表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
62/85

魔剣の秘密



「では場所を移動しよう。ここでは狭すぎる」


 ”預言者”が意味深に微笑んだ後、ノアとルガの足元に青白く輝く魔術陣が展開された。ノアは魔術陣に描かれた魔術文字から、それが空間系魔術の<空間転移(テレポーテーション)>だということが分かった。


「ギルベル、しばらくの間、店番を頼むよ」


「なッ⁉ おい、まーー」


 棚に並ぶ魔道具(マジックアイテム)を物色していたギルベルは突然の頼みに驚いたような声を出したが、三人は無視して転移した。




*   *   *   *





 転移した場所は見渡す限り白い空間であった。天を覆う雲を、太陽も、草木も、水も、生物さえいない、殺風景な真っ白の空間がどこまでも続いている。


 

「……これは……」


 現実世界ではありえない。まるで箱に閉じ込められてしまったかのような……


「ここがどこか分かるかい?」


 いつの間にか、その手には宝石がいくつもついた仰々しい杖を握っている”預言者”は、空いた手で髪をかき上げながら尋ねてくる。


「夢の中に入り込んだような……ここは現実世界なんでしょうか?」


「現実さ。でも、ここはいうなれば異世界。私が創った異空間さ」


「い、異世界……」


 得意げに言う彼女に、ノアは戦慄した。それはどれほどの力なのか。空間系魔術を極めたヴァレールでさえ、異世界を創り出すことなどできなかった。


 英雄級どころか、それは神の如き力だ。想像が及ばない途方もない力。


「……ふんッ、異世界などと仰々しいことを。何もない、つまらんところなのだ」


 顔をしかめながら、ルガはそう評した。その顔は少し泣いた影響か、目元が赤くなっていて恰好がついていない。


「さて、早速始めよう。そのうえで、魔剣ルガーナ。君の能力を坊やに説明する必要がある。今度は君の覚悟が必要だ」


 坊やはやめてほしいと思ったノアだったが、シリアスな雰囲気なので口には出さない。ルガはノアを見上げて、嬉しそうに笑った。


「もう大丈夫なのだ。何も怖くない」


「そうか。なら早速君の能力を坊やに教えてくれ。嫌なら私から教えるが……?」


「いい、我から教えるのだーー」


 そう続けて、ルガは語ってくれた。”破滅の剣”ともいわれた自身の能力を。


 魔剣として当たり前の能力は置いておく。切れ味が抜群なことや劣化しないことなどは今はいい。大事なのは固有の能力だ。


 一つ目の能力は魔力の貯蔵。


 これはノアも薄らとだが気付いていた。そもそもルガはどうやって人化したかというと、ノアが魔剣形態に流した戦闘では使わない余分な魔力を貯めこみ、それを使って人化したのだ。


 二つ目の能力が人の負の感情を集めて、魔力に変換すること。これはノアも初耳だった。副作用として、使用者に莫大なストレスを与える。だが、気にしなければ魔力を無限に生み出せるらしい。だが、数多の英雄は一瞬でもこの力を使っただけで壊れたらしいので、相当な負荷のようだ。


 この二つの能力が魔剣ルガーナに備わっている。


「……魔力を無限に生み出させるのは物凄いな」


 冷静に聞いていたノアは素直に感じたことを言った。


「う、うむ、そう、か?」


 照れ臭そうにルガは顔を俯かせた。


 話が終わったことで、黙って見守っていた”預言者”が言う。


「話は終わったね。だが必要なのはそっちの能力じゃない。”種”を活用する上で重要なのは”魔力の貯蔵”の方だ。魔剣に”種”を構成する悪魔族の魔力を貯蔵して、必要なときだけその力を君の<魔力支配>で取り込む。元の姿に戻りたいときは魔剣に吸い取ってもらう。そうすれば君はとんでもない力を得られるというわけさ」


 ノアはルガに視線を向けると、力強く頷かれた。ということはできるということだ。ただ、なぜここまでしてくれるのかが疑問だった。悪意が感じられないと言っても、ノアはなぜ自分にここまで協力してくれるのか気になった。


「なんで俺の力になってくれるんですか?」


「……私は”預言者”だと言っただろう? 私が視た未来では、このままいけば坊やはアスカテル当主オスカーに確実に負け、殺される。それはギルベルも、そして坊やの仲間たちも同じだ。クーデターを起こしたオスカーは王国を壊滅させ、亜人宗主国を蹂躙する。それを防ぐには、君が一番可能性があると私が考えただけさ」


 ノアにはそもそも未来を視るなんて意味が分からないし、信憑性などないに等しいと思ったがここで何を言ったところでそれ以上は教えてくれそうにない。


 腑に落ちないこともあったが、絶対的な力が必要なのは本当だ。フィリアのこともある。大国を相手にしたときのことも考えると、悪魔族の力は魅力的に思える。


 多少の危険があるくらいで、ノアは止まらない。


「ルガ」


 ルガはノアの意思をくみ取り、即座に魔剣形態になった。人型だった姿が、粒子状になってノアの手に集まってくる。紅に輝く刀身と鍔には同色の宝石がある美しい魔剣を一振りし、”預言者”に聞いた。


「で、どうすれば?」


「君は何もしなくていいさ。ただ”種”を魔剣で貫くだけでいい」


 そう言って、”預言者”は真っ白な地面に”種”を置いた。


 これから自分の身に何が起こるか分からない。だが、もし理性が無くなった化け物になるのだとしても、手に持つ相棒が自分を戻してくれる。


(うむ、あるじよ、何も怖いものなどないぞ。いつだって我と共にある)


「……この声は……」


 急に脳内に響く声は可愛らしい幼女の声、ルガのものだ。


(うむ、あるじが我を受け入れた影響か知らんが、何かできたのだ!)


