表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆除人  作者: 花黒子
『遥か彼方の声を聞きながら……』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

453/506

『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』29話「集められた学友たちと解読されたウッドエルフの祭り」



 そこからブロウさんの動きが素早かった。

 衛兵の隊長に手紙を渡し、植物学研究所の一時運営停止措置命令の申請。カミーラさんのいる薬師の里で、興奮剤になり得る実の説明をして薬の開発を勧め、さらに『月下霊蘭』が開花した際の鎮静剤の普及と、その間の支援についての議論をするようにと進言していた。

 

「里長たちが頷くような議論ができなかったから、ここまで切羽詰まっているのだぞ」

「では、その里長たちの奥さんや娘にこの実を食べさせていきますがよろしいですか? 一樽分はあるので足りますよ」

「試させればよいというのはわかるが、それが脅しともとられる」

 カミーラさんも頭を抱えている。

「せめて燻煙式の鎮静剤でもないと『月下霊蘭』の開花でエルフの森全域が暴徒に蹂躙されます」

「老人たちはそれでいいと思ってるんだよ。それが伝統だと」

「昔と今では法が違うじゃないですか。しかもハイエルフもいない」

「それほどエルフの理性は信用できないかと言われるに決まっている」

「できないでしょう。長年ハイエルフに従い、ダークエルフを迫害してきたんですよ。歴史的に考えれば、我々エルフは理性よりも地位や名誉を重んじる。違いますか?」

「違わないから困ってる! 私たちも他の里と連携してなるべく穏便にエルフの国だけでも対処しようと思ってたのに……、全くもう!」

 カミーラさんが髪を振り乱して怒り狂っていた。


「すまない。アリスフェイ王国でのエルフの動乱のことは聞き及んでいるし、ルージニア連合国でエルフたちが奴隷として売られることも知っている。南半球でも国を乗っ取ろうとしているエルフがいると噂が飛び交っている」

 カミーラさんの近くにいたエルフが口を開いた。

「かつては里が違うから、うちの里とは別のエルフだと済んでいた話だが国際的にエルフが注目を集め出すと、そうも言っていられない。ここまで国の行き来が簡単になって初めて『月下霊蘭』の開花だ。それが理解できない老人たちが山ほどいるんだよ」

