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駆除人  作者: 花黒子
~火の国の商人と立ち合う駆除業者~

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210/506

210話


 ボウとリタの結婚式の日程は立冬に決まった。もっとも式に来てほしいレミさんの予定を聞いて、ボウとリタが決めたのだ。あんまり寒くなるとベン爺さんたちも辛いだろうという花嫁の配慮もある。帰りは冬になっているが、このあたりに雪が降ることはめったにないらしく問題ないと判断したらしい。全て、コムロカンパニーが自重することなく総出で、空飛ぶ箒に乗り手紙を届けに行った。

一番のネックであった戦争については、ちゃんと停戦していた。火の国側も冬に侵攻するのは得策じゃないと思ったらしい。サッサさんも「一安心だ」と言っていたが、ラウタロさんは「あいつら春になったら、また来るぞ」と警戒して、『水壁の杖』を使った訓練をしている。結婚式にはサッサさんのほか、ラウタロさんとチオーネ、アプも訓練を休み来てくれることに。

 皆、ボウのことも知っているので、反対の声はなかった。

 むしろ、リタが妊娠したことを伝えると、元女王のアリアナさんは周囲が驚くほどの歓喜の声をあげていた。

「ついでに船も回収してもいいですか?」

 手紙を届けにグレートプレーンズ南部の避難所から帰ろうとした時、セスが言った。黒竜さんにもらった船を、そこからさらに南にあるジャングルに着けていたはずだ。

 一緒に船を取りに行くと、蔦が絡んでいるが、まったく朽ちていない船がそこにはあった。各種魔法陣が消えずに残っていたお陰だ。

 施錠の魔法陣を消し、セスが自分の魔力の壁で持ち上げる。魔力の壁も船の形なので、まさに空飛ぶ船。飛行船だ。ただ、見た目では動力が何なのかわからない。まさか誰も乗っている青年の魔力だけで動かしているとは思わないだろう。

 その日、大平原を船が飛んだ。火の国の飛行船よりも格段に移動速度は速い。

「やっぱり、船があるとセスが船長だって思い出すな」

「もともとそれを買われて雇われたんじゃないですか」

 今ではすっかりコムロカンパニーの総務兼常識人として活躍している。


 船を持って帰ると、城は大騒ぎとなった。近くの森に停泊させたのだが、魔族全員が見に来ていた。いずれ海を行く姿を見せられればいいのだが。


 その翌日、北の村のカウボーイ中年たちが言っていたように、荷馬車がやってきて、村の引っ越しが始まった。俺たちは外からそれを見ていただけ。

村に誰もいなくなったところで、修繕作業に入る。食料なども置いていってくれるとありがたいんだけど。

「早く行かねぇかなぁ」

 などと言いながら、周辺をぶらぶらしていると、ボウが「フハ、もう一度地底湖に行きたい」と言い始めた。魔王の遺体がなくなって、地底湖の水の魔素が薄くなったのか確かめたいらしい。

「横穴が崩れそうだから、ちゃんと魔力の壁と固い帽子は忘れずにな」

 俺のヘルメットを貸してあげた。

「1人で行ってもしょうがないから、ナオキも来てくれ」

「あ、そうなの」

 俺のヘルメットはなかったが、アイルから「そのレベルなら崩落した岩の方が割れるから心配するな」と言われ、送り出されてしまった。もうレベルなんて確認してない。個人で冒険者ギルドに行くこともこの先ないかもしれないな。うちの会社で最もレベルが低いセスでも100を超えている。もし、クーベニアに戻るようなことがあれば、アイリーンに言って、偽装した冒険者カードを作ってもらおう。

 穴底にある横穴を下り、地底湖で吸魔草と魔石灯の明かりを確認すると数日前とあまり変わっていなかった。

「時間が経てば変わるんじゃないの? 魔王の遺体を取り出したのもついこの前だろ?」

「なんか嫌な予感がするんだよ……フハ」

「探知スキルで確認する限り、特に変わったところはないけどな。潜ってみるか?」

 魔力の壁で水を押し退けて行けば、地底湖が割れていくはずだ。

 一応、不安なので、セスとメルモを応援に呼んだ。なにかあったら助けてくれるように。

 2人が来たところで、俺の球体形の魔力の壁に俺とボウが入って地底湖の中を歩き始めた。

ぬかるんでいたり、苔が生えていて滑りそうになったりしたが、なにもない。

「フハ、それが、おかしくないか?」

「なにもないことがか?」

「そう。少し前まで沼だったのに、少しくらい魚の魔物がいてもいいんじゃないか? フハ」

 そう言われればそうかもしれないが、いないんだからしょうがない。

「フハ、なんだこれ?」

「割れ目だな」

 地面に、かなり大きな岩の割れ目が20メートルほど続いていた。幅は大きなところで2メートル近くあり、探知スキルを最大限広げても底は見えない。

 魔力の壁の向こう側では裂け目からあぶくが噴き出ている。さらに魔石灯がどう見ても普段よりも明るい。

「フハ、なんだと思う?」

「魔素溜まりの大元」

「フハ、そうだよな」

 やっぱり魔王の遺体にあった魔力だけで、採掘場ができるほどの大量の魔石が生まれるとは思えない。レベル55の勇者に負けるくらいだから、俺たちのほうが魔力量は高い気がしていたのだ。

