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130話 ドワーフの村

 



 宿の扉をくぐると、そこは博物館だった。

 いや、間違いなく宿屋ではある。あるのだが、意匠様々な甲冑や、武器。具体的には、剣、槍、槌、そして飾って間もないと思われる真新しい刀。そして綺麗に並べられた工芸品。それらに、各工房の名前がプレートで表示されている。

 これが宿屋を博物館足らしめていた。


「圧巻……」

「ほわー。すげえな。武器としてというよりは、このくらいのものは作れるぜっていう威嚇行為みたいだな」

『矢は無いのね』


 興味津々に眺めるアーシユルに、少し残念そうにするケイト。

 そこへ宿屋の店主の女性から声がかかる。


 角の上に乗せていたマルチグラスをスッとかけて見ると、店主はドワーフだった。

 耳も長くなければ、肌の色も変ではない。せいぜい背が小さめということくらい。

 24歳程と出ているのに身長が136しかなく、小さくて可愛いという感想が出る。


 りりにとって、異世界人の顔は皆似たり寄ったりな以上、背が小さいとそれだけで小動物感が出て可愛く映る。


「お客さん……でいいのかね? 何泊だい?」

「未定だ。まだ鍛冶屋にも行ってないからな」

「じゃあ取り敢えず1泊ってところかい? 銀貨50枚だよ」

「たっか!」


 2日で蛸人1匹分。無茶苦茶だ。

 ゼーヴィルの宿屋は20枚だったのにだ。

 だが、それはそれで安い気がする。価格の基準が判らない。


「高いじゃないか。ん? 何故だ?」

「他に宿がないからだよ。嫌なら構わないよ? フフフ……」


 所謂、観光地価格だ。更に悪いことに、ここ意外に宿が無い。

 ハンターが生き延びるためには良い装備を。良い装備を得るためには金を使わなければならないというわけだ。


「世知辛い……」


 宿は人数ではなく、部屋数で値段が変わる。

 つまり、1部屋を多人数で使うほどお得なのだが、残念な事にこのパーティ、ベッドを絶対に譲らない者が2人居る。

 ベッドは1部屋に1つというのがお決まりで、普通のパーティはローテーションして使うのだが、使いたい者が2人居る場合、2部屋借りる他ない。


「りり。グライダー使ったら宿に金使わなくて良いんじゃないか?」

「……! やだ、アーシユル天才」


 さっきの今で忘れていたのにも苦笑モノだが、タダでベッドを使えるのはのは良い事だ。この世界に於いては尚のこと。


「現地にいるのがバレたら駄目だから、トイレは外で、飯は肉と草だがな」

「ちょっと考えさせて」




 結局宿屋は保留にして工房を巡る事にした。


 煙突のついた赤煉瓦のようなもので作られている建物は、武器専門の鍛冶屋の様だった。

 扉を開けると、客入りを知らせる扉のベルが鳴り、室内からは熱気が噴き出てくる。


「あっつ……」

『暑いわね……』

「工房兼販売所か……あちい……」

「客かえ?」


 そこには背は低いながらも、身体中が筋肉質で、口周りに濃い髭を蓄えた中年男性が居た。

 服の袖は肩まで捲り上げ、これでもかというくらい汗をかき、遮光のゴーグルを掛けている。


「イメージぴったり……」

「……お前か、異世界人て」

「うぇ!? なんで判ったんですか!?」


 脳内でのイメージぴったりのドワーフが出てきたと思ったら、いきなり異世界人とバレてしまった。

 別にバレたからと言って困るものでもないのだが、何故バレたのかが謎だ。


「神様から、刀や "わしのような" ドワーフを見てテンションを上げる奴がいたら異世界人だと思え、と言われたんだて」

「神様から……黒髪とか東洋顔ではなくてですか?」

「黒髪はそっちにもおるだろ。それともそっちの黒いのも異世界人なんじゃろか?」

「いえいえ、違います違います。私だけですけど……」


 語尾が一々気になる。


『こういう時、そういうのを聞けないのは悔しいわね……』


 ケイトは耳が聞こえない事に対して普段は何も言わないのに、こういう時に悔しがる。


「で、客なのかえ? そうでないのかえ?」

「あー、りりは確か武器欲しいとか言ってたな?」

「うん。おじさん。オーダーメイドとかって出来ますか?」


 ドワーフのおじさんがゴーグルを外し、りり達を見る。査定するかのような目だ。


「…………」

「……私ハンターで少し特殊な戦い方をするんですけど、それに適した武器が欲しいんです」

「特殊……どんな物が欲しいんだて?」

「それはですね……」




「……と、こんなのなんですけど」


 練っていたりり専用の武器案を見せる。


「……これは……武器なのかえ? あと、どちらかと言うと、これは道具、工芸品屋の方だて」

「あー、言われてみれば道具かも」


 来る店を間違えたようだ。


「それと、短刀は……3日くらいだて」

「それは少し反らせて、切れ味は極大で、それでいて折れにくくで」

「無茶な事を言わんでくれ黒髪さん」


 ドワーフは何色を示す。


「え? でもこんなもの、私の地元じゃお土産品レベルですよ」

「……お土産品だぁ?」


 たしかにお土産としての模造刀もある。

 だが安くはない。

 ギリギリ嘘は言っていないのでセーフだ。


 武器職人のドワーフが睨む。

 その目力に少々後ろめたさも有り、少し怯んでしまう。


