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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
三章 聖女護衛編
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護衛任務開始



 聖王国への出立日。ノアは馬車の中で観衆に手を振る聖女であり、幼馴染の姿を遠目から見つめていた。


 豪華な馬車に合う白い清楚なドレス姿で恥ずかし気に笑みを浮かべるフィリアと、彼女の護衛である黄金の鎧と白のマントを羽織った勇者レノスが無愛想にしている姿が妙に絵になっている。


 ノアは、彼らが乗る豪華な馬車の後方を走る何の変哲もない馬車から、そんな二人を不貞腐れた表情で見据えていた。


「なんで俺がこっちで、レノスがフィリアと一緒の馬車に乗ってるの?」


「……しょうがない。勇者が駄々をこねたから」


「……ノア様、もしかして、嫉妬、というものでしょうか?」


「いや、違うよ? でも俺は護衛として雇われたわけで、傍にいなきゃ守れるもんも守れないからさ。頭が固いんだよな、勇者殿は。何が他国の人間を聖女と一緒に乗せるわけにはいかないだよ。本人が良いって言ってんだから別にいいじゃん。それをーー」


 そっぽを向きながらブツブツと不服を述べるノアに、彼の膝の上に座っているレナと、隣に座るエルマは少しだけ呆れたような顔をした。


 レノスとノアは今回の護衛任務の打ち合わせで、幾度も護衛ルートの設定や護衛配置でもめてきた。というか、顔を合わせれば確実に喧嘩になるほど仲が悪い。


 仲間に愚痴を零すのも、ここ数日では日常茶飯事なのだ。そして、その愚痴を圧倒的に聞かされ続けているのが、新しく仲間になった青年だった。


 その灰色髪で、目付きの悪い青年ーーギルベルは、真向かいに座るノアに注意をしつつ、窓から周囲の様子を鋭く見渡す。


「……おい、ノア。勇者が気に食わないのはオレも同じだが、そろそろ静かにしやがれ。もうすぐ王都の門を出るぞ」


「馬鹿でかい声を上げる王都の民ともおさらばか。よく他人のためにここまで声を出そうと思うな」


「それだけてめえの幼馴染がやったことはでかいんだろ。あの癒しの雨で、重傷が一気に治ったっていうヤツがそこかしこにいるみてえだからな」


「……だからこそ聖女として祭り上げられたか。人の良さは変わってないからこそーー」


 心配だなと続けようとして、女性陣二人の様子がおかしい事に気付いた。レナはぷくっと頬を膨らませ、エルマもどことなく眼鏡の奥の瞳が鋭くなった気がする。


 そんな二人からノアは気まずげに視線を外し、無駄に豪華なふかふかの椅子に背中を預けた。


「クソッ。あの金ピカ勇者め」


「……その話題に戻るな」





*   *   *   *






 王都を出て、数時間。聖王国使節団一行は予定通りに街道を進んでいた。ここまで、特に問題も起こらず平和な旅路である。


 ノアはのどかな街道を興味なさげに見つめ、欠伸を噛み殺しながら後頭部に手を当てる。


「ロベリアの話によると、彼女が聖王国のお偉いさんから受けた命令は俺の暗殺とオスカー・リル・アスカテルへの協力。それとどさくさに紛れての勇者暗殺、そして聖女暗殺。これだけ重要な仕事をたった一人に任せて、保険をかけないなんておかしくない? 無能すぎだろ、枢機卿とやらは」


「……そうですね。私のときも黒狼と魔物の二段階の構えでした。リンヴァルム王国内で仕掛けてくる可能性が高いかと」


「でも今の所、なんも起きないよ。それだけオスカーの計画を買っていたのかな?」


「……おい、その名を出すな。気分が悪くなる」


「んー。別に今考える必要ない。仕掛けてきたら戦う。そして勝てばいい。私達は強い。というかノアがヤバイ」


「いやいや、レナさんや。強いはともかくヤバイって何?」


 雑談をしながら、ノアは窓から顔を出して前を走る聖王国の馬車を見つめる。周りには、数十名の聖堂騎士達が馬に乗り、馬車を囲むように並走していた。


(レノスが言ってたが、そういえば彼らは確か教会側だったよな……)


 聖王国は今、聖王側と教会側に分かれて権力闘争をしているのは知っている。そして、レノスの部下である聖騎士とは違い、聖堂騎士は教会側の戦力だという。


「今の所、警戒すべきは聖堂騎士達かもね」


「……雑魚でしかねえ。アイツら程度勇者一人で十分だろ。それより仮面女、紅茶くれ」


「ご自分でどうぞ。私はノア様のメイドですから」


「それに、あの場所には目付きの悪い神官さんもいる。だから大丈夫」


「……ルガもそう思うか?」


 腰に差している愛剣に手を触れると、頷くように振動が返ってくる。ちなみに今回は定員オーバーでルガは剣の姿という訳だ。

 ルガは不服そうだったが、あとで目いっぱい遊ぶ約束して了承してくれた。


 今回の馬車は王城から貸し与えられたものだが、別に高価なものじゃない。空間魔術が付与された広い部屋という訳じゃなく、普通の馬車だ。


 それでも貴族用なので通常のよりは広いし、設備も整っている。背に感じる、ふかふかの感触がその証拠である。


「今夜は宿場街に泊まる手はずだろ? フィリアを部屋に一人にするのは不安だな」


「じゃあ私が一緒に寝る。それなら大丈夫でしょ?」


「……まあ、それなら」


 ノアは正直、そうなるとレナも心配になるのだが、また仲間を信じていないとか言われるので素直に従う。実際、もし聖堂騎士が仕掛けて来ても、レナなら無傷でフィリアを守れると分かっている。

