
「ほら、一応、小型のラジオは塔にもあるからさ」
誰かが置いて行ったものだろうか。ウタさんが小型ラジオを見せてきた。
「新しい技術は、いい影響も悪い影響もでるよ。使い方次第でね」
「前から火の国ではあった技術ですよ」
「世界中にまで広めたのはコウジでしょ。去年はたくさんラジオ局を作ったんじゃない?」
「そう言われると……」
エルフの国にアペニール、世界樹と作り、ベルサさんが中継局も作ってくれた。
「そうかもしれないです。面白くなるし、便利になると思ってたんだけど……」
「悪用する人もいれば、さらに発展させる人もいる。もちろん利権だって発生する。でも、ほとんどの人が遠くの声が聞こえるって、面白い体験だと思っているよ。自分一人だけじゃないんだと思えるしさ」
「そうだといいんですけど……」
「あ、来た」
ウタさんの父親であるボウさんが空飛ぶ箒に乗ってやってきた。魔族領の大統領だからものすごく偉い人なのに、お付きの人もいないし単独で来たのだろうか。
「おつかれさん。魔物が随分大変なことになっているみたいだな。フハ」
「どうすればいいと思う?」
ウタさんが素直に聞いていた。
「ラジオ聞いていたから、コウジが選手たちに感謝したのは大正解だと思うよ。状況判断としてウタがオレを呼んだのも間違っちゃいないと思う。フハ」
ボウさんは塔の上から、じっと森の中を見ていた。ほのかに東の空が明るくなっているが、木の陰にいる魔物たちの姿は見えない。おそらく魔力で気配を探っているのだろう。
「同士討ちもしているみたいだから、だいぶ混乱しているね。たぶん、オレが出ていってあの魔物たちを魔族として従わせるのはできなくはない。でも、それは恐怖の上書きでしかないから、あの魔物たちが人間社会に出た時にちょっと歪みが出るかもしれない」
「犯罪ってこと?」
「うん。邪神や悪魔以外にも借金で恐怖することもあるかもしれないだろ? だから、ナオキが来るのが一番丸く収まると思うんだよ。あんな適当に邪神と会話できる奴はいないからな」
「おう。呼んだか」
いつの間にか親父が塔の上を飛んでいた。そのまま飛び降りてきた。
「親父。火山地帯にいたんじゃないのか?」
「うん。まぁ、ちょっといろいろややこしいことが起こっていてさ。コウジに許可を取らないといけないことも出て来て、事後報告でもいいかと思ってた時にラジオの放送を聞いて来たんだよ」
「徹夜ですか?」
ウタさんが親父に聞いていた。
「今、復路何日目?」
「二日目の朝」
「ああ、徹夜だ。うわぁ、面倒なことになってるな。ボウ、どうすんだ? あの魔族を持って帰るんだろ?」
「やっぱりそうなるのか。でも古代魔物語しか理解できないみたいだぞ。フハ」
「わかった。セスに船を回してもらおう。とりあえず、俺が落ち着かせに行くから、解呪は死者の国の死霊術師に頼めないかな」
親父は古代の魔物の言葉を喋れるのか。初めて知った。
「聞いてみる」
「できなかった二日くらい眠らせればいい。魔族領に帰ったら本職の死霊がいるよな?」
「ああ、大丈夫だと思う。まぁ、数が多いけどな。フハ」
「よし、それでいこう」
親父が来ると、一瞬で作戦が決まる。解決するための手数が多い。その親父が俺の許可を取ることってなんだ? 嫌な予感しかしない。
「森の入り口に集まっているのか?」
「うん。そう」
「コウジが責任者だから、ちょっと一緒に説明しに行くぞ」
「ああ、わかった」
俺は親父と一緒に迷いの森の入り口に向かった。空飛ぶ箒を使っているが、落下スピードと同じくらい速い。迷いがなく仕事に取りかかる時間にロスが全くない。親父の奇人っぷりはこういうところに出ているのだろう。
「お疲れ様です……。迷いの森の状況について、魔族領の大統領と共に調査しました」
「コムロカンパニー!」
「ナオキ・コムロ!」
「ええ!? なんで!?」
「どうしてここにいるんですか?」
駅伝の選手たちが口々に驚きの声を上げた。
