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月見山りりはヒトデナシ  作者: ふる里みやこ
ゼーヴィル編
77/208

77話 ハンター登録へ

 



 食事をしながらの雑談。

 思いつきから今後の予定まで様々。


「そうだ、りり。りりもハンター登録したらどうだ? 今のりりなら単身でも中級の半ばくらいには入り込めると思うぜ」

「何かメリットあるのそれ?」


 純粋な疑問だ。

 りりはハンターが何をするのかをよく知らない。

 アーシユルがハンター家業を行っているのを見たのは蛸人の換金の時しかないのだ。


「ハンターになれば、相手にもよるがパッと金が稼げる。あと、魔人は敵じゃなくてヒトの味方ですよアピールができるな」

「んー。でも今困ってないよ?」

「それは、あたしが情報を売って稼いでるからだ。お前は前みたいに虚弱じゃないんだ。働け」


 痛いところを突かれる。

 今のりりは研究材料であるという点を除けばアーシユルのヒモと言って間違いがないのだ。


「……面接とかある?」

「ないぞ? なんでだ?」

「いや、ないならいいの」


 りりは偉い人に弱い。

 リクルート中も、面接で何を話したかなど毎回覚えていないほどに舞い上がるのだ。

 ならば神は? という話だが、フラベルタは未知の存在で考えが及ばない。その上、砕けた態度で来た為、すぐに緊張が解けたのだ。分からないものは理解できない。そういう事だ。

