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137話 小さな感情

 



 少ししてアーシユルと、顔に白い民族化粧のような模様を描いて、ローブを纏ったケイトと合流し、フィジカルハイを解き、アーシユルとフラベルタに魔力プールを展開する。


『アーシユルもケイトさんも心配したんだよ! たった2人でゴブリン退治とか何してるの!』

『悪い。ただ、ゴブリンとは遭遇しないだろうとの認識で行ったんだ』

『そして案の定だったわ』

『え?』

『だから大丈夫だって言ったでしょう?』


 フラベルタが今更そんな事を言う。


『大丈夫だけじゃ解らないよ』

『なんだやっぱりフラベルタ様から話は行ってたのか。まぁつまり、ゴブリン達は、あたしらを知った上で襲って来て、返り討ちにあったから即座に逃げた……間違いなく同じハーフゴブリンだ。あそこに潜伏してたんだ』


 ごくりと息を飲む。毒を持つハーフゴブリンに2度も逃げられたのだ。もう小賢しいなどという言葉では片付けられない。


『あのハーフゴブリンはヤバい。前回だって仲間を切り捨てるまでの速度が尋常じゃなかった。だからこそ生き延びたとも言えるが……』

『だからアーシユルと一緒に、魔人を瀕死に追いやるほどの危険なハーフゴブリンが出たと、ここのギルドに情報を流してから来たわ』

『良い判断だったと思うわよ』

『『お褒め頂き光栄です』』


 2人してフラベルタに畏まる。

 だが気になるところはそこではない。


『……ゼーヴィルにじゃなくてですか?』

『ゼーヴィルは後よ。アルカからの軍と、ゼーヴィルからの軍で挟み撃ちの形にするのよ』

『因みに。ここで言う軍って言うのは。騎士団とハンターと亜人の連合のことよ。と言ってもバラバラに動くから。連携はそんな物といったところだけどね。解ったかしら?』

『うん。ありがとフラベルタ』


 軍。

 大きく出たものだと思うが、それくらいの規模で動かなければいけないほど危険なのだろう。


「……りりさん。此方の方々は? 先程から全員無言ですが……」


 コラヴが不安そうに訪ねてくる。

 ケイトが居ると、念話をしがちになるので、ついこういう出来事が起こってしまう。


「あ、ごめんなさい。えっと」

「あたしらはりりの仲間だ。喋ってなかった理由は秘密だ。逆にあんたは誰だ?」

「失礼。儂はコラヴ。長年ハンターをやっておる」

「ほう……りり、こいつ強い?」

「えーっと……」


 凄まじく失礼な質問を投げかけてくるアーシユル。

 そして、りりもそれに答えるほど無神経ではない……が、これに口籠っているので言ってるも同じだ。


「良い。実際儂は1回戦で負けたのだ。鍛え直しだと思っとるよ」

「ほう……じゃあクリアメのいい言葉を教えてやろう。そう言うやつは強くなる。もっとも、言葉だけでなければだがな」

「あのクリアメ様の言うことですか……それは頑張らねばなりませぬな。ではりりさん。これを」


 そう言って、コラヴは約束の金貨1枚取り出したので、ありがたく受け取る。


「良い経験になりました。では儂はこれで……」

「こちらこそ。毎度ありがとうございましたー」


 コラヴは礼儀もいいし、金払いも良い。愛想を振りまいて送り出して損はない。

 見送られてそのままコラヴは闘技場へ戻ってゆく。観戦しに行くのだ。


『今の金は?』

『私が闘技場で勝つ度に銀貨50くれるっていう賭け? みたいなのをしてて、その報酬』

『何してるんだよ』

『いや、誰も居なかったからとりあえずご飯とでも思って、ついでにハンターギルドに顔を出したらなんやかんやあって闘技場で実戦経験積める的な話になって……』

『ほう』

『闘技場ね。どんな感じ? 私知らないのよ』

『それは構わないんですけど、ケイトさんのその化粧何なんですか?』


 やっと突っ込めるタイミングを掴めたので遠慮なく行く。


『こうしてると道楽エルフの遊びだと思われるっていうケイトの案だ。阿呆かって思ったが、ここまでで注目されこそすれ、誰も嫌悪感は示さなかった』

『その変わり近寄られもしないのよね。そのほうが良いでしょう?』


 流石だ。エルフの里のエルフの生態についてはケイトに一日の長がある。

 既に滅んでしまったが、それこそケイトこそがそのエルフの里の生き残りと考えれば感慨深い。


『……複雑だわ……』

『あ、ごめんなさい』


 ケイトから見たエルフの里のエルフというのは、幼馴染や家族であると同時に、憎むべき対象である。その1人としてカウントされたのがどうにも嫌なようだ。

