表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
28/85

盗賊退治 一



話し合いが終わった後、団長であるアザミは宿場街にいる第四騎士団員の全てを招集。半数をメルギスの街と宿場街を繋ぐ街道に配置。


ノアとアザミの二人は、盗賊達がアジトにしている洞窟へ向かうことになった。騎士団長自らが単独行動をとるのはノアとしては面白いと思うが、組織の長としての行動ではないだろう。


そう思って聞いてみたのだが、アザミはどうやら何度も単独で動いているらしい。理由を聞くと、A級犯罪者には自分単独で挑んだ方が早く終わるからとか。


つまり足手まといという事かと思ったが、ノアは口には出さなかった。


ノアは現在、宿場街の門にいた。門から目視で続々とこの宿場街に来る馬車が何台も見える。やはり、闘技大会の影響か。一か月前から、そうなのだから、直前になったらどれほど人が集まるのだろうか。

既に第四騎士団は出発し、今頃は街道を見廻りしているだろう。エルマもノアの頼みを聞いてくれて、騎士団と行動を共にしているが彼女は上手くやっていけるだろうか。


 

第四騎士団は皆、馬に乗って移動する。当然、ノアの分まで馬を用意するとのことだが、ここで問題が発生した。


 ノアは馬に乗れないのだ。ちなみにレナもエルマも乗ったことがないとのこと。ましてやルガは当然だ。


 しかし、今更言い出せない。一緒に来るという騎士団長のアザミだが、さっきからこちらを見てニヤニヤしている。もしかしなくても馬に乗れないことが悟られているのではないだろうか。その笑みはノアを苛立たせるが、かといって今の自分は無力だ。


「どうしました? まさか、噂の英雄殿は馬に乗ったことがないのですか?」


「い、いや、自分で走った方が速いからね……」


 何だかノアは負けた気分になった。


「なるほどなるほど、流石は英雄ですね。それでは私は疲れるので馬に乗っていきますが、よろしいですよね?」


 涼しい顔をして言ったアザミは馬を走らせた。ノアは魔力を身体に流して身体強化する。馬に乗って、悠々と走るアザミの背を追う。風を切りながら追いついて並走する。


 ある程度整備された街道からずれて、盗賊達が潜伏しているという宿場町近郊の森へ向かった。


 走りながら、ノアは気になった事を聞いてみる。


「ーーそういえば、A級犯罪者ってどういうやつなの?」


「……判明しているのは【戦鬼のモウル】という男。元は傭兵で、王国と聖王国との戦争で活躍した人物ですね。その後、貴族に仕官しましたが、主である貴族を殺害して金品を強奪。現在は……」


「ーー現在は……?」


「ある貴族との繋がりが噂されている盗賊、ですね」


 貴族を殺した人間が、同じ貴族である人間に仕えるだろうか。もし、そうならその貴族はよっぽど高位で力を持った貴族しか従えることはできない。


「ーーなるほど、それでそいつの強さは?」


「平均的なA級冒険者よりは強いですね。ですが、純粋な戦士型ですから、魔術などは使えないようです。英雄紋所持者でもありません」


 A級と聞いていたので、やはりその程度かと特に落胆もせず、かと言って喜びもせずにノアは納得した。それから、これまでどんな犯罪者達を始末してきたのか、腰に差してある魔剣の能力はどういうものなのか、などノアが興味を持った事を片っ端から聞いて言ったのだが、前者の問いには答えてくれたが、後者の問いにはあとでわかりますよ、というだけで教えてくれなかった。


 その光景を第三者が見たら。この二人の姿は世間話をするかのように軽いものであり、今から盗賊達と殺し合う姿には到底思えないだろう。






 森に着いたところで、アザミは一旦馬から降りた。ノアは一日中、身体強化し続けても問題ない程の魔力量を持っているし、身体強化しているおかげで、疲れもない。


「ここからは気配を消していきましょう。私についてきて下さい」


 そう言って、アザミはどんどん森の中に入っていく。ノアも特に気負いなく、自然体でその背に続いた。







*   *   *




 森にある洞窟内で。


 松明のみが照らす場所で、片目に大きな傷をつけた大男が静かに地面にある物を置いた。それは真っ赤な果実のような物だが、よく見ると血管のような赤い筋が透けて見える。大きさは手の平に収まる程度だが、それは他を圧倒する存在感を放っていた。


