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204話 流される女

 



 お互いの部屋に戻って、服を着て合流。そのまま顔を赤くして下へと降りる。

 ダイニングへと向かうと、フラベルタ以外の全員が居た。

 そんな中、壁に保たれていたケイトが歩み寄り、アーシユルの腹に軽く拳を向ける。

 アーシユルがそれを軽く受け止める所で、ケイトが話し始める。


「はぁいアーシユル、りり。皆お待ちかねよ。皆アーシユルの成人祝とりりの目標達成でお祝いしようってしてたのよ?」

「おう。そうだったな」

「えなにそれ聞いてない!」

「そりゃあ、りりはね」


 驚くのはりり1人。

 実際に成人したのはりりであり、アーシユルはその完成形の情報だけ受け取ったのだから、りりがこれを知っているわけがないのだ。


「まぁまぁ。それより、フラベルタ様も協力してくれてるわ。お世話になった人達への挨拶も兼ねて立食パーティといくそうよ」

「へぇ……どこでするんですか?」

「さあそこまでは?」

「あたしも知らん。フラベルタ様が一任させてくれって言ってたしな」


 パチン


 どこからか指を鳴らす音が聞こえ、ゲートが開いて、そこからマナが出てくる。


「りり。アーシユル。あまり待たせるのも悪いわ。さあ急いで来るのよ。まずはあなた達だけ」

「え? あはい」


 少々急かされるが、大人しくしたがう。

 こういう時、特に理由がない限り意思のようなものを持たないのが、りりのスタイルだ。




 ゲートをくぐった先は王城だった。

 外の風景を見る限りはハルノワルドの王城の方だ。


「さありりはこっちの部屋。アーシユルは隣の部屋に入って、衣装師の指示に従ってね」

「お、おう?」


 何時にないマナのハキハキした挙動に、りりだけではなくアーシユルも圧倒される。


 アーシユルとは別々の部屋に通されたりりを待っていたのは、ドレスがいっぱいの部屋と、マナの言っていた衣装師、そしてクレウス王とレーン補佐官だった。

 2人共、いつもより服の豪華さが少し抑え気味になっている。


「ようやく来ましたか」

「あ、どうもすみません遅くなりました?」


 何がどう遅いのか判らないままとりあえず謝る。


「姉上。良いではないか。今日の主役達なのだからな」

「そうでしたね。失礼しました。さて魔人殿。説明させていただきますね」

「あ、はいよろしくおねがいします」


 軽く頭を下げる。


「まず、今回の立食パーティですが、フラベルタ様主催でゼーヴィルの海岸で行われます」

「はぁ……」

「そのパーティに、クレウス王も参加されますので、各人、それに見合った服装をしていただくことになります。服装に関してはここの衣装師が選びますので、それをお召になってください」

「そのドレスは私からの施しだ。遠慮なく受け取るが良い」

「はぁ…………え?」


 思わずクレウスを二度見する。


「では、私がここにおっても着替えづらかろう。りりよ。また後で会おう」

「それでは」


 戸惑うりりを傍目に、王達はさっさと衣装部屋を出ていく。


「あの……あの……」

「戸惑われているところ申し訳ございません。早速お召し物を……」

「あ、えっとすみません」


 謝ってばかりだが、こういう時流されるりりにとって、ある意味王城で過ごすパワフルな人々は天敵なので仕方がなかった。




 少しして、薄ピンク色のショートドレスを着せられて、衣装部屋を後にする。

 せっかく貰うのだから可愛い色をと思って選んだのだが、ふと、某王国の姫がピンクのドレスだったことを思い出し、被っているのでは? と思い、鞄からスマートフォンを取り出し、インナーカメラで見る。

 上手く思い出せないが、某姫のドレスとは似ていない気がしたのでセーフと思う事にした。


 そんなこんなしていると、アーシユル側の衣装部屋の扉が開いて、中からその髪の色にも似た、燃えるような赤いスーツに身を包んだアーシユルが出てくる。

 スーツには綺麗な銀色の装飾も施されている。こんなに派手なのに全然いやらしさを感じさせない辺り、衣装師のセンスはなかなかなものなのだが……りりにはあまり関係がない。


「……」

「ん? おうりり。可愛くなったじゃないか。ドレス似合ってるぜ」

「んあ!? 可愛く!? え!? そんな、アーシユルもかっこよくて見とれ……あばばば」


 冷静に爽やかスマイルを放つアーシユル。

 りりは異性に可愛いだなどと言われたのが初めてなのだ。増してそれを言うのが恋人だ。

 想像以上の破壊力に、本人の目の前で、目をぐるぐるさせてその場で小躍りにも似た慌てふためき方をする。


 そこへ、マナがやって来た。


「おまたせしました。今度は私の方が待たせてしまったわね」


 声のした方へと振り向くと、マナは薄黄色いドレスに身を包んでいた。

 頭にはいつもの音声変換器ではなく、半円状の若干神々しい物。ボクスワの神子が付けていた物と同じ物が付けられていた。


「あぁ、これは神子専用なのよ。これがあれば、フラベルタといつでも会話が出来るのよ」


 可愛らしく頭についた冠を触るマナ。

 だが、実はフラベルタはその気になればその音声変換器を介さなくても話をすることが出来るというのをりりは知っている。

 が、それを言うのは野暮だと、胸の中にそっとしまった。


「さて、準備もできたので……フラベルタ」


 マナがそう言うと、直ぐ様ゲートが開く。

 ゲートの先は見知った海岸。そして知った顔がいくつも……。


 頬をひっそりと染めながら、アーシユルと手をつないで、皆と合流した。




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