「移民の受け入れをした方がいいんじゃないですか?」

「その通りだが、既得権益が維持できない老人たちが騒ぐのさ」

 既得権益を持つ老人たちがエルフの国の発展を止めている。


「歴史上でもこういうことはなかったんですか?」

 ウタさんが口を開いた。

「あったはずだ。だが、ハイエルフによる歴史の抹消があった。残っていないんだ」

「そんなこともないんじゃないですか? ハイエルフの手も伸びていない範囲の記録は残ってるんじゃ……」

 俺がそんなことを言うもんだから、全員が俺の方を向いてきた。


「あ、いや、だってウッドエルフの遺跡を発掘しているので……」

「反体制派か。いや、その通りだな。私が精霊の里に頭を下げに行ってくる」

「「カミーラさん!」」

「仕方ないだろ! お前たちはしっかり植物学研究所を押さえろ」

 エルフにとっては頭を下げることがよほど大変なことらしい。


 カミーラさんは大きな鳥の魔物に騎乗して、精霊の里へ向かっていった。


「回復薬の土産でいいのか?」

「たぶんな。頭下げに行くっていうのに、何も持ってかないなんてな」

「カミーラさんは薬のことしか考えてないから」

 残ったエルフたちが回復薬を樽に詰めていて、ゆっくり準備をしていた。

「あ、悪いな。報酬出しておくよ」

「ありがとうございます」


 薬学の里のエルフたちが一斉に動き出して、俺たちに報酬を支払ってくれた。


「悪いんだけどブロウ、植物学研究所を頼めるか?」

「わかりました。ある程度、木の実の製造は潰していいんですよね?」

「ああ、責任者も殺さずに押さえておいてくれると助かる」

「了解です。じゃ、二人とも行こう」

 報酬を貰ったので帰れるかと思ったが、そうは問屋が卸さないらしい。


「「はい」」


 ビョウッ。


 風が吹いて俺とウタさんが飛ばされた。空中で風龍という槍の柄を掴み、一気に国立植物学研究所へ飛ぶ。


 植物学研究所は外の広い範囲で植物を育てているのでわかり難いかと思ったら普通に植えられていた。


「舐められてますね。エルフの国民は」

「はぁ……。どうしてこうなっちゃうかなぁ」

 ブロウさんはすっかり疲れたように溜息を吐いていた。


「何をしている! 何者だ!」


 実を収穫しに来た研究員が注意してきた。


「あなた方こそ何をしている? こんな実を人攫いたちに売り、『月下霊蘭』の開花に合わせて国家転覆でも狙っているんですか?」

「なにぃ!? この実はまだどこにも出回っていないぞ。お前、元風の勇者のブロウだな?」

「そうです。残念ながら、人攫いのアジトからこの実が出てきました。責任者はどなたですか?」


 収穫した実を回収する倉庫から他の研究員たちも出てきた。和気あいあいとして、若いエルフを褒めている。何かいいことでもあったか。


「おーい。元風の勇者がこの実を育てている責任者を探しているそうだ」

「あ、はい! 私です。本日付で、ドデカピタンの責任者は私になりました」

 この実はドデカピタンというらしい。元気になりそうな名前ではある。


「元の責任者は?」

「引退されて今は地元の里に帰っているかと思いますが……? 何かありましたか?」

 責任を押し付けて逃亡したらしい。


「人攫いのアジトでこの実・ドデカピタンが見つかった」

「そんな、まさか……。この研究所から出ていないはずですよ」

「これを見ても?」


 ブロウさんがアジトから持ってきたドデカピタンを取り出してみせた。


「そんな……」

「この実について詳しく教えてもらえますか?」

「ドデカピタンを食べると一種の興奮作用があるというか、夜でも眠くならないはずです。エルフやダークエルフは『月下霊蘭』の開花後、必ず揺り戻しが来ることが歴上分かっているので、開花後に出荷する予定だったんですけど……」

 つまり、発情期の後に賢者タイムにはまるで仕事をしたくなくなるから、その対策としてドデカピタンを開発していたらしい。


「盗まれているか在庫を確認してほしい。『月下霊蘭』の開花に合わせて、この実が出回ると本当に昼夜問わず正気でいられなくなる者も出てくるかもしれない」


 研究員たちは青ざめて、倉庫に戻りドデカピタンの在庫を確認していた。


「元責任者はいつ辞めたんだい?」

 コンテナ箱を確認している研究者にブロウさんが聞いていた。

「4日ほど前に急に親族の病が急変したとかで休み、そのまま辞めますと……。ドデカピタンの共同開発者だったんですけど彼の方が皆に説明するのが上手いから」

「ガラスの崖に付かされたわけね」

 ウタさんがボソッと言った。

「そのエルフの男は、こういう事態になるってわかってたんだよ。だからあなたに責任を押し付けた。女が男社会で急に出世するときは裏があるんじゃないかってちゃんと疑った方がいいよ」

