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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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レナの決意



 聖王国の勇者、レノスは現在、馬車に揺られてリンヴァルム王国に向かっていた。広い車内には聖光教の象徴、”聖女”とその側仕えである赤髪の女性がいる。


 向かいに座る聖女は、じっと外の景色を見つめている。サラサラの銀髪を揺らしながら、外の風に当たっている。絵画のような綺麗な横顔から目をそらし、レノスは視線を横に向けた。


聖女の隣に座る赤髪の女性。その人物には死の気配がある。所作や身体つきも武の心得がある者のそれだ。護衛も兼ねているのだろう。その女性はレノスの視線に気づき、にっこりと微笑んだ。胡散臭い笑顔だが、目があって無視するのも変だ。レノスは仕方なく口を開いた。


「城塞都市、メルギスまではあとどれくらいだ?」


「はい。このままのペースでいけば後一刻ほどで到着するかと思います」


「……そうか」


 よどみなく答えたその女性、ロベリアにレノスは短く返答した。何気なく外を見ると、馬に乗っている騎士達ーー護衛としてついてきている教会の騎士、聖堂騎士団が目についた。彼らも胡散臭い。騎士にしては気配を無意識に消している気がする。騎士というよりも、暗殺者と言われた方が納得がいくようにレノスは感じた。


 そう考えながらいると、ふと視線を感じた。レノスは視線を注いでいる人物のほうへ向く。


「どうかしましたか?」


 視線を向けていた人物、聖女フィリアが、急に振り向いたレノスにびっくりしたように肩を震わせた。


「……いえ、何でも、ありません」


 何でもありませんと言いながらも、彼女は透き通ったアイスブルーの瞳をちらちらとレノスに向けてくる。


「何か気になることでもありましたか?」


 淡々と聞くレノスに、フィリアはしばらく逡巡していた様子だったが、やがて決心を固めたのかおずおずと口を開いた。


「……ヴァレールを討伐したのは貴方でしたね?」


 聖女の口からその名が出るとは思わなかったレノスは内心首を傾げた。公の発表ではヴァレールを討伐したのはレノスになっている。ノアの存在は、聖王とレノス、それにあの場にいた聖騎士団員たちは秘匿している。だが、おそらく教会の上層部は存在を把握しているだろう。枢機卿であるエストビオも知っていたのだ。教皇も知っていると考えるべきだろう。


「……そうですが、それが何か?」


 そこで、フィリアは瞳を細めてレノスを見た。真実を見極めるような瞳で。レノスでさえも、心の中が見透かされそうな圧力を感じた。


「……ヴァレールには……仲間などはいなかったのですか?」


「……はい、誓って、いませんでした」


 余計なことは一切言わず、レノスは会話を打ち切った。これ以上続けていたらボロが出そうだ。彼女の前で嘘をつくのは、覚悟がいる。変な話だが、レノスはそう感じた。


(神に祝福されし聖なる乙女、”聖女”、か。あながち間違いではないのかもな)


 そんなレノスの様子をじっと聖女は見つめていた。




 

 





 聖王国との国境、城塞都市メルギス。


 何度も戦争が行われたラーム平野を通った先にある都市。聖王国と王国が幾度もぶつかり合った地である。


勇者の力、『勇星紋』を持つレノスは王国との戦争には一度も出ていない。それは勇者の力を人に向けてはいけないということで先代の聖王が決めたことである。


 御者が声を上げる。


「見えてきました、メルギスの街が」


 その声にレノスは窓から顔を出して、難攻不落の城塞都市を見た。魔力で視力を強化すると、出迎えの一団が見えた。






 メルギスの門の前に着いた聖王国使節団一行を出迎えたのは、謁見を終えて帰ってきた領主、ガレス・ドール・ヘルミナス伯爵だ。


 正装を着て出迎えたガレスの腰には剣がない。傍には配下たちが大勢集まっているようだ。


 馬車から降りるのはまず、レノスである。聖騎士団長として受けた今回の任務は聖女の護衛である。レノスは素早く視線を巡らせて、不審な動きをしているものがいないかを確認した。


 それから、馬車内にいる護衛に声をかける。


 続いて、神官服を着ている赤髪の女性ロベリア、最後にに手を引かれてて降りてくる聖女フィリアである。周りを教会の騎士、聖堂騎士団が囲むようにして護衛する。


 ガレスは一歩前に出て、礼をした。


「ご無事の到着、何よりです。聖女フィリア・ルナトリア様、並びに聖王国聖騎士団長レノス・アマデウス様。リンヴァルム王国の入り口、メルギスへようこそ。心より歓迎いたします」


