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120話 お風呂場パフォーマンス

 



 蛸人をシャチのソナーで補足して、念力で捕獲する。

 蛸人は、念力のバリアを殴って破壊しようとするが、フィジカルハイで効果の強くなった念力のバリアの前には、文字通り手も足も出ないようだった。


『大勝利! さあ! どんどん捕まえますよー!』

『なかまにも、こえをかけておこう』

『助かります』


 前にやった時のように、シャチに念力で紐づけして、空中から追いかける。

 前と違うのは、念話が有るので叫ばなくて良いところだ。

 喉に優しい。




 5匹捕獲した。流石に少し重く感じる。

 だが全体的に大きいシャチとは違い、蛸人は比較的スマートなので、数を運べるのは大きい。




 海岸の方まで移送する。

 風呂の方を見ると、遠目にも人が入っているのが分かる。

 女風呂に3人。男風呂に5人だ。

 占めて金貨1枚と銀貨20枚。割に合わない。


 それはそれとして、裸を晒すことに抵抗のない文化の人達のようで助かった。

 そもそも、宗教的に肌を出すのがヤバイ等という話だと、こんな話にもならなかったが……。


 そんな考えを他所に、風呂の客達はりりに、いや、蛸人に気づくと騒ぎ始める。


「……蛸人!? 1 2 3……5匹も居るぞ!」

「魔人は何を考えてるんだ! 逃げるぞ!」


 風呂は一気にパニックに陥りかける。

 そこへ、アーシユルが待ったをかける。


「魔人が連れてきたんだぞ? 蛸人を一撃で葬りされる魔人が……な」

「なんだって? 蛸人だぞ?」

「まぁ見てろ。魔人曰く、騙されたと思って見るものらしいぞ」

「騙されたと……思う?」


 アーシユルの言葉に、不安そうだが、そのまま風呂に浸かり続けることを選択した人々。

 りりが信頼されているのか、魔人としての強さが浸透しているのかは不明だ。


 そんな事はつゆ程も知らないりり。

 早速空中に囚われている蛸人達をパフォーマンスに使ってゆく。


 1匹目。

 バリアから引っ張り出そうとするが、吸盤でバリアに引っ付いて、全く出てこようとしない。

 フィジカルハイ状態にもかかわらず、その吸盤パワーの前には念力も型無しだ。

 ……というのは力技でならではの話。


 一瞬バリアを消しさる。これにより支持基盤を失った1匹の蛸人だけを引きずり出して、残りは再び捕らえる。

 これなら吸盤がいくら強かろうと関係ない。


 取り出してきた1匹は空中に囚われたまま、風呂に居る人々からよく見える位置まで誘導する。

 多くの人々は、完全に安全な状態で、生きた蛸人を見ること事態が初めてだ。

 興味津々で見ている。


「では今から、この憎き蛸人を冷凍しちゃおうと思います!」

「冷凍……って……なんだ」

「知らない。赤髪は知ってるのか?」

「すまん。あたしも知らん」

「え?」


 何も無い所で冷凍するという事を言ってのけたのだが、人々の反応は芳しくない。


 それもそのはず。この世界には冷凍技術がない。

 大きな箱に氷を入れて冷やすという、なんちゃって冷蔵庫は有るが、逆に言えばそこから技術は進展していない。


「えーと、つまり凍らせます」

「凍る……」

「りり。お前今全然解らない事言ってるぞ。説明!」

「えーと、えーと、蛸人を氷にしてしまうわけです。これで解りますか?」


 軽く騒めきが起きるが、論より証拠と黒球を作り出す。大量にだ。

 先程のパフォーマンスを見ていなかった者もそうだが、見ていた者も、突然現れた黒球には度肝を抜かれる。


 黒球が、空に縛られている蛸人に次々と襲いかかり、貫通しては消えてゆく。

 消えていっては新しい黒球が作り出され、また蛸人に触れ、通り過ぎる。

 その度に、蛸人の動きは鈍くなっていった。


 何が起きているのか?