 岸に上がると、アイルとベルサも暇だったようで様子を見に来ていた。村の引っ越しがなかなか捗っていないという。

 俺たちは全員に割れ目のことを説明すると、ベルサが、

「悪魔の死体か、古代の魔物の大量死かもしれないね」

 と、予想していた。

 確かに、魔物が大量に死んで骨と魔石が残り地下に大量に埋まっているとしたら、魔素が噴き上がってくるのも理解できる。まるで化石燃料だ。

「魔物が生息していないのは魔素が多すぎるからかも知れないよ。世界樹のあの燃える泉にだって魔物はいなかったし」

「そうだったなぁ。飲んだら燃えちゃうし、魔物が生息するのは無理だろう。でもこの水は井戸から汲み上げて、村の人たちが飲んでいた水だぞ」

「濃度の問題かもよ。ちょっとナオキ、適当な魔法陣を地面に描いて」

 ベルサは世界樹の燃える泉の水を採取していたらしく、アイルのアイテム袋から取り出していた。俺は簡単な光魔法の魔法陣を2つ、地面に描いて、地底湖の水を汲む。この水でも砂漠の吸魔草は一気に成長させることができるのだが。

「やるよ~」

 ベルサが同時に燃える泉の水と地底湖の水をそれぞれ魔法陣に垂らすと、一目瞭然。燃える泉の水のほうが明るい。夜間工事の照明と豆電球くらいの差がある。というか、そもそも燃える泉の水は瓶の中で少し光っているように見えるし、なんかヤバい。

一応、割れ目の中の水も魔力の壁で採取して試してみると、割れ目の中のほうが魔素が濃いようだ。

「決まりだね。魔素溜まりは地下にある」

 ベルサが結論づけた。

「火の国の奴らはそれをわかっててここまで掘ったのかな?」

「どうだろうね。魔石を採掘しているうちにここまで到達したのかもよ。どちらにせよ魔族が糸や布を漬ける時は注意しておいたほうがいい。今はまだ沼の水がこれだけ残っているから魔素濃度も薄いけど、地下から噴き出し続けていることを考えると、いつか誰かの口に入って事故が起きるかもしれない」

 ベルサは地下空間の中に広がる地底湖を見ながら言った。

「水質検査とマスクが必要だな」

「フハ、攻撃を防ぐマントを作るのも意外に大変なんだな」

 ボウがつぶやいた。

「さて、そろそろ引っ越しも終わったかな」


 穴から出て村に行ってみると、引っ越しは終わったようだが、意外に人が残ってしまっていた。

 アフィーネが言っていた料理番の娘さんくらいしか残っていないと思っていたのだが、魔石の採石場を見つけるという夢を諦めていない冒険者たちと、なぜか引っ越しのための荷馬車に乗ってやってきた青年までいた。

