206話 祝賀会2
それ名前かよファミリーから離れ、竜頭に近づく。
そこには商人からハンターから、様々な人が群がっていたが、りり達が近づくと、皆道を開けた。
一番前にたどり着いた時、ステング……改めアルフーが竜頭をペタペタと触っているところに出くわす。
「あれ? アルフーさんも来てたんですか?」
「んお!? って魔人さんか……あまり僕の名前を呼ぶのはよしてくれると助かるんだけど」
「あ、それはすみません」
アルフー。白痴という名の罪人に付けられる名だ。
デリケートなところなので、これ以上は……と思うのはりりだけになる。
なぜなら、そういった名前は徹底的におちょくるというのがこちらの文化だからだ。
当然アーシユルもそれに漏れない。
「おう、アルフー。そんな事言うなよ。親父さんに付けられた名前だぞアルフー。ちゃんと名前で呼ばないと駄目だろうアルフー」
「ぐっ……糞がっ」
アルフーはアーシユルに誂われ、憤りを見せる。
「おお? いいのかアルフー君? 手を出したら親父さんが悲しむぞアルフー君?」
「きさま……糞っ……糞が……」
アルフーはイマイチボキャブラリーが少ないようだ。
しかも、しっかりと頭に血が登っている。
それでも手を出さないのは理性によるものか、父親の洗脳……もとい教育の賜物か……。
「ふぅ……違う。落ち着け僕……挑発に乗ってはいけない」
「そうだぞアルフー君。落ち着きたまえ」
「……ふぅーーーー」
アルフーはアーシユルのからかいにようやく慣れたのか、大きな大きな溜息を吐いて本題に移る。
「それより魔人さん。僕は君と戦った事がある1人として言うけど、君、ドラゴンを倒せるほど強くなかったよね? どうやったんだい? しかも3人だけって」
「えっとですね……」
「簡単だ。りりは魔人として、お前と戦った時はまだ成長途中だったというだけだ。そして、今の実力のりりは、ボクスワの神と互角かそれ以上だ」
「何? いくら僕でもそんな嘘にはだまされないぞ。で本当は?」
疑ってかかるアルフー。
周りの皆も頷いている。
周りにいる人は、ゼーヴィルに居た頃のりりを知る人達だ。りりのその時の実力も知っている。
強いと言っても、蛸人を狩って大金を稼いでいく人、シャチ相手にボコボコにされる程度の実力、最強の女クリアメに勝った程度の実力。
街の人が知るりりはそんなものだ。
つまり、その知識があるゼーヴィルの面々にとっては、風のうわさで流れてきた蛇龍の討伐も、今回の翼竜の討伐も、両方フラベルタの実績か何かだと認識されている。
だが、そのフラベルタから「自分を除いた」と明言がされているので、皆不思議に思っているのだ。
フラベルタは嘘をつかない。それはハルノワルドの住人の共通認識だ。
「いや、なんというか、実際その通りでして……それに私1人でってわけでもないですし」
「そりゃあパーティで戦ったと聞いてはいるけど……魔人さん以外の人がいくら集まっても……」
「その魔人が3人だ」
「は?」
何いってんだコイツ……そう言わんばかりの不審な人を見る目がアーシユルに注がれる。
「いやまあ色々あって、あたしもケイトも魔人になったんだよ。それもりりと互角くらいの」
「そんな阿呆な事を……」
「ほれ」
アーシユルがアルフーを念力で掴んで浮かせる。
「ほわ!? いやでもこれは魔人さんがやってるんじゃ!?」
「いや、あた……俺がやってるぜ?」
「いやいや……いや、とりあえずおろしてくれないかい?」
「いいぜ」
アルフーが空中で開放され、そのまま落下する。
「ぶべっ」
「これで信用したか?」
「何がだよ……」
アルフーは納得しなかったようだが、周りの皆が納得してしまった。
周りからは「確かに魔人さんならこんな雑な事はしない」とか「この雑さは確かに赤髪」等、妙な説得力で言うものだから、アルフーも困惑しつつ、言いたいことを飲み込んだ。
そこへ大商人が顔を出す。
どうやらアルフーが浮いたのを見てダッシュで駆け寄ってきたようだ。
「お久しぶりですツキミヤマさん」
「お久しぶりです」
「おう大商人。シャチの本買ったぜ?」
「それはありがとうございます。あれに関連して、売上金の一部を人魚達の金として、預かり所を設けたのですよ。おかげで人魚達もしっかりとお金を使うようになってくれたので、ゼーヴィルの経済が潤って潤って仕方がありません」
大商人は上機嫌でそう言う。
アーシユルとシャチの間で取引されていたお金のやり取りの関係は、そのまま大商人が引き継いで管理しているようだった。
「よし。じゃあその売上の何割だったか?」
「それは後ほど。ここで出してはこの騒ぎです。取られでもしたら厄介でしょう?」
「う……そうだな」
アーシユルは一度魔人メモを盗られた覚えがあるので、大商人の言う通りにする。
「さてツキミヤマさん。商談と参りましょう。率直に、竜の素材を全てとは言いませんがウチで扱わせて貰えないでしょうか?」
「あー……それはちょっと……どうなんだろう」
「何故です? もう無い等というわけではないでしょう!?」
大商人は食い下がる。
だがりりもいけずで言っているわけではない。
「ちょっと待ってくださいね」
フラベルタにメールを送ると、直ぐ様フラベルタが空中の足場に乗って移動してくる。
