表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/208

207話 祝賀会3

 



 パチン

 フラベルタが指を鳴らしてゲートを開く。


「フラベルタ何処へ?」

「ちょっとゲストをね」


 問いかけると、そう一言だけ言ってゲートの中へと消えていった。


「ゲストって誰だろ。誰か他に関わり深い人居たっけ?」

「さあ? クリアメとかは王と話してるしなぁ……」

「妖精のクエムちゃんやコラヴさんとかと会ってない程度?」

「誰だそれ?」


 アーシユルはすっかり忘れている。一度会っただけなので無理もない。


「闘技場でほら、賭けしてお金くれた人」

「…………あー、あの時代錯誤の剣士のおっさんか」

「時代錯誤って……」

「だってそうだろ。あの装備が活かせるのは、騎士みたいに数で押し潰す戦法の時か、防御時のみだ……が、ドラゴンの皮膚がこれから市場に出回るとしたら話は違ってくるな」

「どういう事?」


 首をかしげる。


「いや、ドラゴンの素材って硬いし電撃は通らないし、重くないしで強いんだよ。つまり、単純にこの戦法で戦ってきたやつは時代遅れどころか時代の最先端に乗る事になるな。面白いじゃねえか」

「ふうん?」


 ピロリン


 メール着信音が鳴ったので確認すると、コラヴは修行中でパーティーには参加しない旨が書かれていた。

 フラベルタの協力しないとは何だったのか判らなくなるが、助かるのでそのままにする。


「そうだ。せっかくだからコラヴさんは来られなかった分、ちょっとドラゴンの皮膚分けてあげようよ」

「構わんぜ……って、俺もずいぶんと感覚ゆがんでるなぁ……以前だったらちゃんと報酬をと思ってたんだが」

「コラヴさんにはあの時助けてもらったし、それのお返しだよ」

「そう……いうことにしておくか」


 微妙に納得のいっていない様子だが、りりの言うことに納得しておくアーシユル。


「ツキミヤマぁー! こっちへ来なさい!」

「はーい今行きますー!」


 クリアメに声をかけられ、そちらへ一緒に向かう。

 王達の元へ着くと、アーシユルもクリアメもビシッとした姿勢になるので、りりもそれに習ってきをつけをする。


「そういえば忘れておったのだが、今はりりがアーシユルで、アーシユルがりりなのだったな。さっきは話を合わせておったのか?」


 衣装部屋の時の話だ。


「いや、実はアーシユルの体が成人したのに合わせて、体は元に戻したんですよ。だから私がりりで、アーシユルはアーシユルです」

「もどし……?」


 クレウス王がアーシユルを見る。


「はい。そのとおりですクレウス王。そちらも報告したかったのですが、まだメモに纏まってないので、お見せできないのです」

「ふむ。だがまあそのような能力もあるのだと言う認識で良いのだな?」

「はい」

「ならばその報告書は要らぬ」


 クレウス王はきっぱりとそう断ると、その場で姿勢を少し崩した。

 アーシユルも姿勢を崩す。

 ここからはただの人としてということなのだろう。


「それより、りりは本当に大きくなったのだな。その気になれば、お前達だけで1つの国が出来てしまうだろうよ」

「王、それは……」


 レーン補佐官が少し呆れたような態度を取る。


「姉上よ。言い過ぎでは無いぞ。なにせ……いや、これを言うと色々問題があったな」

「はい。お気づきになられて良かったです」


 王はアーシユルの売ったメモの内容に基づいたもので言っていたのだが、それを言ってしまうととんでもないことになるので、話はここで終わりだ。


「偉かったわねクレウスちゃん」

「フラベルタ様。ちゃん付けはよして下さい」


 フラベルタがゲートから現れ、着地する。


「あ、フラベルタ。ゲストは呼んできたの?」

「ゲストは用があるから後でって言ってたわ。あと。別の用件でドワーフ達にもお越しいただいたわ」

「何処に?」


 フラベルタが竜頭の方を指をさす。

 その先では、武器工房のドワーフと妖精クエムが竜頭へと登って叫んでいた。


「見ろ! この傷! これはウチの短刀が付けた傷なんだて! 切れ味抜群! 刺して良し切ってよしなんだえ! そしてこっちがアーチェリーで着いた刺し傷だてえええ!」

「だてえええ!」


「「「おおーー」」」


 見ていた人々から歓声が上がり、拍手が広がった。

 以前りりが教えたものだが、妙に浸透している。

 だが、アーシユルはそれを見て黙ってはいない。


「あいつ! おい! その頭、あたしのだぞ! 降りろアホドワーフ!」


 アーシユルは一人称を変えていたのも忘れて、竜頭の方へと駆け寄っていった。

 りりも付いて行こうとしたが、そちらから別の2人のドワーフがやってきたので、形として行く手を阻まれる事になる。

 いずれも店主だが、皆顔が同じなので、誰が誰だか判らない。


「よう魔人さん」

「フラベルタ様に言われて、ええもん作って来たったて」

「おかげであまり寝てないえ」


 そう言ってドワーフ達が布袋を取り出し手渡してくる。

