64話 近くて遠い友達
「ありがとう。ツキミヤマさん。アーシユルさん。楽しかったわ。シャチさんにしたアレだけど。怖い思いをさせてしまったわね。生き返るなら問題ないでしょう? と思ってしまっていたけど。人の心はそういうものでもないのね。ごめんなさいね」
フラベルタは「長らく忘れていたわ」と付け加える。
これにりりは、フラベルタは神というより "そうあっただけの人間" と取ったが、アーシユルはそうではないようだ。
「いえ……とんでもないです。その……確かに凄まじかったですけど……」
だが、すぐさま研究者の顔になって、サモンシュレッダーが逆回転を始めた意味を問いただそうとする。
それはそれこれはこれのようだ。
こうなると長くなるので止める。
「それは後で教えてあげるからちょっと……」
「あら。ツキミヤマさん知ってるのね。侮れないわね」
とは言うものの、フラベルタは嬉しそうに見える。
りりには、その理由がなんとなく察しはついた。
持つ技術レベルや神としてのポリシー生き様等々により、今まで理解者と呼べる者がいなかったので、まだまだ追いついていないながらも、りりという発達した文明の理解者が嬉しいのだ。
そんな一方で、それを貪欲に吸収しようとする探求者が飛び跳ねる。
「言ったぜ! 後で教えろよ! 絶対だぞ!」
「わかったわかった」
りりはアーシユルを宥めてフラベルタに向き直り、思ったことをそのまま口にした。
「フラベルタ様。私、フラベルタ様がハルノワルドの人達にあまり何かしない理由わかった気がします。神様って……その……」
「面倒くさい。かしら? それとも退屈そう?」
これは聞くのはまずったかも。というりりの心配を他所に、フラベルタは調子に変わりなく、言葉に続くように答える。
りりは小さくうなずくのを見て、フラベルタは続きを口にしてゆく。
「どちらにせよ。面と向かってそんなこと言ってくれるのは。ツキミヤマさんが初めてだわ」
「やっぱりですか……」
言ってくるではなく言ってくれる。
好意にとらえていなければ出てこない言葉に、りりは先程の分析を確信に変える。
神はほぼ万能だ。ある程度なら、なんでもできると言っても過言ではない。
顔や身体を自在に作り変えられれば、ジンギを利用し空も飛べる。
指パッチンだってほんの数回試しただけでミスなく出来るようになるし、見たことのないスマートフォンだって魔改造気味に直せたりもする。
極め付けはシャチのスワンプマン。
その気になれば数分で、同じ肉体、同じ記憶、同じ心を持った複製を創り出すという事さえやってのける。
それほど凄まじい神の技、はたまた技術。
当たり前のように持つその力の行使……それは果たして楽しいものだろうか?
その問いに、フラベルタはつまらないと返した。つまりはそういう事だ。
フラベルタの性格は、ゲームで無敵になって余裕だと楽しんだり、ステータスを上げまくっての無双をするのには向かないのだ。
神という立場上、価値観は人間のソレで図れないものの、無理に当てはめるのであればおよそ内向的な性格であると言える。
「ツキミヤマさん。貴女のこと。りりと呼ばせて貰っていいかしら?」
そんな神からの言葉。これは質問ではない。お願いだ。
異世界人だからなのか、理解者としてなのかまでは判断はつかないものの、答えは決まっている。
「是非。私もフラベルタって呼んでも良いですか?」
「良いわよ。ある意味。貴女は神子になったんだから」
「……はい?」
神様とお友達に。
畏れ多くも誉れ高い。そう考えていたものが妙な方向へとズレた。
「ある意味って……どう言うことなの……」
「電話帳に登録してある名前に。こちらの世界の言語の名前が。1人登録されてるわ。それが私だから。つまりそのスマートフォンは私との所謂ホットラインよ。ね? ある意味神子でしょう?」
神からの声が直接聞けるのが神子。
聞く以外でも神子としての仕事があるともアーシユルより聞いている。
りりの場合、直接ではなく通話で声を聞く。端末の持ち主は言うまでもない。
つまり、この端末がりりの物である限り、りりは神子と言える。
「神子の仕事に関しては。必要ならお願いするかもしれないけれど。その時はどうか神子としてではなく。友人として聞いてほしいわ」
つまり、場合によっては友人としても神子としても振る舞って良いというものだ。
「えっと……じゃあ、進んで名乗らないことにしますね」
なるべく敬語は崩さないまま、りりは神の隠れた友人となる事にした。
「ええ。それでいいわ。では私はこの辺で。明日。念力で空を飛ぶの見せてね。りり」
「約束ですから」
「期待しているわ。じゃあね」
そう言ってフラベルタは宿の方へと去っていった。