 黒球により、ただひたすら表面の温度を奪っているのだ。

 それにより変温動物である蛸人の体温はどんどん低下してゆく。


 やがて蛸人は動かなくなった。

 動かなくなってからも、しばらく追撃は止めずに続ける。


 少ししてようやく手を止める。

 この暖かな日差しが降り注ぐ中、蛸人は凍死したのだ。


 それを風呂に浸かる人達のもとに持ってゆく。


「凍らせるのまではごめんなさい無理でした。でも触ってみてください。大丈夫。もう死んでますから」


 そう言われるも、客は黒球がひたすら通り抜けているシーンしか見ていないのだ。

 実際に何が起きていたのか等、解る者は1人も居ない。

 だがその中で1人、勇気ある女性客が、風呂桶から少し身を乗り出し、恐る恐るではあるが蛸人に触れる。


「!? 冷たい!」


 女性は、蛸人に触れた手をパッと手を引っ込める。


「海から出てきたんだそれは冷たいだろう」

「違う! 本当に氷のように冷たいんだ!」

「なんだと本当か?!」


 疑った他の女性も触れる。


「……本当だ冷たい」

「冷えてる……」


 女湯の3人が挙って蛸人をペチペチと叩く。


「おい! こっちも触らせてくれ!」

「女ばかりずるいじゃないか!」

「良いですけど前隠して! ねえ聞いてます!?」


 前を隠さずに湯船から出てくる男ども。

 前を隠す事すらしていない。


「話を……聞けええええ!!!」

「「「おわぁぁぁぁ!?」」」


 念力で投げ飛ばされ、湯船に着水する男達。

 だが、投げた本人が一番ダメージを受けている。

 男達のアレをモロに見たからだ。

 腹を立て、男たちへのサービスは無しにする。


 シャチに凍死した蛸人をハンターギルドまで運んでもらう。

 男どもからはブーイングが上がるが無視した。


 ハンターギルドへは完全無傷な蛸人として献上するのだ。金額も上乗せになるのは間違いなかった。

 シャチの威圧感もあるので多分成功するだろう。




 続いて2匹目。


「お次はナイフ投げでもしてみたいと思いまーす。はい。拍手!」

「りり、拍手を説明しろ。」

「手を叩いて」


 パチンと1回音がなる。濡れ手なのに上手い。


「じゃなくて連続で!」


 パチパチと拍手が鳴る。それと共に気分が高揚してゆく。


「はい。じゃあ投げていきますねー」


 2匹目を地上に下ろす。念力で自由は奪ったままだ。

 蛸人は地に足が着いているのに抵抗が出来ないことに違和感を感じているのか、うねうねと体全体を動かしている。


 お構いなしに、サバイバルナイフを振りかぶって、投げる。

 凄まじい速度で、だが、くるくると回りながら、ナイフの柄の部分が蛸人にぶつかった。


「……りり、ナイフ投げたことないな?」

「判る?」

「投げ方が下手だからな」


 投擲が上手いアーシユルから見れば一目瞭然のようだ。

 そうでなくとも、当たったのは柄の部分。どう見ても失敗である。


「でもあたし、教えるの下手だから、投げるのは今度にしたほうが良いな」

「えー! ……えーと、じゃあ直接刺します」

「は?」


 りり以外の全員の心が1つになった。


 蛸人。逃げられこそしないが、その手足は自由に動くようにしてある。

 そこに突撃してゆく。

 フィジカルハイのせいで気持ちが大きくなっているのだが、これは決して無謀なものではなない。

 現に今、りりは蛸人からの攻撃を華麗に避けているからだ。


 フィジカルハイの効果により、りりとしては最早止まっていると言っても良い程の体感なのだが、それを見ている観客はハラハラしている。


 りりは攻撃の合間を縫って、一気に飛び込みナイフを突き下ろす。

 狙うは蛸人の脳のある位置だ。


 蛸人の肉体は強い弾力がある。

 その体には熱せられた剣、つまり炎剣でないと、碌な斬撃も通らない。

 それが有ろう事か、ただのサバイバルナイフの突きで簡単に皮膚が裂け、そのままナイフは脳に達した。

 更に手首をグリと捻ると、蛸人がビクンと震えて動かなくなる。


「す……すげえ……」

「早い……あれが魔人……」

「海水人魚にも負けてない動きだったぞ」

「いや、フットワークだけ言えば超えていたよあれは。でなきゃ蛸人の腕を何回も避けれたりしないよ」


 風呂に入っている客、入っていない観客から拍手が起こる。

 ナイフを引き抜きながら、バリアで返り血を防御した。

 フゥと髪を掻き上げる。

 今の所、完全試合だ。




「はい。じゃあ少し休憩してお湯の温度調節しますねー」

「悪いね魔人さん。そろそろしんどくなってきたので出させてもらうよ。お風呂、気持ちいいけど長くは居られないんだね」

「そうですね。あまり長く居すぎると、のぼせてしまうので、髪の毛だけ洗って出ましょうか」


 念力で風呂の湯に球体を発生させ、少量持ち上げる。

 持ち上げるも、水は滴らない。


「今度は何をしようっていうの?」

「その球の中に頭を突っ込んでください。そして頭皮を洗うんです。肌や髪用の石鹸は無いですけど、髪の毛も洗ってあげると多少マシかなと」

「……髪の毛用とかあるのかい?」

「私の居たところではあったんですよ。さぁ物は試しです。ツッコんでいきましょう!」


 とりあえず女性は水球に触れる。


「透き通る! 中にお湯が入ってる!?」

「それ抜いてみてください。濡れてなかったら成功です」


 女性が手を抜く。

 入れた部分だけサラサラになっている。


「濡れてない! ……手もすべすべで若返ったようよ!」

「成功ですねー」


