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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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226話


『久しぶりですね、ナオキさん。今どこにいらっしゃるんですか?』

 バルザックに通信袋で連絡を取ると、夜中なのにしっかり返ってきた。相変わらず、セーラからの反応はない。あいつはどこにいるんだ?

「今、傭兵の国にいるんだけどさ」

『傭兵の国ですか。もしかして世界を一周するんじゃありませんか?』

「うん、今の仕事が片付いたら、アリスフェイに行きたいな。ところで、カミーラに最近会った?」

『カミーラさんは今里帰り中で、いないんですよね』

「里帰りというと、エルフの里か?」

 あれ? 確かエルフの里には世界樹があるんじゃなかったかしら。南半球のことを考えると、絶対に行かねばならない場所ではある。

『おそらく、そうです。もう3ヶ月ほどになりますかね。エルフの薬屋は休業中ですよ。ゴースト系の魔物に回復薬を使いたいのですが、なかなかカミーラさんほどの薬学スキルを持っているものがいなくて墓守としては結構大変です』

「そうか。今度行った時に作ってやるよ」

『本当ですか? ありがとうございます!』

「じゃ、もしカミーラが帰ってくるようなことがあれば、連絡してくれ。クレームを入れなきゃならないから」

『わかりました。ナオキ様、結婚は?』

 とりあえず、通信袋は切った。

 続いてサッサさんに食糧事情について聞く。ちょうどラウタロさんと一緒にいたそうで、すぐに繋がった。

『今年のチョクロは豊作でね。ほら、ナオキくんたちが使っていた水草の肥料が良かったみたい』

「じゃあ、魔族領に売ってもまだありますかね?」

『まぁ、南部もほぼ自給自足ができるようになったし、火の国以外で売るところがあれば……』

 俺は、サッサさんに簡単に傭兵の国の事情を説明した。

「自業自得といえば、自業自得なんですけど……」

『まぁ、難しいね。でも、その話が本当だとしたら、エディバラには可及的速やかに伝えなくてはいけないし、魔族領とも連携して火の国を包囲する必要があるなぁ。ラウタロさんはどう思う?』

 通信袋の向こうで、サッサさんとラウタロの会議が始まった。

『どうもこうもないよ。傭兵の国が火の国との同盟を破棄するならよし、破棄しないならこちらからなにもする必要はねぇさ。コムロ社長、その辺はどうなってんだ?』

「同盟を破棄しなきゃ、国が潰れますからね。そりゃ、破棄するでしょうけど、この情報を知っているのが我々だけですから、公にするタイミングを図れるんですよ」

 タイミング次第で状況も変わるんじゃないか。破棄すれば、エディバラ侵攻も止まるかもしれない。ただ、早く破棄した場合はグレートプレーンズと傭兵の国がつながっていることを悟られ、間にある魔族領か海上の通商航路で、攻撃されるという可能性もある。

『どうせ破棄するなら早いほうがいいんじゃねぇか? ん~まぁ、どちらにせよ火の勇者を引きずり降ろさないとどうにもならないと思うがなぁ……』

 ラウタロさんの言うとおり、俺たちが火の勇者を駆除すれば、いろんなことがまるっと治まる気がする。

「その辺についても今俺たちの方で、魔素溜まりについて調べて、火の精霊の弱みを見つけたいところなんですけどね……」

『ん? 火の精霊?』

「あ、いえ、ちょっと時間をもらえませんか? って話です」

『そうか。ん~傭兵の国はこの冬が厳しいんだもんなぁ……』

 サッサさんがなにかを言いかけた。

「なにか策があるなら教えてください」

『いや、商人ギルドだと春の初め、正月に選挙があるはずだろ? そこで火の勇者をギルド長から引きずり下ろせれば、どうにかなるかなって思ったんだけど、冬が終わっちゃってるもんね』

