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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
一章 聖王国からの刺客編
5/85

街へ

 


  勝手知ったる豪魔の森を抜け、どこまでも続く平坦な地形の前で、ノアは地図を見ながら立ち止まっていた。ちなみに地図はヴァレールが保管していたものを使っている。


「ここ、どこだよ……そもそも初めて外に出るから地図の見方もわかんないし。戻ってサマエルに聞くのもなぁ……思いっきりかっこつけて出てきたのに、街への行き方が分からないから戻るのはかっこ悪すぎだよね」


 ノアはとりあえずの行先を自分の現在地から一番近い街、王国の国境沿いにある城塞都市メルギスに決めた。

 聖王国にあの勇者がいると思うと行く気が失せたからだ。


 しかし、場所を決めた所でたどり着けるとは限らない。


 途方に暮れながら、ノアは周囲を見渡す。その時、運が良い事にノアの鋭敏な視力は、街道らしきものを走る何台もの馬車を捉えた。

 馬車の周囲には武装した人間がいて、何やら警戒しているような……


「馬車を、守っているのか……?いや、待てよ、あの人たちについていけば街に着くんじゃ? よし!そうと決まれば」


 ノアは身体に魔力を流し、四肢に力を込め勢いよく駆けだした。

 風を切り裂きながら、長大な距離をものすごい速さで詰める。馬車の周囲にいた武装した連中が慌てだしたような気がしたがノアは無視し、馬車の前へと躍り出た。


 馬車に乗っていた御者が悲鳴をあげながら馬を止めた。周囲にいた武装した人達が慌てて剣やら杖やらを向けてきた。


「ッ何者だ!」


 鋭く叫んできたのは、武装した人達の先頭に立つ茶髪の髪を逆立てた青年である。レザーアーマーを着ている剣士風の男であり目付きが険しい。

 

 ノアはここでやっと驚かせたのが伝わった。


「いや、すみません。道に迷った者なんですが、丁度馬車が見えたのでつい……。驚かせるつもりはなかったんですが」


「道に迷っただと? こんな開けた場所で何を迷う必要がある!」


 ノアは内心では全くその通りだろうなと思いながらも言い訳を重ねる。


「自分は旅人なんです。信じてください」


 ノアはこのくらいしか言い訳が思いつかなかった。豪魔の森で生活していたことは言わないほうがいいに決まっている。

 ヴァレールのことがこの辺にももう周知されてるかもしれない。関係者だと思われたくない。ただでさえ面倒な奴に目をつけられてしまったのに。


「…荷物も馬もなしに、旅人だと?お前は…まさか!」


(やばい、バレたか⁉そもそも森の方角から来たのが間違いだったんだよ。人を見つけた嬉しさで…)


「ひょっとして、冒険者、か?豪魔の森の方角から来たよな?」


(冒険者?どうしよう、これは頷いた方が良いのか悪いのか、どうしよう?)


「ま、まあね。冒険者ですよ。豪魔の森を抜けてきたんです」


 ノアはとりあえず頷いておいた。このままでは話が進まないと思ったからであるが。


「やっぱりか。豪真の森を抜けた先、メルト公国、だったか……?まあいい。俺たちも冒険者だ。お前さん、ここら辺に来たばかりなのか?」


 メルト公国なんて知らなかったが、ノアは話を合わせた。


「そうですよ。来たばかりです」


 そんなやり取りをしているうちに商隊の馬車から一人の男が出てきた。ふくよかな身体を豪華な装飾付きの服に身を包んでいる。後ろには護衛と思しき二人の人間が立っていた。


「どうやら、話し合いはついたようですね。冒険者の方、ですよね。私の名前はレイモン・シャンプル。王都に店を出させていただいている商人です。どうやらここには来たばかりのご様子。城塞都市メルギスまでご案内できますが」


 どういたしますか、と上品に笑うレイモン。ノアとしてはとてもありがたいが、親切すぎて逆に不安になってくる。


(でもまあ、大丈夫か、何とかなるだろ)


 ノアは武装した冒険者たちの動きを観察しながらそう考えた。


「ありがたいです。ご一緒させていただきます」


 ノアはレイモンに対抗するように笑顔を浮かべた。




 緩やかな風にあたりながら、ゆったりと馬車が進む中、馬車内でレイモンの話を聞いていたノア。

 