 温度だけを閉じ込めることが出来たのだ。水だけを閉じ込めることだって出来る。そう踏んだ。

 結果は成功。

 エナジーコントロール……自由度が高いと思ってはいたが、予想以上のモノのようだ。


「あ、これ気持ちいい……お湯が……頭に……あぁいい……」


 頭皮をワシャワシャと掻きながら、女性はため息を漏らす。


「はーい。お湯が汚れますから、お風呂には潜らないでくださいねー!」


 女湯では髪の毛を洗う女性を見て、男湯では声を聞いて、真似をしようとする人が現れた為、制止する。

 その代り、同じく湯の塊を作り出す。すると、皆頭を洗い出す。

 アトラクションか何かと勘違いしている。


 だが、実際アトラクションじみていた。

 この世界では珍しい風呂。

 さらに見世物までやっているのだ。




 全員が洗い終わり、風呂から出る。

 一部が帰ってゆき、一部がギャラリーと化す。

 ギャラリーは金銭的問題で入れないのだ。


 入る人が誰も居なくなったので、念力でフィルターをかけてゴミを取ってゆく。

 範囲を広げればいいだけなので、それも一瞬で終わった。

 ついでにお風呂の温度も調節する。


 あっという間に暇になってしまったので、蛸人を1匹引っ張り出し、砂浜から熱を奪った黒球で包み放置する。

 黒球は放っておけば、どんどんと陽の光を吸って、熱量を増していく。

 その内にいい香りがしてくるはずだ。


「おや? その黒い塊は知らないね。隠してたのか?」


 気がつくと、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 振り返り見ると、長身の女性。

 髪を束ねていて、顔は30代ほどに見える。

 帯刀していて軽装備だ。


 その後ろには同じく30代程に見える男性。

 鎧装備のシールダー(大盾持ち)だ。


 男性はともかく女性には見覚えがある。だが、名前が出てこない。


「あー……えーと……」

「……もしかして名前を忘れた? 嘘だろうツキミヤマ」


 そのまさかだ。


「えーと、違うんです。お世話になりましたけど、あの時、色々とアレでアレでして……」

「おお? クリアメじゃないか」

「そう! クリアメさんだ! そしてごめんなさい!」


 土下座である。

 意味は直接通じないだろうが、日本人が本気で誠意を見せると言ったらこれだろう。

 よもや、逃してくれた人の名前を忘れるなどとは……。


「何かよく判らないけど気分が良いね。でも立ちな。あとその光ってるの止めてくれないか? さながら[日光を背負う者]ってところかい?」


 惜しい。一文字違いだ。


「残念だな[日輪を背負う者]だぜ」

「命名者はそこのダークエルフか。話に聞いてたよりずっと黒いね」


 そう言って、クリアメはケイトの肩をバシバシと叩く。

 本当に初対面なのか怪しい反応だ。


『初対面よ。そしてこれは誰なの?』


 ケイトは知らないようだった。


『クリアメさんです。詳しくは知りませんけど偉い人のようです』


 実際、りりはクリアメの事はほぼ何も知らないので、説明のしようがない。


「で、クリアメは何でここに居るんだ?」

「その口調は相変わらずか」


 やれやれとため息をつくクリアメ。


「ところでこれは風呂だね? すごいなどうやったんだい?」

「魔法で色々です。あと日輪は消したらちょっと危ないのでこのままで。眩しいかもですけど、我慢してください」


 一々説明が面倒なので、フワッとだけ伝える。


「おいりり、適当すぎないか?」

「秘密というわけかい?」

「秘密というか、アーシユルが下手にしゃべると情報の価値が下がるって」


 説明するにしても作業行程が多かったのでそういうことにしただけだ。

 だが、それによりアーシユルがクリアメに睨まれ、タジタジになっている。


『いい性格してるわね』

『クリアメさんがですか? そうでしょうか』

『あなたよ』

『???』


 頭上に疑問符を浮かべる。


「これは入っても?」

「いいぜ」

「銀貨15枚ですよ」


 お世話になったとはいえ、お金はしっかりと請求する。


「言うじゃないか。ほれ、これで良いね。あんたも入りな」

「うす」


 男は見た目通りの野太い声だった。変な安心感が芽生える。

 ともかく、料金は2人分払ってもらったのでここからはお客だ。

 男湯はアーシユルに任せて、クリアメを女湯側に案内し、服を脱いでもらう。

 クリアメの肌は、ケイトと同じく傷だらけだ。


「クリアメさんもハンターだったんですね。剣持ってたからもしかしてとは思いましたが」


 少し間が空く。


「アッハッハ。そうか、ツキミヤマは私のことを知らないのか」

「そう言えば教えてなかった気がするぜ……」

「改めてよろしく。ボクスワのキューカのギルドマスター、クリアメ = I = ソーボよ」

「はい?」


 りりは今の今まで、クリアメが貴族でギルドマスターをしていたことを知らなかった。

 恩人がりりの苦手な "偉い人" だ。

 必死になって、失礼なことをしていなかったかどうかを思い返す。


 テンパってる時に、ケイトから注意を受ける。


『落ち着きなさい。とりあえず返事』

「え? あ、はい! 月見山りりです! 特技は何か魔法です! よろしくおねがいします!」




 駄目だこいつ。

 アーシユルとケイトの心が1つになる。

 最近では、その回数も若干増えてきた。




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