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101話 エルフの里という所

 



 老夫婦は我が庭と言わんばかりに森へ入ってゆく。

 毎年来ているそうなので、道を覚えているようだ。

 りり達もそれに着いてゆく。


「あら? ローブの人は?」

「アイツは森の入り口でお休みです」


 アーシユが微妙な敬語になる。

 どうやら老人は敬意を払う対象のようだ。


「またなんでだい?」

「色々です。色々」

「お前それ便利すぎねぇ?」

「説明難しいじゃん?」


 適当な言い訳をするりりに、アーシユルから呆れたようなツッコミが入る。


「いいわね。秘密たっぷりな感じね? おばさんそういうの好きよ」

「ハンター協会の密命とかかな?」

「ちがいますよー」


 どうやら似た者夫婦のようだ。

 ヒトの習性的に、おそらく同じグループにいた者同士だ。似て当然なのかもしれない。


 実際のところ、ケイトは見られるとマズイとのことで、りり達からは少し離れつつ、森の中をトラップを避けながら着いて来ている。


『気配があるわ。私はともかく、そっちは遠巻きに見られてるわね』


 ガイドのエルフがつけて来ているようだ。

 ケイトからの指摘に反応しないようにしながら会話を続ける。


「おじいさん達は、ガイドのエルフさんとは顔見知りなんですか?」

「最初の方に2〜3回会ったことはあると思うけど、それ以降は見てないな」

「あーじゃあ着いて来てるのはガイドさんかなぁ? トラップに引っかからないように見ててくれてるのかも」

「ハンターさんはそんな事も判るのかい!?凄いねえこんなに小さいのに」

「アハハ……」


 自分が察知したわけではないので、笑って誤魔化す。




 そんなこんなしている内にエルフの里に到達した。

 前見た時と全く変わらず、いきなり森の中に出現する。


 老夫婦に気づいたのか、1人のエルフが声をかけてきた。


「おや? あんた達かい? そうかもう1年か。旦那は知らないけど、奥さんなら今、狩りに出てるよ。今日の晩飯は兎の耳かな」

「うえぇ……」


 りりからしたら信じられない料理名だった為、思わず声に出てしまう。


「なんだい? 君は。不愉快そうな顔して……んんん? 君の特徴……さては君、神様が言ってた魔人かい?」

「「魔人?!」」


 老夫婦は驚き、りりから少し距離を取る。


「あ、いや、隠してたわけじゃないんですけど、概念的にはそうです。はい。あ、でも怖くないですよ。この通り、ただの女の子なんで」


 取り繕うも、疑惑の目がりりを射る。

 声を聞きつけてか、野次馬は少しづつ増えていき、老人達も少しづつ離れていく。


「お前ら。偏見だけでそんな風に見て恥ずかしくないのか? りりが何かお前らにしたのか!? 言ってみろ!」


 アーシユルの訴えに、エルフ達が口を開く。


「騎士を攻撃したと聞いているよ」

「正当防衛でな。しかもその件は神から直々に許しは得ている。もう一度言うぞ? お前らは何かりりにされたか?」

「魔人と言うだけで十分と思うがね」

「何なら、ウチらが魔人の研究と解剖してやってもいいんだぜ?」


 エルフ達は好き放題言っている。

 しかし全て冗談ではない。本気の目だ。

 その整った顔と美しい声から、恐ろしく猟奇的な言葉が出てきている。

 そんなギャップと敵意にたじろぐ。


「あなたたち。この子の言う通りよ。私達は馬車で一緒だったけれど、この子はちょっと力の強いだけのただの可愛い子よ」

「お婆ちゃん……」


 若干離れたままだが、老夫婦も一歩前に踏み出し援護に入ってくれる。


「どうだか……でも変な真似をしたら即座に攻撃するからね。エルフはそうしてやって来たのだから、文句はなしよ」

「良いぜ。大丈夫だ。でも写真くらいは良いだろう?」

「写真……何それ?」

「これです」


 スマートフォンを取り出し見せる。


「少し変わった黒い板にしか見えないわね」

「これをですね……こう……」


 カシャ

 という電子音を鳴らし、目の前のエルフが撮影される。

 エルフは何が起きたのか判らず棒立ちしている。


「で、これ見てください。」

「わ、私!? なんで!?」


 写真を撮られたエルフは驚いて、まじまじとスマートフォンを見つめる。


「良いでしょう? 神様に貰ったんです。私他の人達と顔が違うでしょう? だから皆同じような顔に見えるから、これで覚えなさいって」


 嘘八百を並べてゆく。

 これも写真を撮る為の口実だ。


「神様が魔人に施しを? あり得なくない?」

「でも実際に持ってるわよ」

「……なら誰かから盗んだとか?」

「え!? そんな……私達……そんなんじゃ……」


 あまりな物言いに頭が回らない。

 エルフとはここまで排他的なのだろうかと驚いてしまう。


「失礼するのぅ。ワシの子が何かしたかね?」


 エルフ達の奥から白髪のエルフが出てくる。

 フラベルタによく似ていた。いや、瓜二つだ。


「フラベルタ様……?」

「フラベルタ様か……あの方は、ワシの顔が気に入ったとかで……ややこしいのじゃよ」