「いや、本当に彼はなんで来たんだ?」

 よくわからないが、とりあえず、空き家の害虫・害獣駆除を始めなくては。

「あ! お前ら、なんでここに!」

 新しく村にやってきた青年が俺たちを見て叫んだ。知り合いだったか。

「誰だか覚えてないけど、ちょっと掃除したり改築したりしないといけないからさ、邪魔しないようにね」

「え!? あ、はい」

 真面目に注意すると、年相応に返事をした。獣人らしく、しきりに耳を隠そうとしている。

「ああ! 捕虜です。捕虜」

 セスがようやく青年の正体に気がついた。グレートプレーンズの砦で捕まえた捕虜の青年だったようだ。一時的にでも戦争が終わって捕虜も解放されたのか。

「こんなところでなにしてんの? せっかく捕虜から解放されたんだから、実家に帰ったりしなくていいのか?」

「俺は傭兵の国の出身だ、です。なんの活躍もせず、捕虜になってた奴が帰る場所なんてない、です」

 傭兵も大変だな。

「今日から、この村は魔族の村になるから、よろしくね」

 森から、続々と魔族たちが村の中に入ってきている。獣人の青年は戸惑いつつ、俺たちの邪魔にならないよう、広場の端に移動して自分のリュックを抱えて座っていた。

 広場にはグリフォン族やヘビ族の他にゴブリンの少年やサイクロプスなどが手伝いに来ている。もちろん、村をよく知るアフィーネも来てくれた。

現場を仕切るのはコムロカンパニーで、広場にて駆除、清掃、改築と順を追って魔族たちに作業を説明。

 アフィーネが、料理番の娘さんの家に行き、城の現在の状況などをちゃんと説明してくれたようで、娘さんには「自由に村を使ってください」と許可をもらった。

 冒険者たちは宿屋に集まって、今後について話し合っているようだが、なにか結論でも出るのだろうか。とりあえず、村から出るという結論を出してほしい。

 そんな冒険者モラトリアムを横目に俺たちは作業を進めた。1軒1軒回って、燻煙式の魔物除けの罠を仕掛け、魔力の壁で家全体を覆う。しばらく待ってから、魔力の壁を解除して家の中で弱くなっている魔物を全て駆除。特に食料になるような魔物はいない。いつものマスマスカルやバグローチなので、袋に入れて、後で燃やしてしまおう。手伝いに来た魔族たちは、魔物除けの煙が嫌いらしく、結局、森で待機することになった。

 小一時間ほどで、1軒を除いて駆除作業は終了。残ったのは宿屋で、村中から逃げ出したマスマスカルやバグローチが集まっているはずだ。

「「「ぎゃー!!」」」

 という叫び声とともに、マスマスカルに噛みつかれ、服にバグローチが付いた冒険者たちが出てきたので、魔物除けの薬を噴射。全身を深緑色に染めてやると、3人の冒険者たちは気絶して倒れた。

宿屋が最後なので、吸魔剤の燻煙式の罠で締める。

「駆除作業終了~! 続いて、清掃!」

 全ての建物に俺がクリーナップをかけた後、全員マスクをして、雑巾がけ。グリフォン族は自分たちの母屋になるであろう馬小屋のカビた藁を片付けていた。

崩れて中に雑草や蔦が生えている家は草むしりから始める。崩れた箇所はボウが洞窟スライムの粘液と南半球で作ったレンガの余りを使って、ものの数分で直していた。


「とりあえず、雨風はしのげるようになったな」

「フハ、あとは住んでみて増築したり、それぞれの種族にあうようにリフォームして増えていけばいいな……」

 冒険者たちが倒れている間に、魔族たちが各家に入居。夕方、冒険者たちが起きたときにはすっかり魔族の村と化していた。

 3人の冒険者と獣人の青年は広場で立ち尽くしている。

「フハ、4人とも、どうするか決めろ。この村で魔族として生きるのか、それとも冒険者か傭兵として旅立つのか」

 ボウが4人に迫った。4人はどうするのか決め兼ねている。

「なんで、お前たちは俺たちを殺さなかったんだ?」

 冒険者の1人が聞いてきた。

「殺したところで、得がないからだ。死体の処理だって面倒だろ? だったら、そのへんの森のなかで野垂れ死んでくれていたほうがよっぽどいい。フハ」

「俺は……!」

 突然、冒険者の1人が宿の外を箒で掃いていたアフィーネのもとに駆け出し、

「俺と結婚してくれ!」

 と、プロポーズ。

「嫌よ。あんた、誰!?」

 あっさり撃沈していた。

 他の2人の冒険者も、本当は魔石の採掘場などどうでもよく惚れた娼婦がいたらしい。城に連れて行って、奥の部屋で子どもたちの面倒を見ている元娼婦のおネエさんたちを呼び出し、後悔がないように告白させた。

 2人とも躊躇なく断られていたのを見て、俺もなんだか胸が痛い。

「改めて、残るか、去るか、どうする? フハ」

 ボウが3人の冒険者に聞いた。

「本当に惚れてるならさ、彼女たちのためになるようなことをやってみて、もう一回チャレンジしてみてもいいんじゃないか? 魔族たちは食料を扱う行商人を募集しているよ」

 俺はもう1つの選択肢を3人に言ってみた。1人でも乗ってくれたらありがたい。

「考えてみるよ」

 そう言い残し、3人の冒険者たちは肩を落として村から去った。彼らには強く生きてほしい。

「フハ、お前はどうする?」

 ボウが獣人の青年に聞いた。

「俺は、俺は、強くなりたい!」

 青年は真剣な目で俺たちを見てきた。

「アイル~! 友だち来たよ~!」

 俺がアイルを呼び、獣人の青年をアイルに丸投げした。


「結婚式まで時間がない。グレートプレーンズからここまでの道を作らないと」

「最悪、来賓に関してはグリフォンたちが送迎してくれるかもしれない。フハ」

「いや、今後のためにも交易路としても作っておいたほうがいい。あ! まずは花嫁の気持ちが最優先だけどな」

「フハ、また怒られるところだった」

 この前、こっぴどく叱られたのだ。

「リタの父親は呼ぶのか?」

「フハ、まだ、わからない。リタは小さい頃しか会ってないからね。それにベン爺さんたちとの仲がね……」

 親子といえどなかなか人間関係はうまくいかないものらしい。

 村に冷たい風が吹いた。

「日が落ちると、寒くなってきたな」

 冬が近い。



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