 そして、ウビーに至っては子供の見た目だったのと、当時、騎士を害してしまっていたショックの方が大きく何も覚えていなかった。


 そんなりりだ。面接……というよりリクルート活動に苦手意識がある。

 面接がないならハンターになってみるのも良いかと考え、食後、そのままハンター登録をしに行った。

 そこで衝撃的な言葉を聞く。


「では、今日からリリ・ツキミヤマさんは屑ハンターです」

「く、屑……」

「嫌だよなこれ。あたしもこれが嫌でさっさと卒業したもんだよ」




 ハンターには階級がある。

 上から、


 上級

 中級

 下級

 屑


 屑は「級」すら付かない。


 屑は兎を始めとする小型生物の討伐や植物の収集がメイン。


 下級はそこに中型の獣などが加わり、ギルドのサービスの受けられる範囲が増える。


 中級からは対人戦が加わり、昇格試験に中級〜上級のハンターとの模擬戦が加わる。


 上級はそれ以上。貴族からの依頼が舞い込んだりもするので、貴族とのコネクションを作りたいなら実力を付けろというシステムになっている。




「あのタコって何級だったの?」

「中級」

「あの強さで!?」


 目が丸くなる。

 あれはりりであったからなんとかなったのであって、他の者であったのならまず確実に死ぬ相手だったのだ。


「そもそもハンターって、パーティ組んで連携で戦うのが前提だからな。りりみたいに蛸人と1対1で戦おうとする無謀な奴は居ない。居たとしても生き残らない」


 アーシユルの発言に慌てるのはギルドの受付の男性だ。


「ちょっと待ってください。昨日の運び込まれた蛸人って、全部ツキミヤマさんがやったんですか? 1人で!?」


 仰天する声を聞き、ハンター達がざわつき始めた。

 それは、りりの悪食の時の比ではない。それこそ信じられないものを見る目で見ている。


「え、はい。そうですけど。探すのはシャチさんに……えーと、人魚の方に手伝ってもらいましたけど」

「……いくら魔人と言えど、そんなわけないですよね?」


 受付の男性が身を乗り出す。


「ま、そうなるよな。でも事実だ。兄さんも見ただろう? あの蛸人達に傷は幾つあった? もちろん古傷を除いてだ」

「……1つ……だった」

「そういうことだ」


 受付は少し悩み、りりに向き直った。


「……すみません。りりさん。少しお待ちいただきますか?」

「え? はい」


 受付の男性が走って1階の奥の部屋に行く。


「予想通りだな」

「何が?」

「次に出て来るのはゼーヴィルのギルマスだろうよ」

「へぁ!?」


 りりの驚きの声の直後、アーシユルの言った通り、ギルドマスターが奥からやって来た。

 ちょび髭のある低身長細身でスーツを着た中年男性だ。

 りりは雰囲気だけ見て、心の中で勝手にチャップリンと名付けた。


「ギルマス、こちらです」

「君が……蛸人を1人で狩猟した……と?」

「は、はい! 月見山 りり と申します。本日はお時間をいただきありがとうございます」


 偉い人の登場に、りりはペコペコとお辞儀を連発して怪しい敬語を繰り出す。


「……本当にこの子なのか?」


 ギルドマスターは先日の蛸人を1人で、それも1撃で倒したものだと聞いて来たのだ。

 どんな屈強な人物がやったのかと思い来てみれば、そこに居るのは未成年に見える小さな子供。疑うのも当然だった。


「魔人というのは聞き及んでいる。しかし……本当なら少し模擬戦をしてもらえないだろうか」

「模擬戦?」


 思わぬ提案が舞い込む。


「そこそこの力で相手を負かすだけの試合だ。武器は、剣を持つなら木剣。ジンギなら非殺傷系のみで行なう」

「え!? 誰かと戦えってことですか!?」

「りり。受けておけ。お前は防御してるだけでもいい」


 アーシユルがりりの背中を押す。物理的にだ。


「……防御だけで良いの? じゃあ……」

「決まりだ。では君、中級ハンターを誰か見繕っ……」

「パーティだ」

「なに?」


 アーシユルが腕を組み、自信満々な態度で口を挟む。


「りりを相手にするのなら1人じゃ足りないだろう。ソロの中級ハンター、鉄塊のアーシユルが言うんだ。りりはソロで中級の実力だ。パーティ込みなら上級。いや、もしかしたらソロで上級に手が届くほど……と、あたしはそう考えている」


 ハンターギルドが静まり返る。


 そんな馬鹿な。

 全員がそう言いたそうな視線を、アーシユルとりりに投げかける。上級とはそれほどなのだ。


「……そこまで言うなら……だが、負けたら違約金を貰うぞ」

「大丈夫だ。りりは蛸人5匹倒してから、実験を兼ねたあたしとの模擬戦で、鉄塊投擲を平気で受け止めるくらいだ」

「良いだろう。志願者を募れ。模擬戦は2時間後だ」

「よし! 良いぜ」


 りりが口を出す前に話が纏まってしまった。




「なにが「よし! 良いぜ」なの!? 良くないんだけど!」


 りりは不服を全身で表す。

 話が纏まった際、対人戦ということで頭がパンクしていたのだ。


「不服そうだな。だがこれで無駄な屑、下級ハンターをすっ飛ばせるんだぜ?」

「え、そうなの?」

「ああ。今ギルマスがセッティングしてくれてるのは昇格試験の対人模擬戦だ。この大陸で生きるってことは、狩りだけしてたら良いというものじゃない。荒くれ者や、敵対的な亜人だっているからな」


 確かに屑ハンターを飛ばせるならありがたく思えた。

 草木の採取や小動物の狩りにまるで興味がなかったからだ。


「んー。でも他のハンターさん達に迷惑じゃないかな?」

「はん? 迷惑? 迷惑じゃないさ。それに、そんなもの、かけさせてからが本番だ」


 人に迷惑をかけるのが苦手なりりに対して、アーシユルは真逆の考えを持つ。

 わざわざ迷惑をかけていく性格ではないので、飽くまで根底にある人生観がそうというだけ……つまり逞しいのだ。


「まあ、街の広場で少し戦って実力を見るだけだ。気にすることじゃない」

「そうなんだ?」


 不安は残るが、既にギルドは動いているのだ。今更止めることはできない。




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