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129話 羞恥

 



 アーシユルが言うには、マナの部屋は最低限物置程度に、そして緊急避難用くらいにしか使わないようにする方が良いとのことだった。

 理由として、マナに迷惑がかかりかねないのが1つ。もう1つがグライダーを奪われることによってアルカが直接襲われる可能性があること。

 ……だったのだが、メールでフラベルタに連絡し、普段は閉じておいてもらって、メールをしたときにだけ一時的に開いてもらう方法を取った。


「貴女……フラベルタ様をなんだと……」

「友達だと思うんですけど……」

「貴女大物になるわ……いや、もう大物ね」


 マナの呆れっぷりは出会ったばかりの頃のアーシユルに通ずるものがある。

 りりに慣れていない人の普通の反応がこうなのだ。


「そうだなー。魔人って言うだけじゃないからなりりは」

「いやいや、超能力ある以外は普通の女の子だよ?」

「「それはない」わね」


 2人からツッコミが入るが、実際にそう思っているりりからしたら不思議でならない。


『普通の女の子なら、力を持っててもゴブリンを殲滅したり、新しく腕を生やしたり、毒を作ろうとしてみたり、心臓を生やしたりはしないわ』

『うぐっ!』


 ゲート越しでも念話は使える様で、ケイトから指摘と言う名のツッコミが入った。

 そう言われたらそうかもしれないと、認識がブレる。




「協力してくれると言うなら、りりという魔人と、ケイトというダークエルフの風評をよくしておいて欲しい。あと、襲撃者の赤髪と黒髪の性別は男だという情報もしっかりとな」

「解ってるわ。けど、ダークエルフの方は断るわ」


 マナはきっぱりと拒絶反応を見せる。


「何故だ?」

「……私の友達を殺したから……理由なんてそれで十分でしょう? 意図的に[屍抜き]の悪い噂は流さない。これが最大譲歩よ。フラベルタ様には悪いけど、これは譲れないわ」


 マナは憎しみをこれでもかというくらいに表面に出す。

 エルフの里のエルフ達は、仲間が連れ去られたり死んだりしても我関せずだったことから考えると、やはりエルフの里のエルフ達は狂っていたのだろう。

 現にゼーヴィルのエルフは、耳の長いというだけの気さくな人だった。


「……分かった。それで良い。ケイトのした事は良くある復讐だ。それに巻き込まれた奴だって居ただろう」

「……」


 マナは沈黙する。話を聞いているというよりは憎しみを募らせている様に感じる。


「だから決闘をしろ」

「……良いのね?」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、マナの顔が複雑に歪む。笑っているのか、悲しんでいるのか、哀れんでいるのか……おそらく全てだろう。憎しみ一辺倒というわけでもなさそうだ。


