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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第3章 悪役令嬢の真実

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(25)秘密裏の承諾

「それでは、ご本人が望まれなくてもエルネスト殿下のためになることであれば、殿下に内密にした上で動くつもりはおありですか?」

 それを耳にした瞬間、これまでの話の流れからマグダレーナが言わんとする内容に見当がついてしまったマテルは、盛大に顔を強張らせた。そしてなんとか内心の動揺を抑え込みながら、慎重に尋ね返す。


「マグダレーナ様、まさかとは思いますが……」

 言葉を濁しながらの問いかけに、マグダレーナは素っ気なく言葉を返した。


「それ以上深く尋ねてこられるなら、あなたの理解力を疑います」

「本当に、そのように動いておられる方がおられると?」

「そうでなければ、こんなお話をしませんわ。単なる一官吏を面白おかしくからかって楽しむほど、私は暇を持て余してはおりません。それに、一言付け加えるなら、『動いておられる方』ではなく『動いておられる方々』ですわね」

「…………」

 淡々とマグダレーナが告げると、その予想外の内容にマテルは言葉を失った。しかし全面的に信じることはできなかったのか、微妙な顔つきのままマグダレーナに探るような視線を向ける。元よりこの場ですぐに信用して貰おうなどとは考えていなかったマグダレーナは、ここで話を切り上げることにした。


「マテル様がよろしければ、後日、日を改めてお目にかかりたいと思います。その時に、もう少し具体的なお話をしようかと思いますが。それでよろしいかしら?」

 その提案に、マテルは救われたような表情で頷く。


「はい。そうしていただければ、私としても助かります。流石に、にわかには信じられないお話でしたので」

「私でもそう思いますわ。ところで、以前お目にかかった時にレベッカと連絡先を交換して、時折手紙のやり取りをしていると伺いましたが」

「はい。官吏登用試験までの準備とか、実際の仕事について教えて欲しいと頼まれまして。私なりの見解や現状について教えています」

「それではレベッカの私信に付け加えて、連絡を差し上げますわ」

「分かりました。お任せします」

 ここでマグダレーナは、一応釘を刺しておくことにした。


「このことに関してはくれぐれも」

「殿下にも内密にしておきます」

「よろしくお願いします。それでは失礼します」

 自分に最後まで言わせず、即座に応じて語気強く言い切ったマテルに、マグダレーナは満足した。そして軽く一礼し、彼から離れていく。するとマグダレーナが一人になるのを待っていたのか、さりげなくイムランとディグレスが近寄ってきた。


「やあ、マグダレーナ嬢。あの見慣れない人物は誰かな?」

 声をかけられたマグダレーナは、足を止めて彼らに向き直った。


「あら、イムラン様にディグレス様。本日はご足労いただき、ありがとうございます」

「キャレイド公爵家嫡男の結婚披露の場だから、挨拶のためにこちらも次代の公爵を同伴してきたという体裁になっている。同級生同士で挨拶していても、周囲からは不審に思われはしないだろう」

「水面下ではあるが、一応両家の間で正式に婚約が調ったからな。公式な場での表敬訪問というわけだ。それで?」

 チラッとマテルに視線を向けながら尋ねてきたディグレス達に、マグダレーナは彼の身元を伝えた。


「エルネスト殿下の乳兄弟に当たる、マテル・トラヴィス様です。今現在官吏として勤務しておりますが、本日は殿下の名代としてこちらに出向いておられます」

 そこでさりげなくマテルに視線を向けながら、彼らは囁き合う。


「へえ? なるほど……。でも官吏でも、殿下付きというわけではないよな?」

「殿下の周辺の人員を確認してみたが、そのような名前はなかったはずだ」

 それを聞いたマグダレーナは、感心したように述べる。


「早速、情報収集をされておられるのですね」

「そこまで見くびらないで欲しいな」

「そうなると、殿下と彼はあくまでも個人的な繋がりだ。それで名代を任せるとなると、それなりに殿下の信頼を得ていると思うが……。あなたから見て忠臣か?」

 そんな事を問われたマグダレーナは、苦笑交じりに報告する。


「生涯殿下にお仕えするから、命を投げ捨てる真似はしないそうです。命を賭けることに、ためらいはないようですが」

「それはそれは……」

「天晴れな心意気だな」

「それに殿下のためになることであれば、ご本人には内密にしてくださるとも仰っておられました」

「益々結構だね」

「動ける駒は一人でも多い方が良い」

「そうですね」

 三人はそこで顔を見合わせ、満足げに頷き合った。そしてマグダレーナが、次の行動に移る。


「それでは他の方へのご挨拶が残っていますので、これで失礼します」

「ええ、お気遣い無く」

 すぐ近くの女性達の輪に近づいていくマグダレーナを眺めながら、二人は声を潜めて囁き合う。


「俄然、面白くなってきたよな。鼻持ちならないユージン王子派とゼクター王子派が吠え面をかくところを、早く見たくなってきた」

「それが多いと国政に混乱を来すだけだ。父上達が削ぎ落とすまで我慢しろ」

「分かってるさ」

 そんな不穏な台詞を交わしてから、二人はそれぞれの知人に挨拶するためにその場を離れていった。




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