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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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心情吐露



 朝の光を目の奥で感じ取り、ノアは薄く目を開けた。それから身体を起こし、隣に目を向けると、ノアに寄りそうようにピッタリとくっついて寝ている妖精のように可憐な幼女がいる。


(……あんまり寝れなかった)


 図太い神経を持つノアも、流石にキス? された相手と一緒に寝られるほどではなかった。


「……いやいや、別に動じてないですけどね。確かに可愛いよ? でもそれは妹とかに向けるようなさ、優しい感情だから、ドキドキとかありえないから……」


 一人で言い訳し始めるノアはため息を一つ。ベットの上で静かに頭を抱えるノアはとりあえず頭の中を切り替えた。


 ノアはアスカテル家について、仲間たちに協力を頼むことを決めていた。レナを狙った報いは必ず受けさせることを誓って。


 これまでノアはアスカテル家に対して受けの姿勢であった。それはノア一人でも太刀打ちできると思ったからであり、動かせる人間がいないからでもあった。だが、これからは違う。吹っ切ったノアは仲間たちに全てを話し、力を借りることに決めた。


 そんなことを考えていると、隣で寝ているレナが伸びをし始めた。起きたのか。なぜか、ノアは少し緊張した。


 「……のあ、おはよう」


 舌足らずな声が耳をくすぐった。いつもと変わらないように可愛らしい欠伸した後、レナはノアを見詰めた。


「あ、ああ、お、おはよう」


「……ノア、きょどーふしん……ふふ」


 ノアの様子にレナが可笑しそうに笑みをこぼす。ノアは外見が五歳くらいの幼女に手玉に取られる自分に嫌気がさした。それでも今、何を言っても同じようになる未来しか想像できなかった。


「と、とりあえず、昨日のことをエルマ達と話しておく。食堂へ行くから」


「……ん」


 焦ったように足早にベットから出ていくノアに、レナは嬉しそうに目を細めた。




 



 宿屋『黄金亭』にある食堂。高級宿屋だけあって大食堂ともいえる広さだ。ノア達は目立たないように端の席に座っていた。


 席順はノアの両隣がレナとルガ、向かいの席にエルマとハンスが座っている。


「というわけで一夜明けたわけだけどさ、今更だけど全てを打ち明けようと思ったんだけど……」


 ノアは照れ臭そうに頬を掻きながらそう言った。そんな子供のような姿に、仲間たちは一様に暖かな眼差しを送る。


「やっと話してもらえるのですね」


 エルマが無表情ながら、暖かな声音で言った。


「ふーむ、我としては少し複雑だが……」


 ノアと秘密を共有してきたルガが腕組みしながらわずかに不満を露にした。レナはルガを横目で睨む。ハンスは黙ったまま。


 それぞれの反応を返す仲間たちに苦笑を零すノア。


「……まあその前に。昨日の件について気になることがあるんだ」


 ノアがエルマを見て、それから視線を落とした。


「昨日、レナが襲撃されたわけだけど、なんでエルマはあの場にいたのか気になってさ……」


 エルマがいなければレナは殺されていただろう。だが、どうして医務室にいたのか気になった。医務室は普段は立ち入り禁止の場所だ。闘技場の結界によって怪我はないが、精神的なダメージは負っている。選手たちはそこで特殊な治療を受けるらしく、そのため一般の人たちは立ち入り禁止になっているのだ。


 そこで、ノアは不自然に黙っているハンスに目を向けた。だが、ハンスはノアからスッと視線を逸らした。もしかして……


「ハンスが観客席から出ていくのが見えたので、少し気になったのです。それで問い詰めたらノア様から指示を受けて、とのことで」


 その言葉で、ノアは自分の指示が発端であったことに気付いた。


「ハンスが襲撃の危険がある地下の結界装置を監視すると言ったので、私は念のため医務室に来ていたのです」


「……なるほど」


 口が軽いハンスに普段ならイラっとしたはずだが、今は何も感じなかった。結果的にレナの命が助かっているのだ。


「……ん、改めてありがとう、エルマ」


「いえ、私はできることをしたまでです。あなたが無事でよかった」


 レナが礼を言って、エルマが謙遜しながらそれを受け取った。


「……そう、だね。レナがほんとに無事でよかったよ」


 まとめたノアはそのままいつものようにレナの頭を撫でた。気持ちよさそうに目を細めるレナに、ノアは改めて安堵した。


 食堂から客がいなくなってきた頃、ノアは仲間たちに全てを話した。アスカテル家の事、悪魔族の事、そして”種”を使った自身の強化。


 ”種”を使った強化は仲間たちから酷く心配された。ノア自身ももしかしたら身体に悪影響があるのかもしれないと思っていたが、それでも絶対的な力が欲しかったため活用した。


「ノア様、悪魔族の力は危険です。私たちの力をノア様にお貸しします。だから、二度と使わないと約束してもらえますか?」


 有無を言わない口調で確認するエルマ。レンズ越しの綺麗なその瞳は、心配そうにノアを見詰めている。純粋に心配してくれるエルマに、やはりノアは照れ臭くなり視線を逸らしてしまう。


「……”種”自体はないんだ。”種”を構成する魔力をルガに貯めて、いつでも使えるようにしているだけなんだけど……」


「ダメです。二度と使わないでください」


「ん、ノア、ダメ。危ないことしちゃ、ダメ」


 レナからも念を押された。


「……分かった。二度と使わないよ」


(それにあれは気軽に修行できるものじゃないし。まあしょうがないか)