「そんな……」

 現責任者の女性は、探す手が止まっていた。


「すみませーん! 早摘みの5箱が消えてます!」

「冷蔵室のもごっそり盗まれてる!」

「倉庫の鍵は!?」

「閉めてましたけど、冒険者のシーフでも雇われたら関係ありません」


 責任者の女性は、その場に座り込んで天井を見上げて思考が停止したように固まってしまった。


「悪いけど、今あるドデカピタンの実はすべて摘み取って、苗ごと別の場所に隠したほうがいい。衛兵に応援を要請してくれ」

 ブロウさんが研究員たちに指示を出していた。


「わかった。すぐに」

「犯人逮捕は後回しかな」

「元責任者の地元は確認しなくていいんですか?」

「4日もあれば竜の乗合馬車を使って世界中どこにでも行けるよ。一応、確認はしてくるけど……」

「とりあえずひい爺ちゃんたちが鍋を作ってるから食べてからでもいいんじゃない?」

「そうしましょう。腹が減っては背中とくっつくと言いますから」

「戦は出来ぬじゃないの?」

「そうかも」


 近くにいた衛兵が倉庫まで来てくれたので事情を説明し、なぜかブロウさんだけ残ることになった。


「最後までやっておくよ。報酬は後で渡す。鍋、俺の分もちょっとだけでいいから取っておいてくれる?」

「わかりました」


 俺とウタさんは発掘現場へと戻った。


「なんだか本当に、花一つで大騒ぎね」

「エルフたちにとっては大変なことなんですよ」

「花よりも自分たちの出生率と向き合えばいいのに。別のことにズラすからわけがわからなくなる。生活できる環境とか子どもを育てる環境の方がずっと大事だと思わない?」

「そうですけど……。俺たちが育った環境ってちょっと普通の人とは違うんじゃないですかね。あんまり皆世界中を回ったりしないみたいだし……」

「ああ、それはそうかもね。私たちから見ると全然、自由がないように見えるけど幸せなこともあるってこと?」

「いろんな価値観があるって気づかないもんですよ。二年前までお金がこんなに人の生活に影響するもんだと思わなかったし」

「コウジは浮世離れしてるからね」

 まさか俺の周りで最も浮世離れしているウタさんに言われるとは思わなかった。


「なに?」

「いや、なんでもないです」


 発掘現場はなにやらすでに騒がしかった。


「ええ!?」

「ベンジャミン・ホモス・レスコンティ!? 歴史上の人物では!?」

「グレートプレーンズのアリアナ女王って生きてたの!?」


 俺が呼んだ学生たちが、アリアナさんとベン爺さんを見て驚いていた。ダイトキ、ドーゴエ、そして革パンエルフこと留学生のガルポだ。


「私たちのことを知ってんのかい?」

「教科書に載ってるし、レミリア先生の歴史の授業で」

「レミリアは我々の義理の娘だ」

「知ってます!」

「どうやってそれほどの若さを保っているのでござる?」

「嫌なことをやらずに好きなことをやっているからだ。簡単だろ?」

「そうは言っても若い時に苦労してたからね。ついこの間まで片目なかったし……」

 皆、歴史の授業で過去にいた水の精霊については知っているから、アリアナさんの片目をまじまじと見ていた。


「お疲れ様です! すみません、遠くまで呼び出してしまって」

「おお、コウジ! いや、俺は竜の島から乗合馬車で飛んできたから、それほど疲れてはいないのでござる。ほら、マルケスさんの孤島のダンジョンで研修していたから割と近かった」

