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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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開会式


 


 空は青空が澄み渡る快晴。今日は闘技大会開催日である。闘技場の周りを囲むように設置された観客席は満員であった。五万人が観戦できるように造られた席は貴族席、平民席と分かれていて、その他に貴賓席ーー来賓と王族のためにあるガラス張りで仕切られた部屋に椅子が用意され、闘技場を見下ろせるように作られている。


 闘技場には現在、参加者総勢七百名を超える人数が闘技場内に集まっていた。それほどの数が集まっているにも関わらず、舞台にはまだまだ余裕がある。


 客席に囲まれたその舞台上に、ノアとレナもいた。不思議な材質で造られた舞台をつま先で確かめながら、ノアは周囲の様子を見た。


「これから開会式が始まって、それからAブロックの試合が始まるんだよね……」


「……ん、ノア、決勝トーナメントまで来てね」


 闘技大会の予選の形式はバトルロワイヤル。AブロックからGブロックの七つに分かれ、もう既に参加者は振り分けられていた。各ブロックごとに決勝トーナメントに進めるのは、たった二人だけ。


 ちなみにノアはCブロックで、レナがAブロックに振り分けられていた。


「……レナ、頑張ってね……応援してるから」


 ノアそう言ってレナの頭に手を乗せると、レナは気合十分といった風に小さな胸を張った。


「……ん、ノア、先に行って待ってる」


 笑みを浮かべて、ノアはレナの頭に置いている手をゆっくりと動かした。


(まあ、順当にいけば普通に決勝トーナメントまで来るだろうな)


 レナの実力は英雄級に届いているだろう。何事もなければ余裕で決勝トーナメントまで来るに違いない。懸念としては、レナは後衛としては万能だが、ノアはレナの近接戦をあまり見たことがなかった。それにここは自然が多い場ではない。レナの能力的に不利なのではないかと思ったが、本人が気合十分といった風なのだ。何か策があるのだろう。


 ノアは信じることにする。


 また、決勝トーナメントは、七ブロック二人で計十四人と、前回優勝者レイン・アスカテル、それと王の推薦する王国騎士の二人。計十六人で争うことになる。


 もちろん、ノアは優勝を目指すつもりである。レインの実力は何となくわかる。ノアとしては王の推薦する王国騎士に注目していた。


(……確か、第三騎士団団長っていう噂が広がってたような……)


 第三騎士団と第四騎士団は王国における実質的な軍隊の役割を持つ。王国騎士団長の強さを知っているノアとしては、現段階で一番警戒している男だ。その他にも、きっと英雄級に届いている者が何人もいるだろう。ざっと見ただけでは分からないが、少なくとも人族の限界、A級に届いている者はごまんといる。


 ノアが考え事をしていると、唐突に会場内によく通る男性の声が響き渡った。


『お集りの皆様。お待たせいたしました! それでは、これより、第百二十七回、リンヴァルム王国闘技大会を開催いたします!』


 風を使った魔術か何かだろうか。会場の隅々まで行き渡る声だ。その声が響き渡った後、観客席から爆発的に歓声が上がった。随分と盛り上がっている。


『まずはリンヴァルム王国国王、ダスティヌス・ミルス・リンヴァルム陛下から開会の挨拶があります』


 貴賓席中央に座るリンヴァルム王、ダスティヌスに視線を向ける。彼の背後には魔術師が一人、それと仮面を付けた黒髪の女性、近衛騎士団長がいる。


 王が立ち上がったその瞬間、民衆が静まり返った。覇気溢れるリンヴァルム王の堂々とした姿がそうさせたのだろう。


『親愛なるリンヴァルム王国民、無事に、今日この日を共に迎えられたことを嬉しく思う。そしてよく集まってくれた。年に一度の闘技大会、大いに盛り上がってーー」


 リンヴァルム王国国王ダスティヌスの挨拶が続く中、唐突にノアは自分の身体に別の不快な魔力が混ざったことを感じた。


ーーこれは……。


 魔力支配してみると、効果が分かる。その魔力はあらゆる低下能力を付与するもののようだ。誰かが飛ばしてきたのだろう。試合は始まる前から始まっているという事か。


  ノアは不快な魔力の軌跡を辿った。調べていくと、それは一人の男から発せられているようだ。黒のローブを着ているその男は、枯れ木のような骨ばった指を覗かせ、その手には杖が握られている。


 ノアはその男を観察するように視た。彼からは、魔術師にも気付かれない程の微量に、不快な魔力が流れ出ている。彼はその不快な魔力を周囲の参加者の身体に送り込んでいるのだ。


 他に気付いている者はいないか、ノアは周りに視線を向ける。


ーーお、流石は闘技大会参加者だな。


 近くにいる十人くらいは気付いているようだ。だが、どうやら彼らは不快な魔力を流す魔術師を放置するようだ。彼らは各々のやり方で防いでいる。


「……むう、嫌な魔力。気持ち悪い」


「レナ、あれは……魔術なのかな?」


「……違う、多分、呪術」


ーー呪術、という事はあれが呪術師という者か。


 ノアは呪術師という存在を初めて見るため分からなかったが、知識としてはヴァレールから教えられていた。正面戦闘は苦手だが、低下能力(バッドステータス)付与を得意とする魔力を使った技能の一つ、それが呪術だ。


 例としては身体能力低下、状態異常付与などの効果を起こす。呪術習得には特殊な修行と才能が必要らしく使い手は少ないらしいが。


「……むう、ぶっ飛ばしていい……?」


 レナが可愛らしい容姿で過激な事を言う。ノアとしてはそれも悪いことではないと思う。なぜなら呪術師がしていることは明らかに反則行為であるから。だが、それを実証する証拠がない。魔力の流れを視ることができる魔眼、魔流眼を持つ者がいれば簡単だが……


「……レナ、少しだけ待って、今片付けるから」


 ノアはレナの頭を撫でながら、<魔力支配(マジック・ルーラ)>を使って、不快な魔力を取り除いてあげた。


「ん、ありがと、ノア」


 呪術は非常に気付かれにくく、防ぐ手段も限られている。ノアのような魔力操作能力を持つ英雄紋を持っているもの、または元々非常に魔力操作が上手いものしか防げないだろう。


 魔力操作は大量の魔力を持つ人ほど難しい。レナは常人の百倍、魔術師の十倍近く魔力がある古代妖精(ハイ・エルフ)だ。そのため、対処するのは難しいのだろう。


 ノアもあの男を放置すべきか、考える。周りを弱体させる能力は、参加者が本気の実力を引き出せなくする。そうすると、ノアは困る。彼らの技を身をもって知り、更なる高みを目指す必要が自分にはあるのだ。


 ノアは人知れず暗い笑みを浮かべて、能力を行使した。自身が持つ支配の力を込めた魔力を微量に放出。英雄紋から漆黒のオーラが漏れ出ないよう、薄めて放出する。


 呪術師がしていることを、同じような事をして返す。


 微量な魔力放出は実際するとかなり神経を研ぎ澄ませる行為のため、結構難しいがこれも経験だ。ノアの支配の魔力が呪術師に届いた瞬間、ノアは笑みを深めた。


「……ノア、何かした……?」


「まあね、あの男は多分Aブロックだろ……? 見てれば分かるさ」


「……ん」


 そんなやり取りをしているうちに開会式は終わりを迎えたようだ。ノアはレナにもう一度、応援の言葉をかけて、エルマが待つ客席に向かった。他の参加者達もAブロックの者以外は舞台上から姿を消していく。


 闘技場内が慌ただしくなってきた。アナウンスが鳴り響き、Aブロックの試合がすぐに始まるのだ。



 

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