「いや、それ結構重要かもしれません。選挙か……」

 それまでに証拠を見つけることができれば、いや、火の国の大衆の気持ちを変えることができれば、火の勇者を駆除できるかもしれない。

「いいことを聞きました。ちょっと俺の方で考えてみます。エディバラにはサッサさんの方から、早急に火の国が戦争を仕掛けようとしていることをお伝え下さい」

『わかった。いつでも連絡を待っている。それでは』

 通信袋を切った。

 続いて、ボウ。

「よう、元気か?」

『ん? ナオキか。フハ、元気でやってるよ。難しいけどね』

「悪い寝てたか?」

『フハ、いいよ。それより、なんだ?』

「実はな、今、傭兵の国ってところにいるんだけど……」

 ボウにも簡単に傭兵の国がおかれている状況を説明した。

「それで、グレートプレーンズから魔族領を通って海まで行って、そのまま船で海を渡ってチョクロを届けてほしいんだ」

『なるほど、フハ』

「もちろん、報酬として、まぁ金はないけど、技術は出せる。あと、なんか宝石」

『んー技術の人材ってことか。ただ海の危険を考えると、セイレーンたちがなんていうかなぁ』

「それについては任せてくれよ。腐っても俺たちは駆除業者だ。わかってるだろ?」

『フハ、それもそうだな。なるほど、ちょっとセイレーンたちに聞いてみる』

「それから、ちょっと先の話になるけど、アフィーネたちに協力してもらうことがあるかもしれない」

『アフィーネはナオキが好きだから、たぶん大丈夫だと思う』

 あら? 意外なところでモテてるのか。

 その後、リタやボリさんたちのことを話し、通信袋を切った。リタのお腹はどんどん大きくなっているらしい。元気な子どもを生んでほしいものだ。


「……ということになった」

 深夜。牢の窓から見える空には月が高く上っている。

 鍋はすっかり食べてしまった。

 痺れた傭兵の王は相変わらず、手足がしびれたまま動けず、こちらを見ている。恨めしそうに空の鍋を見ていたので、俺の皿に残っていたのを食べさせた。

 俺は、通信袋での会話を社員たちも含め、スナイダーさんと傭兵の国の王にも聞かせていた。初めにバルザックと話したのは、スナイダーさんたちに通信袋が遠くの者と話せる魔道具であることを理解させるため。カミーラの毒については、あの話だけではわからないだろう。簡単に地図を使って、魔族領や俺たちとグレートプレーンズとの関係なども話しておいた。驚いていたようだが、真実なので納得してもらうしかない。

「で、傭兵の国の王様、俺たちの話に乗るかい? まぁ、乗らなきゃ国が潰れるけど、今の話を全部バラして火の国に保護してもらうって手もあるか?」

「この状況で、俺に選択権があるとは思えないし、疑問は多いが、乗るしかないのだろうな。火の国に保護してもらうくらいなら、今、舌を噛み切って死ぬ」

 よほど恨んでいるらしい。火の国が渡した『速射の杖』をきっかけに起こったことで、国が危機を迎えているのだから当然か。

「奴らは利用価値があるかどうかでしか判断しない。特に火の勇者は、大量の商人に会うのだから、そうしなければならないのはわかる。情報を売ったとしても俺が生きていられるのはせいぜい数日だろうな。散々情報を搾り取られた挙句殺されるくらいなら、死を選ぶ」

「勇者の護衛になれば、生きながらえるのでは?」

「そこまでおめでたい頭はしておらん。故郷を潰された男を側においておけるか?」

 確かに、傭兵の王に選択権なんてないな。

「じゃ、同盟破棄のタイミングを考えよう」

「エディバラに侵攻する直前だろうな。国から傭兵を出さないことで破棄したことを知らせるべきだ。それまでに、グレートプレーンズからの通商航路を確保。火の国を包囲する連合を作っておきたい」

 対応力がある王だ。頭の回転も速い。図体だけ大きいアホというわけではないようだ。

「王の言うとおりだ。それでいこう」

「計画を知るのは極力少ない方がいいだろう。どこから漏れるかわからん。お前らを本当に信用していいのか? わが友の息子、ドヴァンよ、一緒に行動をしていたのだろう?」

「俺を捕虜にしたのはこの人たちです。敵の立場でも近くにいても、なにをやるのかはわからないですが、実力だけは本物です。実質、この町の被災者を救ったのもこの人たちです。あ……」

 それ言っちゃダメなやつじゃなかった。

「今さら、誰かを罰しようなど思わん。安心しろ」

 傭兵の王はドヴァンを見て言った。

「なら、俺はどうなる?」

 スナイダーさんが王を見た。

「計画では、死んだように見せて、アサシンの指導員にするつもりだったんだがな。死んだ国からの一撃を火の勇者に食らわせようかと。だが、そうも言ってられなくなった。自分でどうにかしろ。処刑台でなにか叫べば、恩赦を出すくらいのことはしてやる」

 王の言葉にスナイダーさんは「相変わらず、無茶を言いやがる」と言っていたが、嬉しそうな顔をしている。本当に友なのだろうな。

「では他言無用に」

 王が俺たちを見て言った。いつの間にか主導権を握っているのは王の才能か。

「じゃ、これ持っておいてください。この袋と同じような魔道具です」

 俺は通信シールを王とスナイダーさんに渡した。魔法陣を描き足して2つともチャンネルは同じにした。

「拠点はどうするんだ? さすがに牢というわけにはいかんだろ」

 スナイダーさんが聞いてきた。

「俺たちは今『魔体術』の道場に厄介になってますけど」

「あそこなら、町からちょっと離れているし、いいかもな」

「ウーシュー師範にはあとで通達しておこう」

 王も納得のようだ。痺れていた手足も動き始めている。

「それで、お前らはどうやって外に出る? 出入り口には俺の部下たちが集まって……」

 スパン!

