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駆除人  作者: 花黒子
『遥か彼方の声を聞きながら……』

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『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』11話「貴族の嘘くらい本当に」


 食事会の参加者に靴が揃ったことを報せた。しかも、大奥様はアイルさんの成長に合わせて靴を買っていたため、参加者たちの足のサイズもピタリと合う。


「グイル、絵を描ける?」

 ウインクが聞いていた。それを聞いて俺は商品のチラシを時々ラジオショップに貼り出していたことを思い出した。なんでもやるなぁと思っていたが、絵はグイルの特技だ。


「チラシくらいので良ければ描けるよ。何を描くんだ?」

「そりゃ、女性参加者たちのよ。絵を廊下に貼って、彼女たち一人一人の名前を覚えてもらうの」

「名前なんて覚えさせて、どうする?」

「ファンを付けるんだわ。ウインク、そんなこと考えてたの?」

 ミストも知らなかったらしい。


「皆、よく考えて。いや、私が一番考えてるのか。伝え忘れていたわ。これは、食事会という名の総合お見合いパーティーでしょ。家族対家族よ。味方は多い方がいいに決まっている。もうエリザベスさんと家庭科の先生には話を通してあるの」

「え!?」


 アグニスタ家で靴を借りたことで、王都でも食事会のことが広まっている。注目度は高く、食事会という名の祭りになっていた。


「家庭科の授業を取っている学生たちも食事会の調理には参加してくれることになったわ」

 店を出す学生たちにとっては、大人数の調理をするいい機会だ。乗らない理由がない。


「だとしたら、貴族連合の方が……」

「その通り。コウジ、貴族たちの嘘話を本当にしてあげてくれない?」

 ウインクにゲンズブールさんの影が重なる。山師の才能があるのか。

「わかった。たぶん、貴族連合が相談している頃だと思う。特待十生が駆り出されるな」


 コンコンガチャ。


 俺たちの部屋にゲンローが入ってきた。


「ウインク、銀食器ってなんだよ?」

「あら鍛冶屋連合なら作れるでしょ? 貴族の学生たちなら全員見たことあるんですよ。銀のスプーンは出産祝いに子の幸せを願って贈られるのですから。それを見たこともない学生たちがいるんです。是非食事会で見せてほしいんですよ」

「でも、俺たちだって罠づくりだってあるし、普通に鍛冶の授業だってあるんだぞ」

「鍛冶場の先生には話を通してあります。快く受けてくれました。鍛冶師にだって流行りや廃りはあるわけですから、仕事が無くなった時のために何でも作って経験しておいた方がいいと言ってくださいました」

「わかったよ。食事会は成功させてくれよ」

「任せてください。ラジオ局主催ですよ」

「そうだったな」


 ゲンローが部屋から出て、ドアが閉まる。


「ウインク、どれだけ盛り上げるつもり?」

「去年は文化祭がなかったんでね」

 ウインクはニヤリと笑っていた。

「総力戦か……」

 俺もグイルも天井を見上げた。なぜか知らないがラジオ局の4人は運命共同体のようなところがある。

 ウインクが言っているなら全力を尽くす。それはミストもグイルも変わらない。いろんな大人たちも巻きこんでしまっている。


「絵具あったかなぁ……」

「ウインク、スケジュール表作るわよ。声をかけていない先生には声をかけておくこと。食事会の日にはほとんどの学生がいなくなるんだから。それから参加者の出身地調べて、今から図書館行くよ」