 深々と礼をする王国の伯爵に続くように、後ろの配下たちも頭を下げた。

 



*   *   *   *













 闘技大会まで約二週間。


 ノア達は城にしばらく滞在した後、王都の宿屋に戻った。城を出る時に、ヘレンと会い、もじもじした様子で頼みごとをしてきた。その内容を聞いて、ノアは笑みを浮かべた。


 闘技大会中に城では貴族たちによる舞踏会があるらしい。頼みはそれに出席してほしいというもの。舞踏会にはアスカテル家の当主も来るらしい。ノアはその人物を一度、見ておきたかったため快く返事した。



 そして、現在。ノアは宿屋『黄金亭』の自室のベットに寝ころびながら、自分の手の中にある物を見つめていた。それは赤黒い血管が透けて見える不気味な果実のような物。


ーー”種”と呼んでいた。


 魔人種の中でも、トップクラスの強さを持つ悪魔族。この”種”を使えば、簡単にその存在になれる。これを使えば、自分はどのくらい強くなるのか。だが、問題は元の姿に戻れるのか、そして意識はどうなるのかの二つだ。問題は山積みである。そもそも、これがどういうものなのか、もっと理解する必要があるだろう。


 闘技大会まで、時間はある。ノアはもっと強くならなければいけない。


 聖王国から、また刺客がくるかもしれないし、英雄の一族、アスカテル家と争うことになるかもしれない。


 ノアが考えていると、扉からノックの音が響いた。扉の奥から声が聞こえた。


「……ノア、開けていい?」


「あるじよ、我もいるぞ!」


 訪問者はレナとルガだ。あの二人は仲が悪そうだが、意外といつも一緒にいる。今日も二人で部屋で遊んでいるところだったはず。


 ノアは無詠唱で空間系魔術、空間収納(ストレージ)を使い、空間の裂けめに”種”を放り込んだ。それから起き上がって、扉を開ける。


「どうぞ。それで、どうしたの? 宿屋にいるだけじゃ暇かな?」


 二人を部屋に入れながら、尋ねるとレナが首を横に振った。


「……違う。ノアに相談」


「……うん、わかった。じゃあ、あっちで話そうか」


 レナが真剣な雰囲気のため、ノアはベットから降りて、部屋にある椅子に移る。レナも机を挟んだ向かい側の椅子に座り、話し始めた。ルガはベットに座り、静かにしている。


「それで、相談って?」


「……ん、私も闘技大会に出ようと思う」


 その言葉に、ノアは目を丸くした。


「……そ、それは……俺と戦うことになるかもしれないよ?」


「それでもいい」


 即答したレナの瞳には強い決意の色が宿っていた。


「……出ることを決意した理由を聞いても?」


「……実戦経験を積みたいと思ったのが一つ。後は、ノアとは戦ったことがなかったから」


「いや、俺は戦いたいとは思わないんだけど……」


 そう言うと、レナがいつもの眠そうな瞳ではなく、強い瞳でノアを見た。


「それ。ノアは私を守る対象だと思ってる。それがやだ。私は一緒に戦う対等な存在になりたい。ノアが一番欲しい物って言ってた、仲間に……なりたい、から」


「……俺は対等な存在だと思ってる。そんなつもりはなかーー」


「ーー盗賊討伐するとき、私は留守番だった」


 ノアの言葉を遮って、レナが言う。思いのほか根に持っていたのか。ノアとしてはそういう理由で留守番させたわけではない。しかし、レナの言葉も合っている気がした。なぜなら、この幼い少女が危険な目に合っていたらと想像するだけで、暗い感情が溢れてくるからだ。


 ノアは諦めることにした。レナの揺らがない瞳を見た瞬間、説得は無意味であることを理解していたため。


「分かった。でも、できるだけレナとは戦いたくないな」


 レナの英雄紋、『妖精紋』の能力は自然の能力を操る事。魔力で直接攻撃するような放出系の攻撃なら、ノアは支配して終わりだが、レナの能力は既存の木々や草を成長させたりする力のため、魔力の支配は効かないだろう。


「……ノアに勝ったら、認めてくれる?」


(もう認めてるって言っても、レナは聞かないだろうな)


 ノアはレナのことを自分では仲間だと思っている。だが、少なからずレナを守ろうとする意識はあることを自覚していた。でも、それは、


(レナが、大切な存在だから、だろうね)


 ノアは優しげに笑って、自分の感情を誤魔化した。



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