王が言い終える前に、アイルがスナイダーさんの牢の壁を切って人が1人通れるほどの穴を開けた。

「穴はこれで塞いどいて。これいいところの紋章だから、あとで返してね」

 そう言ってアイルはスナイダーさんにブラックス家のエンブレムを渡していた。

「じゃ、何かあれば連絡してください。明日には海に出てますから」

 そう言い残して、俺たちは牢屋から出た。


 道場に帰ると、ドヴァンが心配していた弟子たちに迎えられた。

 俺たちはその脇を通り、部屋でとっとと就寝。


 翌朝、ネイサンの声で起こされた。

『コムロくん! あれ? これでいいのかな? スノウフィールドに着いたんだけど』

 順調に飛行船で、砂漠を出発してスノウフィールドに辿り着いたようだ。

「んあ、おはようございます。着いたんですね。こちらは今傭兵の国です」

『おおっ! これ本当に通じてるんだなぁ!』

 ネイサンは渡した通信シールに感動しているようだ。

『いやぁ、よかったよ。なんかスノウフィールドでもたくさん助けてもらったみたいで、採石場でも採掘業者を助けたって?』

「ああ、埋まってたんで助けたまでです。生活用品とか暖房器具とか足りてないかもしれないんですけど……」

『持ってきたから、たぶん大丈夫だ。祭り会場の商人たちも協力的でね。いろいろ助かったよ。そっちは落ち着いたの?』

 落ち着いたっていうか方針が決まったというか。

「フェンリルが脱走したりして、なかなか落ち着かないんですけど、様子見てスノウフィールドに行きますよ。今回の報酬ももらわないといけないし」

『ハハ、それはスパイクマンに言っとくよ』

「あと、近々、採石場の調査してもいいですか? 家畜に健康被害が出てるって言ってたじゃないですか? もしかしたら害獣駆除の参考になるかもしれないんで」

『仕事熱心だね。わかった、いつ来てもいいように段取りはしておくよ。いやぁ、しかし、これ便利だね。遠くの人間とこれだけやり取りができれば手紙なんていらないし、ハトの魔物もいらないな』

 ヤバい。通信シールに目をつけられた。そりゃそうか、商人ギルドのギルド長なら俺よりも有効的に使いそうだもんな。

「戦争には使ってほしくないんですけどね……」

『いや、商人ギルドにも古い魔道具でちょっとしたデータを送れるものがあるけど、遥かにいいなぁ。この魔法陣はコムロくんのオリジナル?』

「そう、ですね」

 やっぱりネイサンには渡さないほうがよかったか。

『ちょっとうちの魔道具屋が興味持っちゃってるね。少し見せてもいいかな? もしよければ、権利をまるごと買いたいくらいだよ』

「見せてもいいですけど、平和利用をお願いしますよ」

『ああ、いずれ戦争もなくなるから大丈夫だよ。うわっ、結構魔力が減るね』

「じゃ、また明日、明後日にもスノウフィールドに行きますから、よろしくお願いします」

『りょうか……』

 途中で切れてしまった。それにしても、「いずれ戦争もなくなる」って思想は結構ヤバいな。圧倒的な武力でも持ったか、それとも意外に理想家なのか。


「それにしても寒いなぁ……」

 息が白い。道場の戸を開けて中庭を見ると、雪が積もっていた。

 まだ、ちらほらと雪が降っている。

 そんななか、ウーシュー師範の弟子たちが鍛錬のためか身体を動かしていた。

「おはようございます。なんの鍛錬ですか?」

 縁側にいたウーシュー師範に聞いた。

「王の使いが来てるからな、ちょっとしたパフォーマンスじゃ」

 ウーシュー師範は小声で教えてくれた。さすがだ。王も早く動いてくれたようだ。

「ここをお主らの拠点にすると聞いたが?」

「マズいですか? 金は払いますよ」

「そうか! なら、大歓迎じゃ」

 ウーシュー師範はわかりやすくていい。

「あ、それから、近々魔素溜まりの調査に行くんですが、ちょっと協力してくれませんか? ん~金貨100枚くらいでどうです」

「やる! やるに決まっておろう! 門下の者を全員連れて行くわい!」

 しまった。言い過ぎたか。

「そんなに払えるかわかりませんが、あとで、うちの会計と話してください」

 いずれ、やらなければならないことだ。ベルサなら納得する価格を決めてくれるだろう。

「今日はどうするんじゃ?」

「飯食って、ちょっと海の方まで行ってきます。せっかく地峡の国に来たんでね」

「ははは、傭兵の国を観光するか。変わってるな」

 本当は本職の仕事です。

「移動するなら急いだほうがいいぞ。本降りになりそうじゃ」

 ウーシュー師範は雪が降る空を見上げた。



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