 グイルが絵を描き、ミストがウインクのサポートに回った。参加者の地元の文化をなるべく取り入れるつもりらしい。


「よし、じゃあ動くか」

 俺は道場へ向かった。


 すでに貴族連合と特待十生の数人が集まっていた。


「元はと言えば、弱いのが悪いんじゃねぇか。勝手にホラ話を吐くのはいいけど、なんで俺たちが手伝わなきゃならないんだよ」

 ドーゴエはあからさまに不満そうだ。

「そう言ってやるな。これも特待十生だから依頼してきたのだろう?」

 ゴズはやる気でいる。

「ダンジョンで身の程を知った! このままでは、我らは食事会で話せる話がないのだ。代われるものなら代わってやりたいが……」

 貴族連合の長はこちらを見た。


「ああ、たぶん無理ですよ。選抜しちゃいましたから」

「ラジオの企画だろ?」

 アグリッパが聞いてきた。

「そうです」

「じゃあ、やるしかないんだよなぁ。この前、お祖母さんにめちゃくちゃ怒られたんだから。断ったら、俺は縁切られる」

「ダンジョンはいつでも使えるようにしておくよ」

「もう少し真剣に準備をして、自分たちのレベルに合う魔物を狩り続けるしかないのではないか。武器ばかり豪華でも使いこなせていないのなら、革の鎧の方がよほど役に立つのでござるよ」

 シェムとダイトキはダンジョンに誘っていた。

 ドーゴエ以外は皆協力することになった。


「俺は傭兵だからな。金を積めばやるよ。だいたいラックスはどこに行ったんだ?」

「教会で光の精霊に対しての信仰を深めている。その間に俺も鍛えておかないといけない。早いところダンジョンに行こう」

 ゴズは貴族連合と共にダンジョンへと向かった。ドーゴエたちもついて行く。


「マフシュに回復薬を貰って来てくれ。貴族の坊ちゃんたちには少しケガさせて実力をわからせるから」

「あんまり無茶しないでくださいよ」

「だったら、貴族の坊ちゃんにあんまり大きいことを言うなって言ってやれよ。今年はこういう役割多いなぁ」

 アグリッパは溜息を吐きながら、ダンジョンへ向かっていった。先日はシェムとダイトキを連れて、外の環境を見せて回っていた。思うように冒険者の仕事もできていないのだろう。

 それでも皆、協力的だ。同じ学生として、倒した魔物の嘘くらいは本当にしてやる。特待十生の優しさを見た気がした。


 俺は植物園へ向かった。マフシュは静かに丸薬を作っていた。


「なに? どうかした? 一応授業中よ」

 ベルベ校長が学生たちに薬草について教えている。


「貴族連合がケガするから回復薬を頂けませんか?」

「食事会の?」

「そうです」

 相変わらずマフシュは物分かりがいい。

「そこの棚に入っているの持っていっていいわ。その代わり、気つけ薬の棒づくり手伝って」

 『月下霊蘭』の開花に合わせてエルフの鼻に突っ込むための棒だ。

「わかりました」

「そんなにエルフの鼻の穴は大きくないからね。先は丸めてあげて、突き刺さるから」

「はい」

 マフシュは一つ作って見せてくれた。俺もナイフを借りて、気つけ薬を作り始める。世界樹のバイトでもドワーフたちと作っていたので、それほど難しくはない。


「速いね」

「後でやすりをかけます」

「それ集中力高めるお茶だから、勝手に飲んで」

「ありがとうございます」


 机にあったお茶を頂く。蜂蜜を入れて飲むらしい。


「コウジ、体育祭どうするの?」

 唐突にマフシュが聞いてきた。


「どうもしないですよ。今年はゲンズブールさんがいないので、賭けのオッズをちゃんと計算しないといけないんで、たぶんそれで忙しくなるかと思います」

「優勝予想は?」

「ラックスさんじゃないですかね。賭けるんですか?」

「どこに店を出すかにもよる」

「開店資金が貯まらないんですか?」

「王都に店を出すならね。まぁ、アリスポートじゃなくてもいいんだけど、都会じゃないと厳しいんじゃないかと思って……」

 声は小さいがマフシュは意外と喋る。作業中だからか。


「ちゃんと考えてるんですね」

「そろそろ考えないといけない時期だから。専門性を高めて、冒険者ギルドの研究者になるか都会の薬屋になるか」

「研究者なんて道もあるんですね?」

「冒険者のパフォーマンスに関する研究ね。レベルやスキルみたいな数値はあるのに、結局ギルドは使いこなせていないみたいだから、冒険者の実績と記録を照合して、もうちょっと分析したいんだってさ……。この前ラジオショップで冒険者ギルドの職長という人が来て名刺渡してきた」