「駅伝で不測の事態が起きているので、運営委員が来たまでです。今から、魔物の移送を始めますので、選手の方には今しばらくお待ちください。呪術に関して心得がある方は協力願えませんか? かなりの人数がいて、なるべく薬は使いたくないんですが……」
「薬を使うと、しばらく森の通行が難しくなるということですか?」
死者の国の死霊術師が聞いていた。
「その通りです」
「コムロカンパニー、コムロ社長とお見受けします!」
突如、後方から大きな声が聞こえてきた。
「北極大陸の光の戦士ことラックスと申します。その任、我々の世代に任せてはもらえませんでしょうか?」
「世代? 北極大陸の研究者ではなく?」
「ええ。迷いの森の事態は、駅伝そのものに関わることかと思います。ここは国の垣根を越えて対処すべき問題かと思います。森全体の呪いを解ければいいんですよね?」
「そうだ。魔物を落ち着かせて集めるから、解呪してもらえる? 輸送とかはこちらでやるから」
「はい! やらせてください!」
「よし。ボウ、聞いたな?」
「うん。フハ」
「俺たちが全責任を取る。失敗してもいいから、思い切りやってくれ」
「拝命いたしました!」
ラックスが敬語を使っているところを見たのは初めてかもしれない。
「コウジ、協力してくれる? 龍の駅で寝ているゴズを起こして。あと、シェムがいるといいのだけれど」
体育祭で光の精霊を呼んだ時と同じメンバーをそろえるつもりのようだ。
「精霊を下ろすんですか?」
「力を借りるだけ。あ、ごめん。駅伝は棄権することになると思う」
「それは俺じゃなくて、同僚の研究者に言った方が……」
「私たちは誰の研究も邪魔するつもりはない。ラックスはすでに私たちの仲間だから、意志を尊重するわ。思い切りやりなさい」
追いかけてきたフェリルさんに、ラックスは頭を下げていた。レベルを下げる腕輪は外していた。
俺は竜の駅まで戻り、アペニールの選手であるゴズさんを起こして、事情を説明した。
「そうか。俺はここまでだ。選手交代をしてくれ。駅伝よりも大事なことが起こった」
「なんでござる?」
アペニールのダイトキが尋ねた。
「友の初陣だ。すまない」
「いや、全力でサポートしていただきたい」
「ダイトキさん、シェムさんって呼べます?」
「ああ、シェムなら今、リュージと風呂に入っているはずでござる」
いつの間にそんな仲良くなったんだと疑問が湧いてくるが、リュージはダンジョン住まいだし、シェムはダンジョンマスター見習いなのだから、仲良くなって当たり前だ。
「来てるんですか?」
「ああ。俺のサポートなどと言っているが、ダンジョンの魔物に異変があったとかで、調査しているのでござる」
「そうですか。ありがとうございます。ゴズさん!」
「おう。俺は迷いの森に向かう」
「頼みます」
俺は駅の中にある風呂へ向かうと、ちょうどリュージとシェムが階段を上ってくるところだった。
「あれ? コウジ、迷いの森じゃなかったのか?」
「シェムさん、ラックスさんが森の魔物を解呪するみたいなんで協力してもらえませんか? ゴズさんも向かってるんです」
「ん? ああ、体育祭の時の?」
「おそらく……」
「わかった」
外に出て、俺たちも迷いの森へ向かう。
「ダイトキ! 棒ない?」
シェムがダイトキに声をかけていた。
「ほら。固くはないがこれで十分でござる」
ダイトキはシェムに山登り用の杖を投げ渡していた。
シェムは杖をクルクルと回して握り心地を試す。あまりに堂の入った所作に、寝ぼけ眼だった他国の選手たちが目を見開いていた。
「あれは誰だ?」
「なんで選手じゃない?」
「どこの選手だ?」
「あれがうちの学院の二番手だ」
「おっさんたち、冒険者辞めるなよ。Aランクってのはああいう奴のことだ」
アグリッパとドーゴエの声が聞こえてきた。後輩を立てるいい先輩たちだ。
「世界に見せつけろ」
「かましてやれ」
そっと言葉で俺たちの背中を押してくれる。
「……さぁ、我らがアリスポート総合学院のトップ2も揃ったところで、4人が迷いの森へと入っていく! 先行した魔族領の大統領とコムロカンパニーの社長はどうなっているのでしょうか? 魔物の叫び声だけが周囲に轟いています!」