「土産屋如きに負けるわけには行かんて。しかし、作ったことの無い物というのも確かだて。相応の金額を貰うがええかえ?」

「……お幾らで……?」

「金貨3の銀貨50」

「た……」

「高い! 値引きしろ値引き」


 アーシユルが割って入る。

 確かに高い。蛸人3……。


『蛸人換算は辞めなさいって』

『えー、便利じゃないですかー?』


 辞めるつもりはない。苦労がそのまま金額として出て分かり易いからだ。


「値引きする程度の価値と言うなら無理にとは言わんて」

「いやいや、ふっかけてるだろう? 騙されんぞ」

「……おじさん。私、他のところも回るんですけど、おじさんの言う値段って他のところで言っても大丈夫な値段ですか?」

「勿論だて。なにせこれは神様から貰った最新技術で……」


 ここだ。


「その技術の出所私です」

「あん?」

「え?」


 今の頭の回転速度は凄まじい。我ながら褒めてあげたい程だと思った。


「その技術、来たのって1ヶ月前そこらでしょう? それ、私がボクスワの神様に盗まれた知識です。その割に神様は出し渋ってるようですから、私から他にも武器の知識の提供するので、それタダに出来ませんか?」


 神様から刀という武器の概念が齎された。つまりそれは、りりから情報を盗んだことに他ならない。

 そしてフラベルタはこういうことはしない。やるとしたらウビーだ。


「しかも神様ってボクスワの神様でしょう? 私達、フラベルタと協力してボクスワの神、ウビーを懲らしめに行かなきゃ行けど……ドワーフさん達は人から技術を勝手に盗む人と、国に住まわせてくれてる人と、どちらの肩を持つんですかね?」

「……異世界人さんはフラベルタ様を呼び捨てにして、お前こそ無礼ではないのか?」


 これは迷っている。時間を捻出しようとしているのだ。

 しかし無駄な体力は使いたくないので、サクッと終わらせてしまう。


「話をズラすのは良くないですね。でもお答えしましょう。私は良いんですよ。フラベルタとは友達なので……で、おじさんは制圧武器の刺又や、薙刀やとかの知識は要りませんか? と言ってもどういうものかと言うのを描いて渡すくらいなものですけど」


 この世界に火薬のようなものは見たことがないので、鉄砲は無理だろうと判断する。

 しかし、軽装の人が多いこの世界に於いては、ダメージを与えたもの勝ちのようなところがある。

 つまり、中距離に攻撃できる武器は強いだろうとの判断だ。


「あっ!」

「ん? どうしたりり?」

「後で言うよ」

「ハーン?」


 アーシユルに関わることだ。でもおじさんの前で言うわけにもいかないので、後でにする。


「……分かった。無料にしてやろうて。ただし約束は守ってもらう。1つ何か教ええ」

「では刺又を。これは小柄な人でも使える制圧用の武器で……」




 こうして赤い工房のドワーフから、金貨3.5枚分の短刀と、市販で売っている弓矢ももぎ取り、武器工場を後にする。


『やるな、りり』

『自分でも驚いてる』

『嘘か本当かは判らないけど、良い手腕だったわ』

『いやぁそんなことないですよぉー』


 顔がにやける。誉め殺しは慣れない。


『ところでアーシユルの投げナイフ、加工して、後ろ向きに電撃出るように出来ないの?』

『出来るが、そんなもの誰もしない』

『どうして? 強そうなのに』


 これが出来れば、ナイフを躱されても電撃自体はヒットすると思ったのだが……。


『投げナイフの利点が死ぬ。投げナイフは、サッと取り出してダメージを与えるものなんだ。それにジンギの起動の、留め金を外して、血を塗りつけて、留め金を再びして、投げる。これを両手でする訳だ。こんな事をしていたら、その隙に相手からナイフが飛んでくる』

『……あー……それはダメだね。ちえっ。いい案だと思ったのになぁ』

『だが、その手順を踏まなくていい神なら話は違う。言ってくれて助かったぜ。気をつけないとな』


 フラベルタとウビーが同じようなことが出来るなら、そもそもジンギすら必要としない筈だ。

 となると、この間のように、ハルノワルドだろうと直接攻撃等がウビーには可能な訳だ。何故しないのだろうか?

 そう思い、フラベルタにメールをしてみる。


 ピロリン


 疑問を送信した瞬間に返事が来る。時間を止めているのではないかと思う程だ。


「ハルノワルドでは私の方が強いので。こちらでウビーを妨害してるわ。でもボクスワでは無理なので。頑張ってね」


 との事だった。


 こうなると、ハルノワルドに居る間はウビーに扇動された人々にだけ気をつけていれば良いのだ。

 そして、ウビーの居場所が判れば、フラベルタに転移ゲートを作ってもらうか、シャドウシフト(影から影へと移動する魔法)で一気に奇襲をかけるしかない。


 胃が痛む。

 しかし、やらねばならない。

 生きるために死地へ向かうなど、日本では考えすらしなかった。

 だからこそ、そのための対策は十分にしなければならない。


 短刀はアーシユルに。

 両端が刃になっているアーチェリーの様な弓はケイトに。

 次はりり自身の、対ウビー用の武器だ。

 ……道具、工芸品扱いらしいが、武器として使うのならば、それはもう武器だ。


 防具屋は寄る必要がない。ウビー相手に良い素材など有りはしないだろう。



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