 取ってつけたかのような、のじゃ口調がいやに似合っている。

 だが顔が顔だけにフラベルタとイメージが混ざりそうだった。


「さては貴女、長老さんですね」

「よくわかったのぅ。如何にもじゃよ」

「りりすげえ! 何で判った!?」


 そのまますぎる答えに、逆に恥ずかしくなり、頬を手でこする。


「いやだってこんなコテコテな……いや、それより長老様。私達、謂れもない事をしたと疑われてるんですよ」


 ハッとして、身振り手振りを加えて長老に訴えかける。


「……魔人の言う事じゃ。存在そのものが嘘くさい者の言う事が信じられぬのは仕方のない事じゃろう」


 りりは額に手を置き頭が痛いポーズを取る。どうやら、長老もそっち側のようだった。

 その時、腕を組み考え事をしていたアーシユルがボソリと話し始める。


「3人だ」

「何がじゃ?」

「あたしが見た魔人の数だ。1人は生まれつき。1人は後天的に。1人は人為的に魔人になっている。全てりりが見つけた。そして魔物だが、あんた達が思う以上にこの世界には居る。気づいてないだけだ」


 小さいながらも堂々とした主張。

 堂々としすぎていて、怪しさなど微塵も感じられない。


「……そんな馬鹿な話を信じろとでも?」

「信じる信じないは自由だ。ただ、こちらには敵意はない。ウビー様に言われなかったか? 無駄に敵対するなと」

「ウビー様?」

「ヒントをやろう。あたしは神子だ」


 アーシユルはそう名乗る。

 確かにアーシユルはウビーという神の神子になっている。

 が、その使命を全うしたこともなければ、神の声を聞いたことも、恩恵を受けたこともない。


「馬鹿な! 神様に名前など!?」

「確認して見たらどうだ? ん? まあ、とにかく敵対どころか友好的に行きたいわけだ。宿はあるだろう? 泊まりたいんだが」


 シンと静まり返る。沈黙で返事をする形だ。


「じゃあウチの子の家に一緒に泊まりなさい。一泊だけだけでいいならね」


 老夫婦の男性は何かを決意したかのようで、柔和な表情でそう切り出してきた。


「ちょっとあなた」

「良いじゃないか。ウチの子だって自らの意思でエルフの親になる事を決めたんだ。ウチならヒトに対する偏見も少ない。魔人も似たようなものだよ」

「爺さん……」

「すみません。では有難く泊まらせていただきます」


 お辞儀をして感謝の意を述べる。

 お辞儀は基本的に伝わらないが、癖なのでついやってしまう。




 老夫婦に連れられて、息子夫婦の家へと向かう。

 見送りはエルフたちの冷たい視線だ。




 コテージ。一言これを言えば全て伝わる。

 村の外れにあったソレは紛う事なき立派なコテージだった。


「ステキー。こういう所好きー」

「ウチの孫も喜ぶよ」

「では遠慮なく」


 アーシユルは本当に遠慮なく行った。本人達が入るよりも先にだ。

 鍵は開けっ放しで防犯意識が低いことが伺える。


「私アーシユルのそういうところすごいって思うわ」

「え?! 何が!? 何か褒められてるわけじゃなさそう!」


 一歩間違えれば不法侵入。

 それを揶揄するも、アーシユルには、いまいち伝わらなかった。

 そもそも不法侵入という概念があるかどうかも謎だ。


「……どちら様です?」

「あらエディ。会いに来たわよ」

「ママ! 久し振りじやないか」


 賑やかにしていると、家主と思われる男性の[ヒト]が出てくる。

 金色の髪の毛はボサボサで、目にクマが出来ている。

 着ているシャツもしわくちゃで、あまり身だしなみに気を使わない性格なのだと伺えた。

 そして耳にはエルフ族のイヤーカフ型翻訳機が着いている。

 これが老夫婦の息子だろう。




「へえ……魔人の研究と冒険か」


 りり達はダイニングに通され、歓迎の準備をしている家主と会話しているところだ。


 家主のエディにした説明は、魔人が大陸の色々を見て回りたい。というザックリとした説明だったが、そもそも魔人の存在自体が未知だ。

 思考パターンや行動原理も未知と考えるのが妥当なのだそうで、実際、ザックリとした適当な説明でもなんとかなった。


「で、これがシャチさんで、こっちがフラベルタ様で……」


 エディに惜しむ事なくカメラの写真をスクロールしてゆく。

 エディも興味津々のようで。


「僕の顔も撮ってくれ」


 こう来たわけだ。


「はいじゃあ撮りますよー……ハイッ……どうです?」

「おおー! これが写真! 綺麗じゃないか! 鏡と良い勝負だ!」

「ほう? ここ鏡あるのか?」


 アーシユルが興味を示す。


「長老の家の前にね。気になる人達はそこまで行って、髪を整えたりしてるね」

「……鏡って貴重なの?」

「は?」


 あまりにも常識知らずなりりの発言に、エディは声を漏らした。


「すまん。世間知らずなんだ」

「……奴隷の格好をしているのは、それを誤魔化すためかい?」

「ご明察。でも言わないでおいてくれよ」

「勿論だよ」

「話のわかる奴で助かったぜ」




 老夫婦の息子のエディ。

 りりの事を魔人と聞いても笑い飛ばす気さくなヒトだった。




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