「勧誘ですか?」

「うん、卒業後の進路を聞かれたわ」

「よかったじゃないですか」

「よかったんだけど、別に人の分析は興味がないっていうか、薬の効果の方が興味があるのよねぇ」

「研究がしたいなら、北極大陸もあるし、薬を作り続けていたいならエルフの国に戻ってもいいし、南半球だってあるんじゃないですか?」

「エルフの国に戻るっていう選択肢はないわ。南半球ってなに? なんかいいところあるの?」

「世界樹があります。ほら、この前ドワーフの女性たちが来たじゃないですか」

「ああ、異常に動けるドワーフのおばさんたちね」

「俺も竜の学校に通いながら、あのドワーフの皆さんとアルバイトをしてたんですけど、たぶんそこら辺の冒険者じゃ太刀打ちできないですし、世界樹だから植物の種類も量も一か所にギュッと集まっている感じですね」

「そうなんだ……。エルフだからって差別されたりしない?」

「ああ、そんなことを言えるような場所ではないです」

「実力主義ってこと?」

「信頼関係がないと仕事として成り立たない感じですかね。死にそうなところを助けないといけないし、死にかけたら絶対に助けが来ると思って行動しないといけないような場所です。種族とかは関係なく。それだけ仲いいんですけどね。仕事が終わったら皆でお風呂に入るし、魔物の情報から植物の情報までいくらでも入ってきますし」

「そんなに私、強くないんだけど……」

「慣れると思いますよ。まぁ、本人の気持ち次第かもしれませんが……」

「コウジはいつからいたの?」

「9歳から6年間ですね。その前はいろんなところに預けられたりしていたんで、それもよかったのかもしれないですけど。あのマルケスさんってダンジョン学の先生いるじゃないですか。奥さんがエルフだし、鍛えてくれるかもしれないですよ」

