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駆除人  作者: 花黒子
~南半球を往く駆除業者~

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180/506

180話


 耳鳴りもしなくなり、体調も良くなったので、移り住んだドワーフたちの様子を見に行くことに。ドワーフのおばさんも、引っ越し先でどうなっているのか、心配をしている。

 砂漠を越え、海を渡り、北西の大陸へと向かう。

ほとんどセスの魔力の壁に乗っていたので、疲れることはなかった。

「南半球に来て、レベルが上がってるんですよ。輸送だけなら任せてください」

 セスの魔力の壁は船の形をしているので乗りやすく、魔力切れを起こすようなこともなく安定している。


 火山近くのコウモリの洞窟の中では、ドワーフたちが小屋を作っていた。

土作りの壁に、数少ない板と枯れた草でどうにか屋根を組み上げているような状況で、指示を出しているドワーフの族長は困り顔。そもそも洞窟なのだから小屋など作らず、洞窟に穴を掘ればいいのに。

「こんちはー」

「ああ、お前たち~!」

 ドワーフの族長は手を振って挨拶してきた。

「小屋なんか作ってどうかしましたか?」

「いやぁ、魔物の糞が落ちてくるんだわぁ」

 ドワーフたちは洞窟の中を縦横無尽に飛ぶコウモリを指さした。確かにコウモリの白い糞が洞窟中に落ちている。

「越してきた当初はそんなに気にならなかったんだけど、仮拠点とはいえ住んでいると、やっぱりなぁ」

 ドワーフの族長は頭をペチッと叩いた。ドワーフのおばちゃんたちも「いちいち洗濯するのが面倒でねぇ。どうにか方法はないかね?」と聞いてきた。

「たぶん魔力を嫌がるはずなんですが、魔石灯に魔力を込めると逃げていきませんか?」

「魔石灯を点けると、鳴き声を上げて飛び回るから、危ないんじゃないかと思ったんだけど……ほら、コウモリの魔物は吸血魔法を使うって言うじゃないか」

 ドワーフのおばちゃんたちが飛び回るコウモリに警戒しながら言った。

「大丈夫ですよ。こいつら魔力がないんです」

 俺は天井付近を飛び回っていたコウモリを軽く跳んで捕まえ、羽を広げながら説明する。

「ほら、どこにも魔石がないでしょ? だから魔法も使えないんです。邪神から逃れるために魔力を捨てたんだと思うんですよね」

「魔力を捨てた!? そんな……」

 ドワーフのおばちゃんたちにとってはかなり衝撃的だったようで、まじまじとコウモリを見ていた。

「なら、魔石灯を点けておけばいいんだね」

「まぁ、そうです」

 俺がちょっと魔力操作を使うと洞窟の奥からけたたましい鳴き声が聞こえてくる。洞窟の奥に魔石灯を持っていくと、天井がコウモリで埋め尽くされていた。ドワーフたちと共存するにはコウモリの個体数が多いのかもしれない。

「確かに多いのかもしれませんね。少し間引きますか」

「社長、いいんですか? 減らしすぎて絶滅したりしませんか?」

「大丈夫だよ。ドワーフの皆さんが来たことによって、コウモリたちにとっても餌が増えるわけだし」

「餌って!?」

 セスが大声を上げたせいで、ドワーフのおばちゃんたちも怯えてしまった。

「いや、食べ残しとかのことだ。コウモリがドワーフの皆さんを捕食することは無理だろ。それに今の俺たちにとってもコウモリたちが必要だ」

「食べる気ですか?」

セスは食から離れられないらしい。

「実験に使うんだよ。生きたまま持って帰るぞ」

 俺は飛んでいるコウモリの周りに魔力の壁を展開。魔力の籠を作った。20匹ほど捕まえ中に入れると、しばらく暴れまわって、ぐったりとして籠の中に墜落した。

「とりあえず、これで様子見よう。他になにか、問題はありませんか?」

「畑のほうがねぇ……」

 その後、俺とセスはドワーフのおばちゃんたちの要望に応えていった。以前俺たちが畑を作っていた場所から水草を持ってきて使用方法と繁殖方法を説明し、魔石灯には魔力を補充した。

火山付近の町の跡では、ドワーフのおじさんたちがレンガ作りの真っ最中。釜に関して俺は役に立たないので、おじさんたちに指示された場所を掘り起こしたり、魔物の骨で作った柱を立てる作業を手伝った。

