表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/208

139話 クリアメ

 



 ドワーフの村からゼーヴィルまではあっという間だった。

 これからアーシユルの過去の秘密を聞きに行くのだ。

 素直に教えてくれたら良し。駄目なら無理矢理にでも聞き出す。自分達にはそれが出来る。

 しかし、人の脳内を覗き見るなど、ウビーと同じことをするかと思うと少し気が滅入った。

 だが全てはアーシユルの為だ。


「やるぞ!」


 気合を入れてから、フラベルタにメールをして、ゲートを開いてもらい、全員を呼び出す。


『おう。ありがとう』

『しかし便利ね。本当ならどれ位かかるものなの?』

『本当なら馬車で7日はかかるわよ。それが私の転移とグライダーでたったの1時間46分』

『夜だとシャドウシフトで一瞬だったんだけどねぇ』

『あらぁ』


 フラベルタは、少々台無しな事を言われ、少し首を傾ける。


『あれか……あれすごいよなぁ』

『正直、あの魔法は便利さっていう観点では頭一つ抜きん出てるんだよね』

『頭?』

『気にしないで。いつものだから。まぁ、使いやすいってこと』

『あぁ、なるほど』


 相変わらずだが諺は通じない。地味な歯がゆさを覚える。


『で、アレ具体的に何が出来るんだ?』

『魔力を放出し続けてる間、月の魔力に同化して移動できる』

『……うん?』

『全く解らないわ』

『りりは凄いわね』


 アーシユルにも、ケイトにも、フラベルタにも理解されない。


『凄すぎてなんだか分からん。ていうかなんでそんなに明確に答えられてるんだよ』

『なんというか……目をいっぱい創って以来、何か魔法に対しての感覚が鋭くなって……』

『……それ寄生虫じゃねえのか!? フラベルタ様! 見てやってくれませんか!?』


 このような事を言うと、当然そう来る。

 だがそれ以上にアーシユルの敬語に対する違和感の方が勝った。


『診てみる?』

『良いかな。自分の体動かした時に虫は居ないって判ってるし』

『『……?』』


 アーシユルはともかく、フラベルタまで首を傾げた。

 ケイトは、りりの事が唯一判っているので苦笑いをしている。


『つまり自分の体は把握できてる感じ。フラベルタの言ってたスキャンに近いことが出来た……ってところかな?』


 これにはフラベルタも呆れ気味だ。


『何もなしでそんな事しちゃえるなんてね』

『これフラベルタ様には悪いけど、本当に神越えてるんじゃないか?』

『回答出来ないわね』


 苦しい無回答だ。

 フォローを入れておく。


『そこは越えてないって断言しても大丈夫だと思うよ?』

『回答できないわね』

『それもう回答じゃねえか』

『回答できないわね』

『『……はい』』


 諦めた。

 実際のところ、情報量と処理速度が圧倒的なフラベルタのほうが強いだろう。

 それに仮に勝てたとしても、フラベルタにはスペアが存在するので、そもそも相手にすらならない可能性がある。


 そんな事を考えていると、ケイトからツッコミが入る。


『いや、普通は神に勝つとかいう発想はないわよ?』

『ですよねー』




 ギルドに到着し、我が物顔で入っていく。


「おや、魔人さんじゃない。ここに居るって聞いてたのに居ないから何処行ったものかと思ってたのよ?」

「どうも。お風呂の時以来でしたっけ?」


 例の飯抜きグループのリーダー格の女性だ。


「ところでクリアメさんはおられますか?」

「新しいギルマスかい? さっき広場で決闘受けてたよ」

「うぇ!?」


 変な声を上げてしまう。


「決闘!? なんで!?」


 驚くりりに対して、アーシユルは冷静だ。


「いつものか……」

「何で冷静なの!?」

「魔人さんの対応のほうが普通だから安心して」


 理由が解らない。

 クリアメは恨みを買うような人間には見えなかったからだ。


「クリアメは強者至高主義なんだ」

「強者至高主義?」

「早い話が、自分と互角かそれ以上の奴としか子供を作らないと豪語してる」

「それは……」

「故に27歳にして未だに処女だ。遅すぎる」


 明け透けなアーシユルの言葉に、頭が痛くなる。


「どうした?」

「いや、私の住んでた所ではそう言うの隠す風潮があるから、ちょっとびっくりしてるだけ……」

「……その反応……まさか、りりも処ばび……ってえ! 舌噛んだだろ!」

「隠すって言ったでしょ!」


 念力でアーシユルの頭を殴ったら舌を噛んだようだが、自業自得だ。

 しかし、フラベルタがからかうように口を開く。


「でもりり。あなたの世界ではそうじゃないかもしれないけれど、この大陸では貴女は結婚適齢期だから、ボーッとしてたらクリアメみたいに婚期を逃すわよー?」

「あ、それは大丈夫」


 きっぱりと否定する。


「相手は?」

「そりゃあ、あたしですよ」


 アーシユルがフラベルタに、慣れない敬語で答える。


「あら? 男になる気で居るのかしら?」

「……ならないのですか?」

「回答できないわぁー」

「おおおおおお!? 神様からのからかいはタチが悪い……ですよおおお!!」


 相手は神なのだ。やり場のない気持ちに、アーシユルは地団駄を踏む。


「でも私なら、アーシユルが女の子になっても良いかなって気はするけど」

「「「!?」」」


 全員がりりへ振り向く。その表情は信じられないモノを見る目だ。


