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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
一章 聖王国からの刺客編
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領主からの説明

 


 ノアとレナ、それに透明化しているエルマの三人は装備を整えて宿を出た。と言っても、レナは変わらずダボダボの大きなシャツを着ているだけだが。大丈夫なのか、聞いてみたが全く問題ないという答えが返ってきた。


 ノアの方は、覇竜の鱗を素材に作られた漆黒のジャケットとズボン。それに神器である魔剣ルガーナ。エルマの装備はノアが渡した疾風の衣と、二本のナイフである。


 宿に泊まっていた冒険者達も続々と宿から出て、冒険者ギルドに向かっている。宿を出る時、ロミーナさんは止めなかった。きっと、レナは言っても止まらないことが分かったからなのかもしれない。ノアは視線で礼をして、ロミーナから目を外した。


 まだ朝早い時間帯だからか、露店や屋台は開いている者がいない。そして、先ほど宿に来た領主の部下である騎士らしきものたちが、街中を慌ただしく走り回っていた。


「領主からの伝令、か。一体どんなことが起こるかな……?」


「--大方、緊急依頼(クエスト)ってやつだな」


 ノアの独り言に答えるものがいた。ノアは背後を振り返る。そこにいたのは、冒険者パーティ、赤竜の牙の面々だった。さっきぶりだね!とソフィが元気よく言った。ゲイルも手を挙げて挨拶してくる。


「あれ、俺達より後に出てたんだね」


「ああ、ビビったな。下の階が騒がしくなったから、急いで準備してきたってーー」


「そんなことはいいわよ!レナ、あなたは宿に戻りなさい!」


 レミーナがロイドの言葉を勢いよく遮り、叫んだ。


「……やだ」


レナはノアに抱えられたまま、首を横に向けてそっぽを向いた。


「あなたは冒険者登録もまだなのよ!あなたは集まる必要はないわ!だからーー」


 今度はレナがレミーナの言葉を遮った。


「--うるさい!私は、私の、守りたいもののために戦う、から」


 レナが大声で叫ぶのを、ノアは驚愕した。出会ってから初めてだ。そしてレナは睨むようにレミーナを見た。レミーナはその言葉を聞いて一瞬、悲し気に顔を歪めてレナを見つめてから、


「守りたいもの、ね……。今はノアのこと……?」


 レナは答えなかったが、ノアの服をギュッと握るのを見て、レミーナはため息を吐いた。重い雰囲気に耐えられなかったのか、ソフィがレミーナとレナを伺うように、ぎこちなく声をかけてきた。


「そ、それで、さ。何だろうね、領主様。これだけ騎士団の人達が走り回ってるって、よっぽどのことだよ」


 周囲を見ながら、深刻そうな顔で言ったソフィ。それに追従するように、


「だな。もしかしたら、この都市の存亡がかかってる、とかな」


 そのロイドの言葉に、ノアは引きつった笑みを浮かべた。


(もし、黒狼ってやつがこの事態を引き起こしているなら、それは……)


 黒狼という人物をノアは軽く考えていたが、もしかしたら間違いだったか。


「ともかく、冒険者ギルドに急ぐぞ!」


 ロイドの言葉に、みんなが一斉に頷いた。








 ノア達は冒険者ギルド前に着くと、そこには冒険者で溢れていた。ギルドの扉には騎士二人が守護するように立っていた。そして、その前には皆に見えるようにか、壇上が用意されている。ノアは何故かたくさんの冒険者たちの視線を感じたかが無視する。


「ノア、お前やっぱ注目されてんぞ。Aランク冒険者のバッカスに勝った影響だなこりゃ」


 ロイドが耳元に口を寄せて言う。ノアとしてはそんなことはどうでもいい。


 ガヤガヤと様々な憶測が冒険者達の間で話されているのを、ノアは聞きながら待っていた。しばらくして、冒険者ギルド内の扉が開き、四人の人物が中から出てくる。青色の髪をした女性。それともう一人は今話に出た、ノアと戦ったAランク冒険者バッカスだ。三人目は褐色肌をした森妖精(エルフ)のような耳が長い特徴をもつ男性。そして最後に厳格そうな顔をした三十代後半くらいの男だ。栗色の髪を短髪にし、眉の部分には傷跡が残っている。


 そして、壇上に立つ四人。どことなく他の三人が厳格そうな男に敬意を払っているのが感じ取れた。ガヤガヤと喧騒を立てていた冒険者達から音が消えた。そして、バッカスは目線をキョロキョロと動かしている。誰かを探しているのだろうか……?