 昼頃には終わってしまったので、帰ることに。

「世界樹の探索は進んでいるので、もうすぐ食べられる植物や魔物も持ってこれると思います。それまでしばらくお待ち下さい」

「はいよ~! こちらも頑張って町作りしておく~!」

 ドワーフたちに見送られ、俺たちは南東へと飛んだ。


 魔力の籠の中にいるコウモリたちがぐったりしているので、セスに急がせた。

 普段逆さまにぶら下がっているのに、球体の魔力の籠に入れられ、疲れているのかもしれない。

ドワーフの洞窟に着くと、すぐにドワーフの族長が使っていた部屋に放してやった。

「このうち何匹が生き残れるかな?」

 俺は弱々しく天井にぶら下がっているコウモリたちを見上げながらつぶやいた。

「20匹くらいじゃ生き残れる個体はいないだろうね。実験魔物の運命だよ。次は50匹は捕まえてきてくれ」

 後ろにいたベルサが非情な宣告をした。そのベルサからは、魔物の血の臭いがする。

「で、世界樹の上層部にいた魔物はどうだった?」

 朝から魔物の解剖をしていたベルサたちの成果を聞く。

「ほとんど北半球と変わらないと思う。クモの魔物の牙には毒があるし、カメムシの魔物には臭腺があった。ネズミの魔物は固い物ばかり胃袋に入っていたくらいで、毒はなさそうだよ。実験に使えるかもしれないね。サソリの魔物の尻尾に毒はないと思ってたんだけど、微量取れたから、あとでコウモリで実験してみよう」

 ベルサが矢継ぎ早に報告し、早くもコウモリを一匹連れて行ってしまった。

「植物の方はどう?」

 広場で大きな葉っぱを観察しているリタに聞いた。

「北半球の植物と似ているものも多いですが、葉が固い植物が多いですね。もちろん、見たことない花も」

 リタが手にしたのはヒガンバナに似ているが、棘のような雄しべがたくさんある。確かに北半球では見たことがない。他にも黄色いふわふわの花や、外は地味な茶色なのに中身が鮮やかなピンクという実、とてつもなく甘い香りがする緑色のラグビーボールくらいある実などを見せてくれた。