「うわぁ! そう言われると迷うなぁ!」


 突然、マフシュが大きな声を出したので、学生とベルベ校長がこちらを見た。


「あ、ごめん。気にしないで、深淵なる問いかけに心を乱しただけだから」

 マフシュは適当なことを言って、作業に戻っていた。


「とにかく動けってことでしょ?」

「そうですね」

「就職活動は面倒くさいわ」

「はい。これあるだけ削っておきました」

「ありがと」


 棚の回復薬は大量に作り置きされていた。俺は半分ほど袋に入れて、ダンジョンへと向かった。


「これだけあれば十分だろう」

「植物園の回復薬がなくなったのではないか?」

 外にいたアグリッパとダイトキに回復薬を預け、ケガ人が出てくるのを待つ。


「今日はやけにダンジョンに入る学生が多いな」


 ダンジョンを寝床にしているリュージが食堂の方から歩いてきた。


「リュージ、授業は?」

「ダンジョン学は自習だろ。家庭科の先生と料理長のエリザベスさんからコウジに依頼だ」

「え? 俺に何をさせるんだよ」


 リュージから依頼書のメモ書きを渡された。『ワイバーンの肉』と書かれている。


「何頭くらい狩ればいいんだ?」

「さあ? 10頭くらい狩ればいいのではないか。どうせダンジョンに入れて保管するだろうし」

「じゃあ、12、3頭かな。リュージが運ぶのか?」

「いや、俺は竜の姿に戻るのは禁止になっているんだ」

「街道を運ぶ量じゃないだろ? 空飛ぶ箒を作れってことか……」


 ちょうど、ゴズとドーゴエに連れていかれた貴族連合が出てきた。


「せめて武器と防具を身の丈に合ったものにしような」

「実力がバラバラ過ぎて、戦い難いだろ? 雷魔法の二人は一回外れてコウジに教えてもらえ」


 貴族連合の面々は疲れ切っていて、装備もボロボロだ。エリックとヒライだけ、特にケガもなく先輩たちを背負って出てきた。


「ヒライは結局こっちか」

 リュージがヒライを呼んでいた。

「エリック坊ちゃんもです」

「よろしく頼む! 指示をされないとどこに魔法を放っていいのかさっぱりわからんのだ!」

 エリックは明るく自分のダメなところを言っていた。

「清々しいほど、自分のできないところが見えてるんだね」

「ゴズ先輩と一緒にダンジョンに入るまで自分の何が悪いのかさっぱりわからなかった。戸惑っている場合ではないのに戸惑い続けていたんだが、ようやく道が見えた」

「そうか! とりあえず、ちょっとワイバーンを狩りに行くから荷物をまとめておいてくれ」

「え!?」

「そんな……!? 夕飯を買いに行くみたいに……」

 エリックとヒライは驚いていた。

「夕飯を狩りに行くんだ。リュージ、竜の乗合馬車でマリナポートまで二人を連れて行ってくれ」

「俺はこの姿で同胞の乗合馬車に乗るのか?」

「嫌なら飛んでいけ。一応、火山地帯に行くことになるから、山登りの準備と動きやすい服装の準備。あとは解体用のナイフもあるといいんだけど、持ってない?」

「持ってない。火山地帯ってどういう場所なんだ。生まれてから一度も行ったことがないのだ」

「そうか。リュージ、教えてやってくれ」

「マグマがあって近づくと暑い。ワイバーンの肉は美味しい。絶対10頭狩るぞぉ!」

「おおっ!」

「コムロ先輩、大丈夫ですかね?」

「ヒライ……、頑張れ!」


 領主の息子と騎士の息子か。いい関係なんだろうな。

リュージに任せ、俺は攻撃魔法学のソフィー先生のもとへ向かった。


「あら? どうしたの?」

「空飛ぶ箒の魔法陣と強化魔法の魔法陣を教えてもらえませんか」

「なにに使うの?」

「食事会でワイバーンの肉を出すそうなんですけど、街道にワイバーンの肉が詰まった馬車を並べたくないんです」

「なるほど、荷運び用ね。箒で行くつもり?」

「はい」

「ちょっと待って強化魔法はこれで……、空飛ぶ箒は……」


 ソフィー先生は強化魔法の魔法陣をさらさらと描き、空飛ぶ魔法陣は本で確認しながら教えてくれた。


「コウジくんがワイバーンを捕まえるのかしら?」

「ええ、アリスフェイだとマリナポート近くの火山地帯に巣があるはずなので」

「じゃあ、ちょっと待って」


 ソフィー先生は羊皮紙を鋏で切って、同じ魔法陣をいくつも描いていた。


「この札を背中に貼ると暑さが和らぐわ。食事会楽しみにしているわ。気をつけて行ってらっしゃい」

「ありがとうございます」


 ウインクが教師陣にも連絡したからか協力的だ。

 魔法陣が描かれた紙を持って、魔道具工房へと向かう。


「空飛ぶ箒を作るの?」

 アーリム先生は魔法陣が描かれた紙を見てすぐに理解していた。


「そうです。食事会でワイバーンの肉を使うらしくて」

「ああ、そうか。食事会には協力してやれと言われているから、私が作るわ」


 アーリム先生は竹の箒ではなく、樫のような固い素材で箒を作っていた。