「こっちはちょうど俺の実家の里で、ゴーレムたちと精霊の演習をしていたけど、大変だったぞ。なぁ?」

「ああ、ドヴァンさんから連絡を貰ったんだけど、風の勇者が出たとか、風の妖精が惑わしてきて、行ったり来たりしてたんだ」

「ああ、さっきまでブロウさんって元風の勇者と一緒に人攫いのアジトを潰してたんですよ」

「人攫いのアジトを!? それで俺たちを呼んだのか?」

「いや、違います」

「ウッドエルフの遺跡を発掘している途中なのよ」

 ウタさんが説明した。


「ウッドエルフ!?」

「ガルポ、精霊使いなら馴染みがあるんじゃないかと思ってね」

「ああ、俺の先祖だ。ウッドエルフの遺跡を発掘してるのか?」

「そうよ。あなたが森の精霊を呼ぶ里のエルフ?」

「精霊使いの里の者だ。留学生としてアリスフェイでコウジやドーゴエと知り合った」

「私が、発掘をしているってことは精霊の里では知られてないの?」

「少なくともうちの里では知られていない。精霊使いの里は精霊の里の分家みたいなものだから情報が届くまでに時間がかかるんだ」

「コウジ、やることの優先順位が変わりそうなんだけど!」

 ウタさんが困ったような顔をしていた。

「同時にやるしかないんじゃないですか? だから俺は友達を呼んだんです」

「コウジ、この人が発掘の現場監督でござるか?」

「そうです。レミリア先生のお孫さんのウタさん。考古学者として有名で、総合学院の先輩でもあります。二年で辞めちゃったけど」

「コウジよ……。もう少し、いろいろと心の準備をさせてはもらえないか?」

「これ、ただのバイトじゃないだろ!?」

「俺は、これから先祖の遺跡を発掘するのか?」

「うん。まぁ、ちょっといろいろあるから。とりあえず飯を食べて落ち着きましょう。ベン爺さん、つみれ足りますか?」

「いや、ちょっと足りないかもしれん」

「あ、肉なら、そこの小川で今、フィールドボアの血抜きをしてます」

「そこで獲った鶏肉ならあるのでござる」

「なに? あなたたち意外と身体が動くのね」

 ウタさんが先輩たちに声をかけていた。

「「「コウジほど動けません」」」

 三人一斉に否定していた。俺の仲間だと思われたくないのか。


「十分よ」


 皆、テントの中で車座になり鍋をつつく。日が落ちたとはいえ夏のテントの中は、蒸し風呂状態になりそうだが、天井に描かれた魔法陣でどんどん熱気が外に逃げていく。

 ただ、美味しい鍋を食べているうちに、汗もダラダラ。外にたらいを用意して、冷たい水を張る。皆でたらいに足を付けたまま、ガルポが持ってきた夏の果物を食べた。


「美味いな!」

「最高じゃないか……」

「夏を堪能しすぎではないか」


 その間に、俺はウタさんに三人の特技を伝えておく。


「あ、そうなの?」

「ドーゴエさん、ゴーレムたちは全員連れて来たんですか?」

「ああ。今、精霊使いの里で、魔力を補充してもらっているところだ。いつでも動けるぞ」

「だから、人手自体はあるんですよ」

「なるほどね。ねぇ、ガルポくん、精霊使いの里って夏の時期に何かするの?」

「精霊送りという祭りをする。日頃の感謝も込めて、精霊を呼び、送り返すという意味で太鼓を叩いたり、花火を夜空に打ち上げたりすることもある。だけど今年はどうかな。『月下霊蘭』の開花もあるから」

「他にお祭りは?」

「ないと思うけど、他の里のことはわからない」

「ダイトキくん、この石碑の文章を読めたりしない?」

「む? 古代エルフ語は……読めないのでござる。解読なら得意なのだが、これはちょっと無理そうでござる。すまない」

「いや、全然大丈夫。どうせ、石碑がズレちゃってるからわからないのよね」

「ズレている?」

「ああ、ウッドエルフの遺跡は元々ダンジョンでね。誰かが壊したから、空間がぐちゃぐちゃになってるの。床も天井も脆いから迂闊に入らないでね」

「え? 遺跡というのはすでに掘られているのでござるか?」

「棘の付いた蔓の下に。『月下霊蘭』の騒動が終わるまでは開けない予定だったんですが……」

「やっぱり先に解読した方がいいのかな? 過去のウッドエルフたちが『月下霊蘭』の開花時期に何をしていたのかがわかればいいんだけどね」

「あ、それは……」

 ガルポが難しい顔をしていた。


「なにかあるの? 考古学的なことだから今の常識で考えると突拍子もないことでもいいんだけど」

「精霊系の里では『月下霊蘭』の咲いている最中に道ですれ違った男女は交わらないといけないっていう風習があったってエルフの国では言われているんだけど……」

「本当に!? 夜這いと同じくらい衝撃なんだけど」

「いや、そんなことはないって祖母さんに教えられた。ちゃんと互いの両家が話し合って、誰も通らない時間帯に道ですれ違わせて、『月下霊蘭』の開花中は男が女を守るようにっていう約束をしていたみたいで」

「でも、それは好き同士のカップルではないってこと?」

「そう。たぶん、わかりやすく男が女を守るところを見せたいんだと思う」

「なるほどね。だから家父長制になっていくのか……。んん、どうしよう。手伝いの人がいると何でもできそうな気がするね」

 ウタさんは腕を組んで考え始めた。


「コウジ、そろそろ俺たちが何をするのか教えてくれ」

「どんな計画をしているのでござる?」

 ドーゴエとダイトキが気になるのは当然だ。


「芸能系と学術系の里で、恩を売って若いエルフを囲うっていうか、『月下霊蘭』の開花中はうちに来いっていう里が現れたらしいんだ。それで、遺跡発掘中のウタさんも発掘許可を盾に呼ばれたらしい」

「なにぃ!? バカなのか!?」

「おい、ガルポ! 本当にそんなことがありうるのか?」

「いや、噂だけだと思っていたが、そうか……。当たり前だが、ウタさん。そんなところに行く必要はないぞ。そもそもウッドエルフの遺跡なら、その者たちに権利などない!」

「でしょうね。でも、有名にさせてやるとか言うなら、こっちもそういう行為を有名にさせてあげようと思ってね」

「何をするつもりですか?」

「ラジオ局を作って、全世界に向けて放送しちゃおうって……」


 俺とウタさんは立ち上がって、腰に手を当てにっこり笑った。アリアナさんとベン爺さんは「痛快」と手を叩いて笑っている。ついでに遺跡発掘の援助も呼びかければいいと思っている。


