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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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決勝トーナメント開幕


 舞踏会が終わり、王城に一泊した次の日の朝。ヘレンが手配してくれた帰りの馬車に乗り、ノアは宿屋『黄金亭』に戻ってきていた。


 宿の前には朝にも関わらず仲間たちの姿があり、ノアは頬を緩めた。送ってくれた御者に礼を言いノアは馬車から降りるとーー

 

「……ノア、おかえりッ!」


 ふわふわの金髪と眠そうな眼をした森妖精(エルフ)の幼女がすぐに抱き着いてきた。その瞬間、ノアの腰に差してある魔剣ルガーナが人化し、黒髪紅眼の幼女へと変わる。


「……むう、しょうがない、か」


 そう呟き、ルガはレナに複雑な視線を向けた。


「おかえりなさいませ、ノア様」


 上体を45度ほど傾けた完璧な礼をするエルマにノアは苦笑を向けた。


「あ、ああ、ありがとう。待っててくれたのは嬉しいけど、ここじゃ何かと目立つからさ、中に入ろうか」


 ノアはレナに抱き着かれたままそう言って照れ臭そうに頭をかいた後、宿屋の中を指差した。ノアの言う通り、多数の通行人がノア達をガン見していた。







 ノア達は周囲の視線から逃げるように宿屋に入った。受付で部屋の鍵を受け取ろうとしたが、もう既にレナがもっていると言われてノアは思わず首を傾げたが、特に気にはしなかった。それから一行は場所を変えてノアの部屋に集まることになった。途中まだ寝ているというハンスを叩き起こし、部屋にいる人数が五人となった。


 ノアは久しぶりに自分の部屋に来たのだが、ベットは明らかに使われている形跡がある。ノアは犯人と思われるレナをジト目で見つめた。


「レナさん、ベット使ってた?」


「んーん、知らない」


 間髪入れずに答えた。その表情は普段と何も変わらず、眠そうな目でノアが観察しても動揺の類いは一切見受けられない。


「……ま、いいか」


 五人は部屋に設置されているテーブルクロスがかけられた大きなテーブルに、椅子を用意して座った。寝起きだからか髪があっちこっちに跳ねている頭をそのままに、ハンスがノアに尋ねた。


「ノアさん、ノアさん、舞踏会、どうでしたか? なんかお二人は結構そわそわしてたっすけーーへぶッ⁉」


 まだ席についていなかったエルマがハンスの頭を背後からスパン!っと勢いよく叩いた。


「ちょ、ひどいっすよ、エルマさん! 自分、事実をーー」


「いいから、貴方は黙っていなさい。尋ねられたときだけ自分から口を開けばいいのです」


「そんな……ひどいっす……」


 その言葉にレナが何度も頷いていた。ノアは自分がいなくなっている間に仲間たちが仲良くなった? ことが分かり安堵した。


「……立場がないね、ハンス。それで、決勝トーナメントに出場する十六人の情報、集めてくれた?」


 ノアは舞踏会に行く前にハンスに指示をした内容を告げる。その問いに、ハンスはゆっくりと頷きを返した。


「バッチリっす!」


「よし、手短に話してもらおう。もう決勝トーナメントの組み合わせ発表が近づいてるからね」









*   *   *   *




 今日は王国闘技大会決勝トーナメントが開始される日だ。闘技場は予選時よりも多くの貴族、平民が押し寄せてきていた。入り口付近は隙間がないほど人が密集していて、身動きが取れないほどだ。


 ノアはハンスがからある程度情報を聞き出した後、早速闘技場へ向かった。幸い、ヘレンが用意してくれた馬車が闘技場まで送ってくれたため移動はそこまで大変ではなかったが、一般のという人は席を確保するのも大変なことだろう。


 闘技場は貴族街と平民街のちょうど境目にある。貴族街のほうから入場するゲートの方は比較的込んでいないため、ノア達は悠々と入った。


「それではここで一時のお別れですね、ノア様、レナ。頑張ってください」


「今日、試合があるか分からないけどね」


「……ん、あったら頑張る」


 決勝トーナメントは十六人で今日が四試合、明日が四試合行われる。そして勝ち残った八人が準々決勝へと進めるのだ。




 すでに会場の客席には多くの人が入っていた。多くの人が集まり、熱気が生まれるほどに。


 決勝トーナメントの組み合わせ発表は闘技場舞台の上空、そこに空間魔術による疑似的なスクリーンを創り出して観客席に座る全ての人に見れるようには映される。


 一方、選手たちの方はというとーー


 闘技場のスタッフの案内に従って、ノアとレナは手を繋ぎながら選手控室を目指していた。だが途中からレナに、足が疲れたから肩車して、とそう乞われた。最初は断るつもりだったが、ノアもレナと離れていた期間があった影響かどうしても甘くなってしまう。潤んだ瞳で見つめられると断れない。


 ノアの腰にある魔剣ルガーナが憤慨するように振動するが、ノアは苦笑するだけでレナを肩に乗っけた。




 そうこうしてるうちに部屋へとたどり着いた。選手控室の扉を開ける。


 予選を勝ち抜いた強者たちが静かに闘気を高めている中、ノアはレナを肩車したまま呑気に部屋の中を見渡す。そうすると、部屋の壁付近に大きな提示板みたいなものがあることに気付いた。