 レイモンから、ノアは城塞都市メルギスについて色々教えてもらっていた。

 とりあえず、聞いたのは聖王国と今から行く王国は敵対しているらしいこと。


 聖王国は亜人族殲滅を掲げているため、亜人である森妖精(エルフ)族や獣人族(ビースト)が住む王国とは犬猿の仲らしい。しかし、そろそろ話を聞くのもノアは飽きてきた。

 馬車にずっと座りっぱなしで、尻も痛くなってきた。


「城塞都市であるメルギスは、聖王国との戦争の要であり、そこを治める領主はーー」


「ーーすみません、レイモンさん。俺もただ何もせずにいるのは心苦しいので、外にでて護衛でもさせてもらえないでしょうか?」


 そう言うノアを見つめるレイモンは変わらず笑みを浮かべた。


「すみません、退屈でしたか。いいですよ、()()()()冒険者になるのなら彼らは先輩ですからね。挨拶でもしてきてはどうですか?」


 自分が考えていたこともバレてるし、素性も何か掴んでいるのかもしれない。油断できない人というのは分かったが、それでも実害もないし親切にしてくれた。


「…ありがとうございます。では」


 馬車から降りたノアは、周囲を警戒していた青年ーー最初に出会った茶髪を逆立てた青年を見つけ声をかけた。


「手伝いますよ、えっと……」


「ロイドだ。名乗ってなかったな。レイモンさんに気に入られたな。さっきの動きと言い、あんたは将来ビッグになりそうだ」


 爽やかに笑うロイド。その表情からはレイモンへの信頼と敬意が見て取れる。


「そんな大層なものではないですよ、自分は」


「おいおい、敬語はやめてくれ、堅苦しいのは嫌いなんだ。それに自分よりも強いやつに敬語なんて使われたら気持ち悪い」


 ノアはロイドについて、気持ち悪いは置いておくとして、とても素直な人間だと感じた。


「分かったよ、俺の名前はノア。これからよろしくね。とりあえず適当にーー」


 その時、突然、ノアの声を遮るように大声が響き渡った。


「--ま、魔物がでたぞ!大きい!あれはBランク級、ライホーンだ!」


 その声を聞いたノアは先ほどの馬車内でのレイモンの話を思い出していた。そのことを思った瞬間、ノアの身体は動いていた。


「ーーじゃ、行ってきます!」


「--え、お、おい!……か、勝手な奴だな。お前ら陣形を整えてーー」


 ノアはロイドの返答を聞く前に飛び出した。



 ノアがレイモンから聞いた話は、街の話だけではなかった。ラーム平野と呼ばれるこの場所は、聖王国と王国の間にある広大な平野らしい。豪魔の森にも近いが、ほとんど魔物とは出会わない場所だそうだ。しかし、ここ数日は森から出てくる魔物の数が急激に増加しているらしい。予想ではここ最近、豪魔の森が大規模な破壊にあって餌が不足したためとか。そのため、レイモンさんは護衛としてたくさんの冒険者に依頼を出したらしい。それを聞いたノアは内心ではびくびくしていたが、しかし反省は全くしていなかった。


(森を破壊したのは、あの勇者(アホ)が思いのほか強かったからだし、そもそもあの勇者(アホ)の攻撃も森を破壊してたから、つまり俺は何も悪くないけど……)


「まあ関係者であることは変わりないわけで、これから暮らす街の人にもしものことが合ったら、何となく悪い気がするし…」


 ノアは森の方角から向かってくる、魔物角鎧獣(ライホーン)を目視した。硬い外殻に身を包んだ一角獣。まるで鎧を纏っているような身体は、並みの剣では刃が通らないだろう。


