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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
一章 聖王国からの刺客編
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第三の能力


ーーラーム平野での戦闘ーー


冒険者や騎士達にも負傷者が出始めた戦場。何より魔物の数が多過ぎるのだ。また、空から支援してくれていたレナと、Aランク級のバッカスが、一人で突っ込んで行ったノアの手助けのためにこの場を離れたことも理由の一つである。


今はAランク冒険者にして、弓術士のマールと元王国近衛騎士である領主のガレス、ギルドマスターのアイクに負担がかかっていた。Cランク冒険者は、負傷者が増え始めて、Bランク冒険者は疲労が目立ってきている。


Aランク級の魔物は、ノア達が相手をしているようで、魔物の大群の最後尾あたりで、轟音が鳴り響いている。衝撃で何体もの魔物達が巻き添えを食らって吹き飛ばされているのが見えた。



 




*   *   *






 ノアは、灼熱を纏う鬼の王と激戦を繰り広げていた。通常では、身体強化だけの武闘技(スキル)では、厳しい相手だ。馬鹿でかい大剣を片手で軽々しく使っており、灼熱を纏う剛腕から繰り出される剣戟は、近付くことさえ難しい。


 しかし、ノアが装備している服、『覇竜の衣』は熱量を完全無効している。そのために剣を打ち合うことが可能なのだ。


「グルアアッ!」


 鬼王(オーガロード)の力の剣に対して、ノアは技術を生かした技の剣。大剣の一撃を、剣を斜めにして受け流し、隙ができた胴体目掛けて剣を振り下ろした。


「グアッ⁉」


「流石に硬い、な」


 魔術を付与した剣は、鬼王(オーガロード)の脇腹の硬い皮膚に少し食い込んだところで止まっていた。それを認識すると、額に青筋を浮かべた鬼の王は空いた手で拳を振りぬいた。ノアは剣を引き抜こうとしたが、筋肉が収縮して引き抜けない。


「う、おわっ⁉」


 身体を捻って、至近距離からの拳を間一髪避けた。しかしオーガロードはすぐに拳を引き戻して、二撃目が飛んでくる。ノアは剣を引き抜くことを諦めて、後方に飛ぶ。


 オーガロードは警戒したように、唸り声を上げながら睨んでくる。そして脇腹に刺さっている剣を煩わしそうに投げ捨てた。


「これは……どうしようか。拳じゃ話にならないし……レナやエルマは大丈夫かな?」


 まだノアには余裕がある。空間魔術を使えば硬い皮膚も斬り裂けるだろう。だから、離れたところで戦っているレナの方に横目を向けた。エルマには、黒狼を見つけたら自分に知らせるように言ったはずだが、まだ来ていない。


(早く終わらせないといけない気がする。多分エルマは豪魔の森の中にいるはずだけど……)


ちなみに、バッカスの方は見ない。時々轟音がしてくるが、別にどうでもいいからノアは見ない。


 妖精の羽を使って空中に飛ぶレナは、地面から伸びた太い幹を持つ木を何本も生み出して、地竜の動きを封じ込めていた。すると一瞬だけレナがこちらを見た気がした。


「流石レナ。強いな、って!?」


 突然、レナが縛り上げた地竜をこっちに投げ飛ばしてきたのだ。木を器用に操って、巨体である地竜を簡単に、そし勢いよく空中へ飛ばした。


 オーガロードはグルルと唸り声を上げながら、灼熱の赤いオーラを身体からあふれさせて気合十分、そんな雰囲気の所にーー


 巨体にふさわしい巨大な影がノアとオーガロードを覆う。一人と一体は共に空を見上げてーー


「オオオオオオオオオオォォッ⁉」


 地竜が悲鳴を上げながら落ちてくる。


「<空間転移(テレポーテーション)>」


「グガアアアアアアァ⁉」

 

 ノアは焦ったような悲鳴を上げたオーガロードを残して、一人離脱した。そして地上に降りてきたレナの隣に転移した。轟音を立てて地竜の巨体が落ち、その衝撃によって土埃と風圧が離れたノアの所まで押し寄せてくる。しかし、レナの腕の一振りで木々が前に来て壁のようになり遮ってくれる。


