表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月見山りりはヒトデナシ  作者: ふる里みやこ
ゼーヴィル編
40/208

40話 念力の可能性

 



 日が沈んで辺りが完全に暗くなった頃。

 シャチは早速腕を組み、月光を展開する。


 光自体は美しい。

 シャチ自体も雄々しい肉体美を持っている。

 だが、その2つが組み合わさると実にシュールな光景が出来上がる。


「どうだりり?」

「シュール……」

「うん?」

「あ、いや」


 うっかり思ったことをそのまま口に出してしまい、慌てて取り繕う。


「えっと、私しか見えてない光って多分魔力なんだけど、シャチさん、光っててもあまり使ってないように見える」

「溜めてる状態と動く時とで違うんだろうか?」


 アーシユルは、りりの横で胡座(あぐら)を組んで、頬杖をつきながら、共にシャチを観察していた。

 りりも少し考えて口を開く。


「どうだろ? 魔力を溜めてるのも変換してるのも判るんだけど、どうやってるって言われるとさっぱり……」


 光が身体を透き通らない事で魔力を受け取って溜めていることが、そして実際に魔法を使っていることから使用していることが判る。

 だがそれまでだ。結果が解れど過程が解らないのだ。


 シャチは月光を消し去り、会話に入る。


「づぎを、がんじるのだ。がぜのおどや、びがりのおんどを、ばだで、がんがくで、がんじるんだ」

「……それだけか?」

「ぞうだが?」


 説明は極めて抽象的だ。

 改めて、理屈で理解出来る類のものではないように思える。


「それで使えてるとか、寄生虫は別としても、シャチには才能があるんだろうな」

「まあな」


 シャチはニヤリと笑うと、また集中して月光を背負う。

 心を無にするなど境地であろうというのにシャチはそれをあっという間にやってのける。


「じっくりやるものだと思ってたんですけど、いきなりでも出来るんですね……えーと、目を閉じて風や光を感じる……」

「暇だからあたしもやってみるかな」


 3人揃って目を瞑る。

 1人は光り、1人は岩にもたれ、1人は腕を組み胡座をかいて。




 風の音に集中する。

 海風は強い。ここに来る度に髪の毛がベタベタになってしまう。


 光を感じる。

 他の2人には見えていない光。それは目を閉じていても、中に流れ込んで来るのがはっきりと判る。

 目を閉じていても見える以上、これは視覚情報ではない。


 そちらに意識を集中してみると、身体が勝手に、光の(ことごと)くを受け止め貯留しているのが判る。

 思い返してみると、これはシャチとの決定的な差だ。シャチは平常時に魔力をそもそも貯めていなかったように見えた。魔法を使うときだけ、受けた魔力を即座に使う形だ。


 もしや、溜めていては駄目なのでは?

 そう思い、無意識で留めていた魔力を、光を吐き出そうとする。

 それは呼吸を意識的にするようなものだ。やろうとすれば全然難しいものではなかった。




 魔法を──エナジーコントロールを使えない者は、そもそも魔力を受け止められない。その場合、魔力はそのまま透き通っていくだけだ。


 シャチの場合、魔法を使う時だけそのまま使用する。

 つまり、普段から魔力は限りなく0に近い状態で、使う時に1だけ溜めつつ、それを常時発動させるという自転車操業のような運用方法をしているのだ。


 だが、りりは違う。

 りりは無意識下で、常にその身体一杯に魔力を満たしている。

 使った(そば)から回復していくのは同じだが、余裕と絶対量に大きな差がある。

 りりは、試しにそれを全て放出した。




 ただ魔力を吐き出すというだけの行為だが、りりにとっては魔力は受け止めて当たり前のものだ。意識しなければ光は透過していかない。


「りり!」


 アーシユルの声が聞こえ、何事かと目を開ける。自然、意識も散ってしまう。


「何?」


 見ると、アーシユルは心配しているというような表情をしていた。

 りりは、何故その様な顔をされているのか判らず首を(かし)げる。


「あ、いや……今光ってたから……」

「え!?」


 パッと身体を見下ろす。

 別に光ってはいない。手を見ても同様だ。


「……光ってないけど」

「さっきは光ってたんだ! そうだ、ちょっと腕の布取ってみろ」

「あ、ちょ!?」


 言い終わる前に、アーシユルによって手早く左腕の布が解かれてゆく。


 恐る恐る……負傷してから初めて自身の左腕を見る。


 そこには、淡い光のジンギに照らされて、見事なまでに(えぐ)れている肉と骨が見えていた。


 痛みはまだまだある。治っている訳がない。

 理解していても、自身の腕が見るも無残な状態になっている事に大いにショックを受け、りりは思い切り血の気を引かせて平静を乱す。

 涙が溢れ、息は乱れてゆき、あっという間に過呼吸に移行した。


「あ、あぁ……ぁ……」

「りり。落ち着け。悪かった。深呼吸だ。深呼吸しろ」


 言われるも、平静を乱した状態では落ち着くのは難しい。

 そもそも、そんな事が出来るのならば過呼吸になどなりはしないのだ。




 ビニール袋や紙袋があれば、そこで呼吸すれば呼吸は整う。

 だが、今、ここにそんな物はない。


 ふと、思いつく。

 念力の使用方法だ。


 念力は、物を動かせる力というよりは、念力というエネルギー体を持ってして、物を掴んで動かすという力だ。

 ならば、形を(いじ)って袋状に出来るのでは? そう思った。

 実際、袋状にするのは、騎士の時の吐瀉物や、シャチの時の血を(まと)め上げた時に成功している。


 呼吸器系が悲鳴を上げる中、念力を袋状の物に変形させた。

 夜なので出力が上がらない事に加えて、過呼吸に陥っているので集中もガタガタ。

 それでも、作るのは決まった形である必要のないものだ。フニャフニャとした形状の、りりだけにしか見えない袋が空気中に出来上がる。




 念力で作り出した袋を口に当てて、呼吸が整うまで数分。

 その間、アーシユルはずっとりりの肩を(さす)っていた。せっかちだが、基本的には優しいのだ。


 りりの方は、呼吸と共に心も落ち着けていった。

 だが、腕の事を思い出すだけで直ぐに心が騒つくので、腕は見ない方が良い。と、目を閉じ()らす。

 アーシユルもそれを察して、腕に包帯を巻き直していった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