「あと、これね。保存の布はアラクネの糸を使った布ね。あと重さの軽減のためのバルーン……」

 アーリム先生が倉庫からいろいろ出して使い方を教えてくれた。


「なんか武器はいる?」

「大丈夫です。鍛冶場で貰っていきます」


 荷物を背負って、鍛冶場へと飛ぶ。さっそく空飛ぶ箒を使ってみたが、今まで使ったどの箒よりも使いやすい。軍はこの箒を採用するべきだ。


「こんにちは~、肉切り包丁ありませんか?」

「あるけど、何に使うんだ?」

「コウジ、こんな細かい作業を俺たちにさせるなよ」

「なんで銀のスプーンのデザインってこんなにあるわけ?」

「だいたい、デザートとスープのスプーンがこんなに違うなんて知らなかったんだけど」

 ゲンローの後ろから鍛冶師たちの文句が聞こえてくる。


「食事会に出すワイバーンを狩りに行くんですよ」

「じゃあ、鱗ごと切れる大きいナイフがいいな。砥石も持っていけ」

「ありがとうございます」

「ほら、コウジがワイバーンを狩りに行くって言ったら皆黙っちゃったよ」

「だって、そんな依頼あるか? 食事会したいからワイバーンを狩れって」

「スプーンを作ってるだけ、俺たちはマシだ」

「コウジ、お前はもうちょっと報酬を貰った方がいいと思うぞ」

「そうですかね。まぁ、適当に皆さんの分も狩ってくるんで楽しみにしててください」

「わかった。もう文句は言わない」

「この学校いたらワイバーンの肉を食えるのかよ」


 珍しい魔物の肉はあまり食べない学生もいるのか。リュックの中に肉切りナイフを入れて、そのまま空飛ぶ箒に乗って飛び上がった。


「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい! 今日のラジオどうするんだ!?」

「今日は、食事会に出る女性参加者たちの紹介で頼みまーす! ファンを付けてあげてください!」

「りょーかーい!」


 ゲンローの声を聞いて俺は空飛ぶ箒に魔力を込めた。

 アリスフェイ王国内ならそれほど時間はかからない。半日も飛んでいれば竜でもたどり着けるだろう。


 マリナポート近くの火山地帯に着陸。ワイバーンを解体するための準備をする。血抜きのための大きな木を探して、周囲に穴を開ける。蔓を撚ってロープにして、リュージたちが来るのを待つ。

 ワイバーンは火山の火口へ続く洞窟に飛んでいた。先に狩っていてもいいのだが、少しはヒライやエリックにも倒させないと食事会で話すことがなくなってしまう。確か、エリックは男性参加者としてエントリーしていたはずだ。


 焚火をして位置を報せながら昼寝をしていたら、普通に山賊に遭遇。


「お前、何をやってるんだ?」

「ワイバーンを狩るところ、邪魔をすると本当に殴って蹴るけど」

「俺たちはそれを生業にしているんだが……」

「そうか。もうちょっと強くならないと生計を立てられないと思うぞ」


 ガウッ!


 山賊たちが振り返ると、リュージが竜の姿で口を開けていた。


「つまみにして食っちまうぞ。失せろ」

「「「ひぇえええ!」」」


 山賊たちが山を駆け下りていった。

 それを見届けて、リュージは背中のヒライとエリックを地面に下ろしていた。


「竜の乗合馬車は使わなかったのか?」

「リュージが乗合馬車の竜と喧嘩した」

「言うなよ。ヒライ」

「なんで喧嘩なんか」

「俺が黒竜さんの塾で働いていたのに、人間の学校に通っていることを情けないと言って来てな」

「リュージは学校の素晴らしさを語ってコウジもいると言ったのだが、向こうの竜はコウジに見つかった竜の村にいたらしくて……」

「なんだ、あいつら何の反省もしていないのか?」

「言ってわからん奴らだ。軽く小突いておいた」

「いや、あれは小突くというレベルじゃない。竜の巨体を浮かせて地面にたたきつけていた……」

「半分ほど竜が地面に埋まっていたがあれは普通なのか?」

 ヒライとエリックは驚いたらしい。

「ああ、普通だ。竜は再生能力も高いから、今頃黒竜さんに文句を言っている頃だ」

「どうしようもないから竜の姿になって連れて来た。後で黒竜さんに怒られる」

「俺が言っておくから気にするな」


 実際、通信袋で黒竜さんに説明すると『わかった。リュージには謝っておいてくれ。人間の学校生活を楽しむように。邪魔したな』と返ってきた。人間だろうが竜だろうが、嘘で他者をどうにかしようとする者はいる。プライドが高い者たちほど嘘で固めようとするが、事実を知っている者からすると愚かにしか見えない。


「じゃ、嘘で塗り固める前に、事実を積み上げていこう。ワイバーンは向こうだ。危険だと思ったらすぐに逃げて遠くから見ていてくれ」

「了解した」


 リュージは人化の魔法を使い、人型に戻った。前に出てワイバーンを威嚇してしまうと逃げてしまうので、リュージは遠くで回復薬を片手に待機。二人も準備ができたようなのでワイバーンの洞窟へ向かった。