「……ノア、これが、連携!」


 むんっ、と可愛らしく胸を張ってどこか調子よく言ったレナを見て、ノアは引きつった笑みを見せて言った。


「……何か、ちがくね……?」


 その間、一人で必死にAランク級の魔物であるケルベロスと戦っていたバッカスであった。


「ま、まあこれで倒したわけだし、とりあえずレナ、ありがとう」


「……ん。ノア、連携、大切だよ」


 あれが連携だったかどうかは疑問が残るところだが、助かったのは事実だ。オーガロードによって投げ飛ばされたノアの魔術剣は、この広いラーム平野のどこかにはあるはずだが、探しながら相手ができるほど容易くはない。


 しかし、まだ戦いは終わっていない。ノアは懸念事項を考えながら、レナの頭に手を乗せた。


「レナ、ここは任せてもいい?」


 遠くの方を見据えるノアの横顔に、レナは察してその眠そうな目を見開いた。


「ん!任せて。ノアはエルマの方に」


 心配はいらないからと。心強く言ってくれたレナに、ノアはそのまま手を動かして頭を撫でてあげた。それから強く瞳を一度閉じてーー


「ーー行ってくる」


「すぐ、戻ってきて」


「了解」


 ノアは広大な森を目指して、力強く地面を蹴った。







*   *   *







 本気を出した黒狼は強かった。エルマの本来の能力である身勝手な感覚(オーバースローセンス)を使っても互角。身体能力に差がありすぎるのだ。その他に、多数の魔物達が視界の外から飛び掛かってくる。


 それでも致命傷だけは避けて、ナイフを閃かせる。だが、流した血の量も多い。ノアにもらった装備もボロボロになっている。所々、服が裂かれて、普段は絹よりも滑らかな肌が今は血がにじんだ痛々しい姿になっていた。


「化け物のお前が、人間のような容姿をしているのはおかしいだろう? どうだ、身体も醜くして、化け物らしくしてやろうか? ハハハハハハハハハハッ‼」


 人狼化した黒狼は、言動が凶暴化している。


「ッ化け物は、あなたでしょう?鏡でも見ていなさい」


 傷を抑えながら、睨んだ。エルマは内心、こうなることが何となくわかっていたのかもしれない。


 エルマは、最後に人の役に立ちたかった。人の命を奪うだけの存在であった自分が、最後くらいは少しでも真っ当になろうとした結果なのかもしれない。


 魔物達は粗方、片付けた。これでノアが戦うときは一対一に専念させることができる。これでやっと解放されるのだ。この化け物に殺されるのは嫌だったが、自分を最後に開放してくれたあの人の役に立てるのならーー


 エルマはそっと懐から自分が着けていた仮面を取り出した。そして、自分がかけている光彩眼鏡(ラスターレンズ)を外して、代わりに仮面を身に着けた。死ぬときは、これが相応しい。


(……服をボロボロにしてしまい、申し訳ありませんでした。”ノア”)


 心の中で、初めて名前を呼び、エルマは仮面の下で瞳を閉じた。


 諦めたような姿に、漆黒の毛並みを持った人狼は、牙を剥き出しにして嗤った。


「お前に相応しい最後を与えてやる。その無駄に美しい顔を、恐怖に歪めてやろう! 魔物達に生きたまま食べさせてやるのだッ!化け物は、化け物に殺されるがいい」


 そう言って、黒狼は近付いてくる。そして鋭利な爪が、エルマに触れようとした、その時ーー


「何をしてやがる?」


 黒狼の背後、エルマはその声に聞き覚えがあった。どうせなら、もっと遅く来てほしかった。自分のこのみっともない姿を見られたくなかったから。


 声が聞こえて黒狼が後ろを振り返ると、顔と顔が触れるくらいの近い距離に。

 禍々しい紅の瞳が見開いた中性的な容姿の少年がいた。普段より乱暴になった口調と、いつも能天気な笑みを浮かべていた印象の表情は、何も感情を映さない、ぞっとするような無表情に変わっている。