 ノアは嫌な予感がした。前の冒険者の後ろに隠れようとしたが、バッカスの瞳はその前に標的を捉えていた。ノアはこっちを見ているバッカスの顔が楽しそうに歪むのを見て、空を仰ぎ見た。


「ノア、栗色の髪の男がこの街の領主と隣の闇妖精(ダークエルフ)がメルギス支部のギルドマスターだよ」


 隣にいたソフィが小声で教えてくれた。この街に来て初めて闇妖精(ダークエルフ)という種族を見た気がする。その男が声を張り上げた。


「我が親愛なる冒険者諸君。知っているも者も多いと思うが、私はメルギス支部のギルドマスターを任せられているアイク・シュナイダーという。集まってもらったのは他でもない。緊急依頼(クエスト)の発令。依頼者はそちらにおわすメルギスの領主、ガレス・ドール・へルミナス様である」


 そう言って、ギルドマスターであるアイクは一歩後ろに下がった。反対に領主が一歩前に出る。鋭い眼光は、見詰められただけで背筋を正してしまうほど。


「紹介にあった、ガレス・ドール・へルミナスだ。早速ですまないが、時間が惜しい。現在、豪魔の森から、魔物の大群がメルギスの街を目指して迫っている」


 ここで集まった冒険者達からどよめきの声があふれた。


 なんでそんなことに、嘘だろ、魔物が集団で攻めてくるなんておかしい、そういったこ事が冒険者達の口から次々と出る。


 豪魔の森】。そこはA級の危険度を持つ魔物がゴロゴロいる場所だ。それだけに、冒険者達の動揺は激しかった。すると、領主が手を挙げて、


「話は最後まで聞け」


 低く重い声で、冒険者達を見渡しながら言ったその言葉で冒険者たちは黙った。それは、領主が発する闘気を感じたからかもしれない。


(……バッカスと同じくらいかな……?いや、もしかしたらそれ以上か……)


 ノアは感心したように領主を見た。それから、領主ーーガレスは説明を再開した。


「……原因についてはまだ何も分かっていないが、明らかに異常事態だ。そして、このままの速度では、あと一刻ほどでこの街まで到達するだろう。諸君らには我々騎士団と共に、魔物達と戦ってほしい。この依頼は街の存亡をかけた戦いでもある。現在、メルギスにいるAランク冒険者は三人。だが、一人は依頼によって街を開けているため二人。私と元Aランク冒険者であるアイクを合わせても四人」


 そこでガレスは言葉を区切って目を閉じ、


「しかし、Aランク冒険者をも圧倒する新人冒険者がいる。登録したばかりでBランク冒険者の評価を受けた者、冒険者ノア!」


 領主に突然名前を呼ばれて、ノアはおもわず肩を揺らした。そして、ノアは領主の背後にいるバッカスを睨んでから、諦めようにため息をついた。


「壇上へ」


 短く言葉を発し、じっとこちらを見る領主の視線に耐えきれなくなったノアは、横に抱えていたレナを地面に立たせた。そして、ほんの小さな声で透明になっているエルマに、レナを頼むと言って歩き出した。空気を読んだ冒険者達が左右に分かれて、道を開けてくれる。ソフィ達の視線を後ろに感じながら、ノアはめんどくさそうに足を運んだ。


 そして、ノアは壇上に登りAランク冒険者達の横に並んだ。それを確認した領主は頷き、


「この五名が主力である。報酬については自分達が討伐した魔物の素材、私からは金貨十枚。それと、活躍した冒険者には私の権限で来月に開催される王国武闘大会への推薦だ」


 そこで、再び冒険者からどよめきが生まれる。ノアは壇上でその喧騒を見下ろしながら、隣にいるバッカスを睨みつけた。


「おい。これ、なんで騒いでんの?」


「ハハッ! そんな顔すんなよ。お前、何も知らねえのか。王国武闘大会は世界でも有名なんだがな」


 領主が言った武闘大会。ノアはそれに興味を持ったが、領主が再び喧騒を静めたので、ノアは一旦言葉を飲み込んだ。


「それでは参加する者はここに残れ。無理にとは言わんが、今後この街で暮らしていくつもりなら、受けた方がいいだろう。冒険者の編成についてはアイクに任せる。それではな」