 だが、心配なものは心配なのだ。


 しかし、レナはそんなノアの心情などお見通しのようで、眠そうな眼を細めてノアの胸元に小さな頭を預けた。


「ふふ、許可するだけ進歩した。闘技大会で戦ったかいがあった」


「そうですね。心配してくれるのは……その、嬉しいですが、そうなると行動も起こせませんから」


 咳払いしながら眼鏡をくいっと押し上げ、エルマが同意する。


「おい、無駄話はその辺で終わりにしろ。宿場街が見えてきた」


「そういや、この辺でギルベルと初めて会っーー」


「終わりにしろ」


「……ギルベル君は強かったなぁ。おっきな鎌振り回してさ、俺を吹っ飛ばしてーー」


「終わりにしろッ!」


 思いっきり怒鳴られても、ノアはニヤニヤしてギルベルを見るだけで、全く反省している様子はなかった。




*   *   *   *





 ロベリアは周囲の様子に、少しだけ目を細めた。


 王都とメルギスの街を繋げる宿場街は、来た時よりも盛況なようだった。闘技大会は予想だにしない終わりを迎えたが、復興のため多くの資金や物資を売りに商人達が続々とやってきているかららしい。


(王都ほど警備は厳しくなく、人の出入りが多い。わたくしであれば、フィリア様を狙うならここかしら)


 ロベリアがそんな事を考えながらいると、勇者と聖女、そして自分が乗っている馬車が宿場街の正門を通る。

 すると、通り抜けた先で数名の男達が待っていた。


「ようこそおいで下さいました。わたくしが王都から派遣された案内人、フィリップでございます」


 禿げているが、服装は身綺麗で小柄のおっさんといった風貌の男フィリップは、数名の文官を連れて門を通してくれた。

 後方についた冒険者達ーーノア達の検問を待ち、それからフィリップに案内されて、宿場街で一番の宿へ着いた。


 各々、馬車から降りて、


「この宿、一回来た所だな」


「おい、間違ってもフィリア様の部屋には入るなよ?」


「レノス君こそ入らないようにね。護衛ならレナに任せたから」


「……えっと、あの、少しくらいノア君とお話は--」


「ダメです」


 喧嘩しているだけに見えて、ノアもレノスも周囲を油断なく見据えて警戒している。武に通じるロベリアは、それが手に取るように分かった。


 宿の中へ通され、エントランスにて。


「それでは聖女様。ごゆるりとおくつろぎ下さい。ここには王国第四騎士団が駐在しておりますゆえ、身辺警護は万全です」


 自信ありげに語るフィリップの言葉に、ノアが笑みを深めた。


「……第四騎士団ね」


 その光景を最後に、みんなの輪から足音を消して離れたロベリア。そしてその後ろをついてくる一人の聖堂騎士。


「ロベリア様。枢機卿からのご命令は?」


「……ありません」


「……それは本当なのでしょうな?」


「どういう意味でしょう」


「アルカテルの計画が失敗した後、すぐに動くべきだったのでは?」


「四六時中、勇者が護衛しているのです。奴は化け物ですよ、夜は一睡もせずにここまで警戒を緩めずにいます。その状況で動いても死にに行くだけでしょう」


「……その勇者も抹殺対象です。貴方様の毒が少しでもかかれば、勝利は確実なのですよ?」


「無駄です。彼は魔力の無効化ができます。私の毒も魔力で作られている以上、彼には効果がない」


 実際には試した事がないが、今は事実として提示する。


「な、なるほど。だからこそ、ご命令が今までなかったと」


「ええ」


 枢機卿エストビオからの連絡は本当になかった。報告は逐一していたが、返答は皆無。ノアにこの事を相談したが、彼は頷いて自分に礼を言っただけで、ロベリアには何の指示もしなかった。


(でも、礼を言われた時は悪くない気分だったわね……)


 その時の事を思い出すと、何故か頬を熱くなったが、ロベリアはすぐに切り替える。


「ですので、ここで勝手な行動は起こさないようーー」


 しかし、その瞬間、神官服の懐に忍ばせてあった連絡用の魔術石が光りだした。そのタイミングの悪さに思わず天を仰ぎたくなるロベリアだったが、無視するわけにいかず、人目を盗んで魔術石を取り出す。


「おお、ついに枢機卿猊下から」


「……そのようね」


 内心、苦虫を噛み潰すような気持ちになったが、ロベリアは光る魔術石に、自らの魔力を送りこんだ。


 


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