第334話 なんだ、おっさんか
「では最後の一人、オリオン氏の最終試験を始めたいと思います。試験官は残る一人、バザラ氏にご担当いただきます!」
バザラと呼ばれた最後の仮面マントが訓練場に降りてくると、すぐに仮面とマントを脱ぎ捨てた。
その正体は30代半ばくらいのおっさんだ。
『なんだ、おっさんか。つまらないな』
『試験官に何を求めているのですか……』
俺が残念がっていると、バザラという名のそのおっさんも何やら呆れたような顔で、
「正直言ってこの仮面とマント、要らないと思うのだが」
「どう考えても必要な演出ですよ。どんな試験官なのか、試験開始まで分からない方がわくわくするでしょう」
ランディアが反論する。
「結果、私みたいな何の特徴もないおっさんが出てきたら、盛り下がるだけだろう……」
おっさんにしては正論だな。
もちろん俺も同感で、中身が胸の大きな美女以外、何のサプライズにもならない。
しかし、あのおっさん、なんとなくどこかで見たことあるような気がするんだが……。
うーん、思い出せない。
『まぁ別に思い出さなくてもいいが。おっさんのことなんて覚えていても仕方ないからな』
『ジジイのくせにおっさんに辛辣ですね。同族嫌悪というやつでしょうか?』
リンリンも辛辣だ……。
「もう少し堂々としていてください。Sランク冒険者なのですから」
「……つい最近なったばかりの新入りだがな。もっとベテランはいなかったのか?」
どうやら新顔のSランク冒険者らしい。
「仕方がないでしょう。今回は3人も最終試験に進んできちゃったのですから。ですが、SランクはSランク。他の方と何ら変わりませんよ。むしろ変わり者ばかりで、その大半が今どこにいるのかも分からないSランク冒険者を、3人も集めることができたことを褒めていただきたいですね」
試験官を準備するのにも色々と苦労があるようだ。
「というわけで早速、オリオン氏の最終試験を始めたいと思います!」
おっさんは強かった。
ゴリティーアやフィアのような派手で分かりやすい強さはないし、ステータス的にも正直言ってオリオンとそう大差はない。
だがとにかく「受け」が上手かった。
雷を推進力とし、高速移動しながらのオリオンの猛攻を、顔色一つ変えずに受け流し続けたのである。
しかも稀に繰り出される完璧に隙を突いたカウンターの一撃が、着実にオリオンへダメージを与えていく。
やがて最初から飛ばし過ぎたオリオンが途中でガス欠となり、そこから攻めに転じたおっさんの一撃で勝負あり。
「そこまで。試験時間7分56秒で、オリオン氏が戦闘不能。よって、オリオン氏の最終試験は不合格となります」
「お兄ちゃん、惜しかったね。実力的には全然あのおじさんと遜色ない感じだったけど」
戻ってきたオリオンを労う。
悔しがっているかと思いきや、当人は晴れやかな顔をしていた。
「いや、単純にぼくの実力不足だ。ファナさんやアンジェさんには全然及ばないのに、二人に負けてられないと気負ってしまって、最初からペース配分を無視して全速力でいってしまったのが敗因だよ。それを上手くいなされちゃって、気づいたら向こうの思う壺だった。さすがはSランク冒険者だよね、ぼくなんかとは本当に経験値が違う」
とはいえ、この感じなら次のチャンスはきっとモノにできるだろう。
「また来年チャレンジするよ。やっぱり勇者装備はそのときまで預かっていてくれないかい?」
「うん、分かった。じゃあ、そのときはまた応援しに来るから、今度こそ一緒にお風呂に入ろうね」
「それは遠慮したい」
こんなにかわいい赤子なのに何で拒否するのか……正直言って理解に苦しむ。
『マスターの性欲の方がよっぽど理解に苦しみます。ちなみに当たり前ですが一年後は一歳になっていますので、赤子ではなく幼児と呼ぶべきでしょう』
『っ!? 僅か一年後にはもう赤子じゃないだと……? ……よし、メルテラが成功させた若返りの魔法を何としてでも習得してみせよう。そうすれば永遠に赤子のまま、おっぱいを堪能し続けることができる』
『少しメルテラ様とお話しましたが、やはりマスターには教えないそうです』
『なんだと!? なんてケチなんだ……っ!』
『ケチなのではなく、マスターに悪用されるのを阻止するためでしょう』
だが、俺は大賢者だ。
だったら自力で発見し、習得してやればいい。
『あらゆるものを可能にしてきた俺に不可能の文字はない』
『カッコよく言ってますが動機は最悪ですね』
◇ ◇ ◇
私の名はバザラ。
年齢は36歳で、12歳の頃から冒険者をしているため、すでに24年の冒険者歴を持つ。
その期間のほとんどをソロで活動してきたのは、パーティというやつがどうにも性に合わず、苦手だったからだ。
そんな私は3か月前にSランク冒険者への昇格試験に挑戦。
初めての挑戦だったため色々と苦戦したが、運よく合格したのだった。
しかしまさか、そのすぐ次の試験で、試験官を務めることになるとは思ってもみなかった。
突然、ランディア氏が現れて、ぜひやってほしいと打診されたのである。
私のときは自分一人だけだったというのに、最終試験にはなんと三人も残っていた。
さらに前の二人の試験を目の当たりにして、私は大いに緊張させられた。
「こんなに強いのか……もし試験官であるはずの私が惨敗したりなんかしたら……?」
正直って気が気ではなかったが、幸いというべきか、三人目は前の二人ほどの実力ではなかった。
結局、途中で試験が終了となり、三人目は不合格に。
これはこれで申し訳ない気持ちになったが……まだ若い少年だったし、次の機会に頑張ってもらうとしよう。
「さて……それにしてもだ」
無事に試験官の勤めが終わって安堵した私だったが、今度はとあることで困惑していた。
「あそこにいる赤子……まさかとは思うが……ベガルティアのダンジョンの六十階層で目撃した……い、いや、さすがにそれはない。あれは疲れ切っていた私が見た幻覚だったはず……」
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