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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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王女襲来



 メルギスの領主ガレス・ドール・ヘルミナス伯爵に招かれて、屋敷に向かうことになったノア一行。新たな仲間であるハンスを加えて、行きの馬車は賑やかなものとなった。


 途中、レナと魔剣形態から人化したルガが、どっちがノアの膝の上に座るか揉めたりしたが、馬車は無事にヘルミナス家の屋敷へ到着した。



 門の前にはガレスの部下である地方騎士が門番のように立っていた。御者をしていたもう一人の地方騎士とやり取りをして、中に入れてくれる。庭付きの大きな屋敷は流石は伯爵の地位を持つ貴族だ。メルギスの街にある領主の館よりは小さいが。


 馬車から降りて、屋敷内に入る。案内をしてくれる執事さんの話では祝勝会は夜にやるそうだ。屋敷内にいるガレスに挨拶をして、ノア一行は夕食を待った。








 夕食の時間まで。ノア達は皆、思い思いの方法で時間を潰していた。ノアはベットに寝転がりながら、部屋に用意された本棚から一冊の本を手に取り読んでいた。さっきまではしゃいでいたレナとルガが疲れたのか、ノアの両膝を枕にして寝ている。エルマも椅子に座り、本を読んでいた。眼鏡をかけた彼女が本を読む姿はとても絵になる姿だ。


 ちなみにハンスは修行、修行うるさいのでノアが指示した筋トレをしている。暑苦しいから、庭でやらせている。ノアの冷たい対応も、持ち前の明るさで今も続けている。


 ノアはそれを気にせず、本を読むのに集中していた。


 七面倒な難しい本は目が滑るので、ノアは気楽で楽しめそうな娯楽本にした。面白くて有名な本をとメイドに聞いたところ、薦められたのが英雄譚の一つ。『黒騎士物語』。


 主人公は漆黒の甲冑姿の騎士、無口だが、紳士的な優しさを持つ英雄『黒騎士』の物語。古代、悪魔族が恐怖を振りまいた時代。そんな時代で、自身の守りたいものを守るために、懸命に生きる彼の生涯がつづられた本だ。


 ストーリーとしてはこうだ。


 とある小国の王に仕えていた『黒騎士』、国の中で最強を誇った彼は民から絶大な人気があった。王もそんな彼を信頼し、愛娘である姫の護衛をさせるほどに。姫もまた、いつも自分を守ってくれる最強の騎士に、憧れを通り越した感情を持つようになった。


 『黒騎士』も自分を慕ってくる天真爛漫な姫に振り回されながら、何だかんだで幸せな日々を送っていた。そんな平和な日々を壊すように、突如襲撃してきた捻じれた角と蝙蝠の翼を持つ男、人類の敵対者である悪魔族。魔物達を従えたその悪魔族は魔王軍幹部の実力者、『退廃の悪魔』と呼ばれる絶対者だった。その絶対者は、姫のある能力を求めて、国を襲撃したのだ。


 姫の、赤い宝石のような綺麗な眼、それは『魔眼』の一種である『宝涙眼(ほうるいがん)』。流す涙が魔力を大量に秘めた魔結晶となる眼だ。


 原初にして最強の英雄、”勇者”を倒すために、大量の魔力を秘めた魔結晶を使って、大規模な儀式魔法を行使する。それが魔王軍の狙いであったのだ。


 悪魔に攫われた姫は恐怖に怯えるが、気丈に抵抗する。それは誰よりも『黒騎士』を信じているから。自分にとっての英雄、”勇者”よりも信頼する大好きな英雄が助けてくれることを信じているから、姫は内心恐怖で震えながらも、必死に涙を押さえた。


 痺れを切らした悪魔の鋭利な爪が、姫の眼を抉り出そうと近付いたその時。姫と悪魔の間に空から降ってきた漆黒の剣が地面に突き刺さった。そして、全身黒づくめの漆黒の騎士がマントを翻して現れたーー