 ノアは優し気に笑った。少しだけあった不安がその言葉に取り除かれた。


「行くよッーー」


(うむ!)


 ノアは魔剣を、血管が浮き出たような不気味な果実へと振り下ろした。魔剣の切っ先は抵抗なく”種”を貫くと、瞬間、”種”から赤黒い魔力が噴き出した。その魔力はゆっくりと、魔剣の鍔にある宝玉に吸い込まれるようにしていく。


(あるじよ、何があっても我が何とかするからーー)


「ああ、俺に流してくれ」


 少しずつ、悪魔族の魔力がノアの身体に流される。そして赤黒い魔力がノアの身体を覆っていく。すると、ノアは段々、意識が遠くなっていくのが分かった。苦しくもなんともない、むしろ心地よささえ感じた。それは眠るときの感覚に似ている。


(こ、れは……俺はどうなって……いや、()は……)





*   *   *   *






「魔王カイン……まさか、かつての仇敵を私の手で復活させることになるとは……」


 ”預言者”は様々な感情が入り混じったような複雑な表情で呟いた。目の前には赤黒い魔力でできた繭が形成されていた。人が一人入れるくらいの不気味な繭が、空中に浮いて今も拡大し続けている。


「魔王の後継者、か。次は幸せな人生を歩めると思ったが……」


 ”預言者”は手に握る杖を強くつかんだ。目覚めた”彼”はどこまで覚えているだろうか。


 いつでも魔術を発動できるようにして、”預言者”は注意深く繭を見つめた。やがて、拡大を続けていた繭に罅が入る。


 ビキ、ビキ、と音を立てて、中から生まれ落ちた。悪魔族が持つ特徴的な黒い爪が繭を貫き、引き裂いていく。中から出てきたのはノアとそっくりの容姿をした少年だった。ただし、髪は真っ白に染まっている。瞳は禍々しい紅のままに頭からは捻じれた角が生えている。


 しばらく少年は俯いたままだったが、血走った眼が唐突に”預言者”に向けられてーー


 超越者同士の戦闘は突然始まった。






*   *   *   *






 自分の中から何かが吸い出されるような感覚と共に、ノアの意識は戻ってきた。


 記憶は”種”に刃を突き立てたところまでは覚えているが……


(あの後、俺は意識を失ったの、か)


 目を開ける。ノアの腕を抱えるようにして、人型になったルガが寄り添うように寝ていた。どうやら自分は仰向けに倒れていたようで、すぐに周囲に目を向ける。


 そこには依然あった真っ白の空間がひび割れて、所々真っ黒の空間に変わっていたりと滅茶苦茶に壊れていた。地面は割れて、空は裂けている。


「これは……」


 まるで真っ白の空間を、黒い空間で上書きしようとしたような……


「やっと……起きた、ね」


 声がした方へ視線を飛ばすと、着ているローブがボロボロになり、そこかしこに血が滲んだ”預言者”が片膝をついた姿勢でいた。杖でかろうじて身体を支えている。


 服が破れた影響で下着まで見えているが、今は痛々しさしか感じ取れなかった。


「だ、大丈夫ですか?」


「これが大丈夫に見えるかい? 全く……疲れたすごく」


「これは……俺が……」


「ああ、その様子じゃ何も覚えていない、か。制御なんてもってのほかだったようだね」


「……す、すいません」


 実際、ノアは何も思い出せなかった。流石のノアもちょっと罪悪感が芽生えた。


「……魔剣ルガーナの声と能力がなければ、君は暴走したままだった。そうなれば私は死んでたかも」


 ジト目でこちらを見つめる”預言者”。その視線は謝ってよ、と言っているように感じて、ノアはその姿が少しだけ子供っぽくて、笑いそうになったが寸前で堪えた。


「ふ、くッ、すいません。いつも余裕ある態度だったので……」


「……ひょっとして馬鹿にしてる? 命がけで君の相手をしていた私を?」


 額に青筋が浮かんだ彼女の表情を見て、ノアは慌てて弁明した。


「い、いえ、バカにはしてませんよ、ちょっと可愛いと思っただけです」


 ノアの余計な一言に、一瞬”預言者”は頬を赤らめたが、すぐに顔色を戻して、


「……坊やのくせに、生意気だ」


 杖で頭を小突かれた。







 その後、まだまだ修行する必要があるからいつでも修行しに来ていいと言われた。ノアがこの魔道具店に行きたいと思い、どこかの扉を開ければ来れるらしい。”預言者”曰く、”そういうふうに設定しといた”のだと。


 それからノアはルガを連れて魔道具店に戻った。ギルベルはすでにいなくなっていた。最後に、感謝の言葉を述べて店を出ていくとき、いたずらっぽい笑みを浮かべて”預言者”が言った。


「そういえば君が来てから丸一日経ってるから」


 は? という言葉が口から漏れ出て、振り返る前に扉は閉められた。


 場所は闘技場の控室前。観客の歓声が聞こえ、まだ試合中のようだ。


 ノアは急いで仲間たちに確認しに行ったら、本当に一日が経っていた。連絡が取れず行方知れずになって、ひどく心配された。レナは泣き出し、エルマからは次からは書置きでも置いてから行ってくださいと子供にいうように言われた。


 ノアはとりあえず謝るのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