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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第3章 悪役令嬢の真実

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(22)第三者の視点

 その日、マテル・トラヴィスは、国教会総主教会大聖堂でのリロイとネシーナの挙式に参列していた。


(もの凄く今更なのだが……、周囲の顔ぶれが豪華すぎていたたまれない。どうして新参官吏で殿下の乳兄弟でしかない私が、殿下の名代で列席することになるんだ……)

 有力公爵家の嫡男の挙式となれば、付き合いのある家からは出席するのは勿論のこと、王家としても無視できないものである。しかし王族が個別に直に出向くと、あの家には出向いたのに我が家にはいらっしゃらないなどと揉める可能性もあり、ごく特別な場合以外、各種行事には代理を立てる事になっていた。

 当然ユージンとゼクターも代理を派遣していたが、揃って母の実家である伯爵家当主である。その二人と並んでエルネストの代理として参列しているマテルは、周囲から失笑と疑念の的になっていた。


(なまじ殿下の名代ということで、親族席のすぐ後ろの位置。挙式に引き続き、キャレイド公爵邸での披露宴に参加しなくてはならないし……。極力人目につかないようにして、さっさと切り上げたい)

 某大司教によって厳かに式が進行していたが、開始してから大して経過しないうちからマテルは心の中で泣き言を漏らしていた。それは徐々に愚痴に繋がっていく。


(殿下付きの侍従達もこんな場所で変に目立ちたくはないだろうし、仕方が無いのは分かっているが。役目を疎かにしてはいないが、嫌々ながら殿下の身の回りのお世話をしているって感じだものな。以前、殿下の予算が横領されていたって噂も聞いたことがあるし、その頃から比べるとマシだとは思うが。それはそもそも超絶に性格と頭が悪い、あのお方のせいなのだがな! 本当にあの方から生まれたのに、殿下は本当に性格が良いお方に育ってくれて……)

 エルネストのことに思いを馳せた途端、これまでのあれこれを思い出してマテルは涙ぐんでしまった。


(本当だったら王妃の実子で、王太子の座が間違いの無い方なのに、どうしてあんなご苦労を……。本当だったら私などではなく、れっきとした貴族の当主や大臣クラスの人間を代理に立てるべき方なのに……。だが今回、敢えて私に声をかけたのは、私の礼服を仕立てるように予算を割くための方便も兼ねていたしな。そんなことをお気遣いいただかなくても良いのに……)

 彼はエルネストが、財務局の担当者に対して「めぼしい貴族に名代を頼んでも断られた。乳兄弟を名代に立てるが、彼がその場に相応しい礼服を持ち合わせていないので、特別に私の予算から費用を出して欲しい」と交渉したのを知っていた。担当官吏から冷笑されながらも、自分に対してささやかな便宜を図ってくれたエルネストに対し、マテルの忠誠心はいや増していた。

 マテルが神妙にエルネストのことを考えているうちに滞りなく式が進行し、大司教が新郎新婦に声をかけた。


「それではこれより、新郎新婦の宣誓に移ります。お二人はこの聖書に手を載せてください」

 そこで促されたとおり、二人が差し出された聖書に片手を載せる。


「それではまず新郎から、私の言葉を復唱してください。私、リロイ・ヴァン・キャレイドは、神前で以下の事を誓います」

「私、リロイ・ヴァン・キャレイドは、神前で以下の事を誓います」

「ネシーナ・ヴァン・ノイエルを愛し、信頼し、誠実な夫となる事を誓います」

「それだけでは不足だ! 私のネシーナへの愛は、そんな陳腐な言葉では言い表せはしないほど深く、大きいのだ!」

「はい?」

「そもそもネシーナと運命的な出会いを遂げてから、無彩色な私の人生は色鮮やかなものに変貌を遂げたのだ! それをそんな片言の言葉で表現するなど許しがたい! 神への冒涜ですらある!」

「あ、あの、リロイ殿?」

「ネシーナへの誓いだったら、一昼夜語り尽くせる自信があるぞ!」

「いえ、そうではなくてですね、今は挙式の最中で」

 何が気に障ったのか、リロイは総大司教の台詞を復唱するどころか、延々と新婦への愛と思いを声高らかに語り始めた。広い大聖堂内に居並ぶ人々が呆気に取られ、段取りを滅茶苦茶にされた大司教が狼狽する中、マテルは達観しながら目の前の茶番劇を観察する。


(どうでも良いが……、これ、いつ終わるんだ?)

 キャレイド公爵夫妻辺りが止めないと駄目ではないかとマテル思い始めたところで、予想外の人物が動いた。


「リロイ」

「うん? ネシーナ。どうかし、ぐおっ!!」

 呼びかけられたリロイは、全く無防備な状態で振り返った。するとネシーナは拳を握っており、微塵も躊躇わずにリロイの頬を目がけて一撃を放つ。まともにそれを受けてしまった彼は呆気なく床に転がり、大聖堂内に沈黙が漂った。しかしその直後、ネシーナが静かに大司教に向かって宣言する。


「私、ネシーナ・ヴァン・ノイエルは、神前にリロイ・ヴァン・キャレイドを愛し、信頼し、誠実な妻となる事を誓います。これでよろしいですね?」

「あ……、は、はい」

「それではこれで、式は終了ですね。本日はありがとうございました」

「はぁ……、若きお二人に、幸あらんことを……」

 床に転がったままのリロイを横目で見ながら、大司教は狼狽気味に言葉を繰り出した。それと同時に、新郎側の親族席から高らかな祝福の拍手が沸き起こる。


「さすがですわ、お義姉様。この調子でお兄様の手綱をしっかり握ってくださいませ!」

「ネシーナお義姉様にお任せしておけば、我が家は安泰ですわね!」

「ネシーナ義姉様、素敵です! 今度私にも教えてください!」

「さすがは見込んだだけあるわ。随分と逞しくなってくれて、肩の荷が下りた気分です。あら? ノイエル男爵が気絶されてしまったようですが」

「それはいかんな。君、男爵を控え室に連れて行って介抱してくれたまえ」

 マグダレーナ達は歓喜の笑みで義姉を褒め称え、公爵夫妻も苦笑しながら周囲の司教を手招きして事態の収拾を図る。

 新郎の家族が拍手している以上、周囲がしないというわけにもいかず、大聖堂内に徐々に拍手が広がっていった。そのままなし崩しに挙式が終了したのだが、マテルは(ちょっと待て!! これで良いのか、キャレイド公爵家!?)と心の中で盛大に突っ込まずにはいられなかった。







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― 新着の感想 ―
お姐さまと呼ばせていただきたい!素敵です!
ネシーナ様グーで行ったぁぁぁ!!! いや挙式でこれは面白すぎるんですが……ノイエル男爵つよくいきて! 怠惰な溜め息やその他シリーズで見知った家名や名前やその他が出てくると「おっ!」と思うのですが、名…
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