「言いたいことは解りますけど、アーシユルとずっと一緒に居られたらいいなって思ってるだけだよ?」

「ビックリしたわ」

『驚くわよ』


 アーシユル以外の3人は驚いている。

 アーシユルも驚いているが、照れもあるのか、目がウロウロして、口角が少し上がっている。


「りりのところの文化では。同性婚はあるのかしら?」

「ないですけど、外国ならあるかな?」

「外国?」


 これは言葉が通じてないというよりは、概念の話になる。何故ならこの大陸に住む人々は、この大陸から出たことがないのだ。


「えっとね。海の外にも人が居るんだ。そこには違う文化の人達が住んでて、その中のいくつかには同性婚有りなところもあるの」

「……異文化だな。というか、海渡れるのか……凄えな……」

「渡るというか、飛ぶ」


 船もあるが、普通は飛行機移動だ。


「グライダーか?」

「飛行機っていって、何百人を乗せて空を飛ぶ鉄の塊があって……」

「もういい。ワケがわからん」

『私もこの辺でいいわ』


 アーシユルがリタイアすると、ケイトもそこでやめる。

 アーシユルがわからないものが自分に解るわけがないとの判断だ。




「ただいま皆の衆!」


 アーシユルがぐでっとなっているところにクリアメと、お付きのシールダーのカナルが、ギルドの正面扉から帰ってきた。

 途端にアーシユルはシャキっとなる。


「おかえりなさい」

「お? [極め]の面々じゃないかい。ツキミヤマのおかげか、動きが早いね。どうした? 何か用かい?」

「実はお話が……」


 先に魔力プールを展開しておく。

 そうしなければ都合よくそこだけ心を読むなど出来ないからだ……が、クリアメにエナジーコントロールを施そうとすると、スッと避けられてしまう。

 180cm近くもある身長の何処に、この機敏さがあるのか見当もつかない。


「何のつもりだい? 場合によっちゃあ……」

「はい?」


 気がついたらクリアメが抜剣している。

 それどころではなく、りりの首元に剣が突きつけられていた。

 ゴクリと息を呑む。そして、時間差で冷や汗が溢れてくる。

 アーシユルでさえ絶句していた。


『早いわね……私と互角……くらいかしら……』


 ケイトだけは目で追えていたようだ。


「ケイトさんと……互角って……」

「おや? ツキミヤマは私の動きが見えていたのかい? そんなはずはないんだけどね?」


 そのまま剣が顎に触れる。

 恐ろしい。それ以外の感想が浮かばない。

 クリアメが笑顔を崩して真剣な顔をしている。ただそれだけのはずなのに、後ろに鬼神でも居るような威圧感があった。次第に震えも出てくる。


「クリアメ……すまん。説明するから、剣を収めてくれ……」

「敵意は?」

「そういうものはない」

「……ツキミヤマ。私に向かって何をしようとした?」


 完全にバレている。だが確認だけはしておかないといけない。

 アーシユルに魔力プールを展開しようとする。


「ぐっ!?」


 クリアメから蹴りが入り、衝撃で声が漏れ、よろめく。


「りり!? っ! クリアメ! 何しやがる!?」

「今ツキミヤマが何かしようとした。それだけだよ。アーシユル。引っ込んでな」


 確定に近い。クリアメには魔力が見えている。

 こうなれば、なんとしてでもクリアメをねじ伏せなければいけない。


「ツキミヤマ。もう一度聞くからよく聞いてね? 今、私に何をしようとしたの?」

「……今?」

「再度……と言ったほうが解るかい?」


 見えているにしては変な質問だ。


「ちょっと確認を……取ろうとしただけです」

「確認?」

「クリアメさん。私と戦ってくれませんか? 私が勝ったら、アーシユルの過去について話してもらいます」

「……じゃあ私が勝ったら、アーシユルの過去は一生語らない。でどう?」

「ぐっ……」


 ハイリスク・ハイリターンを突きつけられる。

 つまり、アーシユルの過去は、それに見合うほど大きな物なのだ。


「おや? まさか魔人ともあろう奴が、ただの一市民に負ける気でいるのかい? そんな事だと何も得ることは出来ないよ? いいのかい?」


 ただの一市民。クリアメの言うところは、もう放蕩貴族ではないというだけの事だが。

 りり達はそういう意味とは取らずに、実力者からの煽りとして受け取る。


 りりは、チラとアーシユルに目をやると、今、正にナイフをクリアメに投擲したところだった。

 しかし、間に入った大盾に阻まれる。


「良くやったねカナル。後でご褒美だよ」

「ウス」

「チッ!」


 アーシユルがナイフをもう1つ用意しようとする。


「アーシユル。あんたは私との勝負に負けただろう? それはルール違反だよ!」

「……ぐっ!」


 振り上げたナイフは、そのまま床に投擲されて、垂直に突き刺さった。


「アーシユルは過去に私に同じ理由で勝負を挑んだんだよ。それで負けた……で、ツキミヤマはどうする? 私に挑むかい?」


 こうなると答えは1つだ。


「クリアメさんは負けたことは?」

「ないね」

「じゃあ今日が初の敗北になりますね」


 アーシユルの為だ。負けられない。

 今日、魔力の感知すらしてみせる無敗の魔人の戦歴に泥を塗るのだ。


「……言うじゃないかい。場所は広場でいいね?」

「ええ」


 シンと静まり返っていたギルド内が活気づく。

 魔人りりと、無敗のギルドマスターが本気で戦うのだ。これ以上の出し物はないだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