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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
一章 聖王国からの刺客編
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レナ



夜になるまでひとしきり街中を歩いたノアだったが、つい珍しい物に惹かれてしまい色々見て回った結果、宿に戻るのが少し遅くなってしまった。


それに人族(ヒューマン)以外の森妖精(エルフ)土小人(ドワーフ)獣人族(ビースト)など様々な種族が生活をしていて、見ているのがノアは楽しく感じたのだ。

レナが楽しそうに笑った。


「ノア、方向音痴。面白かった」


ノアは決して認めようとしなかったが、宿に着くのが遅れたのは色々な店の中を見て回ったのもあるのだが、大部分はノアが帰り道が分からなかったからである。


「い、いや、違うから。言ったよね?俺はこの街に来たばかりだよ?」


「でも、私があそこで曲がるって言っても、違うところで曲がったり……」


「だってみんな見た事ない物ばかりだしなぁ。目が奪われるのもしょうがないよ」


そうこう話しているうちに宿の近くに着いたノアとレナ。途中から街中を歩く親子連れが、肩車をしているのを見たレナがせがんできて、今はノアの両肩にレナが乗っている。


髪の毛を弱く引っ張ってくるレナは心なしか元気が無いように見えた。


「……疲れた?」


「……ちがう。いきたくないから」


それでも、自分にはもういない家族が、まだこの子にはいるのだ。


(仲直りさせてあげたいけど、なぁ。人と関わって来なかった俺が何か言うっていうのも……)


ノアは正直に自分の胸中を明かすことにした。気の利いた事が言える訳がないからだが。


「……レナ、俺はね、英雄紋に家族を殺されたんだ。だから、これが呪いって言うレナの気持ちも少しは分かるよ。でも、俺は強くなった。もう二度と大切な人を奪わせないために」


ギュッと頭を抱き締められたノアは、肩の上にいて聴いているレナの顔を想像しながら続けた。


「だからさ、ロイド達を見て、羨ましく思ったよ。家族以外にもあんな形の繋がりがあるのかって……。仲間っていうのかな。信頼し合っていて、自分もあんな風に仲間を作りたいって思った。それが今の俺の夢。でも……」


 ノアは歩き続けながら、過去に想いを馳せる。


「今でも考えるよ。家族を失わない方法があったんじゃないかって。一番近くにいて、支えてくれるのが家族だと思うから。だから、レナも、さ。もしかしたら、俺以上に辛い何かがあったのかもしれないから、何か言うのは間違ってるかもしれないけど……」


 ノアは小さく頷く気配を後ろから感じて、安堵した。


「……のあ、ありがとう」


 小さい声で礼を言ったレナに、ノアは何に対しての礼なのか分からなかった。ただ、少しでも役に立てたなら、それなら、


「……どういたしまして」


 結局、苦笑しながらそう答えた。




 妖精の癒し亭につき、木の扉を開けると来客を告げる鈴が鳴った。夕飯の時間らしく食堂の方からは騒がしい音が聞こえてくる。受付には誰もおらず、とりあえず食堂の方に行くかと思いノアは足を運ぼうとしたら、


「レナッ⁉あなたどこにいっていたの⁉心配したのよ?」


ロミーナが慌てたように、食堂の方から走り寄ってきた。


「……ん、ノアに遊んでもらってた」


 顔を背けながらも、レナは答えた。するとロミーナは驚いた顔をしてこちらを見た。


「……ノアさん、レナと……。黒髪の男がレナを連れ去ったって聞いたから、ノアさんじゃないかとは思っていたけど。そう、ありがとうございました。娘がお世話になりました。ただ、レミーナは外に出て探しているので、帰ってきたら……」


 ノアは、レナの姿を見て飛び出してきたロミーナ。そして、今もレナを探しているレミーナ。二人からは確かに家族としての愛情を感じた。


「了解です。俺が事情を説明します」


「ありがとうございます。それにしても…随分、レナになつかれましたね……これからもこの子と仲良くしてあげてもらえませんか?」


「もちろんですよ」


 ノアが即答するのにロミーナは苦笑して、慈愛の眼差しでレナを見た。レナは照れているのかノアの頭に顔を隠した。


  



 しばらくしてから、宿にロイド、ゲイル、ソフィア、レミーナの順で帰ってきた。特にレミーナは普段の冷静さをかなぐり捨てて、かなり焦っていた。


 ノアは食事をせずに待っていた。流石に妹を勝手に連れ出して飯を食って待っていたら、レミーナも殴りたくなるだろうと想像したのだ。


(学習したね俺も)


 食堂の脇の方の目立たない席に座っていたノアとレナは、レミーナ達を呼び寄せて話を始めた。


「--という訳なんですよ」


 思わず敬語になったノアは、自分が持つ英雄紋のことは省きそれ以外の全ては正直に話した。


「……とりあえずの事情は分かったわ。遊んでくれたのは感謝してる。でもーー」


「ーーわたしが、ノアに言わないでって言った」


 ムスっとしながらも、レナはレミーナの目を見て話した。それを聞いてレミーナは一つ、大きく息を吐いた。


「はぁ、なら次からはきちんと連絡しなさい。父さん母さんも、すごく心配したんだから」


「分かった。次からはそうするから」


「……まあ、無事だったんだし、いいわ。ご飯食べてないわよね?」


 ノアはふぅと安堵の息をついた。ロイドとソフィが明るく声を張り上げて料理を注文した。


「探し回って疲れたからな、今日は食いまくるぞ!ロミーナさん。俺はマザーカウの煮込みシチューと妖精サラダで」


「うんうん!ロミーナさん!あたしはバトルボアのステーキと妖精サラダで!」


 ノアも、とりあえず、オススメメニューのマザーカウという魔物のステーキと妖精サラダというものを頼んだ。シチューは昼に食べたから、今度はステーキにしたのだ。他の冒険者たちのテーブルへ酒を配っていたロミーナは元気に返事をして、厨房にメニューを伝えた。