「何かしらりり?」
「ねえフラベルタ。大商人さんがドラゴンの素材を買いたいって言ってるんだけど、あれって大丈夫なの?」
「大丈夫って毒の事かしら?」
「毒ぅ!?」
商人の1人が驚いて声を上げる。
その声に、大商人が振り向き、即座にその商人の男の元へ出向く。
商人の男は若干の抵抗を見せるも、何か後ろめたいことがあるのか、そのまま引きずられてきた。
「ひ、ひぃー!」
「失礼しましたフラベルタ様。続きをどうぞ」
「あらいいの? ドラゴンに致命傷を与えた毒だけど。フフ。こんな事もあろうかとしっかりと解毒させてもらったわ。ただ、肉までは無理だったわ」
「では爪や革などの素材はどうなるので?」
いつの間にか、りりとフラベルタとの会話が、フラベルタと大商人の交渉に変化している。
「それは勿論。と言っても。頭はアーシユルが庭に飾りたいと言っているから。それ以外になるわ」
「凄い……今まで切断された尾だけの素材を流用していたのに、それが一気に全身分? これは防具業界の革命だ……凄いことに……凄いことになるぞー!」
大商人が吠える。
一方、隣で真っ青になる商人。
りりも心配になり声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか?」
「いえっ! そのっ!」
「……そうです。君、毒について何か私に報告していないことがありますね?」
「イ、イエベツニ」
商人の声が裏返る。
どうもさっきから挙動不審だが、こうも感情が表に出るなら商人に向いていないのかもしれない。
「そうですか……では質問を変えましょう。いくらで売れましたか?」
「ヒエッ」
「もう一つ。 誰 に 売 っ た ……答えなさい」
「すみません! すみませんんん!!!」
何を、とは言わないが、猛烈に謝りだす商人。
りりも気になったので、ケイトに念話でこっちへ来るように伝える。
「来たわよりり……んー? この男、見覚えがあるわね」
「へ?」
「すみま……はい? いえ、僕はこんな子知りませんけど……」
「……あーそういうことか……」
アーシユルだけ納得したようで、商人にカマをかける。
「おいお前。以前、ゴブリンに毒を売っただろ」
「な、何のことでショウカッ!?」
自白も同様だ。
「キサマ……騎士様! 近くにおられませんか!?」
大商人が叫ぶと、近くから2~3人騎士が出てくる。
「大商人殿。何かおありで?」
「ありがとうございます。この者、どうやらゴブリンに例の毒を売り払った商人と思われます。至急取り調べをお願いしたい」
「何!?」
騎士の顔が険しくなる。
「僕は知らない! 知らないんです!」
「それはとりあえず取り調べ部屋で聞きましょう。おい!」
「「ハッ!」」
商人はそのまま連れて行かれていってしまった。
一件落着。
そう考えたのはここにいる全員だが、りりとアーシユルだけは冷や汗が凄まじい。
直ぐ様ケイトに念話を送る。
『ケイトさん! バレたらケイトさんが毒を……』
『そうだぜ! 黒いエルフと今のお前が同一人物っていうのはもう皆が知ってるんだぜ?』
『あら? それなら大丈夫よ。私、あの人の前にあえて姿を見せたことあるけど、彼、私の事を見ても何の反応もしなかったもの。大体……』
ケイトが言うには、盗賊時代に襲撃した時の活動時間は夜だったこと、そもそも背後を取っていた為、姿を見られていない。
よって、毒を売った人物 イコール ケイトという図式が導き出されない……というらしかった。
『完全犯罪じゃないですか』
『いやでも、あの時売った毒が巡り巡ってドラゴンを倒すのに手伝ってるんだから凄いわよね。因みに、あの商人の所に残ってた毒を盗み出したのは私よ』
売った本人だ。毒の残量等も把握している。
ゴブリンの所にあった毒の量から、少ないと判断し、売った本人を見つけ出して家探しした結果、見事取り置いてあった毒を発見し、盗み出した。
それが今回ドラゴンを仕留めた毒だというのだ。
『正真正銘最後ってそういうことかよ』
『ていうか泥棒は良くないと思うんですけど……』
『代わりに金庫に代金分のお金は入れておいたわよ』
『そうじゃなくて……』
ケイトがりり級の魔人になってから、僅かな間にこれだけのことをしでかしていた。
少々常識を教える必要があると思ったのだが、その考えも改める。
力を得た者は得てしてこういうものだと、りりが一番良く知っているのだ。
なにせ、イロマナを失脚させた時に機密文書の持ち出しの際に同じことをしているのだから、りりにケイトを責めることは出来ない。
それどころか、りりのその行動を知ってケイトが真似をしたまである。
溜息をつく。
ともかくケイトの過去の悪事がバレるといった事は無いようだ。
『子猫ちゃん達。私がそうだと言ったらどうなるかっていうのは推して知るべしよ?』
ケイトは魔力を持つ者の声は自動で聞こえる。
それはガトとシーカーも当然そうだ。
つまりこれは2人に対する警告で、破った場合、かつて1種族を滅ぼした張本人が動くという脅しでもある。
りり達にはガト達からの返事は聞こえないが、ケイトは満足そうにしていたので、脅しは通ったようだった。
「「ケイト(さん)こえー」」
りり達の声は周りの雑踏にかき消された。




