第七話　・トランプラフ・

「……お、俺は……」

　重く開かれた徹の言葉に、華澄と寧香が半身乗り出す。

「最初は、一人でおる山城が、色んな人と話せるようになればえぇって思っとった……」

「それで任太郎さんや私を誘ったのね」

「そうや……」

「……」

　『最初は』。

　華澄は黙ってその続きを待つ。

「誰が話しかけても喋らんかったから、めっちゃドキドキしたったけど、俺が誘ったババ残しに乗ってくれたんは嬉しかった……」

　はにかんだように笑う徹に、華澄の胸が高鳴る。

（……あの時、平気そうな顔しとったけど、そんな風に思うとってくれたんやな……）

「せやから俺は……」

「う、うん」

　徹の言葉を聞き逃すまいと、更に華澄は身を乗り出す。

「山城と、ちゃんと友達になりたい思たんや！」

「え？」

「は？」

　目が点になる華澄と寧香。

　それを見て、徹の顔がますます赤くなる。

「いや、ホンマ最初はただ友達作りの手伝いだけしたろと思うてたん。だから色々隠したりイカサマしたりしとった」

「……う、うん」

「でも一緒に遊んでて、意外と負けず嫌いなとことか、勝つと楽しそうにするとことか、あの、どろっぷ分けてくれたりとか、その内ウソとか隠し事とかなしに遊べたらなって思うようになって……」

「……え、あの……」

　全く予想と違う言葉に、一縷の望みを持って、寧香を見る華澄。

　照れ隠しであってほしい。

　ダウトであってほしい。

　だって必死に言葉を覚えるくらいだったんだから。

　自分のために時間を作ってくれたんだから。

「……」

　その視線を受け取った寧香は、

「……」

　医者が手遅れの患者の家族にするように、黙って首を横に振った。

　兄はそんな奴です、と。

「……やっぱりこんなウソつきは嫌か……？」

　しょんぼりする徹。

　初めて見る元気のない徹の姿に、華澄の中で渦巻く色々な感情が落ち着いていく。

　寧香や任太郎と出会う前の夜、何を大事にしたかったかが、華澄の中で姿を見せた。

「……ううん、ウチももっと難波君と遊びたい……」

「ホンマ！？　おおきに！」

　ぱあっと音がしそうな笑顔に、つられて華澄も微笑む。

　寧香だけが複雑な表情で二人を見つめていた。

「……あ、あの、そしたら一つ、お願いがあるんやけど……」

「何や？」

「このSEN（セン）のグループ名の前と後ろに点を付けてもろてもえぇ？」

「そんなんお安いご用や！」

　ウキウキしながら携帯を操作する徹を横目で見ながら、寧香が華澄に耳打ちする。

「すみません、私の勘違いで……。絶対華澄さんの事好きで、下手なアプローチしてるんだと思ったのに……」

「ううん、お陰でホンマの事聞けたし」

　華澄の声は、小さいながら晴れやかだった。

「あの、見捨てないでやってください！　バカですけど悪いやつじゃないので！」

「見捨てるなんてそんな……。ウチの方が頑張らんと……」

「え……？」

　その時、携帯が小気味良い音を立てて、グループ名の変更を告げる。

「出来たで！」

「おおきに」

「……あぁ、成程」

　画面を見た寧香が納得したように頷く。

「この前の方の点が華澄さんなんですね」

　寧香の小声に、華澄は目を見開く。

「……すごい、何でわかったん……？」

「私にできる事があったら言ってください。後ろまで行くのには、結構大変だと思いますから」

「……おおきに」

　顔を赤らめながら、華澄はにっこりと微笑む。

「ん？　何や？」

「そんな事よりお兄ちゃん、そのニセ関西弁いつまでやるの？」

「何やクセになってもうたから、しばらくこのままやな」

「いいの華澄さん？」

「うん、ウチ、そっちの方がホッとする」

「よっしゃお墨付きや！」

「ちょっと発音ちゃうとこあるけど」

「んなー！？」

「あ、気にせんといて。それより……」

　華澄は微笑んでトランプを手に取る。

「また、遊ぼ？」

・トランプラフ・

　END