 しかし、ノアは不敵な笑みを浮かべながら、ただ突っ立っているだけである。


「さて、新装備を試すのも悪くないかな。さあ、魔剣ルガーナ。行こうか」


 そう言ってノアは、魔剣に手を添え、勢いよく抜き放ーーせなかった。


「あ、あれ、お、おい魔剣ルガーナよ。ぬ、抜けな、い!」


 魔力によって身体強化しても全く抜ける気配がなかった。


 そんなことで四苦八苦していたら、もう目前までライホーンが来ていた。ものすごい速さで、こちらに向かってきている。


「やばやばだね……しょうがない。剣がだめなら拳で殴る!」


 ノアは、魔力を身体に最大限流し、武闘技(スキル)・身体強化を発動させる。

 向かってくる魔物ライホーンへと思いっきり腕をしならせながら、硬い外殻へと拳を振りぬいた。鎧のような硬い外殻が割れ、ライホーンは悲鳴をあげながら後方へ吹っ飛んだ。


「ッッグガァ⁉」


「意外と痛いけど、何とかなりそーー」


「ーー増援に来たぞ、ノア!」


 ノアは後方を振り返る。ロイド達冒険者が剣やら槍やら杖やら武器を構え、ライホーンを囲んでいく。


「護衛依頼は俺たちが受けたんだ。ここは任せてもらうぜ!」


 ノアとしては、自分で狩りたかったが、ロイド達が自分ですると言ったら別に構わなかった。ここは譲り、冒険者という存在がどういう戦い方をするのかも興味がある。


ロイドの仲間たちはロイドを入れて四人。それ以外の冒険者たちは商隊の護衛をしているようだ。


ロイドの仲間の一人は全身鎧(フルプレートメイル)に身を包んだ長身の男?だろうか。兜を被っているため素顔は分からない。片方の手に剣を持ち、もう片方の手には巨大な盾を構え、ライホーンの凶悪な突進を食い止めている。


 二人目の仲間は、耳の長い弓使い。

 ノアとしては初めて見る森妖精(エルフ)族は、容姿が整っており、正に妖精と言っても過言ではないと感じた。

 的確に仲間の援護をしている。ライホーンの硬い外皮を砕くほどの弓は、何らかの武闘技(スキル)か魔術を使っているのだろうとノアは考えた。


 最後にとんがり帽子を被った黒いローブ姿の魔術師の女の子。

 仲間たちが戦っているのを冷静に観察して、焦らずに詠唱を続けて元素系魔術の上等級である魔術を放つ瞬間、ライホーンを引き付けていた全身鎧(フルプレートメイル)の男が飛び下がり、男と入れ替わるように放たれた魔術が魔物に大ダメージを与えている。


「……すごいな、これが…連携か」


 ノアは思わず呟いていた。一人一人に役割があり、行動してそれは全てが勝利へとつながっている。それは、これまで何もしていなかったノアの横にいる剣士も。


「やっと溜まったぜ!みんな避けてくれ!」


 ロイドの手に持った剣が赤銅色に輝く。その手に持った剣を横に構え、ロイドは真っすぐにライホーンへと突っ込んでいく。


「<武闘技(スキル)赤熱闘気斬ヒートフォースソニック!>」


 ロイドの渾身の赤熱した刃が、紙を切り裂くようにいとも簡単に魔物を両断してのけた。そして魔物は断末魔を残す暇などなくどさりと地面に半身を落とした。


 ノアは拍手を送っていた。戦場に不釣り合いな音の出所に冒険者たちの視線が向く中、ノアは口を開いた。


「素晴らしかったよ。連携、とかコンビネーション?俺は今までソロだったからさ、こんなに効率よく倒せるものなんだね」


 ノアの落ち着いた称賛は、鼻につくものではなく素直に冒険者たちの心に響いた。最初に口を開いたのは魔術師の女の子である。


「ありがと!でもあなたならもっと簡単に終わらせることができたよね!あ〜あ、ロイドが無駄なことをした」


 そう言って、魔術師の女の子はパーティーのリーダーにジト目を向けた。


「おいおい、護衛依頼は俺達が受けたんだ。俺達が狩るのが筋ってもんだろ」


 ロイドと魔術師の女の子が話してる間、ノアの周りには他の冒険者たちが集まってきた。しかし、全身鎧の男?は何も声を発さずノアを見詰めてくるだけだ。


「ああ、こいつは俺達冒険者パーティー、赤竜の牙の盾役(タンク)ゲイルだ。訳あって声が出せねえ。だがいい奴だ」


 魔術師の女の子との話を切り上げて戻ってきたロイドが紹介した全身鎧の男。ライホーンの強烈な突進を食い止めていた男だ。声が出せないとは一体どういうことなのか、少し興味が沸いたノアだったが初対面の相手に聞かれても困るだけだろう。別にどうでもいいかと思いなおすことにした。


