表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/208

180話 その女性、胃痛につき

 



 シャドウシフトで魔力と同化していても、魔力の見えるワーキャット相手だと意味がない。

 なので、見つかる前に適当な民家に忍び込む。


 扉の鍵は王都以上にしっかりとした物に見える。

 だが、りりはシャドウシフトですり抜けることができるので、鍵は無意味なものだった。


「りり、今回は念話は使うなよ。ワーキャット全部が魔人と考えたほうが良い。念話なぞしたら……」

「かえって全部聞こえちゃうわけだね。了解」


 魔力を持っている者の声をすべて拾ってしまうケイトならば、ワーキャットの街は来たくない場所ナンバーワンに輝くだろう。




 家に入ると早速、第一村人の女性と遭遇した。

 誰かを呼ばれる前に影から出て、アーシユルと共に畳み掛ける。




 幸い戦闘力は低くかった。

 りり達も爪で少し引っかかれて、軽く血が出たくらいしか負傷していない。

 そのまま迅速に縛り上げる。


「騒がないで下さいね。私達、戦いに来たんじゃないんですよ」

「じゃあ縄を解いてほしいんだけど……」

「それはできん。お前、解いたら逃げるか暴れるかするだろう?」

「しないしない」


 なんとも嘘くさい返事だ。

 しかし、縛られているというのにあまり緊張しているようには見えない。


「貴女、魅了の魔法使えますよね?」

「魔法が使えたら、私達、全員魔人になっちゃうんだけど」

「使えるのは知ってるから、それをりりに教えてやって欲しいという相談をしに来たんだ」

「誰から聞いたの?」


 ワーキャットの女性は、キッとアーシユルを睨む。


「お前からだ」

「は?」


 キッと睨んだかと思えば、豆鉄砲を食らったかのようなキョトンとした表情になる。


「お前、全員が魔人って自分で言ったんだぜ? そりゃあ全員、大なり小なり魅了を使えるってことだ」

「あ、ほんとだ」


 女性はフリーズした。

 少し鈍くさいのかもしれない。

 少し親近感を感じた。




 アーシユルは、他に誰も居ないことを良いことに、言葉巧みに女性を追い詰めてゆく。

 最後に耳打ちをする頃には、女性はこの世の終わりのような表情をしていた。




 結果 "快く" 協力してもらえることになったので、縄は解く。


「はい。じゃあ赤髪の人を実験台にさせてもらう感じでいいでしょうか?」


 女性は何故か敬語になっていた。

 耳打ちをされていた時に何か吹き込まれたようだ。


「まぁ、あたししか無理だよな。りりはそもそも効かないし」

「いえ、そちらの方にも効きますよ。要は、魅了に使う魔力の総量が、相手の総量を超えていれば良いんですから」

「あーやっぱりそんな感じですか」


 召喚魔法、サモンスレイブと同じだ。

 アーシユルは超低コストで呼び出せたが、魔力を持つケイトはそれ以上の魔力を使わないと呼び出せなかった。


「私達ワーキャットだけの秘密をそんな感じとか……」

「まぁまぁ、同じ魔人同士仲良くしましょうよ」

「は、はい! 仲良くさせてもらいます!」


 女性は胸の前で両手を握り、少し前かがみになる。

 アーシユルはが、りりを出しにして脅したのは間違いなかった。




 女性がアーシユルの腕に触れる。


「手、ぷにっぷにだな」

「ワーキャットの特性ですよ。皆そうです」

「知ってるが、体感すると凄えな」

「ありがとうございます」


 他愛もない話が繰り広げられる。


「あの……」

「すみません。もう終わってます」

「え? あたしもう何かされたのか?」

「はい」


 りりの目には、全く何かしたようには見えなかった。

 りりでこうなのだ。アーシユルなど尚更だろう。


「試してみましょうか。赤髪さん。黒髪の魔人は、わたしたちの敵です。攻撃して下さい」

「何をそんな……」

「……あ、りり。これやばい」

「え?」


 アーシユルは目を見開いて、体を震わせている。


「おい。取り下げろ。もう解ったから」

「間違いでした。魔人は味方だから攻撃しなくてもいいです」


 途端、アーシユルが脱力し、膝立ちの体勢になる。


「……マジで? ……魅了ってそんなにもなの?」

「きっついぜ……」




 あまりの威力に、この女性にも事情を説明せざるを得なくなった。

 本当の意味で協力してもらう為だ。


「私達の誰かが神を魅了……誰ですかそんな事した阿呆は……」


 女性は椅子に座り、頬をテーブルに付けて脱力する。


「いや、ワーキャットからしたら有効な手に見えるが?」

「そりゃあ即物的に見たらそうかもだけ……ですけど、そんな事してたら、それの影響で、もっと力のある誰かが自然とやって来ちゃうって先々代のボスが……実際に今、黒髪さんみたいな人が来て……来られてますし」