 ノアが了承したことで、話は一段落がついた。そして話はアスカテル家についての話題に移っていく。


「……アスカテル家っていえば田舎者でも知ってる大貴族っすけど……クーデターを企んでるなんて大事じゃないっすか……」


 口火を切ったのはハンスだ。


「……まあね、俺自身としてはどうでもいいけど。でも、レナを狙ったのは許さない。必ず報いを受けさせる」


「……ん、守られるのはやだから、ノア、協力する」


 隣にいるレナがその小さな手で机の上で硬く拳を握っていたノアの手を包み込んだ。


「あるじよ、ではッ、クーデターを邪魔するという方針で行くのか?」


 ルガがノアの手を包み込むレナの手を払いのけながらそう言った。幼女二人はそのまま、ノアを挟んで睨み合いを演じているが、ノアは無視する。


「いいや、逆さ。クーデターを起こさせる」


 ノアの発言に、幼女二人も、ハンスも目を瞬かせた。ただ一人、エルマだけがいつものように無表情であった。


「詳しくはここで話すのはちょっと。計画の全容はもっと安全な場で話すよ。ここじゃ、誰が聞いているかも分からない。ついてきてくれ。とっておきの場所に心当たりがあるんだ」


 そう告げて、ノアは場所を変えるため、席を立った。仲間たちは首を捻りながらも、ノアの背を追った。






 ノアが向かうのは普通に自分の部屋である。二階にある自室へ、階段を上っていく。ついてきている仲間たちは一様に頭の上に疑問符を浮かべている。どこに向かおうとしているのか。


 途中、ハンスがたまらず尋ねてくるが、ノアは行ってみてのお楽しみだと言い答えを言わなかった。階段を上りきって、自室の前に着く。そして扉を開ける時。


 ノアは念じた。あの”預言者”の言う通りに。再びあの不思議な魔道具店へ。扉を開けるとーー


 仲間たちは瞳を見開いた。ノアは安堵した。これで普通に自分の部屋のままだったら恥ずかしかっただろう。


 わずかな浮遊感を感じた後、頭上にあるベルの音が鳴る。目の前に広がるのは棚に並ぶ魔道具(マジックアイテム)の数々と奥にあるカウンター。まるで店のようになっている。


「ここって……」


「……ん、すごい」


 ノア達が来たのが分かったのか、スタイル抜群な絶世の美女が店の奥から姿を現した。仲間たちも気配に気付き、身体を固くした。身体のラインが分かるローブ、手に持つのは先端に宝珠が付いた杖。超越者然とした圧倒的な強者だと感じさせる人物。


 彼女は、ノアを見て微笑みかけてくる。


「今日は()()が多いな。それに、今度は仲間とご同伴なのだね。悪魔族の力の練習、というわけじゃないようだ」


 来客、という言葉に引っかかるものを感じた。だが、今はそれを置いておく。


「……そうですね。しいていうなら会議、ですかね。ここなら誰にも聞かれることはない。安心して話すことができる」


「……私の店なんだが。まあ、坊やだから許すとしよう」


 親し気に会話するノアと店主の姿に、レナは頬を膨らませた。


「……ん、ノア。目を離すとすぐこれ。女と仲良くなってくる。ヘレンの時もそう」


 ジト目を向けてくるレナ。エルマも心なしか、目が冷たい気がする。話を変えるように、ハンスがわざとらしく声を上げた。


「そ、それよりノアさんっ、ここはどこなんすか?」


「説明するのが面倒だからいいよ、理解しなくても」


 せっかく話を振ったのに、無下にされるハンス。


「この場所は重要じゃない。ただ、ここでなら話が漏れる心配もない。でもその前にーー」


 一度、言葉を切って続けた。


「来客って誰の事ですか?」


「ん? やっぱり気になるか。ギルベルだよ。あの子は定期的に来て魔道具(マジックアイテム)を買っていく」


「それは……例えばどんな効果の?」


 意味深にノアを見詰めて、”預言者”は告げた。


「今日買っていったのは、着ると透明になれるローブに、触れただけで相手を殺せる毒、とかかな」


 その言葉に、電流が流れたようにノアは気付いた。ギルベル・アスカテルは仕掛けるつもりなのだと。


 もはや一刻の猶予もない。それからノアは仲間たちに作戦内容を伝えた。


(俺の目的は一つ。アスカテル家は俺の目的を完遂してくれる一つのピースでしかない)


 クーデターを阻止しない。ノアはその真意は打ち明けなかった。仲間たちは気になっただろうが、ノアは何も言わなかった。


 王都の民が何人死のうが、ノアは構わない。クーデターをあらかじめ阻止するやり方だったら、死ななくていい人が増えるのかもしれない。だが、ノアの考えはきっとハンス辺りに否定されるだろう。だから真意は胸にしまっておく。


 全ての情報を仲間たちと共有し、エルマには指示を出した。クーデターがいつ始まるのか、それが分からなければ手の打ちようがない。ならば、知っている人物から聞き出せばいいのだ。


 アスカテル家ではない。だが、繋がっているであろう聖王国使節団から。


 

インフルエンザにかかったりして、投稿が遅くなってしまいました。皆さまもインフルエンザには気をつけてください。それと最後まで読んでいただきありがとうございます。

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