 しかし、一呼吸置いて、マナから溜息が漏れる。


「……でも私、強くないのよ……長老の子として生まれたのに、里では馴染めず、さっさと里から抜けね……ケイトちゃんが虐待を受けていたのも見て見ぬ振りでね」

「強くないって心の方か」

「肉体の方もよ」


 肉体はスラッとしている。

 鍛えれば大剣くらい持てそうなものだが、ショートソードやナイフといった武器を装備しているあたり、鍛えるのも最小限にしかしていないのだろう。

 憎しみはあれど、行動に移すほどのガッツがないのだ。


「つまり?」

「遠慮しておく……ということよ……でも……そうね。一度顔を見たいわ」

「りり」


 こくりと頷き、ケイトに念話を飛ばす。


 画して2人は相対する。


「久しぶりねケイトちゃん」

「あ、ケイト耳聞こえないぞ」


 マナは目を見開き大きく息を吸う。


「成る程……それで復讐を……耳も腕も奪われたのね……」

「因みに、隻腕とは思えない程強いぞ」

「体つきを見たら判るわよ」


 マナは、また1つため息をつき、懐から小さなナイフを取り出す。

 ケイトとしてはおもちゃにすらならないようで、身構えようともしていない。


「決闘……ねー……」


 ナイフをジッと見るマナ。動く気配はない。


『りり、これは?』

『この人はハルノワルドの神子でマナさんといって、今回の件の協力者兼ケイトさんに友人を殺された人……だそうです』

『……決闘……か?』

『一応そうらしいんですけど……』


 念話で話していると何やら心が決まったのか、マナが動く。

 ナイフを振りかぶり、全力で、並ぶベッドの1つに突き立てた。


「………………ふぅー……」

「あ、あの、マナさん?」

「ケイトに伝えておいて。このベッドは貴女のよってね」


 そう言ってマナはナイフをそのままに、レザースーツに着替えて出て行ってしまった。




「どう見る、アーシユル」

「それはマナが、これでナシとするか、これからも嫌がらせを続けてケイトにボコられるかを聞いてるのか?」


 前者はともかく、後者は不憫だ。


「あー……と言うことは、一応協力してくれるんだよね?」

「多分。だが、どちらにしても、りりやケイトがハルノワルドでやっていくにはマナが協力してくれるのが早くて楽だな」

「そうだね」


 マナがこれからどうするかは判らないが、なるようにしかならない。




 アーシユルとケイトは前転をするような形で、りりは浮いてゲートから出た。

 直ぐにメールでゲートを閉じるように要請すると、瞬く間にゲートが閉じる。

 感謝のメールを送ってグライダーを格納してゆく。


「そう言えば、この空間の歪み、動いてない時はいいけど、動いてる時に何か物質とか入ると危ないんじゃないの?」

「お、それは解るんだな。ご名答だ。正しくは、危険な時がある、だ」

「どういうこと?」


 グライダーの格納を終え、アーシユルに視線を移す。


「あたしがこんな機動力が落ちる杖を持ってる理由にもなるんだが、あたしは接近戦、特に剣同士でぶつかり合うのに向いていない」

「そうだね。力で負けちゃうもんね」


 りりの言葉に、うぐっと声を漏らすアーシユル。やはり気にしているようだ。

 いじめるつもりはなかったが、これはこれで良いかも知れないと感じ、頬がムズムズしてくる。


『りり、やっぱり……』

『ないです! そういう趣味はないです!』


 因果応報と、ケイトに弄られてしまう。

 なお、ケイトとしてはいじったつもりは一切ない。


「まぁそこで、ある程度の時間、継続でゲートの開くジンギを複数セットしておくと、ジンギ発動とは別に、ゲートそのものが武器になるんだ」

「やっぱり」


 空間が開く。これだけで何かと脅威がある。

 ジンギが強い理由もここだ。


「そう。例えば水流のジンギ発生の前後、ゲートが開閉する時に相手の腕に向かって杖を滅茶苦茶に振り回すとしよう。すると、たまにだが腕が切断される」

「うへぇ……」


 多少予想はしていたが、具体的に言われるとなかなかえげつない。

 胸がギュッと苦しくなる。


「まあそんなわけだ。こうなると欠損が怖くて近寄っては来れない……が、何故切断されるのかとかは分かってない上に、切断確率が低いから割と突っ込んでこられもする。つまりコレは牽制にして違う攻撃をするのが良いんだ」


 アーシユルの言うこれは、ハンターの戦術の基礎のような部分だ。

 もっと言うならば、一般市民がジンギを使う際の注意点のようなものだが、りりがそれを知らない為に、丁寧に説明してくれている。


「へぇー……それって体の中に直接炎とか送ったりとか」

「してただろ? シャチに襲われた時に電撃与えたアレがそうだ」

「え?! でもあれどう見ても射程外だったじゃん」


 あの時、りりは動ずに5〜6メートルは沈んでいたのだ。

 ジンギはジンギ鉱から1メートルから5メートル前後の距離から発生する。

 しかし、アーシユルの所持しているジンギはどれも近距離用のジンギで、射程は2メートルが限界だ。

 どう考えてもシャチには届かなかったはずだが、アーシユルは自分がやったと言う。


「あの時、りりは奴隷の首輪付けてただろ?」

「あー、偽装でそんなの着けてたねぇ」


 りりがボクスワにいる間は必須とも言えるほどの重要アイテムだが、最初の方は筋力が足りなかったのでただの重荷にしか感じていなかったものだ。


「アレの喉元のところに小電撃ジンギが半分付いてるんだ」

「半分?」

「そう半分。確かあの首輪もドワーフ作だったかな。作り方までは知らないんだよ。でもこの1文字の小さなジンギ鉱を起動すると、遠隔でその雷撃ジンギが起動されるんだよ」


 そう言って見せてきたのは小さなジンギ鉱。

 アーシユルがパチンと留め金を外して開くので、アーシユルの隣に行き覗き込んでみると、確かに読めないが、1文字しか術式のない、それでいて文字は随分と端っこに寄っている、妙なジンギ鉱があった。