ウインクがマイクを握って実況している。
「シェム、近くにいたの?」
ラックスは驚いていた。
「うん。ダイトキの応援と魔物の調査で」
「魔物の調査がメインだな。よし、行こう」
「ごめんね。集まって貰っちゃって」
「全力でやるんだろ? だったら俺たちがいないとな」
「ラックス先輩を精霊にさせるわけにはいかないから」
「ありがと」
4人揃って森の中に入っていくと、森の中心に魔物の声が集まっていくのがわかる。親父たちが魔物の群れを集めているのだろう。
森の木々がざわめき、朝日に照らされた森には獣の臭いが充満していた。
親父とボウさんは、野太い声で喋りながら、魔物の攻撃をすべて受けている。魔物が群れで襲い掛かっているのに、二人とも平然とした表情で俺たちを待っていた。
「落ち着かせているんじゃなかったのか?」
「これでも落ち着いている方さ」
「現に俺たちにケガはない。フハ」
二人とも噛みつかれ引っ掻かれ、魔法を当てられても、岩のように動いていない。攻撃を受け流すこともなく、虫に刺されたというようなリアクションもしていなかった。
「魔法ですか?」
ゴズが思わず聞いていた。
「いや……。とりあえず、森中の魔物を集めただけさ」
おそらくフェロモンの香水かなにかで集めたのだろう。奇人の行動にいちいち驚いていたら日が暮れる。
「それじゃ頼むよ」
「わかりました!」
親父とボウさんが魔物の中から飛び出した。
「行くよ!」
「「「おう!」」」
ラックスに合わせて、俺たちも魔物の群れの中に飛び込んだ。
襲い掛かる魔物の攻撃を受け流し、弾き返す。思いきり弾き返すと、飛んで行ってしまうのでなるべく柔らかく地面に向けて組み伏せていった。
しばらく魔物の対処をしていたが、なかなかラックスの準備が整わない。
「まだか?」
しびれを切らしたゴズがラックスに聞いていた。
「集中が……。コウジ、教会の鐘の音って聞こえないかな?」
「ちょっと待ってくださいね」
俺はジルに連絡を取った。
『朝の鐘なら今聞こえているけど?』
「通信袋を教会に向けてくれ」
『カラーン……! カラーン……!』
鐘の音が聞こえた瞬間、周囲に差していた陽の光がラックスに集まっていくように見えた。
「精霊よ。今一度、力を貸しなさい。呪縛を解き放て!」
ラックスの振り上げた人差し指に光が集まっていく。俺たちは咄嗟に地面に身体を投げ出した。
木々のざわめきも、魔物の叫び声も消え、静寂が辺りを包む。
首だけ振り向いて見上げれば、ラックスの指から同心円状に光の輪が広がり、指先から光の柱が上空へ向かって伸びていた。
魔物の群れは光の柱を見上げて、動きを止めている。
光の柱が収束して、ラックスは腕を下ろした。
魔物たちは途端に正気に戻ったのか、お互いを見合わせている。
「大丈夫。今度は乗っ取られなかった」
俺たちが立ち上がると、ラックスは白い歯を見せて笑っていた。
「たまげたな。こりゃ。フハ」
ボウさんは拍手をしていた。
「光の戦士、ラックスと言ったな。今から、光の勇者を名乗れ。前任者と精霊には俺から言っておく」
親父がなぜかラックスを光の勇者にしてしまった。どういう権限があるのだろう。親父のやることはよくわからん。
「拝命いたしました」
ラックスは驚きながらも、勇者になった。
「ゴズ君と言ったね。人それぞれペースがあるから、誰に何を言われても、心に従うんだぞ」
「……ありがとうございます」
親父が変なことを言って、どうしてゴズが感謝したのか、今の俺にはわからなかった。
「ゴーレムの娘、シェムだね。ダンジョン、期待している。フハ」
「はい」
ボウさんは魔力の手でシェムを撫でていた。
「あれ? 俺には、なんかないの?」
「コウジは駅伝が終わった後だ」
「自分の運命を呪うなよ。皆、助けてくれるから。フハ」
なぜか二人とも俺を難しい顔で見ていた。
その後、魔物たちはボウさんと親父の説得を聞いて、魔物使いの塔へと移動していた。
これでようやく駅伝復路二日目がスタートする。