「どれにも毒はないのか?」

「わかりません。軍手を突き抜けて棘が刺さったものもあります。刺された小指は、ほら」

 リタの小指は赤くなっていたが膨らんではいなかった。

「メルモちゃんに診察してもらいましたが、特に異常はなかったですよ」

 一応、俺も診察したが異常はなかった。

「危険だから注意しろよ」

「ええ、だから刺されてからはボウさんの魔力の手で仕分けしてました」

「あれ? ボウとアイルは?」

 広場には助手だったはずボウの姿もなければ、アイルの姿も見当たらなかった。メルモはベルサの解剖を見たからか、ご機嫌で料理をしている。

「2人は地下水脈ですよ」

 リタに言われ、地下水脈の方に行ってみれば、壁に寄りかかって座り込んでいるボウとアイルの姿があった。

「大丈夫か?」

 近づいていって2人に聞いた。

「フハッ、おかえり。オレ疲れたよ」

「ああ、ナオキ。ベルサとリタは頭おかしいぞ。私とボウが全く疲れないと思ってるんだ。要求も細かいし」

 アイルが文句を垂れる。

 うちの会社の魔物学者と植物学者は助手たちに無理をさせるようだ。

「ドワーフたちは?」

「コウモリの糞が大変そうだったけど、なんとかやってた。コウモリを20匹ほど実験のために連れてきたから、後で実験だね」


「ご飯の準備できたよ~!」

というドワーフのおばさんの声が、洞窟の外から聞こえてきた。

「今日は外で食べるのか」

「洞窟の中は魔物臭いからな」

「フハ~、ナオキ、風呂作らない?」

 俺はアイルとボウの手を取って立ち上がらせながら「わかった。後で作ろう」と答えた。


 昼飯は平らな岩をテーブルにして、洞窟の上で食べた。テーブルはアイルが切ったものらしい。

ちなみに俺だけ献立が違い、クモの魔物を油で揚げたものだった。ベルサは「すでにコウモリに毒味させて大丈夫だった」と言っていた。

「まぁ、加熱してるし大丈夫だと思うよ!」

 ドワーフのおばさんは俺を応援してくれた。

 ガブッ、カリッ、ジュワー。

 グロテスクな見た目と違って、食感も味も悪くないのがやるせない。むしろ、かなり美味い。

「残念ながら……相当美味いね」

「よし、次は巣を見つけ次第、クモの魔物狩りをしよう」

 ベルサがやる気になっている。

 俺はクモの魔物のフライを切り分け、うちの社員、全員に食べさせた。

「まさか、クモの魔物がこんなに美味しいとは……」

「フハ、鳥の魔物っぽい気がする」

評価は上々。うちの社員たちが、誰も見た目の抵抗がないことにドワーフのおばさんは「変わってるね。あんたたち」と引いていた。

「『食えるものはなんでも食う』というのが社訓ですから」

「知らないっすよ、そんな社訓。いつ決めたんですか?」

 セスがクモの魔物の足をつまみながら聞いてきた。

「今」

その後、ドワーフのおばさんにも試食してもらい、クモの魔物は食用にすることが決まった。



「さて、情報共有しておこう。ベルサとリタはわかったことを報告してくれ」

 ベルサとリタが、先程俺に報告したことを全員に共有し、世界樹の葉をテーブルの真ん中に置いて、話し合う。

リタは「曖昧な記憶で申し訳ないのですが」と前置きして話し始めた。

「私も木を見たわけではないんですが、昔、火の国の行商人が食べ物を包んでいた葉に似ているんですよね。確か、プラナスという植物だと教えてもらったんですが、どなたか知りませんか?」

「プラナス! そうだ! これ、プラナスだ! 間違いない。もちろん、こんなに大きくはないけど、私の父親が育てていたのもプラナスって名前だったと思う!」

 急にベルサが思い出したように、興奮して言った。

「世界樹はプラナスなのか。で、どんな植物なの?」

「木全体に花を咲かせるんだ。小さくて淡いピンクの花で、雨が降ったらすぐ散ってしまうんだけど、父親は大事にしていたな」

 葉は食べ物を包み、小さくて淡いピンク!?

「それって、春に咲いてなかった?」

「ナオキも知ってるのか!?」

「どうなんだ?」

 俺は身を乗り出して、ベルサに聞いた。

「ちょっと待て、思い出すから。……花が散った後、縁がギザギザした葉が生えてきて、暑くなっていったから……そうだ! 春だ。プラナスは春に咲いていたよ! でも、よく知っているね!?」

「サクラだ。俺が前にいた世界ではサクラと呼んでいた。俺が住んでいた国ではとても馴染み深い花で、春になるとサクラの木の下で酒を飲むんだ。そうか……世界樹はサクラか」

 世界樹全体に桜の花が咲いたら、さぞや壮観な景色だろう。

「あれ? でも、プラナスって自家受粉しないんじゃなかった? あまり実がならなかったような気がするんだけど……」

 ベルサが顎に手を当てて言った。

「俺もそれ聞いたことがあるな。もし世界樹が俺の知るサクラなら、一本だけあってもちゃんとした実はなりにくいはずだ」

「だったら、世界樹の実ってないんですか?」

「ドワーフの方たちはありもしない実を探していたってわけですか?」

 俺の言葉に、メルモとセスが悲しい顔をして聞いた。

「ああ、そもそも花が咲いていないなら実はならない……」

 そう言って俺は、お茶をすすっているドワーフのおばさんの顔を見た。

「その通りだ。花も咲いてないのに実はならないよね。バカだったのさ。死んでいった奴らは、皆バカだったんだよ」

 ドワーフのおばさんは笑顔で鼻をすすった。そのまま自分のコップを持って「皿洗ってくるよ」と洞窟の中に入っていった。

「社長!」

「そう言うしか……ないだろ。邪神が育てた木なんだから、はじめから世界樹の実の伝説だって嘘かもしれない。あったって扱いに困るだけだ。でも、世界樹がサクラ、いやプラナスだとして、今の季節っていつなんだ?」

「フハ、ナオキはなんでそんなことを聞くんだ? 関係あるのか?」

「プラナスなら、たぶん冬の間に花のつぼみをつけるはずなんだ。でも世界樹はまだ青々とした葉をつけている」

「ってことは夏だろ?」

 アイルが「何を当たり前のことを」と言った。

「いえ、収穫祭が終わって冬が来るはずなので……南半球に来て4ヶ月、5ヶ月くらいは経ってますよね? ってことは冬は終わって春なんじゃないですか?」

 リタが考えながら言った。

「ここは南半球だよ。季節が逆だ。北半球が春なら、南半球は秋。葉を落とす季節だ。なのに、世界樹の葉は未だ青々と茂っている」

「別に、それの何が問題なんだ?」

 アイルは肩をすくめて、俺を見た。

「俺たちの南半球での仕事はスライムの駆除と、世界樹の花粉に魔素を含ませ飛ばすこと。いや、方法はどうあれ、要は魔素の拡散だ」

「困ったことになったな」

 ベルサは目をぎゅっと閉じ、頭を抱えた。

 その後、食器を洗っているドワーフのおばさんに季節を確認すると、やはり秋と答えが返ってきた。

 


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