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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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ノアの企み


 茜色の光が窓の隙間から部屋に差し込む中、ノアはベットからのっそりとした動きで起き上がった。背後から抱きしめてもらっていたルガの姿はなく、代わりにベットに魔剣の状態でたてかけてあり、ノアは目尻を柔らかに下げた。


 ノアは窓を開けて、空気を入れ変える。すっかり夕焼け色に染まった空を見て、顔をしかめた。


 フィリアの事は一先ず置いておく。彼女がもし、望まない役割として”聖女”という存在を強要されているのなら、助けたいと思う。だが、元来彼女は優しすぎる性格だ。自分から望んで、という事も充分ありうる。無理やり自分の感情をぶつけても、相手にとって迷惑になるかもしれない。


 確かな確証があるまで、動かない方がいい。


 自分の感情を殺して、ノアはそう結論づけた。


 そこまで考えた時、丁度良く扉からノックの音が響いた。


「……ノア、起きてる……?」


「お加減はいかがでしょうか」


 レナとエルマの二人の声が聞こえた。ノアはばつが悪そうに片手を後頭部に置いた。二人と会うのは何となく気恥ずかしいというか……


 だが、そんなことも言ってられない。二人には心配をかけたのだ。ノアは吹っ切って扉を開けて、二人を招き入れた。


「ノア様、もう……大丈夫なのですか?」


「もう、大丈夫。心配かけたね」


「……ん、いつものノア」


 レナがそう言って笑い、エルマもわずかに目元を緩ませた。二人はそれ以上、何も言わない。その気遣いに、ノアは嬉しく思った。


 フィリアのことは過去の自分が選択した”代償”であると思っている。これは、自分が払わなくてはいけないものだ。


「明日、闘技大会の会場に行こう」


 唐突に言ったノアにレナが首を傾げた。


「……始まるのは、あと一週間後くらいだよ?」


「もう、受付は始まってる。先に済ませておいた方がいいだろ?」


 闘技大会に出るのは、王国の貴族に力を示すため。


 そんな目的が今は変わっている。近衛騎士団長の強さを見て、実感した。そして、幼馴染であるフィリアの存在。アスカテル家と聖王国の脅威から自分を、レナやエルマ、ルガを守るため。


 自分にはもっと力が必要だ。


 闘技大会で、強者の技を受けて、感じて、自分の力へと還元する。全ての問題を吹き飛ばせる力が自分には必要なのだ。


 ノアは毅然とした眼差しで、部屋の窓から王都の街並みを見た。決意を固めたノアの横顔に、レナとエルマが薄らと頬を赤らめて見つめた。






 そして次の日。


 ノア達は連れ立って、闘技大会の会場に来ていた。貴族街と平民街のちょうど間にあるこの闘技場は、古代の時代に使用されていたもの、古代遺産(オーパーツ)らしく、闘技場内は結界が常時展開されている。その内部に入った者は身体的ダメージが精神的なダメージに変換されるのだとか。


 簡単に言えば、剣で斬りつけられても、傷がつくのではなく、気絶するだけ。即死級の攻撃を受けた時は気絶し、それ以外のダメージは精神に負荷が加えられる。


 ノアはぬるい仕様だと思ったが、他の参加者にとってはありがたいものなのだろう。これらの事は受付で全て説明されたことだ。


 登録を完了させたノアは、隣の受付で登録をしていたレナを待つことにする。レナは何度も受付嬢から意思確認をされているようで、長引いている。可憐な幼女が闘技大会に出ると言ったら、普通の大人は止めるだろう。それはしょうがないと思ったが、レナは可憐なだけの幼女ではない。


 まだ一週間前にも関わらず、参加者受付には行列とまではいかずとも、数十人は並んでいる。毎日この調子だとしたら、参加者は総勢何人になるのか。


 それからやっと登録を終えたレナを宿屋まで送って、ノアは一人、王都の雑踏の中に消えた。










 ノアがやってきたのは、第四騎士団団長のアザミに紹介された情報屋の店。外観は暗い店を見上げ、それから年季の入った扉を押し開けた。


 相変わらず人がいない店内に入り、ノアは店主に声をかけた。


「やあ、今、いいかな?」


「……いらっしゃい。見ての通りだよ」


 客がいない店内を見渡しながら、店主は苦笑いを浮かべた。今は昼時だからなのか、夜でも同じなのか分からないが、ノアは気にせずカウンター席についた。


「一応、飲み屋でもあるんだ。なんか飲んでいってくれや」


「……じゃあ、果実水で」


 ノアがそう言うと、店主は黙って果実水を用意する。透明なグラスに鮮やかな果実水の色が映える。ノアは注いでもらった果実水を一口飲みながら、本題に入る。


「情報屋としての店主に話がある」


 そう言って、ノアはお金がたんまり入った布袋をテーブルの上に滑らせた。


「……全部金貨、か。内容によるがお前さんは見どころがありそうだ。多少負けてやっても構わないぞ」


 ノアがここに来た目的は、これから争うことになるかもしれないアスカテル家の情報を得るため。それと、ギルベル・アスカテルの情報も欲しい。彼の目的を知っておけば、彼の協力を得られる可能性がある。


 フィリアの事も知りたいが、それは自分で聞けばいいことだ。”聖女”としての彼女と話すためには、今の自分では地位が釣り合わないだろう。だから……


「アスカテル家について、全てを知りたい。それと、ギルベル・アスカテルについても」


「……全て、か。なら、ちょっと待ってくれ」


 そう言って、店主は店の奥に一度引っ込んだ。しばらくして、羊皮紙の束を持ってきた。ノアはそれを渡されて、目を細めた。


「これは……資料、かな?」


「そう、悪魔族と繋がり、聖王国とも繋がっている王国の大貴族。アスカテル家についての全てだ」


 ノアはこれを調べ上げた店主の顔を驚きの表情で調べた。黒髪をオールバックにした店主は特に誇るでもなく淡々とした表情でこちらを見ていた。


(聖王国との繋がり、か。それなら、今回の聖王国使節団は……)


 それが真実だとしたら、フィリアは……。


「……次は、ギルベルについて、だったな」


 ノアは一旦、意識を切り替える。


「ああ、聞かせてくれ」


 店主はグラスを拭きながら、ゆっくりと話し始めた。ノアはその苛烈な半生を目を閉じながら聞いた。外が暗くなってきた頃、ノアは席を立った。空間収納(ストレージ)を使い、資料を中に放り込んでからノアは店主に礼を言って店を出た。


 この日、ノアはある計画を立てた。歩きながら、夜空に輝く月を見上げる。。


 自分にないものは地位。王国で確固とした地位を築く。それを手に入れるには、これから起こる全ての問題を掌握する必要がある。そうすれば、


ーー俺が……王国を救う大英雄になる。


 ノアは、英雄には似合わない凄惨な笑みを浮かべた。空には、その決心を祝福するように大きな満月が輝いていた。


 そして、一週間後、波乱に満ちた闘技大会が開催される。


 



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