 エルフの里が燃えた時にリアクションが薄かった事を考えると、その前に家族は既に死んでいるのだろう。なるほど憎むことに徹することが出来たわけだ。


『念話してても会話が飛ぶのは困るな』

『あ、ごめん』


 ケイトは念話に対する適正が有る為、心の声まで読めてしまう。そのせいで念話をしているにもかかわらず、話が飛んでしまうのだ。


『ところでりりはどこまで勝ったんだ? 1開戦は団体戦だったはずだが?』


 アーシユルは闘技場の内容を知っているようだ。


『1回戦で団体戦と、とても強い人といきなり当たって……なんていうか……私強くなってたというか強くなったというか……』


 死の危機にあったことは伏せて話す。


『? 要領を得ないな』

『自分でもよく解らない……で、その強い人、ステングっていう人を倒せたんですけど、模擬戦っていう意味ではステングさんより強そうな人が居なかったんで、棄権しに行こうかなっていう話してたんだ』

『りり。凄かったわよ』


 フラベルタは口元を隠してフフフと優越感のたっぷり含まれた笑みをこぼす。

 いい性格をしている。


『だぁー! また見れなかったのかよ! タイミングが悪いな』

『あのりりが団体戦をねえ……へぇ……』

『先制攻撃出来たのが大きかったかもしれません。あとこれ、新しい技です』


 サバイバルナイフを取り出して、フィジカルハイを使用。1メートル程の強固な念力刀を作り出す。

 フィジカルハイを用いなければ即座にこれほどの強度と切れ味を持つ刀は作れない。故に多少目立つ事には目をつぶる。


 人の少ない所にまでほんの少しだけ移動した。その間、ずっと光りっぱなしで視線を集める。段取りが悪い。


 刀の届く範囲に人が居ないのを確認してから、木の枝に向かって縦に念力刀を振り下ろす。


「ええい!」


 カツという音と共に枝が切れる。


『これが念力刀です』


 念力刀と日輪を霧散させる。

 アーシユルが目を丸くして木の枝の所まで行き、拾い上げる。


『……すっ……げえ……この切れ目おかしいぜ』

『どれ? ……これは……すごいわね』

『ドワーフさんのところで刀をじっくり見れたのが大きかったですね。おかげで切れ味の再現が出来ましたし』

『その切れ味は刀と遜色ないわね。』

『本当? やった!』


 知識として形だけ知っていた刀。それがウビーにより口伝され、ドワーフによって出力され、それをアレンジし再現したのがこの念力刀だ。

 フラベルタに褒められはしたが、ある意味ウビーのおかげなので少し複雑だ。


『刀かぁ……』

『アーシユルには重いから無理だと思うけど、今作ってもらってる短刀っていうのが突くだけじゃなくて、切るのにも特化した小型の刀だから、そっちで試してみれば?』

『本当か!? アレそうだったのか。楽しみだ』

『この、私の弓の端に付いていたのは?』

『それは違うと思います』


 残念ながらケイトのアーチェリーは既成品の上、普通に諸刃の剣だ。

 しかも仮に刀だったとしても、弓に刀を付けるというのもよく分からない。


『そう……これは違うのね……』


 ケイトは背負っていた弓をヒョイと手元に持ってくると、じっと憂いを帯びた目で眺めている。


『そんなにしょんぼりしないでくださいよ。その代わり、刃の部分剣取り外し出来るみたいですし』

『もうやってるわ。危ないもの』


 そう言って見せてくれた弓には刃が付いていなかった。


『勿体ない!』

『本当ね。あの時は良いと思ったけど、使ってみたら邪魔って解って……シンプルなのは良いことだと思い知らされたわ……』

『無駄なお金を使っちゃいましたね……』

『いいえ。弓自体は良いものよ。威力も強度も申し分ないわ。それにこんなに大きいのに、折り畳める上に軽いから持ち歩きが楽よ。改めてありがとうね。りり。アーシユル』


 なんだかこそばゆい。確かに払ったお金は今はもうりりの稼いだものだ。なのでふとここで疑問が浮かぶ。


『そう言えばアーシユルってハンターの割にあまり稼ぎに行かないよね』

『あー……まぁ理由があってな……』

『理由?』

『……あたしな、クリアメに育てられたんだ』

『え? アーシユルってクリアメさんの子供だったの!?』

『言われてみれば……似てる……のかしら?』


 アーシユルの衝撃発現に、ケイトまで驚く。

 しかしフラベルタは驚いていない。

 何か知っているように思えた。



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