「……ん、あれじゃない? 組み合わせ表」


「なるほど」


 ノアはレナを肩車したまま、部屋にある巨大な提示板へと歩いた。強者たちの視線が緊張感の欠片もない二人に注がれるが、二人は意に介さず自分の対戦相手を探した。


「うわ、俺、第一試合じゃん」


「……ん、第二試合」


 二人とも今日行われる上に、ノアの試合の後にレナの試合があるという偶然に、二人は驚いた。


「対戦相手は、えー、と、バロンだって。確か……レナと一緒にAブロック突破した人だったかな?」


「……こっちの対戦相手、エルミーヌって人」


 それぞれの対戦相手を確認すると同時にトーナメント表を見ると、ノアとレナが勝ち上がったら次の対戦相手が二人ということになる。それを確認したレナは嬉しそうにするが、ノアは複雑そうにトーナメント表を見つめた。


(勝ち上がったらレナと、か。これは……嫌だな)


 実力がどうとかそう言う問題ではない。レナと戦うときになった場合、闘技場のシステム上怪我はないが、それでも攻撃する必要がある。


(俺は……レナに剣を向けられるのか?)


 俯きながら自問自答するノアとトーナメント表を見て気合を入れるレナ。


「……ノア、先に試合終わったら、見ててね」


「あ、ああ。レナの活躍をしっかりと見ておくよ」


 ノアがそう言うと、レナは嬉しそうに頷きを返した。


「……ん、約束ね」


 レナはノアに自分の実力を認めてもらうため。


 ノアは大切な存在であるレナに剣を向けられるのか。


 二人の意識はすでに今日の試合には向いていなかった。






 ワアアアアアアァッ‼ という観客の歓声に応えるように、闘技場が震えた。

 

『さあ、観客の皆様! ついに闘技大会決勝トーナメントの日を迎えましたッ! 観客の皆様も盛り上がってるようですね! 待ちきれないようですので、早速試合に進みましょうかッ! 華々しい第一試合目を飾るのはこの男達だッ!』


 実況の声が闘技場に響く中、ノアは暗い通路を歩く。目の前には闘技場舞台に続く光の入場口。しかし、通路の壁に寄りかかるようにして立っている人物がいる。


 ノアはその人物を嬉しそうに見つめながら親し気に口を開いた。


「……久しぶりだなぁ、元気にしてた?」


「……ちッ、相変わらず呑気な野郎だ」


 ノアの問いに無愛想に返すのは、深紅のローブを着ている男。顔はフードに覆われていてよく見えない。彼の名はギルベル・アスカテル。宿場街付近の森で一緒に盗賊討伐を行った人物だ。

 

「ギルベル、君の兄にあったよ」


「……もう兄じゃねえ。その言い方はやめろ」


「じゃあアスカテル公爵と呼ぶよ。なんかクーデター起こすって宣言された」


 ノアが他人事のように気軽に話す内容にギルベルは不快気に目元を歪ませた。


「あの野郎ッ、やはり……」


「ギルベルは知ってたのか」


 その言葉にはギルベルは言葉を返さずに一度俯いた後、フードから覗く鋭い目をノアに向けた。


「……知ってるか? てめえの対戦相手、アスカテルの刺客だ」


「それは……知らなかったけどさ、でも闘技場は結界が張ってあるだろ」


 アスカテル公爵が早速しかけてきたという訳か。


 だが、たとえノアに致命傷といえる傷を負わせても、闘技場では肉体的ダメージが精神的ダメージに変換される仕組みになっている。つまり気絶するだけだ。


「この闘技場は古代遺跡(オーパーツ)と言われているがな、厳密にはちげえ。地下にある結界装置が古代遺跡(オーパーツ)だ」


 それは初耳だが、結局何が言いたいのか。


「闘技場地下にある結界装置、それをアスカテル家は一時的に停止するつもりなんだろうぜ」


「なるほど、でも単純な実力で俺に易々と勝てる相手がいるとは思わないけど」


 たとえ結界装置がなくてもノアに実力で勝てなければ殺すことはできないだろう。ノアは別に自信過剰ではない。これまで見てきた実力者の中で、ノアが勝てないと思ったのは近衛騎士団長ただ一人。


「それは知らねえがな、”種”の実験体かもしれねえ」


「ああ、あれか」


 ノアは悪魔族になることが可能な不気味な果実のような物体を思い出した。ノアも盗賊から奪いとり、一つ持っているが活用法が見つからないため、持て余していたのだが……


「結界の方は俺が何とかするから、預かってた神器を返せ。それと試合が終わったら”種”の件で話がある。ここに一度集合だ。いいな?」


「ま、マジか……」


 ノアの試合が終われば、次はレナの試合が始まってしまう。さっきレナの試合を見る約束をしてしまったのだが……


「いいな?」


 念を押すように言うギルベル。フードから覗く真剣な瞳にノアは頷くことしかできなかった。それから空間収納(ストレージ)にしまっていたギルベルの神器【地獄大鎌ゲザー】を投げ渡した。


「……結界の方は何とかする、か。優しいなぁ、ギルベルくんは」


「てめえのためじゃねえよ、さっさと行け」


「……これがツンデレか」


「殺すぞ」


 殺気を込めた視線を感じ、ノアはふざけるのをやめて入場口へと足を進めた。深紅のローブを纏う人物とすれ違う寸前に信頼の視線を交わして。





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