「コウジ! お前はいくつラジオ局を作るつもりだ!?」

「欲しいっていう場所が多いから」

「完全にパレードの影響でござるな。竜の島までラジオが普及していた」

「精霊使いの里でもそうだ。風の妖精の声が聞こえなくなるからと年寄りたちは禁止にしていたけど、『月下霊蘭』の開花中に落ち着く音楽を流すと聞いたから、行商人に頼んだんだ。ただ、もうどこに行ってもないそうだ」

「じゃあ、やっぱりラジオ局を先に作る?」

「でも、ガルポの話を聞く限り、ウッドエルフたちの対処法も気になりますよ。鎮静剤でどうにかって言われても、結局耐性は付いちゃうじゃないですか。家系全員で応援するというのもエルフっぽいですし。それに闇を暴くだけじゃ注目を集められないんじゃないかと……」

「ん~」


 腕を組んで悩んでいる間に、ブロウさんが戻ってきた。


「やっぱりドデカピタンの責任者は南半球の方へ逃げていた」

 逃げた責任者の里まで行って確認してきたらしい。

「じゃあ、親父たちに任せましょう。あ、元風の勇者のブロウさんです。ブロウさん、うちの学校の先輩たちと留学生」

 それぞれ自己紹介していた。


「コウジ、俺たちはあと何回歴史上の人物と会うのでござる?」

「エルフの国の世界樹を焼いた人だろ?」

「ダークエルフとの繋ぎ役としても活躍して、南半球の大農園を開発したとも言われているんじゃないか。俺、ファンなんだが……」

「鍋まだある?」

「鍋ありますよ。肉が多めなんで、いくらでも食べてください」

「あ、本当ありがとう」


 ブロウさんが風龍という槍をテントの端に立てかけた時、ふわっと風が吹いた。

 その風で石碑の写しが空中に舞い上がり、バラバラに落ちた。


「風の精霊さん、これは結構大事な……。ああ! そうすればいいのか」

 ウタさんが何かに気づいて、石碑の写しを鋏でバラバラにしていた。

 バラバラになった写しをパズルのように組み合わせていく。

「ダイトキくん、これなら解読できる?」

「む……。これなら、パターンを読んでいけるのでござるよ……。コウジ、メモあるかい?」

「どうぞ」


 ダイトキさんは、メモ書きをしながら解読していった。


「フェスティバル……。『月下霊蘭』の開花中に祭りを開催していたということでござるか?」

「夏祭り? ん? あ! 道に誰も来ない時間帯を作るのね!」

「夏フェス、やりますか?」

 俺とウタさんの頭の中で、カチカチと歯車が噛み合う音が聞こえてきた。

「どういうこと? 夏フェスの裏で闇を暴く? 全部放送しちゃうってことね?」

「そうです」

「なんでござる? 夏祭りをラジオで放送するのか?」

「だったら、司会が必要になるぞ」

「呼ぶのか!? あのバカみたいに美人なお祭り女を!?」

「コウジ、まだ誰か呼ぶの?」

 ウタさんが俺を見た。


「んん、ぴったりのルームメイトがいるんです」

「仕方ない。竜の乗合馬車の代金は出すわ」

「ありがとうございまーす!」


 俺はすぐにメルモさんに連絡を取った。


『どうしたぁ?』

「メルモさん、ウインクいます?」

『いるよ。代わるね』

「ウインク、仕事終わった?」

『うん。まぁ、一応南半球でコムロカンパニーを手伝ってるけど……』

「あ、本当? エルフの国でラジオの夏フェスをやるんだけど、司会をやらないか?」

『それ、夏のフェスティバルってこと? それ、本気で私に言ってるの?』

「うん。竜の乗合馬車の代金は出るって」

『そう。ラジオのお祭りでしょう?』

「忙しいか?」

『いや、私がラジオの夏フェスに出なくて、誰が出るのよ。メルモさーん、休暇くださーい!』


 ウインク、夏フェスの参戦決定。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