 そこまで読み進めたところで、


「皆さま、夕食のお時間になりました」


 部屋の扉が静かに開けられて、メイドがお辞儀をした。


「……マジか、丁度いいところだったのに……」


 意外と面白くて、時間を忘れて読んでしまった。ノアは本を名残惜し気に閉じて、レナとルガを起こして、エルマと連れ立って部屋を出た。









 ガレスの屋敷にある大広間。用意された長方形の長いテーブルに席が用意され料理が所狭しと並ぶ中。ノア達は向かいに座る予想外の人物たちに目を向ける。


「それで、なんでここにいるの……?」


 横では気まずそうにしているガレスの姿がある。彼も予想外だったのだろう。


 ノアの問いに答えるのはプラチナブロンドの髪を持つ美少女である。紅い宝石のような綺麗な瞳だ。つり上がった目がノアと重なる。


「わたくしがどこにいようが勝手ですわ!」


 そう言って髪を払う。傲慢そうな態度の彼女は、ノアが王都で知り合った王国の王女、ヘレン・ミルス・リンヴァルムという。


 ただ祝いに来てくれたというだけじゃないのだろう。ヘレンの隣に座るのは護衛としてきたのだろう近衛騎士団副団長レイン・アスカテル。


 ノアはレインと戦ったときのことを思い出した。そうすると、ノアの視線は自然と胸元にいく。


「ど、どこを見ているんだ⁉」


 顔を赤らめて睨んでくるレイン。


「……むう」


「あるじよ、この女子(おなご)と知り合いだったのか?」


 気になったのかレナとルガが声をかけた。ノアの仲間たちはレインのことを知らないのだろう。ハンスは当然知らないとして、エルマも気になるのか、ノアに目線で尋ねてくる。


「簡単に言うと、水色の髪を持つのが近衛騎士団副団長レイン・アスカテル。男装しているが、こう見えて女の子だ」


「アスカテルの家名……こ、近衛騎士の副団長⁉ じゃ、じゃあ……ということは……」


 ハンスが恐る恐るといったふうにヘレンに視線を向けた。純白の騎士服は近衛の証。任務は王族の護衛である。答えが見えたのだろう。


「ふふッ、このわたくしこそ、この国の王女、ヘレン・ミルス・リンヴァルム。跪くのですわ、平民」


「は、ははぁ!」


 そう言って、椅子から立ちがって本当に跪くハンス。それを視線に入れずに、ノアは目の前に並ぶ料理を見つつガレスに聞いた。


「もう食べていいですかね?」


「あ、ああ」


 ノアとレナの決勝トーナメント進出を祝うために予定された祝勝会。にも拘わらず、場は異様な静けさで進行した。フォークとナイフの音だけが響く部屋で、屋敷の主であるはずのガレスはただただ気まずそうにしていた。






 



 夕食を終えて、屋敷のバルコニーに呼び出されたノア。場にはガレス、それとヘレンとレインの四人のみ。屋敷内には、近衛騎士達が護衛としてそこかしこに張り付いている。


 ノアは壁に寄りかかりながら、欠伸をした。


「それで、話とは……?」


「それは姫殿下から。よろしいでしょうか?」


 ガレスが尋ねると、一つ頷きを返す王女ヘレン。それからノアと視線を重ねるともじもじしだした。


「……まずは、その、決勝トーナメント進出おめでとう、ですわ」


 小さな声で言うヘレンに、ノアは少し変わったなと思った。それは不快な変化ではなく、好ましい変化だ。だが、恥ずかしそうにいうヘレンの顔を見て、なぜかノアは聞こえていないふりをして聞き返した。素直に礼を言うのが照れ臭かったのと、ヘレンの恥ずかしがる姿が見たいという欲求があったからである。


「え、何だって?」


「だ、だから、その、決勝……」


「決勝トーナメント進出おめでとう、ね。ありがとう、ヘレン」


「き、聞こえていましたわね⁉」


 プリプリと怒る王女の姿を、ノアは笑みを浮かべて見つめた。


「おい、いい加減にしろ、あまりに無礼だぞッ」


 レインに苦言を言われ、ノアは咳払いをして場をしきり直す。


「悪かったよ、本題に入ってくれ」


「……ノア、城に来た時、舞踏会に出席してほしいといったのを覚えていますわね?」


(……なるほど、舞踏会の出席の件で来たのか……)


 忘れるなど許さないとばかりに視線を向けてくるヘレンに、ノアは当たり前のように頷いた。


「ああ、覚えているよ。確か、王国の貴族のほとんどが出席するんだとか」


「そうですわ。闘技大会の予選が終わり、決勝トーナメント始まる前日に行われるのですわ。貴方にはこれから舞踏会の日まで礼儀作法を覚えてもらいます」


 それを聞いて、ノアは面倒そうに顔を歪めた。


「おい、だから姫殿下に無礼だぞ」


 レインに注意されるも、


「いや、礼儀作法とか……俺充分ですよね?」


 ノアはガレスに視線を向けた。だが、そっと視線を逸らされて意外とショックを受けた。


「貴族には相応の礼儀が必要なのですわ。それに、わたくしに対して馴れ馴れしく話すなど言語道断ですわ!」


 そんな事を言われても、ノアはヘレンに対して今更敬語は無理だと思う。


「……ヘレンは今更俺に敬語で話してほしいの?」


「そ、そうは言っておりませんわ。ただ、話す時と場には注意が必要なのです」


 照れたようにそっぽを向いていうヘレン。ノアは目を閉じてうんうんと二度頷いた。


「そうだよね。俺に抱えられながら街中歩いてさ、今更ーー」


 ヘレンが頬を真っ赤にしてノアの口を塞いだ。ヘレンの男好きする身体がドレス越しに押し付けられ、ノアまで顔を赤くした。


(や、柔らかい……)


「わ、忘れなさい! そもそもあの時はノアが無理やりーー」


「わ、分かった、分かったから、一回、離れよう……」


 自身の身体を押し付けていることに気付いたヘレンが、更に顔を赤くした。それからそっと身体を離す。


 レインはノアを睨み、


「この変態がッ!」


「いや、抱き着いてきたのはヘレンだよ? ね、ガレスさん?」


 そう言ってノアが視線をガレスに向けるも、また逸らされた。


「……私に振るな」


「と、ともかく! ノアには城に来てもらいますわ!」


 ノアは壁に寄りかかったまま視線を下げた。


「それは俺だけだよね? レナやエルマは……」


「……来れませんわ」


 一瞬、間が開いたがヘレンは明確に否定した。彼女たちは連れていけない。


 ノアとしては闘技大会の各ブロックの予選を見ておきたい気持ちがある。決勝トーナメントで戦うことになる場合、少しでも情報を持っていた方が戦いやすくなる。


 だが、それはハンスに頼もう。自分の頼みなら喜んで聞いてくれるだろう。


(レナは寂しがるだろうな)


 そう思うと、離れづらい。それでも、アスカテル家の当主と直接会える機会だ。違和感を感じた貴族、ミラージュ侯爵も気になる。


(……しょうがないか。別に一生離れるわけじゃないんだ。一時的な別行動になるだけ)


「分かった。一先ず仲間たちに説明するのと準備するから少し待ってくれ」


 少しだけ考えて、ノアは決断した。礼儀作法の勉強など面倒でしかないが、それが貴族と接する上で必要な事ならしょうがないだろう。相手に会わせることも重要なのは人の世界へきて学んだことだ。


 ノアは仲間たちに説明するために、部屋へと戻った。




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