39話 二つ名
「りりの魔法に名前を付けよう。あれは完全に未発見の魔法だからな」
雑談の初っ端。アーシユルはそんな事を言い出した。
これはカースの事だ。
しかし、口に出していなかっただけで、りりの中ではもう呼び名が決まっている。
「カースで良いんじゃ……またはポイズンとか?」
「カースにポイズン……うーん、格好良くないな」
その言葉に、少し笑ってしまう。
「何だ?」
「いや、改めて男の子なんだなって」
「どこでそう思ったんだ!?」
「知り合いにそっくりだったんだ」
幼馴染の男の子にだ。
ロマンを語り、少し我侭で、興味のある事に対してこれでもかというくらいに目を輝かせるところなどそっくりだった。
「そいつとは気が合いそうだな」
「かもね」
「ぞんなごどより、なまえだ。まぼうば、ガーズでいいだろうが、ぶだづながいるだろう」
「だよな!」
脱線しかかった話はシャチにより戻され、更に悪い方向に向かう。
「待って、二つ名って……」
「[月光を背負う者]とか、[武装猪]みたいなやつだ。シャチは[月光を背負う者]だな」
「だじがに、ぞうよばれでいる」
「待って!」
魔法を使う生き物が希少。それ故に二つ名が付くのもおかしい話ではない。
だが、それは他人事だから「そういうものなのか」で流せる話だ。二つ名が付く当事者になるなど、夢にも思っていなかったりりは、これを阻止しようとする……が。
「こういう名付けはエルフが得意なんだよな」
「ちょ……」
「なにが、よいなば、ないだろうが」
「待っ……」
「りりは何かいい名前無いか?」
振り返るアーシユルの表情は輝いていた。こうなると、もうりりは勝てない。
せめて恥ずかしいのだけは避けようと、必死に語彙力を捻出する。
「月見山っていう名前そのままに、何か……月とか星とか……そんな感じで……あー、でもカースは呪いだから……」
思いつく言葉を並べてゆく。
言ってから、後者が二つ名に残るのは嫌だと思うも、前者は前者で恥ずかしく思う。
だが、このあたりならアーシユルは満足しそう……と、そう考えたのだが……。
「づぎをのろうもの。だな」
混ぜられてしまった。
「いや、それはどうか……」
「月光を背負う者を戦闘不能にしたからか? 良い名前じゃないか」
かぶせ気味にアーシユルが肯定してしまったので、この時点でりりの二つ名が決定した。
「いやでも恥ずか……」
「決定だな」
「却下し……」
「それは却下だ」
「うあーん……」
食い下がるも、2人が満足そうにするので、これ以上言えなくなってしまう。
他でもない、世界初の魔人の命名なのだ。
2人のはしゃぎっぷりは、誰の目から見ても2人の少年と言えるものだった。
[月を呪う者]
これから、りりの言われることになる二つ名が、ノリと勢いで決定する。
当の本人は、はしゃぐ2人の側で頭を抱えていたのだった。