「基本的に爬虫類系の魔物や竜の亜種なんかは喉元に逆さになった鱗があるんだ。そこが弱点だから狙うんだけど……」

「飛んでいる魔物にそんな精密な攻撃はできないぞ」

「魔法は当てられる?」

「やってみます!」

「下に落とせばいいのか?」

「そう」


 ヒライとエリックは雷魔法でワイバーンを攻撃。魔法はあっさり躱されたが、ワイバーンがこちらに気づいた。


「炎や毒を吐いてくる可能性もあるから、魔法で防御壁を張っておくといいかもしれない」

 ワイバーンが急旋回をしてこちらに襲い掛かってきた。


「こう触れられる距離まで来てくれたら、こっちのものさ」

 魔力の剣を逆鱗から脳天に向けて突き刺す。

 一頭死ぬと、周りで飛んでいたワイバーンも騒ぎ始めた。


「じゃあ、どんどん魔法でワイバーンを打ち落としていってくれ」

「了解した!」

「コムロ先輩、危ない!」


 俺の頭上をワイバーンがかすめていった。躱しながら、羽を切断したのでワイバーンがリュージの方まで飛んでいく。


「飛び疲れたろ!? ちょっとつまんでおいてくれ!」

「助かる!」

 リュージはワイバーンにトドメを刺して解体していた。


「今の狙ったんですか!?」

「これくらいできなきゃ特待十生にはなれないよ」


 その後、二人は黙々とワイバーンを打ち落とすことに集中して、計14頭を狩った。


「ほら、最後、二人で倒してみな。ここが逆鱗だ」


 逆鱗の場所を教えて、二人は剣を刺していた。

 森の方に運び解体の仕方を教えて、解体まできっちりやる。羽がないと意外と食べるところは少ない。


「皮や骨は捨てていくのか」

「今回は肉だけがメインだからな。欲しければ記念に持って帰るか?」

 ヒライとエリックは大きく頷いた、少しだけ皮を鞄にしまっていた。

 二人にとっては初めてのワイバーン討伐と解体だ。彼らが三頭解体している間に残りのワイバーンを解体。一頭はリュージの腹の中に収まった。

 保存のための布で肉を包み、バルーンを膨らませる。それをひもで縛って空飛ぶ箒に括り付ければ帰る準備は完了。

 肉切りナイフや血の付いた服を泉で洗い、乾かしながら、肉を少しだけ切り取って、焚火で焼いた。したたり落ちる肉汁の匂いが鼻を突き抜ける。


「いい匂いだな」

「ちょっと食べよう」

 塩を振って少し食べたが、やはりワイバーンの肉は美味い。


「新鮮だとこれほど美味いのか」

「こんな肉初めて食べた」

「強くなればいつでも食べられるようになるから、強くなろうな」

「「はい!」」

 

 帰りは竜の姿のリュージをバルーンで吊るし、俺が空飛ぶ箒で運んでいく。ヒライもエリックも竜の背中には慣れたようだ。獲れたての肉を抱えたまま眠っていた。


 総合学院に着いたら、深夜を過ぎていた。ヒライとエリックを自室へ送り、ダンジョンの雪原地帯に肉を保管。少しだけ肉を持って、ほのかに明りが残っている厨房へ向かった。


 コンコン。


 厨房の裏口をノックすると料理長のエリザベスさんが出てきた。


「起きてたんですか?」

「なかなかソースが決まらなくてね」

「これワイバーンの肉です。ダンジョンの雪原地帯に10頭分以上ありますから、何度でも試してください」

「ありがとう。こんなに早く持ってくるとは思わなかったよ」

「では、俺たちはこれで。おやすみなさい」

「ああ、コウジたちもゆっくりやすんでね」


 ダンジョン前でリュージと分かれ、自室へと戻った。

 自室では3人ともまだ起きていた。


「お疲れ。まだやってるのか?」

「お疲れ。スケジュールを詰めてるところ。お茶あるよ」

「洗濯したタオルは、窓の外に干してある」

「げっ! もうこんな時間!?」

「ワイバーン獲れた?」

「ああ、14頭な。エリザベスさんも起きてくれてて、相当美味しい料理が出来そうだぞ」


 俺はタオルを取って風呂に行き、自室に戻って話し合いに参加。ようやく寝たのは夜明け前だった。


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