 領主が壇上から降り、騎士二名を引き連れて行った。冒険者達は顔を見合わせて、ほとんどの者が残った。この戦いに参加しなかったらずっと冷たい目で見られる。他の街に拠点を移す者もいるが、やはり住み慣れた者達は残った。





 それからノアとAランク冒険者であるバッカスと青髪の冒険者である三人は、ギルドマスターであるアイクの執務室に招かれた。ギルド二階にあるその場からは、下の階の喧騒が聞こえてくる。今、大勢の冒険者達が参加手続きを行っているのだろう。手続きと言っても、非常に簡易的なものだが。


 ノアは聖王国から送られてきた刺客達の事を領主に話した方がいいだろうかと考えた。が、面倒だがこれは自分の問題である。自分にかかる火の粉を払えるように、強くなったのだ。それに、


(……武闘大会ってのも気になるし、ね。王都にも行ってみたいからなぁ)


 そんなことを考えていると、執務室にあるソファに座ったギルドマスターである闇妖精(ダークエルフ)のアイクが声をかけてきた。


「さあ、座ってくれ、ノア君。そして、改めて初めまして、先程も挨拶したが、メルギス支部冒険者ギルドギルドマスター、アイク・シュナイダーだ。すまないね、冒険者ギルドに登録したばかりでこんな事態になってしまって」


 壇上で挨拶した時より態度やしぐさが軽かったが、ノアは驚かなかった。なぜならーー


「こんな時に話すのも何だがな、てめえ、もう少し掃除しやがれ! 足の踏み場もねえんだよ!」


 そう、端的に言って、ゴミ屋敷である。アイクの外見は髪や服がビシッと決められており、外見だけはできる人間なのだ。それだけに余計に駄目さ加減が増している。


 青髪の冒険者はすでに目が死んでいる。完全に諦めているようだ。


「バッカス。もう言っても無駄ですから。時間の無駄です」


 ノアは理解した。なぜ二人が、アイクに執務室で話すと言われて、ものすごい嫌な顔をしていたのかを。執務机には大量の書類、執務机に置けなかった書類は床にばらまかれている。そして、ここで食べたのか食器が置かれている。


「そんなことを言ったってしょうがないだろう。私は武力100、内務能力ゼ0なんだ。君達だって知っているだろう?」


「ちげえよ! 俺が言ってんのは部屋掃除しろってこと! 内務能力の話なんてしてねえよ⁈」


 バッカスが額を抑えながら、もういい、といって肩を落ち着かせた。


「では、本題に入ろうか。君達二人の冒険者はもちろん先頭に立って戦ってもらうわけだが、ノア君にもその役目を行ってもらいたい。Aランク級の魔物も何体か確認されているからね。まあ冒険者は指揮なんてものがなくても各自の判断で行動する。部隊指揮なんてしなくてもいいから楽なんだよ。ただ、目の前の魔物を殺すだけさ」


「なら、俺でもできそうだ。それと、冒険者じゃない人も戦闘に参加させていいかな……?」


 ノアの問いに、アイクは眉をひそめて考えた。


「……それは……私では判断できないな。この街に暮らす者は領主の管轄だからね。強いのかい……?」


「強いね、少なくともAランク以上だと思うな」


 ノアが軽く言った内容にアイクとバッカス、それに青髪の冒険者が目を見開いた。ノアは領主に会うのは面倒だったので、レナを戦闘にこっそり参加させようと考えた。そもそも街の存亡がかかっているのだ。許可がどうのと言っている場合じゃない。だから、アイクの次の言葉に驚いた。


「な、ならその子を今すぐ冒険者登録しよう。仮冒険者カードを渡すから、その子に渡してくれ。戦力は多いに越したことはない」


 そう言って、アイクはソファから立ち上がり、床に落ちた資料や書類を踏みつぶしながら、執務机の引き出しを開けた。それを見たバッカスや青髪の冒険者は目が死んでいる。ノアも大丈夫なんだろうかと思ったが、自分には関係ない事なので言葉にはしなかった。そしてアイクが取ってきたカードをもらったノア。


 それから、青髪の冒険者、マールさんというらしいーーと自己紹介したり、報酬のことを話したりして、ノアはほくほく顔で執務室を後にした。なぜかバッカスが後ろについてきたが、ノアは気にしない。それからレナと合流して、バッカスがレナを見て納得していたが、面識があるんだろうか。ノアはレナに聞いてみたが、あんなおじさんは知らないとの事だ。地味にバッカスがへこんでいた。そしていよいよ戦場になるという街の外、ラーム平野へと向かった。
















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