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悪役令嬢は優雅に微笑む  作者: 篠原 皐月
第3章 悪役令嬢の真実

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(24)想定外の返答

「改めて質問させてもらいますが、あなたはエルネスト殿下付きの侍従ではなく、個人的に殿下と関わりを持っていらっしゃる筈です。自分の上司である官吏や重臣の方などに殿下との関わりを拒絶するように指示されたら、どうなさるおつもりですか?」

 その問いかけに、マテルは微塵も動じずに即答する。


「あなたが先程言及した通り、私は役職で殿下と関わりを持っているわけではありません。仕事ではない個人的な交友関係に、何人たりとも口を挟む権利はないと思われますが」

「確かにそうですわね。重ねてお尋ねしても構いませんか?」

「ええ、ご遠慮なく」

「あなたはエルネスト殿下のために、命を投げ捨てる気概をお持ちかしら?」

「そんなことはいたしません」

 冷静に言葉を返されたマグダレーナは、肩透かしを食らった思いだった。


「あら……、随分とはっきり断言なさるのね」

「簡単に命を投げ捨てては、生涯あの方にお仕えすることができなくなりますので」

「なるほど。確かにそうですね」

 真顔での台詞に、マグダレーナは心の中で賞賛の言葉を贈った。


(温厚そうな見た目に反して、なかなか気骨がある人物のようだわ。あの殿下に、このような人が付いているとはね。今夜はなかなかの収穫かも)

 そこでマグダレーナは、内心の思惑など微塵も面に出さないまま質問を続けた。


「先程は、私の聞き方が悪かったみたいですね。それでは、殿下のために命を掛ける気持ちはおありですか?」

 それにマテルが、揺るぎない決意を滲ませながら宣言する。


「元より、そのつもりです。今は一官吏に過ぎませんが、必ず殿下に受けた恩をお返しいたします」

「殿下が何をされたの?」

「私は平民扱いとして選抜試験を受け、クレランス学園に無償で入学できましたが、母の治療費や妹の結婚費用など色々嵩みまして。殿下が自分の予算内から無理筋の項目を立てて、我が家に資金援助をしてくださいました。他の王子殿下と比べると、決して潤沢とは言えない状況ですのに……」

 悔しそうな表情で語るマテルを見て、マグダレーナは以前リロイから聞いた内容を思い返した。 


(そういえばお兄様が、以前はエルネスト殿下担当の官吏による横領が行われていたと言っていたような……。最近は証拠を掴んで、綺麗さっぱり消したとか言っていたけど。『消した』って城から追い出したとかの意味で、処理したとかの意味合いではないわよね?)

 そのまま考え込んでいると、マテルから困惑気味の声がかけられる。


「マグダレーナ様? どうかされましたか?」

「え? あ、失礼しました。少し考えていたことがありまして」

 それで我に返ったマグダレーナは、慎重に周囲に人がいないのをさりげなく確認しながら彼に囁いた。


「ところで、少々踏み込んだお話をしてよろしいかしら?」

「踏み込むというと……、私個人に関してではなく、エルネスト殿下に関して、でしょうか?」

 怪訝な顔になりながらも、マテルは考えを巡らせながら問い返す。マグダレーナはそれに頷きながら尋ね返した。


「ええ。あなたは生涯エルネスト殿下にお仕えすると言っておられましたが、あなたはどなたにお仕えするつもりなのかしら?」

「は? どなたにとは……、ですから」

「国王陛下? それとも大公殿下かしら?」

「…………」

 薄笑いしながらのマグダレーナの台詞に、マテルは瞬時に表情を消して押し黙った。そのまま十数秒彼女の顔を凝視してから、溜め息交じりに告げる。


「マグダレーナ様、少々お戯れが過ぎると思いますが。どこで誰が聞いているか分かりませんよ?」

「こんな所で他人に聞かれて困る密談など、するわけがないと思われませんか? 堂々としていれば、却って怪しまれないでしょう」

「なるほど。なかなか豪胆な方だ。そういえば殿下も、そんな風に仰っておられましたね」

「まだ答えを伺っておりませんが」

 相手がさりげなく話題を逸らそうとしているのを察したマグダレーナは、鋭く問いを重ねた。それでマテルは、半ば諦めながら口を開く。


「どんな肩書きであっても、という答えはお望みではないのでしょうね……」

「はい。殿下の意向ではなく、あなたの主観を聞かせて欲しいのです。三人の王子殿下の中で、誰が尤も王に相応しいのか」

「殿下に近しい私が客観的な判断などできるはずもありませんが、それを差し引いてもエルネスト殿下です」

 マテルは一瞬周囲の様子を窺ってから、一層声を低めて断言した。そこでマグダレーナが確認を入れる。


「それを、殿下ご自身に申し上げたことはありますか?」

「何度かありますが、全て固辞されています」

「その理由をお伺いしたことは?」

「はっきりとお答えしてはいただけませんでしたが、性格的なものと、王妃陛下のせいではないでしょうか?」

 それを聞いたマグダレーナは、疑問に思いながら尋ねる。


「即位したら、王妃陛下は喜ぶのではありませんか?」

「ですから、あの方を喜ばせるのが嫌なのでしょう」

 淡々とした口調での彼の説明を聞いた瞬間、マグダレーナはその予想外すぎる内容に固まった。そして呆然としながら呟く。


「……その発想はありませんでした」

「あなたにも理解できないことがあるのですね。少し安心しました」

 マグダレーナが本気で困惑しているのを察したマテルは、思わず笑いを誘われた。しかし続くマグダレーナの台詞で、再び気を引き締めることになった。



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