「ジンギを遠隔で……」

「なんだ? 何か妙な顔してるが……」

「……いや、私の念力で敵の上に起動済みのジンギとか、遠隔のジンギを持って行ったら、相手避けられないんじゃないかなって」

「……採用。上に気を逸らしておいて、ナイフ投擲とかするのもアリだな。今度ちょっと練習してみるか」


 えげつのない閃きをしたとも思えたが、パーティの連携という意味では良いものだと考えを改める。

 戦いに勝つコツは、相手に徹底的に嫌がらせをすることだと何処かで聞いたそれを実践するのだ。




 実のある話に花を咲かせている内に、ドワーフの村へ到着する。

 だが村と言っても家は数えるだけだ。


 それぞれ色の違う、石の外壁を持つ5軒の家。

 色付きの家と同色の5軒の鍛冶工房。

 木造の1軒の宿。

 同じく木造の万屋がある。

 ついでに建造中の家と工房が1軒づつ。

 そして、村の外れにトナカイ馬車が3台と、大きなテントが1つ。

 工房が複数あるせいか、ゼーヴィルに比べて気温が少し高い。


 宿屋の側では子供が8人でチャンバラごっこをして遊んでいる。

 見た目には誰がドワーフで誰がヒトかは分からなかった。


 だがこういう時こそマルチグラスだと、ケイトより貰ったバイザー型のマルチグラスをポーチから取り出し、子供達に焦点を合わせる。

 6人がドワーフで2人がヒトだ。


「ドワーフの方は子供の頃から性別あるんだね」

「そうだな。ついでに言うと、マルチグラスが無くても股間をちょっと強く握ってやれば男か女か判るぜ?」

「それは酷いわ」

「まあやる必要はないから、な?」


 ヒトの場合は幼少期は男性器があるそうだが、どうやら陰嚢へのダメージはほぼ無いらしい。つまりこれがそのまま見分け方になるらしい。

 コレを確認する必要があるというのは、それこそボクスワの差別主義者達なのだろう。

 又は変態か。


『そこで変態の発想が出てくるあたり』

『違う! 私はショタコンじゃない!』

『年下好き的な意味かしら? あーそれでアーシユ……』

『怒りますよ?』

『あら、当たったかしら?』


 子供は可愛いとは思うが、断じて性的な目でなど見ていない。

 ましてアーシユルをその枠に入れてしまうなど、いくらケイトでも許せないものがある。


 ここで謝っておけば良かったものを、ケイトはニヤニヤしながらからかってしまう。

 これがりりの逆鱗に触れる。


「……フィジカルハイッ!」

『え!? ちょっとりり!?』

「どうした!?」


 いきなり日輪を背負い輝き出したりりに驚くアーシユルを尻目に、強化した念力でケイトを捕らえ、無理矢理ポーズをとらせてゆく。


『やだ、言葉通り手も足も出ない……悪かったわ。そんなに怒るなんて思ってなかったのよ。だからね? 離して? ねえ聞いてる?』


 ケイトを無視してグラビア雑誌の様なセクシーポーズをとらせる。


 胸を強調させてみたり、尻を突き出させてみたり、女豹のポーズをとらせてみたり。

 嫌々やっている顔がまた良い。

 実際に無理矢理やらせているのだが……。

 そしてそれらをことごとくスマートフォンに撮影してゆく。


『やめて、恥ずかしいから……ねえ? やめてってば……っていうか貴女、顔が変態のそれよ?』

『いいですねぇ。その顔。この写真、売れますよ! お金になりますよケイトさん!』


 フィジカルハイのせいか、テンションが暴走気味になっているのは多少自覚しているが、なかなかどうして気分が良い。


 パァン


 とてもいい音が響いた。りりの尻からだ。

 フィジカルハイ状態の為、痛みは無いに等しいが衝撃はある。

 振り向くとアーシユルがりりの尻を平手打ちした直後だった。


「落ち着け。一度魔法を解いてみろ」

「え、なんで?」

「いいから解いてみろ」

「……うん」


 大人しく言うことに従っておく。

 魔力を全て吐き出し、日輪が消え去る。


「次に周りを見渡して、今撮ったその写真を見てみろ」

「……嫌」


 言葉尻から察するに、先程の子供達がこっちを見ているのだろう。

 横を見たくない。確実に恥ずか死する自身がある。


「どうして……こんなことを……」

「フィジカルハイ使うからだろ……ざまあみろ」

「ううう……」


 完全に自業自得なので何も言えなくなる。


『それより早く解除してくれないかしら? 私だって恥ずかしいのよ?』

『……』

『……りり?』


 渋々だが、仕方がないので開放する。

 というより、もう十分だと判断してのことだ。

 見えてないが横から視線を感じる。具体的には8人分くらいの。


「さぁ、まずは宿屋だ」

「え、待って宿屋は……」

「諦めろ。もうお前は変態として通るしかない」

「ぎゃあああああ」


 小声で悲鳴を上げる。

 宿屋へ入るには子供達の横を通り過ぎねばならない。


「死にたい……」

『私もよ……』


 自分には関係ないと言わんばかりに先行するアーシユルだったが、子供達にはそう見えていたのだろう。

 横を通り過ぎる時に変態のボスと呼ばれてしまう。

 アーシユルはりり達を睨むが、その当人達は羞恥で顔を歪めて伏せている。


「そんな顔されたら怒るに怒れねえよ……」

「ごめん」

「「「……はぁ……」」」


 3人してため息を吐き、扉を押してドワーフの村の宿屋の扉をくぐるのだった。



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