 片方は小さく、片方は抱える程大きい。


「えっと……開けても?」

「変なことを聞くな?」

「それは魔人さんとこの文化なんだえ?」


 開封の確認は不要のようだった。


「あ、いえそうですね。開けさせてもらいます」


 小さな袋から開ける。

 出てきたのは黒い革手袋だった。

 以前欲しいと言っていて結局買いそびれた、絶縁の竜革の手袋だ。


「え、これ頂いても良いんですか?」

「勿論だて。フラベルタ様からの依頼だて。むしろ金は受け取れんて」

「そっちも開けえ」


 言われた通りに開けると、同じく黒い革のアーマー。

 恐らくアーシユル用だ。


「これは1着しかできんなんだえ。本当は黒いエルフ用にも作ってやりたかったんだが、時間がなかったんだて」

「いえ。アーシユルも喜びます」


 ドワーフ達に頭を下げると、2人共、満足そうに例のサインを交わした。


「そしてりり。これは私からよ」


 フラベルタが指を鳴らすと、りりの額に付いていた2本角が外れ、代わりに正式な神子へと送られる半円型の冠が額へと接続される。

 重さは対して変わらない。

 しかしこれは……


「失礼なこと考えてないかしら?」

「あ、判ります?」

「本当に考えてたのね」

「いやちょっと寝返りがうてなさそうだなって」


 苦笑いしながらそう言うと、フラベルタも苦笑いを漏らす。


「フ……さっきマナもそう言っていたわ」

「ですよねー」


 このやり取りを見ていた全員がハラハラしている。

 人が、それも魔人が、神から正式な神子に任命されるいう栄誉を、こんなに軽いノリで、しかもダメ出しまでしているのだ。

 クリアメなど、目眩がしてしゃがみこんですらいる。


「とにかくそれは特別性よ。それなら向こうの世界でも私と交信出来るはずだから。たまにはつけておしゃべりしましょう?」

「うん」


 どうなっているのかは判らないが、他でもないフラベルタがそう言っているのだからそうなのだろうと納得した。




 一息つく。

 挨拶回りも終わった。

 帰る時の餞別も貰った。

 後はごちそうにありつくだけだ。


 と言っても、りりの目指す点は皆とは少し離れたところ。

 エルフと人魚の集まるところだ。


「お待たせしました」

「りり、きたか。おそかったじゃないか」


 シャチ達が出迎える。


「ええ。ちょっと色々お世話になった人達に挨拶を……」

「そうか。それよりみろ。さしみだが、エルフたちにはこうひょうだぞ」


 見ると、確かに好評だった。

 悪い意味で。


「不味い! けどなにか癖になるわね」

「実はこれ、食堂でも出してるそうよ」

「本当に!? 最近食事が味気ないと思ってたのよ。この不味さは良いわねこっちに住んでも良いかも……」

「住んじゃいなよー。旦那もこっちで作っちゃえばいいのよ」


 等と言っているのは見知らぬエルフと、ちょっとだけ見知ったエルフだ。

 以前相談に乗ると言って結局りり達が行かなかった漁師のところの嫁のエルフ、ユィだった。

 エルフなので見た目は若いが、両方おばちゃんトークを投げあっている。


「あら魔人さんも来たのね」

「どうも」

「結局来なかったから心配してたのよ。ケイトちゃんはどうしてる?」

「彼氏も出来てピンピンしてますよ」

「まぁ!」


 周りからも「良いわねぇ」と合いの手が入る。

 異世界でもおばちゃんはおばちゃんのようだった。


「それよりだ、りり。どれをくう? こっちのながいやつか? それともこのひらべったいのか?」


 シャチが網から魚を取り出し選ぶように勧めてくる。

 見ると、シャケ的なのと、マグロ的なのと、大量のイワシ的なのがピチピチとしていた。


「マグロとシャケで!」

「それはどれだ?」


 固有名詞が違うので、話は通じない。


「こっちがマグロで、こっちがシャケ……だと思います」


 音声変換器の問題で、りりが命名した固有名詞はりり側の言語ではそれが確定する。

 今日から、りりの名の知らぬ魚たちはマグロとシャケになった。


「おぼえておこう」


 シャチがその2匹を投げると、待機していた料理人が受け取り、スラスラと捌き始めた。

 そこへ、ユィが寄って来る。


「あれ、ウチの夫なのよ。漁師でしかも料理が出来るの」

「あーいいですねぇ、料理できる男の人」


 料理をほぼしないりりにとっては憧れの男性ではある。


「でしょう? 魔人さんは判ってくれるのねぇ」

「私あまり料理出来ませんからねぇ」

「あらそれも良くないわよ」


 ダメ出しを食らう。


「……そうですね」


 これからはアーシユルも一緒なのだ。

 どちらかが料理を作らなくてはいけないが、アーシユルは大味なので、りりが料理を覚えるか、アーシユルが繊細になるしかない。

 どちらもダメそうだと思い、捌き終わるのを待って、シャチとエルフ達とで宴会コースに入った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