 妖精の癒し亭の料理は冒険者ギルドで食べた料理よりも美味しく、ノアは街に来て心底よかったと思った。



 ーー夜ーー


 ノアは装備を全解除していた。まず、漆黒のジャケットと、ジャケット同じ配色のズボンを脱いだ。『覇竜の衣』というこの装備は、最強の種族である【竜種】の中でも、千年以上生きた竜の鱗が使用されている。


その上下服はコート掛けにかけておく。とりあえず空間収納(ストレージ)からハーフパンツを取り出して着ておく。


着ているシャツ、これもただの布で作られた訳ではない。


鬼蜘蛛というAランク級の魔物の糸で作られたシャツは、伸縮性が高く、強靭である。


天馬(スレイプニル)のブーツはベットの脇に置いてある。


それから、ベットでゴロゴロしていると、ロミーナが水が入った桶と濡れた布を持ってきてくれたので、せっかくだから一日の身体の汚れを拭きとっていた。


 身体を拭き終わり、空間収納(ストレージ)から新しいシャツをきてベットに横になった。腕を後ろで組み、枕代わりにして考えに耽る。それにしても、とノアは思う。


「今日だけで、ものすごい量の体験をした気がする」


 森を出てレイモン達商人と出会って、冒険者という存在を知った。連携というものを知ったし、Aランク冒険者と戦って、Bランク冒険者になることができた。そして英雄紋を持つレナと出会った。思えば、レナは自分がなぜ英雄紋を持つと分かったのだろうか。ふと疑問に思ったが、別にいいかとノアは深く考えない。英雄紋の力は予測がつかないものだ。


 それよりも、明日からの生活が楽しみだ。ノアは思わず期待で胸を膨らませた。Bランク冒険者は、主に魔物討伐の依頼を受注するらしい。話を聞いたら、ロイド達もBランク冒険者だった。世間ではBランク冒険者は一流の冒険者らしい。


(一流って言っても、俺まだ何も分かんないけど)


 ノアが明日からの冒険者活動について考えていた時、不意に扉からノックの音が聞こえてきた。ノアは訪ねてきた人物に心当たりがあった。すぐさま起き上がって扉まで歩き、鍵を開けた。


「ん、ノア。きた」


 ノアは目線を下げて、レナを招き入れた。とりあえず、きたと言われたら部屋に入れるのだ。


「どうかした?」


「ん、遊びに来た。お昼寝したから眠くない」


そう言うレナの目は相変わらず半開きで眠そうだが。


「あー、ロミーナさんとかにここに来るって言った?」


「言ったから大丈夫。でも止められたから無視した」


「そ、そう。まぁ、いいか。ここに来れたならロミーナさんも一応は納得したといいことでいいかな?」


 レナは首を傾げてから頷いた。


「多分」


「……不安が残るけど、とりあえず空間収納(ストレージ)から面白い物でもないか見てみようか。俺も整理しておきたかったし、丁度良かったかも」


 ノアとレナはベットに移動し、腰かけた。ノアがいつも通りに無詠唱で魔術を発動させる。ノアの目の前の空間に亀裂が入り、縦に裂けた。その中に手を入れて探した。


「んー、ほとんど役に立ちそうもない魔道具とかも入れた気がするからなぁ、何かしらはあると思うけど」


 とりあえずノアは魔道具と念じて、手に取った魔道具を色々出した。レナは、空間からたくさんの物が出てくるのに、目を輝かせてみていた。


 『光虫球(こうちゅうきゅう)・投げるとただ光る珠。

 『鳴き袋』・見た目は普通の布袋だが強く握るとキュッと音が鳴る。


 この二つは本当に意味が分からない。あのヴァレールがこんなものを本当に作ったのかノアは信じられなかった。レナは珍しいのかこんな物でも興味津々だからよかったが。


 『時計』・今の時刻を知らせてくれる。


 この街では昼間は二時間おきに鳴る鐘が時間を知らせてくれるが、自分でも持っておけば便利だろう。ノアは時計を自分の腕に巻いて付けた。


粘性変異(スライムフォーゼ)』・柔らかくてほんのり冷たい水色の丸い物体。粘性体(スライム)の核を元として作られたためか、粘性体(スライム)の変身能力を備えている。魔力を流すと自分が望むとおりに変身するらしい。


(……これはレナにあげよう)


「レナ、これは粘性変異(スライムフォーゼ)っていうんだけど、魔力を流せば自分の望む通りの姿に変身できるらしい。やってみる?」


 レナは見ていた魔道具をベットの端に置き、その青い物体を手に取った。


「ん、面白そう」


 レナが魔力を流すと瞬く間に姿が変わる。これは……?


「……お、俺……?」


 青色の物体は一人の人間の姿に変わっていた。体積自体は変わっていないため小さいが、黒髪で紅眼。顔の造形までは精巧ではなく、大分ファンシーな顔になっている。上下の服は、黒を基調とした中に紅色の刺繍が所々に着けられた、ノアのジャケット型の装備『覇竜の衣』だ。


(……色まで変わるのはどういう理屈なのか?)


「……俺でいいの?まあ魔力流せばすぐ変えられるけど」


「これがいい」


 満足げに微笑むレナを見て、ノアは優しく頭を撫でてあげた。


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