「あー……」


 ワーキャット族は、今まさにその事態に直面していた。

 魅了を使ったせいで、りりという強敵を街に呼び込んでしまっているのだ。


 女性は頭を起こして続ける。


「私達は魅了が使えるけ……ますけど、最小限にしか使わないようにしてるんです。神様に効くのは正直驚きですけど、そのせいでこんな信じられない魔力量持った魔人が襲ってくるなんて……死にそう……です」


 女性は爪を立てて、テーブルの上のまな板のようなものをガリガリとひっかき出した。

 爪とぎだ。

 ここら辺りは猫っぽい。


「っていう事は、やっぱり私の魔力見えてるんですね」

「はい。光りすぎてて目眩がしそうです」


 女性はわざとらしく目を細める。

 しかし魔力光とは光であって光ではない。目は眩まないので、これは比喩表現だ。


「皆見えてるのか?」

「ええ、でも体の中まで見えるのは、先代のボスと、私と、町外れの変わり者のガキンチョくらいです」

「先代のボスっていうと、阿呆共を必死に止めようとしてた奴か……なるほどそれで……」


 りりだって魔力は見える。

 だが、人の中に入った魔力までは見ることが出来ない。

 そういう意味では、今挙げられた3人は、目に関してはりりよりも秀でた魔人ということになる。


「とりあえず教えてくれ」

「……あの、でも私が神様の魅了を解いたらそれで良いのでは?」

「あ……」

「駄目だ」


 アーシユルは即座に否定する。


「信用できないのが1つ。もう1つは、りりがコントロールしないと、これ以上神が暴走した時対処ができないからだ」

「いやでもしかし……」

「諦めろ。お前達ワーキャットは、りりという絶対的な強者に目をつけられた時点で終わってるんだ」

「……はい」


 女性はアーシユルに凄まれ、しょぼんとする。

 これで脅しの内容が把握できた。

 りりがワーキャットを滅ぼすのも視野に入れているという内容だ。


「えげつない……」

「そんな事はない。ちゃんと選択肢はくれてやってる」

「無いに等しいじゃん」

「ですよね……黒髪さんは解っておられる」

「調子に乗るな。さあ、教えろ。言っておくが、これは嘘でも何でもなく、あたしが操られたままとか、りりは黙っちゃいないぜ?」


 女性は恐る恐るりりを見る。

 これに関しては全くもってその通りなので、小さくうなずく。


「教えさせていただきます。ええいただきますとも」




 レクチャーを受ける。

 対象はアーシユル。


「違います。もっとこう、魅了を消してやる気持ちで」

「……こうですか?」

「違います。困惑しているような魔力しか感じません」


 今りりは、アーシユルの手を握って、必死に魔力を送り込んでいるところだ。

 なんでも、感情を乗せて魔力を放出するだけで良いそうなのだが、感情を乗せるという方法がよく解らない。


「こう?」

「違います」


「……こう!」

「違います」


「うおおおおお!!!」

「出来てません」




 こんな調子で小1時間が経過した。


「ちょっと休憩にしません?」


 女性がそう提案してきたので、その案に賛成し、アーシユルから手を離す。

 すると女性は、棚からパンを取り出し、りりへの愚痴を垂らし初めた。


「何で魔力尽きないんですか……」

「自然に溜まりません?」

「いいえ……それより何で出来ないんですか。1時間もかけて全然じゃないですか」


 アーシユルが何気なしに動く。

 それを目で追うと、たった今女性がパンを取り出した棚から、勝手にパンを取り出した。

 アーシユルはそのまま席に座り、ポーチから干し肉と香草を取り出して食べ始める。


 りり達の視線に気付いたアーシユルは、パンを頬張りながら「ん?」と言って、パンを手渡してきた。


「図々しいですね……」

「いえ本当申し訳ないです。代わりと言ってはなんですけど、お菓子持ってきたのでどうぞ」

「あ、それは……どうも」


 アーシユルの変わりに平謝りをする。

 だが、りりもアーシユルからパンを受け取ってしまったので同罪だ。




 小さくお食事タイムを終える。


「それより、もう少し解り易くなりませんか?」

「ワーキャットは皆、教えたら出来るので……」


 つまり、りりには才能がないと言っているのだ。


「これだったらサモンスレイブの方がマシ……うん?」


 ふと、アイデアが湧いてきた。少し考え込む。




「明日の昼に私達もう一度この街に来るって宣言してるんですけど、それまで一緒に来てくれませんか?」

「……ええ。もうどうにでもしちゃってください」

「すみません。昼にしか出来ないことなので……」


 そうして、りり達は女性を誘拐するに至った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