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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第3章 悪役令嬢の真実

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(28)不穏な気配

 クレランス学園が年度末休暇に突入し、エルネストは手荷物を纏めて寮から退出した。迎えに来た馬車に乗り込み、一人城へと向かう。


(ゼクター兄上が卒業して、いよいよユージン兄上と公衆の面前で張り合うことになるか……。付き合わされる周囲は、ご苦労なことだな)

 考えただけでうんざりする状況であり、振り回される者達の心労を思ったエルネストは、顔も知らない彼らに深く同情した。そして、以前から少しばかり不思議に感じていた事を思い返す。


(それにしても……、ユージン兄上が失敗したことや、その責任を周囲が取らされた話が、どうして貴族間で噂になっているのだろうな。ユージン兄上の周囲が必死に隠蔽する筈なのに。第一、ジベトス伯爵が優秀な人間を兄上の近くに送り込んで、フォローさせている筈なのに、それでも間違いが起こるというのが考えにくいのだが……)

 そこまで考えた彼は、型どおりの結論を導き出す。


(やはりゼクター兄上やバルナック伯爵の息のかかった人間がいて、常にユージン兄上の周囲を探って失策を犯すたびに噂を広めたり、そもそも失敗するように仕組んだりしているのだろうな。ご苦労なことだ。これからは、より一層の潰し合いになるな)

 さすがに公務を監督する立場の宰相以下重臣達が、水面下でユージン達を陥れる工作をしているなど、エルネストには想像することさえできなかった。



 ※※※



 久しぶりに城に戻り、王族の居住棟に入ったエルネストは、自室で自分付きの侍従の出迎えを受けた。


「エルネスト様、お帰りなさいませ」

 エルネストに仕える者達の統括をしている壮年の侍従は、深々と頭を下げた。それに笑顔で頷きながら、エルネストが部屋の奥に足を進める。


「ああ。バーゼル、お茶を一杯頼む。その後は、暫く一人にしてくれないか?」

「申し訳ありませんが、王妃様から伝言を承っております。『戻ったら、すぐに顔を出すように』とのことです」

 恭しく告げられた内容に、エルネストは足を止めた。そして心底嫌そうに振り返りながら、予定の変更を告げる。


「分かった。お茶は後で良いよ。着替えてから行くから、お伺いを立てておいてくれ。どうせ制服のまま出向いたら出向いたで、何かしらの文句を口にする筈だからね」

「承知いたしました。それでは一旦下がらせていただきます」

「ああ、ゆっくりで良いから」

 バーゼルは一礼して引き下がり、ドアが閉まってからエルネストは溜め息を吐く。母親を無視したり待たせたりしたら酷いヒステリーを起こすのは過去の経験から熟知しており、彼はうんざりしながら着替えるために奥へのドアへと向かった。


「どうせ実のある話など無いのに。時間と労力の無駄だ」

 さっさと制服から私服に着替えた彼は、元の部屋に戻ってソファーに深く座りながら、愚痴を零していた。すると少しして、ノックの音に続いてバーゼルが戻ってくる。


「失礼いたします」

「バーセル、どうした?」

 手ぶらと思いきや、トレーを手にして戻った彼に、エルネストは怪訝な顔になった。しかしバーゼルは、平然と答える。


「王妃様付きの女官に殿下の帰城をお伝えして、これからお伺いしても良いか確認を取って参りました。それから、お茶を一杯飲んでも支障はないかと思いましたので、お持ちしました」

「ありがとう。いただくよ」

 行きたくない気持ちはバレバレかと、エルネストは内心で苦笑しながらお茶の入ったカップを受け取った。それをゆっくり一口味わってから、さりげなくバーゼルに問いかける。


「それで? 最近、後宮内はどうだい? 騒がしくてうんざりしていたかな?」

「騒がしくはありませんな。牽制し合ってギスギスしておられるだけです」

「なるほど。それはそうだろうね」

「その分、ジベトス伯爵家とバルナック伯爵家が、頻繁に人を集めておられるようで。動きが派手ですね」

 淡々と世間話のように告げられたエルネストは、納得したように頷く。


「その辺りも、順当と言えば順当か。王妃や側妃に振り分けられる予算は限られている。派手に金をばら撒くなら実家が費用を捻出することになるが、果たして元が取れるかどうか。王になってもならなくても、懐が寂しくなりはしないのかな?」

「さあ……。それぞれの家の経済状況などは、私には分かりかねます」

 そこでエルネストは時刻を確認し、あまり待たせるのは拙いかと立ち上がった。


「ごちそうさま。それじゃあ、あまり怒らせないうちに行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ」

 バーゼルに見送られたエルネストは、誰も引き連れずに廊下を歩き出した。


(本当に、対立派閥を切り崩すための工作に資金を注ぎ込みすぎて、領地運営に支障を来すようにならないだろうな? それに、決まっている税率以上の税を領民に課したら、十分処罰の対象になるぞ。それが相手方にすっぱ抜かれたりしたら、騒ぎになるのは確実だな)

 難しい顔でそんなことを考えながらエルネストは進み、さほど時間を要さずに母親であるソニアの生活エリアに到達した。



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― 新着の感想 ―
後からあの時のアレは……!と知ったらエルネスト殿下は何を思うんだろうか、気になりますね。 学園では兄達(とその周囲)に絡まれる以外は学生時代満喫といった様子でしたが、チラホラと家族関係で苦労してきたで…
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