「同じく私は赤竜の牙の弓術師、レミーナよ。よろしくね」


 レミーナは森妖精(エルフ)族であり、サラサラした金髪を肩口で切り揃えた女性。切れ長の瞳は綺麗な翡翠色をしている。地味な茶色の服を着ており、肌を全く見せていない。


「よろしく、ゲイルさん、レミーナさん。俺はノア、剣と魔術はまあまあできるつもりだよ。あと体術もそれなりにはできるね。これからよろしく」


「さん付けなんて冒険者には必要ないわ、身体がかゆくなっちゃう、そうでしょゲイル?」


 レミーナが確認するようにゲイルに言うと、ゲイルはすかさず頷いた。


「……拳だけでライホーンの巨体を吹っ飛ばした奴がそれなり、か。面白れぇ奴だなノアは」


 ロイドが笑いながら肩を組んでくる。ノアは馴れ馴れしいなと一瞬思ったが、冒険者はこれくらいがちょうどいいのかと思うことにした。


「私はソフィア!ソフィア・フリンクス!魔術師。でさ、あなたの魔力はこれまで見てきた誰よりもすごいよ!それにその剣は魔剣?」


 次に、元気一杯に自己紹介したのは魔術師の女の子だ。興味津々なのか、ノアに触れるほど近付いてくる。近くで見ると、とんがり帽子で隠れていた容姿が良く見えた。幼さの残る顔立ちだが、その容姿は森妖精(エルフ)のレミーナに引けを取らないほど整っていた。朱色の髪に同色の瞳は透き通っていて、ノアは美しいと感じた。


(それに家名を持っている、か。もしかしたら貴族?というものなのかな)


「ああ、これは魔剣だよ。ただ、なぜか抜けないんだよね」


 ノアはソフィアが見やすいよう、剣帯から【魔剣ルガーナ】を外して渡してやった。ソフィアはお礼を言って、魔剣を食い入るように観察し手に取って見始めた。その瞳の色は透き通るような空色に変わっている。


「ソフィは魔眼持ちなんだ。魔力を視ることができる【魔流眼】。魔剣が抜けない理由も何か分かるかもな」


 ロイドの説明を聞いて、ノアは感銘を受けた。自分も種類は違うが魔眼持ちだからである。


「へぇ、魔流眼、ね。魔力が視えるなら何かわかるかな」


 ロイドはノアのその軽い反応をみて、驚いていたがノアは分からない。魔眼持ちはすさまじく珍しいもので英雄紋よりは、魔眼持ちは多いがそれでも珍しい事には変わらない。それを軽く流したノアに釈然としないものを抱えながらも、ロイドは追究しなかった。


 見終わったのか、ソフィアが声をかけてきた。


「ノア!これはすごい剣だよ。意思を持ってる。ただ、多分ノアがこの魔剣に認められていないから、だから……」


「抜けない、か。意思を持ってるねぇ。じゃあどうやったら認められるかな?」


「ごめんね。あたしじゃそこまでは分かんないや」


 しょんぼりと肩を落とし、申し訳なさそうに俯いたソフィア。しかし次に顔を上げた時には、もうソフィアが自分を見る瞳は興味の色で占められていた。


 ソフィアから魔剣を返され、ノアは元あったように剣帯に差した。剣を一回撫でて、


「それでもありがとう。こいつが俺を認めてないってことが分かっただけでも十分だよ」


(……サマエルは、この事分かってて黙ってたな)


 魔物の友人を思い出し、ノアは軽くため息を吐いた。話が一段落ついたのを見計らったのか、レイモンさんが馬車から降りてきて声をかけてきた。


「皆さん、終わりましたか?そろそろ出発するので乗ってくださいますか?」


 冒険者たちが口々に了解を告げ、商隊の護衛につく中、ノアも適当な位置で護衛でもしようと思ったらソフィアに手を引っ張られ馬車の中に押し込まれた。それから街に着くまで質問攻めにあったノアであった。

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