「お、おまーーグガァッ⁉


 何かを発する途中だった巨大な人狼が、ものすごいスピードで木々を突き破りながら吹っ飛んでいく。エルマには見えなかったが、多分殴り飛ばしたのだろう。ノアの右拳には、黒色のオーラが収束していた。それから、ノアは倒れているエルマのそばに来て、優しい手つきで抱きかかえた。



「……なぜ、どう、して? 私は、たくさんの人を、殺してきた。貴方に助けてもらえるようなーー」


「ーー関係ないさ、エルマ。俺は魔物達を殺して食料としてきた。そうやって生きてきたんだ。君の場合、それが人だっただけの話だろう?」


 エルマはその言葉を聞いて、思わず仮面の下で笑ってしまった。


「ふ、ふふ、貴方はーー」


「--しゃべらなくていい。君が何と言おうが関係ない。君が何人、人を殺していようが関係ない。エルマだから、助ける。俺が助けたいから助ける。それだけだよ」


 エルマは、真剣な瞳でこちらをみる紅の瞳に、胸が苦しくなった。ドクン、ドクン、と心臓の音が大きくなってきて、ノアの中性的な顔を見ていられなくなり、思わず顔を俯かせた。顔が熱い。


 何も言わないエルマを見て、ノアはそっとエルマを横たえて、仮面を取った。そして、手に取った仮面を握りつぶした。


「もう、これはいらないだろう。君はやっと、”エルマ”に戻れたんだから。それに、この不気味な仮面は、光を通さないこの森の中じゃ、気味悪いよ」


 最後に冗談交じりで言ってから、ノアはエルマを守るような位置取りをとった。


 遠くから狼の遠吠えのような声が聞こえてきた。


「少しだけ待っててくれ。すぐ終わるから」


 エルマからは、ノアが今どんな表情をしているのか見えない。それでも、何となく想像がつく。


 木々を倒しながら、耳と尻尾を失った人狼が姿を現す。口元から垂れた血を拭いながら、


「……やっと、会えたなぁ、ノア。ヴァレールが求めた、その力。確かに強い。だがーー」


「ーーうるさい黙れ。お前、さっき、変なこと言ってたよね?」


 ノアは殺気をぶつけながら、遮った。


「たしか、『化け物は、化け物に殺されるがいい』とか言ってたよね」


 うっすらと微笑みながら、ノアは続けた。


「なら、お前の言うとおりにしようか」


 ノアは、右手に着けた手袋(グローブ)を取り外した。そこにあるのは英雄紋。これまで確認されたことのない未知なる紋章。


 ノアの手の甲にあるそれは、柄の部分に不気味な目を付けた、禍々しい剣の紋章である。それは、英雄の紋章というよりもーー


 それを見た黒狼は、言い知れぬ不安を抱いたのか、後ずさりながら声を荒げた。


「な、何だその英雄紋はッ⁉ お、お前はーー」


 ノアの英雄紋の能力は三つある。


 一つ目は他人の魔力をも支配すること。


 二つ目は魔力に様々な属性を加えて、変異させることができること。


 三つ目がーー


 ノアの身体から、可視化できるほどの膨大な量の魔力が放出された。それは、英雄紋の能力によって、黒き光となる。やがて、ノアの頭上には、黒い太陽のようなものが球体が形づけられていた。


「な、何なのだ、これはッ⁉」


 巨大な黒い太陽が、薄暗い森を照らした。広大な範囲を照らす。それを満足したように見てから、ノアは嘲るような笑みを浮かべた。


「化け物は、化け物に殺されればいい」


 森中から、魔物達の咆哮がした。魔道具によって、おびき寄せられた魔物達の量とは、桁違いの量。広大な豪魔の森中から魔物達が集まってきているのだ。


 そう、ノアの第三の能力は、魔物を操れること。


「ーー特上の肉が、ここにあるよ。来いッ!」


「や、止めろおおおおおおおおおおおおおおおおッ⁉」


 紅の瞳が、残酷な光をたたえていた。











 

 


 


 




 


 


 


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