 どこからどうみても、食欲など沸かない不気味な赤い果実。それを唸りながら、大男はじっと見ていた。この男こそが、【戦鬼のモウル】と呼ばれるA級犯罪者である。


 数々の犯罪をしてきた罪人だが、ある貴族によって生かされた彼は現在、その貴族の命によって動いていた。


 ならず者たちを力で縛りあげる。逆らうものは殺す。それでいて、不満が爆発しないように、馬車や商団を襲って、攫ってきた女達をあてがう。


 それだけで簡単に従うのだ。今も、昨日襲撃した商団にいた女たちが盗賊達に犯されている。男達の欲望にまみれた声、肉を殴打する音、女の悲鳴。それが、モウルの耳に薄らと聞こえてくる。


「あの”鮮血騎士団”がすぐ近くまで来てるっていうのに、呑気なものだね。あんたもそう思うだろ?」


 呆れたような物言いで、岩肌の陰から姿を現したのは一人の男だ。東部には犬の耳と腰から尻尾を生やした獣人族(ビースト)で、一本のナイフを手で回して遊んでいる。


「お前か、王都へ向かう馬車を襲って来いと言ったはずだぞ俺は。何でまだここにいる?」


「……その気持ち悪いの、何?」


 モウルの言葉には取り合わずに、獣人族の男から呆然とした声が漏れた。男が向けた視線の先には、地面に置いてある不気味な果実のような物がある。


「お前には関係ない事だ」


「……あんたがあの貴族からどんな命令を受けたのか知らないけど、死にに行けと言われていくわけなーー」


 言葉の途中でモウルが動く。


「--グっガハ⁉」


その長い手で獣人族の男の首を押さえつけて、岩肌に叩きつけた。


「もう一度言わせてえのか!、B級犯罪者のマルケス?」


「ッくッ! は、なせ、よッ!」


 モウルは苦し気に顔を歪めるマルケスから言われたとおりに手を離した。マルケスは咳き込んでから。モウルを気丈に睨みつけてくるが、顔色が青くなっている。


「早く行け!」


「……ちっ」


 最後に舌打ちをしながら、早歩きで出ていくその背を、モウルは鼻で笑った。


 それから、しばらくして。洞窟が振動して、パラパラと岩壁から石や砂が流れ落ちた。モウルは一度、舌打ちをしてから地面に置いてある不気味な果実を手に取って懐に入れた。


「……”種”を使う状況にだけは、なりたくねえが……くそッ!」


 モウルは握りこぶしを作って、苛立たし気に岩壁を叩いた。







*   *   *





 ノアとアザミは森を進み、ついに盗賊達が潜伏している洞窟にたどり着いた。途中、魔物にも襲われたが、断末魔の声を上げる前に殺したので、気付かれてはいないはずだ。ノアの英雄紋の第三の能力を使えば殺さなくてもいいが、できるだけこの力は秘密にした方がいい。


 しかし、ここで問題が発生していた。問題と言っても別に悪いことではないが。


 洞窟の狭い入り口には二つの死体があった。二つの死体の装備は統一性がない。十中八九、盗賊だろう。まるでノア達の前に突入した者でもいたのか。


 二つの死体はどちらも上半身と下半身が分断されたようになって死んでいる。しかもまだ殺されたばかりなのか血だまりが広がり続けている。巨大な刃物で斬りされたような死因は、ノアの興味を誘った。


「……どうします? ノア殿が先頭でいきます?」


「俺はどっちでも。少し楽しくなってきた」


「……人命がかかっているのですよ? そんな気持ちで行くのは失礼ではないですか?」


 そう苦言を零すアザミも薄らと笑みを浮かべていた。それはそれは楽しそうに。


 そこにいたのは、犯罪者を取り締まる冷徹な第四騎士団長のアザミ・レトールではない。


ーーただの人斬りじゃないか。


 濃厚な死の気配を漂わせたアザミが、腰に差してある魔剣を抜き放った。黒の鞘から抜き放たれた刀身の色は予想外の銀。柄や鍔も黒い中で、その刀身だけが異様に目立っている。しかし、よく見ると文字のようなものが刀身に彫ってある。


「--いきますよ」


「了解」


 ノアとアザミは洞窟内部へと足を踏み入れた。


 


 


 



 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